表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
91/116

写真とわたし

私は綺麗な服が好きだ。

着飾るのも好きだ。

大好きだ。



戴冠式。


その前日に、私は人生で最大のお洒落体験をすることになった。

楽しくもあり、ちょっと恥ずかしくもあるひと時であった。


ちなみにこの、私的おしゃれ最高記録は、しばらく後の結婚式でさっくりと上書きされてしまうのだが、その点については、不問として頂きたい。


戴冠式の当日は、式典の要項に従って、決められた動きをするだけだ。

主役の私であるが、実態はただ動くだけの大きな置物である。


「それだけでは、つまらんだろう。記念にもう少し楽しもうじゃないか」


そんなジークの提案で、新女王アリシアは、一日早くおめかしをして、戴冠式の体験会をすることになったのである。

女王様のドレスを着て、あほなことをして遊ぶのだ。


一種の前日祭である。


私のもっさりと豊かな髪の毛は、丁寧に編み込んでから、ハーフアップに結い上げた。

ドレスは、戴冠式当日にも着る予定の、素敵なものだ。

シルクの素敵な肌触りに、私はうっとりである。


最高級はやっぱり違うね!

すごく良いものってことぐらいしか、わからないけどさ!

違いがわからない女、アリシアである。


とても着心地が良い。


ドレスに施された、精緻な刺繍の数々は、繊細でちょっと儚げな容姿の私にぴったりであった。

アリシアちゃんは、か細くて繊細で儚げなのだ。


ドレスは、素材も、職人さんも、素晴らしいものを用意してくれたのだと思う。

私の目から見ても、とても丁寧な作りがよくわかった。


お化粧もバッチリした。

といっても、私の立場を考えると、ごくごく、薄めであるそうだ。

地色が白いので、私は随分と助けられている。


「どうかしら?」


私は、椅子から立ち上がって、ドレス姿をお披露目する。

ジークは、私のことを、とても綺麗だと褒めてくれた。

でも、その後に、ものすごい勢いで撫でくり回されたのには、困ってしまう。

嬉しいけれど、ちょっと子供扱いされている気がするのだ。


「きゃっ」


「おっとすまんな」


そんな事を思っていたら、ジークが私の変なところをさわった。

子供扱いじゃ無い。

この男、ただエッチなだけだ!


ジークに捕まった私が、あわあわしていると、鬼の形相を浮かべたクラリッサが飛んできて、彼を追っ払ってしまった。


「まったく、あの、バカ皇子は!」


「ジークハルト殿下は、少し、下半身に素直すぎますわね」


クラリッサはぷりぷりしていた。

女の子なんだから「下半身」とか言わないで、メアリ。


「とても綺麗ですわ、アリシア様」


「ありがとう」


メアリが、私のお気に入りの髪飾りをつけてくれる。

小枝のかわいい髪飾りだ。

それを髪にさせば、これで完成、できあがりである。


鏡を見れば、とても綺麗にしてもらえたのがよくわかる。

うれしいなぁ。


私は、部屋を出て、女王アリシアの立派な姿を皆にお披露目する。


日ごろは、着古した軍服姿でふらふらしているアリシアであるが、今は、メイクのおかげで、ぐっと美人になっている。

魅力は五割増しだ。

日頃の女子力が低めだと、伸び代があっていいな!

普段と違う私のギャップに、家族も友人達も、皆とても驚いてくれた。


特に、アデルちゃんは、綺麗だ、歴代最高だ、などと持ち上げてくれる。


うふふ。


手放しで褒められれば、私だって悪い気はしない。

でも、歴代の王国国王で、女王って私だけだよ、アデルちゃん。


順繰りに挨拶をしながら、最後は父に晴れ姿を披露する。


素敵になったよ、お父様。

ばっちり変身を決めた私の姿を見て、私の父は、目頭を押さえて、泣き出した。

そんなに感動しなくてもいいじゃない。

父、大きめのリアクションに、私は内心満更でもない。


「アリシア、こんなに綺麗になって……。上半身、素っ裸で、外を駆け回る野猿に育った時は、もうだめかと思ったぞ」


「お父様、そこはもっと、素直に褒めてくださいませ!」


私は顔に貼り付けた、アルカイックスマイルを投げ捨てて、失礼な父に抗議した。


私が、怒ってみせると、父はにっと笑ってから、頭をわしわしと撫でてくれる。


このちょっと乱暴な感じが嬉しい。

でも、セットした髪がだめになっちゃうわ、お父様!

