青汁とわたし
王都には、当然だが人が住んでいる。
私達の戦争で、一番の影響を受けたのは、そんな王都に住む市民達であった。
とくに兵糧攻めは、市民の生活を酷く圧迫した。
その長らく続いた苦しい生活は、連合軍による外壁制圧をもって、終わりを告げる。
ようやく、包囲が解けたのだ。
当時、まだ健在であった僭主ジョンの一党は、王城に立て籠もっていた。
だが、市民生活の回復は、彼らの降伏を待たずに始まった。
たとえ国が内戦のさなかであろうとも、食べなければ、人は生きられない。
私達連合軍も、戦争終結より、王国の復興を優先させたのだ。
最初は、商魂たくましい商人たちが動き出した。
先んずれば、人を制す。
競争相手が少ないほど、よく売れるのだ。
彼らは、危険と利益を秤にかけ、度胸を頼りに活動を開始した。
その動きに、市民達も続く。
私達が、ジョン一党を閉じ込めるためのバリケードを築いてから三日後、最初の市が中央広場に立った。
私達も警備に繰り出したのであるが、市場は、大盛況であった。
もちろん、ジョン達を閉じ込めたといっても、王国軍の脅威がなくなったわけではない。
彼らの、一万の軍は健在だった。
しかし、敵軍の動向は、連合軍の哨兵がばっちり監視しているし、いざとなったらアリシアが、救援に駆けつける手はずになっていた。
アリシア様の、立体的な市街戦強襲戦術については、定評がある。
王国軍が身の程知らずな戦いを挑めば、その無謀は、血の代償を持って払われることになったであろう。
結局、敵軍は内壁から出てこなかった。
だから、私の必殺剣を披露する機会もなかった。
市井の人々の、心理的な切り替えは、私達、連合軍首脳部の希望的な観測よりも、さらに早かった。
より良い生活を保障してくれる王様が、良い王様。
ジョンとアリシアどっちか選べ。
そして、ほとんどの市民達が、私アリシアを選択したのである。
もっともなことだ。
私が、市井の小娘であったとしても、同じようにアリシア女王を支持しただろう。
「とは言え、アリシア様の変わり身の早さは、定評がございますしね。周囲の人間が、みなアリシア様のように、鮮やかに切り替えられるとは限りません。市民の支持を、過信してはいけませんよ」
この台詞はメアリだ。
でも、彼女の言いようだと、私が移り気なコウモリ女みたいに聞こえてしまう。
私は、確固たる信念に従って、帝国軍に移籍したのである。
決して、ちやほや歓待されて、ころんと寝返ったわけではないので、その点は覚えておいてもらいたい。
アリシアに対する支持は、厚く盤石になっていく。
日々上昇する自分たちの支持率に、メアリとアデルは、二人で気味の悪い笑みを浮かべていた。
支持率上昇を喜ぶのは結構だけど、できれば、普通に応援しておくれ。
「お前たちは、アリシアにされたことを忘れたのか!? 」
アリシアに恨みを持ち、こう叫ぶ人間も居た。
しかし、対する王都住人の反応は、とても冷淡であった。
「じゃあ、お前は、死ぬまでジョンを支持してろよ」
怨恨を抱えた彼が、どうなったかはわからない。
王国を離れたかもしれないし、悔しい思いを抱えたまま、王都で生きることを選んだのかもしれない。
ここは天の国ではないのだ。
私達が、全ての人を救えないように、私達が全ての市民から受け入れてもらえるとも、考えていなかった。
私達、連合軍の占領下における治安は、とても良かった。
また、乱暴狼藉も許さない。
よそ者の武装集団なんて、歓迎されるはずがない。
そういう状況下で、一度信用を失くしてしまうと、これを回復するのにかかる手間は、凄まじいものになる。
強盗とかやるなよ、やるなら本営にねだりにこいよ。
私は口を酸っぱくして、連合軍の男どもに言い聞かせておいた。
その甲斐もあって、進駐軍は大変にお行儀が良かった。
市民達は、噂した。
大丈夫かしら。
大丈夫そうだね。
そして商店や、職人街も、活動を再開し、王都の経済は動きはじめたのだ。
王都は、大変な物不足であった。
