人と悪魔-2
(ま、まずいです……本当にっ……)
本当にこのままでは、死んでしまう。だんだんと意識が遠のいていく。
首を絞めるアラストルの力は更に強くなっていく。
「アラス、離っ……!」
その瞬間だった。
なんと、アラストルが手を離したのだった。
「げほっ……げっほ……!」
エリシアはむせ返し、その場に倒れ込む。
「なんで、人一人殺すのに戸惑っているんだろうねぇ」
アラストルはそう言い、エリシアの前に座り込む。
「情けないよ。ボクはエリシアを殺せなかった」
アラストルは何処かへ立ち去ろうとする。
「アラ……ス、どこへ、いくつもりですか?」
エリシアは掠れた声で、それを引き止めようと、アラストルの腕を掴む。
「ボクはもう君と関わりたくない。もう2度と姿は見せないよ」
「待ってください! アラスは私から長期間離れられないはずじゃないですか!?」
「もういいよ。地獄に帰る」
アラストルはそう言い、エリシアを振り払おうとしてくる。
「なに勝手にいなくなろうとしてるんですか!?」
「なにって……君を殺そうとしたんだよ。もう一緒には」
「別にそんくらい気にしません。私はアラスが居なくなる方が嫌です」
「なに言ってるの? 君を殺そうとした奴に……」
「アラスがどういう考えで私を殺そうと思い立ったかなんて、完全に理解は出来ません。それでも、そうしたワケは理解できました。でも、そこまで過去に囚われなくてもいいじゃないんですか?」
「は? なに勝手なこといってるのさ? そんなことできるわけないのに」
「出来ますよ。私だって復讐のことなんて考えてませんし」
「それとこれでは、話が……」
「違いません。なに自分が可哀想みたいなアピールしてるんですか? 自分が辛かったみたいな事言ってるんですか? 五百年も前のこと延々と引っ張ってなにがしたいんですか? アラスがこんなめんどくさい女だなんて初めて知りましたよ! いいですか、ごめんなさいしたら許してあげます」
「急に強気だね」
エリシアは引き気味のアラストルに言葉をこうつづける。
「私は人生で今が一番楽しいんです。だから、その……アラスもそこに居て欲しいんですよ。アラスのことは好きですからね」
その時だった。
アラストルがエリシアに急に抱きついてくる。
「エリ……シア……ごめんね……」
……
ふと、アラストルの表情を見てみると、涙を浮かべているのが見えた。
「いいんですよ」
「うっ……ボクもなにがしたかったのか分からなくて……ごめんなさい……」
次の瞬間、アラストルがぽろぽろと大きい雨粒のような涙を流し出す。
もう涙が止まらない様子で、エリシアをより強く抱きしめてくる。
エリシアはそれに応えるように、抱きしめ返した。
(いつですかね。私もこうして、アラスに泣きついた事がありましたっけ)
少し前、都市国家群に攻め入っていたモンスターの軍勢を討伐しに行った時、この様にアラストルに泣きついた事があった。
まさか、逆の立場になるとは思っても居なかった。
その時だった。
部屋の扉を開けて、レーマが入ってくる。
「今帰っ……なにごと!?」
絶対無敵であり、唯一にして最高の主人が人間に抱きついて、わんわんと泣き喚いている光景を見て理解が追いつかないのか、レーマはその場で凍りついて動けなくなってしまった。