私達が騒がしくしていると、先程、部屋を追い払われた変態ジークハルトが、なにかを抱えて戻ってきた。


「折角だ。今日の記念を、記録にも残そうと思ってな」


そう言って、彼が持ち上げて見せたのは、写真機であった。

写真機とは、写真という姿絵を瞬時に作ってくれる、便利な機械である。


ジークが持つのは、その中でも帝国軍の諜報部隊に配備されたばかりの、最新式だ。


少しでも動くと、ぶれて残像が出てしまう。

とても便利な機械だが、ちょっと扱いが難しいのだ。


「アリシアの晴れ姿だからな。帝国の本土から、急いで取り寄せたのだ。間に合って良かった」


そう言って、ジークは白い歯を見せて笑った。

新しいもの好きのジークは、いろいろと面白いものを持ってきてくれる。


ジーク自ら写真機を撮るということで、撮影会が始まった。


最初は、今日集まったみんなで集合写真を撮ることにした。

それから、おのおのに集まって撮影だ。


諸侯とも撮ったし、メアリやアデルとも撮った。

新任のクローディアは顔見知りをしていたが、エリスに引っ張られて、写真の中に収まっていた。


一番積極的だったのは、お髭のおじさまウェルズリー候だ。

私は、彼たっての希望で、密着ツーショットを取ってしまった。

結果、私は、後からジークに妬かれてしまい、候は、奥様から物理的に焼かれかけた。

候は、奥様が一番と常日頃から言っている。


愛妻家と恐妻家の境界は、大変に難しいと、私は強く実感した。


なにはともあれ、大変喜んでいただようだ。

私も満足であった。


一通り、皆との写真を撮り終わった私は、ジークと二人きりになった。


「さて、ここからはアリシアの撮影会だ。いい画を頼むぞ」


「私は、ジークと一緒に撮るつもりだったのですけれど」


「ああ、それは後回しだ。まずはアリシアの写真を撮る」


どうやら、これを目当てに写真機を持ち出したようだ。

ジークはなんだか楽しそうだった。

パシャパシャと、気分良く撮影してくれる。


写真機を固定する三脚が、かなり自由に高さを変えられるおかげもあって、ジークはいろんな角度から、私をレンズに収めていた。


綺麗な服を着て、メイクもばっちりしているせいだろう。

私も、大層、気が大きくなっていた。


「そうだな、もう少し、こう上目遣いで、下からのぞき込むように頼む」


「はい、ジーク!」


「いいぞ、アリシア。その表情だ! もっと、もっと!」


ジークが、いつもより暑苦しい。

なにかよくわからないスイッチが入っているようだ。


でも、私も似たようなものだった。

彼が、可愛い、綺麗だと、おだててくれるせいで、私のおすまし顔は、すぐにはがれ落ちて、お調子者の本性があらわになる。


ジークのリクエストは多岐にわたった。


「笑顔で可愛く」から始まって、憂い顔とか、もっと媚びろとか、怯えたようにとか、次々と指示が飛んでくる。

私は必死になって、ジークの希望に応えてみせた。


でもなんだか、怪しい雰囲気だ。

普通、このドレスで、脚は見せないよね。

あと、体へのタッチがちょっと多い気がする。