特に食料品の類は、備蓄からなにから、すっからかんである。
王都の皆さんは、冬眠明けの熊みたいな有様で、食べられるものを手当たり次第に買い求めた。
売れば売っただけ、儲けになる。
利に聡い商人達が、これを黙っているはずはなかった。
そして、もちろん、金にうるさい貴族たちも。
「さぁ、がっぽり儲けるわよ! 」
「ええ、ガンガン稼ぎますわ! 」
最初の台詞は私のもので、続く台詞はエリスであった。
我ら二人は、銭ゲバ娘。
金の亡者アリシアと、守銭奴エリスである。
鉄剣よりも、金貨が好きです。
軍の進駐に先んじて、父と私はランズデールから、地元の穀物商人を引っ張っていた。
この状況を見越しての事だ。
小麦粉やイモ類は、備蓄物資として優秀だ。
今の王都では、飛ぶように売れていく。
お値段は、良心価格でご提供である。
流通が回復すれば、すぐに、価格は落ち着くのだ。
末永くご贔屓にしてもらうために、良い品を、早く、そこそこのお値段で提供して、顧客のハートを掴むのである。
一方のエリスは、帝国から、彼女の実家が出資している商会を呼んできた。
彼女は、利幅が大きく、輸送が楽な加工品の類を、せっせと王都に運び込んだ。
市民の中には、お金が足りない人たちも、もちろんいた。
そんな彼らのために、私は生活資金を低利で貸し出す、金融機関を設立した。
国民銀行である。
いや、一度やってみたかったんだよね、金融業。
戦争を通じて、そこそこお金を溜め込んでいた私は、大口の出資者だ。
実務は、地元の金貸しの人達に、担当してもらう予定であった。
既得権益の塊である王都の高利貸し共は、殆どが旧市街に本拠地がある。
故に、奴らは、今、まともに動けない。
連中の仕事を、全部かっさらうつもりで、私はガンガンと、お金を貸し出した。
突然、金融の話が出てきてびっくりされた方もいるかも知れない。
ここで改めて宣言しておこう。
私は、王都の金貸し共が大嫌いだ。
なぜなら、私達が戦争で苦労している時に、酷い金利をふっかけられたからだ。
私は、宰相達よりも、連中のほうが嫌いだった。
だから全部、叩き潰してやるのだ。
金融など国の手で管理するに限るのである。(※決して、真似してはいけません)
「奴ら全員、北方送りだ! 」
「共産主義かな? 」
私が高らかに宣言すると、報告に来ていたコンラートからツッコミをもらった。
チガウヨ。
単なる経済戦争ダヨ。
担保なんて取れないぐらい、困窮している人もいたけれど、私は彼らにも気前よくお金を貸した。
今後の復興需要で、お仕事は沢山ある。
最悪でも、体一つあれば、貸し倒れの心配も無いご時世だ。
支払いに詰まったら、鍬持って、北の国まで、肉体労働に出かけてもらえば良いのである。
私は、とても楽しく金勘定にはげんでいた。
そんな私に、ジークが心配そうな視線を向ける。
「権力者が、経済に口をはさむのは、危険ではないか? 」
「えぇー、良いじゃありませんかぁ 」
私はジークにわがまま特権を発動した。
ジークは吃驚してから、頭を掻いた。
「アリシアの趣味は、よくわからんなぁ」
そう言ってジークは譲ってくれた。
離宮を建てたり、ドレスを作らせたりするよりも、私は商売に興味があった。
この復興景気の雰囲気で、我慢していることができなかったのだ。
多分、私は、内政型の君主だと思う。
軍事よりも、経済のほうが好きなのだ。
私にとって、戦争は義務で、商売は趣味なのである。
さて、私アリシアが好き勝手を始めた王都でも、特に精力的に活動する人たちがいた。
お子さんを抱えるお母さんたちだ。
彼女たちは、長引く不自由な籠城生活に、大層、心を痛めていた。
なにしろ、子ども達の食糧事情が、大変に悪くなってしまったからだ。
肉や穀物も大事であるが、特に野菜の不足が深刻だった。
閉ざされた王都の中では、まともに採れるお野菜が、芋類を始めとした、根菜ばかりだったからである。
食べ盛りの子どもを抱えた奥さんたちは、奮起した。
緑のお野菜が足りない。
野菜を、葉物野菜を置いていけ!
