追憶-終
「なんでここにいる。メリア!!」
突然法廷内に、入り込んで来たメリアにユウマは声を荒げる。
「ユウマの行動が怪しいと思って、悪魔に偵察させといたのさ。前から裏がある奴だと思ってたけど、まさかこんなクズだったなんてね」
メリアはリーベスに視線を向ける。
そこに居たのは、余りにも酷い大怪我を負ったリーベスの姿だった。
特に足が酷い状態で、早く適切な処置をしなければ大変なことになる。
「め、メリア……」
「リーベス、待ってて。今助けるからね――上位悪魔召喚!」
メリアはそう言うと、一体の悪魔を召喚する。
召喚されたのは、人型の悪魔だ。
そこにいたのは褐色の肌で、緑色の髪の持ち主の美女だった。その活力のない紫の瞳は、背筋が凍る様な悪寒を感じさせるものだ。
「我を呼び出したとは……愚かな人間め、我になにを与える?」
呼び出された悪魔は、不敵な笑みを浮かべる。
人型の悪魔は、それ以外の悪魔と比べてより強力な力を持つが、知能が人並みに高く制御が不能だ。それゆえに適当な代償を払って言うことを聞いてもらうしかない。
「レーマ、私の片目を上げる。だから」
メリアはそう言うと、ユウマに指差す
「あそこの人間を殺して」
そう言われた悪魔は、背後に幾つもの魔法陣を出現させる。
「ふふっ、分かった。それが終わったら目をもらうぞ?」
勇者ユウマに向かって、何色もの魔法の光弾が飛んでいく。
「あー、めんどくさい」
ユウマはその光弾を受けながらも前進していく。
申し訳ないが、あの悪魔――レーマはユウマに勝てないだろう。メリアが召喚できる最高格の悪魔ではあるが、それでも勇者は倒せない。
更にだめ押しで幾つかの悪魔を召喚する。その悪魔達は、レーマを援護する様に、辺りを飛び交う。
だが、足止めにはなる。
あたりにいる裁判官達も、悪魔の妨害でまともに動くこともできない様子だ。
今ならいける。
「リーベス、ごめん。私がしっかりしてないせいで」
「違う、メリア……は、悪くない……」
メリア、リーベスの肩に刺さっていた剣を引き抜く。
「うっ……!」
リーベスの肩から血が溢れる。
そのまま、リーベスはその場に崩れ落ちる。
メリアは、倒れてきたリーベスを受け止める。
「酷い……早く治療しないと、とりあえずここから逃げるよ」
メリアがリーベスを、背中に乗せてその場から逃げようとした瞬間だった。
「嘘……?」
メリアが後ろを振り向いた所には、レーマは含める全ての悪魔が、身体を切断された惨殺死体の数々だった。
ユウマの手には、血に濡れた両手剣が握られていた。
「今の一瞬でレーマが……」
勇者と言えど、もう少しは時間稼ぎできるはずだった――しかし、勇者はそれ以上だった。
次の瞬間、メリアの首が宙を舞った。
「え?」
リーベスはその光景に、思わず言葉が漏れる。
「リーベス、お前のせいで優秀な召喚士が死んじまったわ。できるだけ苦しんでから殺してやるよ」
リーベス――アラストルの残っている最後の記憶だった。