若干の疑問をいだきつつも、四半刻ほど、二人きりの撮影会を楽しんだ頃合いだろうか。

私は、はっと我に返った。


セクハラ大好きなジークに、危機感を頂いた訳では無い。

私は背中を濡らす、汗の冷たさに気づいたのである。


そして私は思い出す。

自分が、極度の汗っかきであったことを。


乙女のピンチであった。

夏場にドレスを着るときは、細心の注意を払ってきた。

だが今日は、体がひんやりする香油を塗ってもらったおかげで、このことを失念していたのである。


ジークと二人、夢中で撮影会を楽しむうちに、このひんやりオイルの効用が切れていた。


汗、すごい出そう。

というか現在進行形で、吹き出している。


これは、まずいぞ。


私は狼狽した。

今の私が着ている服は、明日もそのまま着用する。

この後は、リハーサルも控えているのだ。


戴冠式で披露する、最高級シルキードレスが、私から取れた出汁と油でギトギトになってしまう。

私から出た分泌物は、鍋にぶちこむ分には良いかもしれないが、ドレスを染めるには、向いていないのである。


いや、鍋に入れられるのも嫌だよ!

私から出汁とっても、美味しくないよ!

私は大慌てで、ジークを止めた。


ストップ、やめてやめて。


汗かいちゃうのは恥ずかしいし、匂いが気になるから、撮影会はおしまいだよ。


ジークは、私の訴えに、「ふんふん」と耳を傾けてから、こう言った。


「アリシアの汗はいい匂いだからな。心配することはなにもないぞ」


言い切った彼の笑顔は、大変に男らしかった。


「さあ続けるか!」


「何言ってるの、ジーク!馬鹿、馬鹿、エッチ!」


ジークは変態だ!ド変態だ!

うん、知ってた!


私は、楽しそうに笑うジークを追っ払って、側付きの皆を呼び戻した。

知っていたことではあるけれど、ジークってあんまり皇子様っぽくはないよなぁ。


「二人きりで何をされていたんですか」


「いたずらされていました」


「後で、締めておきます」


よろしくね、クラリッサ。


私は武闘派の侍女達に、後事を任せることにした。

ジークが変なことばかり言うものだから、余計に体が火照ってしまった。



身体を冷やすために、私はお部屋で休憩を取ることになった。

冷たいお茶を淹れてもらい、私は、ゆっくりクールダウンだ。


側近の皆は、それぞれ皆お仕事がある。


身の回りのお世話を一通りしてもらってから、私は一人、お留守番をすることになった。

着替えたほうがいいかな、とも思ったのだが、肝心のリハーサルが終わっていない。

ドレスを脱ぐわけにもいかないのだ。


ぽつねんと、テーブル前に取り残されて、私は、カップに注がれた緑のお茶を一口すする。

さっぱりとした口当たりに、ゆだった頭も冷やされた。


私、ドレスアップまでして、何やってるんだろ。


途端に冷静になる私。

これが、賢者モードと言うものか。


ジークとの撮影会を思い返す。

雰囲気に乗せられて、あられも無い格好の写真を、沢山とられてしまったように思う。

大丈夫かな。


流出したりはしないよね?