彼女たちは、葉っぱがついてる新鮮野菜を求め、商店をめぐった。
だが、とてもではないが、品数が足りない。
生鮮食品は、市場で買い付けるのが一番だ。
バイタリティ溢れる彼女たちは、市外にまで足を伸ばすことにした。
一方で、この王都の活況ぶりに目をつけたのは、商人だけではなかった。
農家の人たちも、地場の収穫物を集めて、王都の近くまで売りに来ていた。
産地直送の、新鮮野菜だ。
農家の人たちは、まとまって、王都外壁のすぐ側で、臨時の野菜市を立てた。
そして、王都のお母さんと、農家のおばちゃんが、この市場で出会ったのである。
生鮮市場は、大盛況だった。
お客は大入りだ。
「キャベツを二玉頂けるかしら」
「あいよ」
「こちらまとめて包んでくださる? あとトマトも頂きたいわ」
「あいよ」
ずんどこ売れていく商品に、農家のおばちゃんはごきげんだ。
やっぱり、直売が一番だわね。
おばちゃんは確信した。
そんな中、お母さんの一人がぼそりと口に出した言葉が、おばちゃんの耳に止まった。
懐事情を気にしながら、そのお母さんは、こう言ったのだ。
「とにかく栄養があるお野菜が欲しいのだけど、何か無いかしら。できるだけ、お安くて、たくさん買えるといいのだけど……」
「あるよ」
おばちゃんは即答した。
栄養があって、しかも安い、そんな都合の良いお野菜。
そんなものがあると聞いて、お母さん達は目を丸くした。
熱い視線をおくられて、おばちゃんは、こうも付け加えた。
「でもあんまり美味かない。持ってきても売れないから、今日は、持ってきてないよ」
「それ、頂きたいわ」
「そうかい。じゃあ次来る時に、持ってくるよ。ケールっていうんだけどね。栄養はある。でも何度も言うけど、あんまり美味かないよ。うちじゃあ食べるんだけどね」
こうして、ケールなるお野菜が、王都に進出を果たすことになる。
さて、唐突に出てきたケールなる野菜について説明しよう。
ケールは、農家の片隅で自家消費用に育てられていた、お野菜だ。
キャベツの仲間で葉っぱを食べる。
だがこれは、商品用の作物ではなかった。
とにかく、クソ不味いのだ。
味は、キャベツに、ほうれん草の風味を加えて、青臭ささをしこたま増強したような感じである。
私も田舎出身なので、食べたことがある。
生でかじると、道端の葉っぱ喰ってるような気分になれる。
キャベツのほうが絶対美味しい。
しかし、「味なんか二の次よ。とにかく栄養がなくっちゃ!」という気分になっていたお母さま方は、この野菜を歓迎した。
次の野菜市で、約束通り店頭にならんだケールを、奥様方は、しこたま買い込んだのだ。
噂を聞きつけたご婦人も、大挙して押し寄せたため、あっという間に売り切れた。
青々ともっさり茂ったケールの葉っぱを見て、「食べでがありそうね」と彼女らは嬉しく思った。
お母さんたちは、戦利品を手に意気揚々と帰還した。
「生で食えるよ。茹でて食べたりもする」
というおばちゃんの言葉を信じて。
じゃあ、とりあえず生で。
その日の食卓に載せられたサラダには、謎の葉っぱが供されていた。
知る人がいれば、漂う香りが、庭仕事したときの、シャツに染み込んだ、芝生の匂いと同じだということに気がついただろう。
どれ一口。
フォークで突き刺しむしゃりとかじる。
そして子どもたちの悲鳴が、ご家庭の食卓にこだました。
「まずーい! 」
ほうれん草さえ、嫌がるお子さんが多いのだ。
それを遥かに凌駕する、野菜臭である。
加えて、ろくに品種改良もしていない。
美味しい訳がなかった。
地方民でさえ、好き好んで食べる人間はいない。
悪食と評判のアリシアでさえ、火を通さないとしんどいのである。
生でかじった日には、門前を守る、ガーゴイルの石像みたいな顔になってしまう。
不味すぎて、「イーッ」って顔になるのだ。
イーッ。
ちなみに、メアリは、酒が入るとなんでも美味しく食べられるらしい。
