追憶
五百年前――。
大陸の大部分を制した人間の大帝国が崩壊し、二千年以上が経過した。
かの帝国により、絶滅寸前で追い詰められていた魔族が長い年月をかけ復興し、人間の領域に増長を始めた。
そして、魔族と人間の数十年に渡る大戦――。
やがて、大陸の大部分は魔族の前に陥落し、逆に人間は絶滅寸前まで追い詰められていた。
そこで、人間達は最後の希望をかけ、7人の勇者を異世界から召喚したのだ。
それから人間は勇者の助力の元、破竹の勢いで奪われた領土を奪還していった。
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「夕食が出来たよ」
赤髪の少女は、そう声をかけられて目を覚ます。
「……っん。ご、ごめん、もしかして寝ちゃてた?」
真紅の瞳で辺りを見渡すと、すでに夕食の用意は終わっていたようで、彼女の目の前にはシチューとパンが置かれていた。
「別いいんじゃなかな? リーベスは今日一番の活躍だった訳だしさー」
そう声をかけてきたのは、灰色の髪色の小柄な少女――メリア・オーステルだ。彼女はエストリア連合王国で名高い召喚術師だ。
「メリアの言う通りだよ。もしリーベスが居なかったら俺は死んでたところだったんだ」
黒髪の少年は、リーベスにそう語りかけた。
「ユウマが言うほどボクは活躍してないよ……」
「そんなこと無い。リーベスの回復魔法にはいつも助けられる」
そう滅多に開かない口を開いたのは、エルフの少女――ミア・ティールだ。エルフにしては珍しい青色の髪が風に靡いた。
「そんなこと無いよ。俺が勇者としてやっていけてるのは3人のお陰なんだからさ」
そう言ったのは、勇者である白崎勇馬だ。
彼は5年前に召喚された勇者と呼ばれる異世界人だ。それから魔族を打倒すべく殆どの時間を一緒に過ごしてきた。
「これより先は"覆滅の魔王"の領土だ。あそこは食料も少ないだろうし、食べれるうちに食べといた方がいいよ」
「うん、そうする……」
覆滅の魔王――今まで討伐してきた37人の魔王の中でも最も強力な魔王である。
そして先の戦いで死闘を繰り広げた"鬼哭の魔王"よりも遥かに強大だ。今までに無い死闘になる筈だろう。
それに加え"覆滅の魔王"の領土は不毛の地であり、殆ど作物が取れない。それこそ、彼女の領土では魔族すら住み着かない程だ。
「そう言えば、リーベスはなんで勇者パーティーに参加したのさ?」
そう声をかけてきたのは、メリアだった。
「うんと、皆んなを守りたいから……かな」
「ふーん。リーベスはなんていうか、真面目って言うか、優しいってうか……私とミアはお金と名声目的だからねー。正直勇者様だけでも充分魔王倒せるしねぇ」
そのメリアの発言に、ミアは頷いた。
「別にボクだって、お金目的の面もあるよ」
「それだって、弟の為で自分の為じゃないわけでー。まぁ、誰かのために命張れるリーベスは凄いとおもうよー」
リーベスには、歳の離れた弟がいる。流行病で両親は早くに死に、姉であるリーベスが弟を育ててきた。
生まれ持って強大な魔力と魔法の才は持っていたが、リーベスの生まれた地域では、魔法は忌み嫌われており、勇者と出会う前まではその力を隠して生きてきた。
それこそ弟を守る為ならなんだってした。それでも、魔法を抜きにしたリーベスは無力な人間に過ぎず、稼ぎは少なかった。両親との思い出ある村を捨て、外へと出る勇気も無かった。
それで苦労させてきたことも多かった。しかし、魔族を放逐した報奨金で今度こそ楽な生活をさせてあげたいのだ。
「それとだけど、リーベスって魔族に情けかけたりするよねー。あれ辞めなよー、ユーマが内心嫌がってるからさぁ」
メリアの発言に、ユウマは「そんな事はない」と否定する。
「魔族とだって話し合えば分かり合える――ボクはそう思ってるから」
魔族とて、野蛮寄りではあるが人間同様の感受性を備えている種族だ。きっと、分かり合える筈なのだ。
それに戦闘意思を失った相手を殺すのは、気がひける――いや、してはいけないとユニークスキル《大賢者》がそう訴えてかけているのだ。