ジークが持ってきた写真機は、一枚撮影をするたびに、原板となるフィルムを取り替える作りになっていた。

そして、撮影記録は全て、ジークが持っていってしまったのだ。


おそらく、諜報部で、現像してくれるのだろう。


写真機は、もっぱら敵地の偵察に使われる。

その被写体は、要塞や城郭みたいな防衛施設がほとんどだ。

場合によっては、離れた場所から、敵部隊を撮ったりもする。


そんな真面目なフィルムの中に、私のちょっとエッチな写真が混じる。


うぎゃー。


私は一人赤面する。

やっちまった感が半端ない。

考えただけで、また、汗が吹き出てきそうである。


いかんいかん、思考を切り替えよう。

済んでしまった事は仕方が無い。

くよくよ悩んでも、もう遅いのである。


いや、取り戻そうと思えば、取り戻せるんだけど、やっぱり自分の晴れ姿を見てみたい気持ちもあってだね。

私は、ひとりもじもじと、テーブルの上で悶えていた。


その私の赤っ恥を、これでもかと激写した写真機は、テーブルの上に置き去りにされていた。

ジークが置いていったのだ。


私は、それに手を伸ばした。


写真機のレンズを覗いてみると、周りの景色が違って見える。

四隅が少し丸みを帯びている以外は、とても鮮明な像が見えた。

すごいな、望遠までできるのか。


私がその機械を、ためつすがめつ、眺めていると、ちろりと黒くて平たい板の端が目に止まった。

これが、フィルムかな。

まだ、未使用っぽい。


面白そう。

私も、一枚撮ってみようかな。


私は、写真に興味を持った。


部屋の中を見回してみたが、めぼしい物は特にない。


なら自分の姿を撮ってみようか。

これができれば、ジークと二人で撮ったりもできるのだ。


思い立った私は、カメラのレンズの前に腰を下ろし、離れた場所からそのシャッターを切るべく、何かないかと考えた。

私の手元には、緻密な装飾を施された杖があった。

王錫だ。


この杖の先端には、ちょうど出っ張ったような部分があった。

写真機上部のボタンに、見事なまでにぴったりだった。


素晴らしいフィット感。

私は、この偶然の一致に運命を感じた。

無論、ただの錯覚である。


この棒を使えば、自分の姿を撮れるんじゃなかろうか。

自分を写真に収めるための棒、これすなわち、自撮り棒である。

王国の国宝、自撮り棒、そのお値段、金貨一千枚なり。


何事も挑戦だ。

私は手にした王錫で、ぽこぽこと写真機の頭をたたいた。

ボタンを押下するには、勢いが足りないようだ。


結構固いな。


「えい」


ドグシャ!

私が、自撮り棒を、ちょっと強めに振り下ろすと、写真機から押しつぶされたような音がした。

まさに異音。


「ドグシャ」に「カシャ」というシャッター音が重なったのだ。

カシャって音がしたので、無事、撮影は出来たのだろう。


やったぁ! 撮れたぁ!

私はピタリと静止してから、ゆっくりと十数えて、自分の姿をフィルムに焼き付けた。


うむ、ミッションコンプリートである。


さて、さて、冷静になろうか、私。

やったぁじゃないよね、私。

ドグシャっていったよ。


私はおそるおそる、異音を鳴らした、精密機械に手をやった。

写真機、大丈夫かな。

壊れてないよね。


なにしろ金属製の軍用品だ。

私は、いつもの調子で、乱暴にあつかってしまったのだ。


大丈夫、大丈夫、帝国製品は頑丈だから。

無事じゃないかな。

お願い、無事でいて!