サラダの生ケールもバリバリとかじっていた。
強い。
生存能力が高い女だ。
元気な赤ちゃんを産むだろう。
お母さんたちが、折角調達してきたケールであるが、かなりの数の子どもたちが、拒否反応を示した。
好き嫌いが無い健康優良児達も、「もう次はいらないかな」とやんわりとダメ出しをする。
この新種のお野菜は、王都の少年少女たちに、概ね、不評であった。
ケールの味は、都会の人たちには受け入れられなかった。
この青物は、田舎民だけが口にする、くそまずマイナー野菜のまま、終わってしまうのか。
結論から言うと、そうはならなかった。
なんと一部のご家庭では、このケールが受け入れられたのである。
そのご家庭の皆さんの味覚が、狂っていたわけではない。
彼らも、ケールをかじって、あまりの不味さに「イーッ」って顔をした。
だが、彼らはそれで終わらなかったのだ。
不味い。
こんな不味い野菜は、今まで食べたことがない。
新鮮なはずなのに、庭で引っこ抜いた雑草みたいな味がする。
そんな彼らに天啓が閃いた。
こんなに不味いのなら、その分、体に良いのではないだろうか?
いわゆるバランス理論である。
欠点があるなら、そのぶん利点も多いはずという錯覚だ。
不味い分、栄養多いのだろうと、彼らは思い込んだ。
世の中には、不味いうえに、栄養が無い草のほうが多いのだけれど、彼らはそうは考えなかった。
そして、ケールに関してだけは、この思い込みが正しかったのである。
この葉っぱ、健康には、たしかに良かった。
お通じによく、肌艶はよくなり、プラシーボ効果も手伝って、ケールを食べていると身体の調子がよくなったように感じたのだ。
頑張って食べ続けてみよう。
ケールを受け入れた人々の大半は、このお野菜を、どうしたら美味しく頂けるかについて研究した。
とりあえず、加熱調理すれば、多少はましな味になることを、彼らは発見する。
こうして、野菜炒めなどの、簡単家庭料理の材料に、ケールが仲間入りを果たすことになった。
だが、さらに一握りの、健康エリートたちは、まったく別のアプローチをした。
ケールの長所である、栄養面を伸ばそうとしたのである。
いかにして、ケールの栄養を圧縮し、効率よく取り込むかについて、彼らは研究を重ねた。
当然、味なんか無視である。
数年に渡る試行錯誤の末、彼らは禁断の摂取方法にたどり着く。
ケールを濃縮還元した後、ジュースにして、一気に飲み干す。
単純で、かつ効果的な摂取方法であった。
しかも、一部の馬鹿が出資して、ワイン製造用の圧搾機に改良を加え、ケール専用の圧搾機など開発したせいで、奴らはこの飲料の量産化に成功する。
ケールの粉末化にまで成功した彼らは、これを商品として大々的に売り出した。
これが、王国特産の健康飲料、青汁の始まりである。
街の人たちの変なブームであれば、何の問題も無かっただろう。
だが、巡り巡って、このヘンテコ飲料の洗礼が、私達、皇室の人間にも襲いかかったのだ。
開発より数年間を経て、この青汁は王国でよくわからないブームを引き起こした。
そして、それが、帝国に上陸したのである。
世界一まずい飲料とまで言われた青汁は、最初、パーティーグッズとして話題を呼んだ。
王国出身者である、私アリシアの元にも、献上品として最高級の青汁が提供された。
最高級とはすなわち、もっとも体に良いという意味である。
味は知らぬと、提供者は笑っていた。
「これは、飲んでも良いものなのか? 」
ジークの言葉に、担当の文官達は、揃って視線を泳がせた。
物知りコンラートは、これを飲んで一言。
「俺が知ってる青汁のほうが、百倍マシだった」
そのぐらいのまずさであったそうだ。
大の男が、えぐみとにがみと青臭さで涙目になる。
スカした態度が多いコンラートでさえ、取り繕うことができずに、ヴェロオエェっとかいう、形容し難いげっぷを吐きだしていた。
