表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
86/116

アレとわたし

サブタイを「さよなら、エドワード」にするか悩みました。


私とジークは、一つの隠し事をすることになった。

今日はそのことについてお話したい。


一応お断りしておくと、やましいことではない。

断じて無い。


だが、大した問題でもないし、我が軍のちょっとした不始末や、王宮の秘密に関わることでもある。


だから、この日の出来事は、私達の秘密にしておこう。

そう、ジークや側近達と話して、決めたのである。


内戦が終わった。

決戦前夜のこと、たった一晩で、全てが終わっていた。

蓋を開けてみれば、実にあっけない幕切れであった。


昨晩、連合軍が、旧市街に篭もる王国軍を、強襲したのである。

既に敵の戦意はどん底で、ほとんど戦いにもならなかったそうだ。


敵の士気を削りきった父達と、その好機をがっちり掴んだジークの采配は、見事であった。

一夜のうちに、数々の要衝を制圧し、戦争責任者たちを全て確保、処断した上で、深夜の真っ暗闇の中、王城の接収までやってのけたのだ。


なんでも、放火の準備をした火事場泥棒が、王城に侵入していたのだそうだ。

ジークは現場判断で、王城への強行突入を実施した。

これがなければ、王城は焼失していたかもしれないと聞いている。


すごいなぁ。


本営でお留守番をしていた私は、それを後から知らされた。

私は、これを聞いて我が事のように嬉しく思ったのだ。


旦那さんのお手柄を自慢したがる、奥さんの気持ちがよく分かった。

自分のことではないのだが、それ以上に誇らしいのだ。

うちの旦那さんは、すごいでしょ! って、言いたくなるのである。


この作戦でも、戦死者は皆無であった。

城を攻めるは下策、心を攻めるは上策とはよく言ったものだ。

自軍だけでなく、王国軍の犠牲者も減らすことが出来たのは、誠に重畳であった。


王族は皆、鬼籍に入るか逃亡して、全員が表舞台から退場した。

一人、残された宰相が、王国の全権代理として、降伏文章に調印。

これにて戦争は、終結したのである。



一夜明けて、現在、父を始めとした諸侯軍は、各施設の接収にあたっている。

特に王城の調査は、念入りに進めているようだ。

領軍を大量に動員し、重たい家具や調度品まで動かして、隅々まで、あらためているとのこと。


「蟻一匹、見逃さんぞ」


と父は息巻いていた。


大の男が、せっせと調度品をひっくり返していく姿は、庭の裏手で石ころをひっくり返して遊ぶ、悪ガキ達にそっくりだった。

ダンゴムシとか、ヤスデとかがにょろにょろ出てくるんだ。

女の子は要注意である。

見た目がすごい気持ち悪いのだ。


兵士総出で、しつこく調査をすることになった原因は、エドワードの逃亡にあった。


深夜、あの男は王城から忽然と姿を消したのだ。

奴が逃走は、王城に隠し通路を使ったものに違いなかった。

この手の秘密の抜け道は、権力者の住まいの定番だ。


王国の王城は、築二百五十年、十階建て、隠し通路付きの豪邸なのである。


秘密の通路というものは、それを知る人間にとっては、便利なものかもしれない。

だが、新規の入居者からすれば、迷惑極まりない置き土産だ。


合鍵を、古い住人が持ち出したようなものなのだ。

防犯上、とても困るのである。


ある晩、ベッドですやすや眠っていたら、不審者さんがこんばんわとかなったら、たまらない。

臆病者の私など、びっくりして死んでしまう。


そこで、今、人海戦術を使って、この手の抜け道を探索中というわけだ。

人手を繰り出して、地道に壁やら床やらを叩いて回っている。


「誰か、隠し通路を発見するコツとか、知らないものかしら」


「私にお任せくだされば、バッチリ探し出してみせますわよ」


この発言は、ステイシーだ。

たしかに、すごく得意そう。


彼女は、身辺警護に関するかぎり、とても頼りになるのだ。

でも、彼女を、王宮調査隊の応援に出すわけにはいかない。

彼女は腕利きなので、私の護衛からは手放せないのである。


帝国軍の皆さんは、昨晩、徹夜で頑張ったジークと一緒に、お休み中である。

彼らの帰還は非常に遅くて、私は、とても心配したのだけれど、仕事人間のジークが、いつもの悪い癖を、発揮してしまっただけだった。


奥さんは心配するんだから、旦那さんには気をつけてもらわないと困ります。


えへへ。

奥さんって言ってみました。


王城含めた旧市街は、まだ落ち着いたわけではない。

私が行っても混乱するだけなので、立ち入りを自重している。

現在、がさ入れ真っ最中のお城にも入れない。

しかし、戦いは終わったので、本営にいても仕事が無い。

ついでに、ジークは就寝中。


私は完全に暇を持て余していた。

そんな私に、久々に休暇が取れたクラリッサが、提案してくれたのだ。


「でしたら、巡察にでも出てみませんか? 」