私の儚い希望は打ち砕かれた。

写真機は、上の機構が小破してしまい、シャッターボタンが押せなくなっていた。

どうみても故障です。

本当にすみませんでした。


私は、軽率な行いで、素敵な機械を壊してしまったのである。

なんということを。

私は、頭を抱え込む。

ちょっとした思いつきで、とんでもない失策をやらかすことがあるのだけれど、まさか今この時にやってしまうとは。


ジークになんて謝ろう……。


言い訳を考えてみたのだけれど、「ちょっと自分を撮ってみようと、王錫で叩いたら潰しちゃいました。てへぺろ」としか言いようがない。


だめだ。

言い訳になってない。


普通におしりぺんぺん案件である。

この年になって、それは恥ずかしい。


おしりぺんぺんは、メアリに一度だけされたことがある。

ちょっとくすぐったかった。

ジークにやられたら、どきどきしちゃうな。


それではお仕置きにならないので、多分、普通に怒られるだろう。


ジークが戻ってきたので、私は正直に、自分の所業を告白した。

ジークは吃驚していたが、悄然とした私の様子をみて、笑って許してくれた。


「見たところ、外装が少し歪んだだけだろう。レンズも機構も問題無さそうだ。修理してもらうさ」


「よかったぁ。でも、ジークと一緒に撮りたかったです。そのために実験したのに」


「それは、たしかに、残念だな」


写真は沢山撮ったのだが、実はジークとのツーショットが一枚も無いのである。

あとで、誰かに頼んで、二人の写真を撮ってもらうつもりであったのだが、私が機材を壊してしまった。


私はがっかりしてしまう。


でも、私には、こんな時に頼りになる、有能な側仕えがいたのである。


「なら、私が描きましょうか。肉筆になりますけど」


万能の天才、クラリッサだ。


クラリッサは、スケッチが得意だ。

大体こんな感じかなー、ですらすらっと見事な鉛筆画を描き上げてしまう。

落書きですけどね、とクラリッサは謙遜するけれど、とても見事だ。

それ、私が知っている落書きと違うってぐらい、見事なのである。

とにかく彼女は、絵がとても上手なのだ。


クラリッサのタッチは、とても繊細で、少しだけ柔らかい。


二人の姿を描いてもらうなら、どんな姿勢が良いかな、と思ったのだけれど、結局オーソドックスな体勢にした。

私が椅子に座って、ジークはその隣に立ってもらったのだ。

私の左肩にジークが右手を置いてくれる。


「ジークもかっこよく描いてちょうだいね」


「へーい」


クラリッサが、おざなりな返事を返す。


「この女に、任せて大丈夫なのか?」


そう言ってジークは苦笑していた。


もちろん、大丈夫。

クラリッサは、自分の仕事に手は抜かないからね。


それに、私はよく知っている。

なんだかんだ言って、クラリッサはジークのことも大好きなのだ。


クラリッサは、速筆だけど、それでも仕上げるには、写真で撮るよりも、ずっとずっと時間がかかる。

この日は、素描だけで終わった。


その後に、何度も何度も手を入れて、クラリッサは、一枚の鉛筆画を描いてくれた。


その絵の中では、私は少し照れたように笑っていた。

ジークはわざとらしいキメ顔だ。

かっこいい。


私たちに贈られた、二人の記念の一枚は、とても素敵なものだった。


鉛筆画であるから、写真のように複製はできない。

普通の画用紙に、市販の鉛筆で書いたただの絵だ。


私は、それにクラリッサのサインを入れてもらい、額縁に入れて大切に保管した。


「専門の画家に頼んだほうが、いい絵を描くと思いますよ」


クラリッサはそう言っていたけれど、多分世界中の誰にも、こんな素敵な絵は描けないだろうと私は思う。

ジークにもお願いして、私はこの絵を譲ってもらった。

それは、数少ない、私の宝物になったのだ。


その後、私は戴冠式のリハーサルに向かった。

色々なところで立ったり、歩いたりするだけだ。

緊張はするけれど、ちょっと誇らしい感じもする。


私も含め、皆、会場の設営や、最後の点検に余念がなかった。

日も暮れるまで、みなで準備に明け暮れて、その日の作業は終了した。


明日は、戴冠式だ。

決戦前と同じで、どきどきするね。

私はベッドに潜り込むと、いつもの寝付きの良さを発揮して、すぐに眠りに落ちたのだった。



さてここで、私が壊した写真機と、無理矢理撮った一枚の顛末についても語っておこう。


準備が終わり、ジークは故障した写真機を手に、自室に戻った。

彼は、その写真機に収められた、一枚のフィルムに気がついた。


「これは・・・・・・。アリシアが撮ったのか」


幸い、それは露光して、だめになってはいないようだ。

中の画も無事だろう。


彼は、自分が撮ったアリシアの写真集に、私が自撮り棒で撮った一枚も入れて、現像を諜報部に依頼した。


そして、私、アリシアは写真家になった。


私が、撮った一枚が、写真展で、入賞してしまったのだ。

私が撮った自撮り写真は、ある意味で奇跡の一枚だった。


その写真には、何かをこらえるように、ぷるぷるした笑いを浮かべたアリシアが写っていた。

そんな彼女が、ぎゅっと握った王錫を振り下ろす、決定的瞬間だ。