わりとのりが良いことで有名な、皇帝ジークハルトは「俺はいらぬ」と、真顔で試飲を拒否した。
だが、ジークも私も、この飲料から逃げることはできなかった。
いかに不味かろうとも、効用さえ伴うのなら、それを求める組織が存在したからだ。
そして、その組織に私達二人は所属していた。
そう軍隊である。
携行しやすく、不足しがちな栄養素を確保できるこの食品は、健康維持に必死な軍人にとって、画期的な存在であった。
数日に一度、ぬるま湯に溶かして飲むだけで、各種の栄養不足から来る疾患を、予防できるのである。
でかい密閉容器に封入された、粉末状の「青汁のもと」が、帝国軍の補給物資として納入されるようになるのに、大して時間はかからなかった。
結果、軍人皇帝として名を馳せたジークも、その伴侶である私も、この健康飲料の洗礼を受けることになる。
遠征時は、二人して、不味い不味いと言いながら、こいつを飲むことになったのだ。
戦場では、敵なしであった私達夫婦も、この青汁には、何度となく泣かされた。
将兵一同、涙目になりながら、この緑の汁をあおったのである。
軍の士気に、深刻な悪影響を及ぼしつつも、帝国軍人の精神力を育てた青汁は、間違いなく帝国軍のソウルドリンクであった。
同じ釜の飯ならぬ、同じ青汁を啜った戦友である。
帝国軍の結束は、とても固くなった。
これを平然と一気飲みできて、初めて、一人前の帝国軍人と認められる。
そんな素敵な存在として、青汁は定着することになる。
医局のトップが、すごい健康マニアで、皇帝夫妻の権限を持っても押し切られてしまったのだ。
本当に大変であった。
そして軍人とは別に、これを愛飲する人種が生まれた。
「まずい!もう一杯!」
酒飲みだ。
この意味不明な叫びは、メアリである。
青汁は二日酔いによく効いた。
しかもカロリーの摂取を抑えつつ、不足しがちな栄養素を補える。
刹那の快楽に生きるドランカー達にとって、青汁は、理想的な補助飲料であった。
メアリは、気持ちよくお酒を呑むためには、手段を選ばない女だった。
健康に良いという研究の結果を信じたメアリは、この緑の液体の愛飲者になってしまう。
そして彼女は、この不味い飲料を、一緒に飲む道連れを欲しがった。
結果、メアリは、主君であるアリシアにも、こいつを飲ませようとゴリ押ししたのである。
いい迷惑だ!
自分一人で飲んでろよぉ!
私は、抵抗したのだが、「皇后は健康管理も大事でしょ?」と詰め寄られて、逃げ切ることができなかった。
結局、私もメアリのご相伴に預かって、青汁を常飲することになる。
帝国には、美味しいものが沢山ある。
なのになぜ、こんなゲテモノを好き好んで飲まなきゃならんのだ。
戦場に行っても、帰っても、私は青汁に責め続けられた。
わたしは、あまりの不味さに、産卵中のウミガメみたいに涙を流しながら、メアリに強いられて青汁を飲んだ。
ジークは優しい旦那さんであったけれど、これには付き合ってくれなかった。
これは、だいぶ、先の話になる。
私アリシアは、ご長寿で大記録を期待される程、長生きをすることになった。
メアリと二人、余裕で三桁の大台を突破してしまい、晩年はちょっとした化物扱いまでされてしまう。
その健康の秘訣を問われたとき、私には、これしか思い浮かばなかった。
「青汁、かしらね」
目から光を消しながら、太皇太后アリシアが称揚した健康飲料、青汁。
そのモンスタードリンクは、内戦からの復興を目指す王国が生み出した、奇跡の飲料であった。
「いや、奇跡じゃなくて、悪魔の飲料じゃないかな」
ケールの葉っぱをかじりながら、私は、ひとり呟いた。
その野菜は、いつどこで食べても、道端に生えてる草みたいな酷い味であった。
当作品は、青汁の飲用を勧めるものではありません。
また、その健康面における効用についても、実際の効果を保障するものではない点、予めご了承ください。