カメラが衝撃で揺れたのだろう、まるで撮影者が殴られたように、被写体はぶれていた。

それが妙な臨場感を醸し出す。


そう、あたかも撮影者が、アリシアに王錫で折檻されているような……。


写真の現像を担当していた諜報部の間で、この写真はかなりの話題を呼んだ。


「これは、面白いかもしれないな」


報告を受けたジークは、その写真を受け取ってから顎を撫でる。

帝国人の間では、アリシアは人気だ。

本人は隠しているつもりだが、時としてお馬鹿な行動を起こす皇后アリシアは、ある種のマスコットのような扱いで、帝国民に親しまれている。


「よし、これをカメラを壊したアリシアへのお仕置きにしよう」


そして、面白がったジークと担当部局の人たちが共謀し、私が凶暴っぽくみえる恥写真を、展覧会に応募してしまったのだ。


「友達が勝手に応募しちゃってー」


まさか女王になってまで、これをやられるとは思わなかった。

しかも女優のオーディションなどではなく、由緒正しい写真展だ。


表題は「女王アリシアの怒り」

審査員には大受けしたそうだ。


……


いや、一応言わせてもらうね。

それ二番煎じじゃないかな!


女王アリシアが、また怒っていた。

いくらなんでも、短気すぎるぞ、この女。


この写真自体は、そこまで見るべきところがあるものではない。

それはそうだ。

ぽこんとシャッターを押した瞬間に、たまたま撮れたような代物である。

「猫が踏んづけて、撮っちゃいました」っていうのと変わらない。


でも、写真って、そういう技術だけを、見る物では無いんだね。


なんとこの一枚、私の引きつったような笑顔が、コミカルで可愛いと、大層な人気を博したのだ。

結果、審査委員特別賞を受賞した。


審査員共の目は、みな節穴だ。


この写真は、写真機を世に広めるための広告塔として、雑誌の表紙にも掲載された。

出版社には、「アリシア様はこんな顔しない!」というよくわからない批判と、「さすがアリシア様だ!」というやはりよくわからない賞賛の声が殺到した。


これも聞いた覚えがあるよ。

帝国の皆は、本当にぶれないよね。

どんだけネタかぶせてくるの。


ちなみに雑誌の売上は、そのときだけ、ぎゅんと跳ね上がった。

店頭では品薄が続出してしまい、ちょっとしたプレミアが付いたそうだ。


私のところにも、出版社から素敵なカメラと献本が送られてきた。


くそう。

私は、帝都の私室で、悔しさに拳を握り込んだ。

後ろからは侍女共の無責任な笑い声が聞こえる。


不本意な思い出ばかりが増えていく。

私の人生恥ばかりだ。


でも、私は、物を粗末にできない女だ。

写真機を壊してからは、深く反省もしていた。

折角頂いた雑誌を捨てたりはできない。

扱いに困った私は、この雑誌を物置の奥底に放り込んで、固く封印を施すことにしたのである。


この写真、そのまま二十年ほどは、倉庫の暗がりの中で眠っていた。


しかし、なんと、私とジークが増産した家族の一人が、倉庫の底から引きずり出してしまったのだ。

やたらと暗がりが大好きな、第七皇子の仕業であった。

その日も、大好きな物置の中で遊んでいたこの悪ガキが、若かりし日の母の肖像に興味をもってしまったのだ。


無邪気な好奇心の赴くまま、このちびっ子は、戦利品を持ち帰った。

そして、存在を忘れていた、タイムカプセルの中に潜む黒歴史が、その日、白日の下にさらされる。

なんと皇子は、そのお土産を、兄弟姉妹見せびらかしたのだ。


おい、こら、やめろ。

なにをするんだ、馬鹿息子!


私は、当時、家族の中では、威厳あるお母さんで通していた。

自分的には、完璧な動きをできていたと思う。


それが一発でアウトである。

私は、息子や娘に囲まれながら、「お母様可愛い」とか、「お母様変な顔」とか、散々に笑われる羽目になった。

皇后アリシアは、ただ真っ赤になってぷるぷると震えるばかりであった。


最初で最後の自撮り写真。

それは、私にとって、忘れることの出来ない一枚となったのである。


私は吠えた。


忘れさせろ、ばかー!

アリシア「恥の多い生涯を送って来ました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動強襲型令嬢アリシア物語 発売中です
一巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B0775KFGLK/
二巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B077S1DPLV/
三巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B078MSL5MY/
是非、お手にとって頂けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] K(か細くて)S(繊細で)H(儚げ)、、、? K(怪力で)S(戦姫で)H(破壊神)の間違いでは?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