巡察。


いわゆる街の見回りである。

そして、市井の皆さんから、直接お声をいただくのだ。

今の私達がどう見られているか、ダイレクトに情報を集めるのである。


ちょっと自画自賛になってしまうけれど、次期女王のアリシアの行政手腕は、悪くない。

流通路をすぐに確保して、王都の食料事情を改善させ、治安の維持にも熱心だ。

しかし、一方で、外国の勢力を引き入れて、王都に攻め込んできた侵略者でもある。


故に、良い材料も悪い材料もあって、私の評価は安定しない。

どうにも、アリシア政権の支持率が、把握しにくいのだ。

そこで、街に出て、町の人達の空気を、直に感じてみようというわけである。


アリシアは、凶暴極まりない将軍であるともいわれている。

風評被害ではある。

でも、この悪評のおかげで、街を歩いていて突然周りを囲まれる、というような事にはならないだろう。

クラリッサの提案であれば、そう酷いことにもなるまい。


それで、私は、側近四人を伴って、街を練り歩くことにしたのである。


私は、王都の中のできるだけ広い範囲を、歩いて回る予定であった。


一方の奴は、私を捕まえる機会を、ずっと狙っていた。


だから、ある意味で、この邂逅は必然であった。


奴。

その名は、エドワード。


王城を脱出したこの男は、持ち前の妄想癖を爆発させて、いつの間にやらアリシアと恋仲になったつもりになっていた。

そして、空想上の恋人との逢瀬を果たすべく、その機会をしつこく狙っていたのである。


うげぇ。


ストーカー男、ここに極まれりである。

自衛のための護身術を学んでいて良かったと、心の底から思う。



巡察の間、私は、大変にご機嫌であった。

王都の皆さんが、皆、暖かく私達を迎えてくれたからだ。

お店に入れば大歓迎。

道を歩いていても、みんなにこにことした顔で会釈をしてくれる。


石や卵を投げつけられたらどうしよう。

私はちょっと心配していたのだが、恨みがましい視線にさらされることもなく、久々の街歩きを楽しんでいた。

案内のクラリッサが、私が悲しんだりしないようにと、手を回してくれたのだとは思う。

でも、行く先々のお店で歓迎されて、ちやほやお姫様扱いしてもらえるのは、やっぱり嬉しかった。


私は、学生時代にも王都で暮らしていたのだが、あまり楽しい思い出はなかった。


当時の私は、公爵令嬢。

でも、高いのは地位ばかりで、お金もなかったし、格好もつけられなかったのだ。

やっぱり、多少はコンプレックスもあったのだ。


でも、今は違う。

欲しいものがあっても、我慢する必要はないし、きれいなおべべを着ているおかげで、胸を張って素敵なお店にも入っていける。


あ、「おべべ」って言って通じるのかな。

着物のことね。


私たちは、服や小物のお店を回りながら、合間合間に屋台をめぐり、楽しいショッピングを満喫していた。


私の片手には、冷たい果汁のカップがあった。

もう片方の手には、小洒落た具材のはさみパンを握っている。

どちらも、とても美味しい。


私の隣には、似たような戦利品を手に持ったクラリッサがいた。


「おかしい。なぜか、食べてばかりの気がしますよ、アリシア様」


「どうしてか、食べ物だと、気兼ねなくお金を使えるのよねぇ」


染み付いた癖って、おそろしい。

買い食いには、躊躇しないアリシアだが、お高いアクセサリを買おうとすると、手が止まってしまうのだ。

故に、手にとるのが、飲食物ばかりになってしまう。


お店を見て回っても、ほとんど冷やかすばかりだったのだが、店員さんは嫌な顔ひとつせず、私の相手をしてくれた。

私の横でがんがん買い物をしていた、エリスのおかげもあるかもしれない。

いや、完全にそのおかげか。


「経費で落とせますから!」


キリッとした顔で、勤め人みたいな台詞を口走るエリスは、ここ数ヶ月で、大分図太くなったと思う。

あと、経費って言ったけど、私の方に請求は回さないでね。


ちょっと遅めの昼食を済ませてから、私達は、巡察を再開した。

そして、広めの路地が交差する、小広場のような場所に出た時、私と奴は出会ったのだ。


「アリシア! 」


呼び止められて、私とメアリはすぐに反応した。

声を聞くのは、およそ、一年ぶりだ。

だが、聞き間違いようが無かった。


路地裏の物陰から、奴がゆっくりと姿を現す。

やはりというべきか、その男はエドワードであった。


王城から逃げ出した元王太子が、私のことを待ち伏せていたのである。


奴が好んで身にまとう派手なデザイン絹服は、すすけて光沢を無くし、生地は汗染みで汚れていた。

城から逃げては来たものの、着替えの類などは、持ち合わせていなかったに違いない。

連れていたという従僕の姿も、消え失せていた。

奴はひとりきりだった。


派手な金髪は、以前、見たときのままだった。

私にへこまされた頬骨は、古傷となって陥没し、顎が若干しゃくれている。

その顔には、あいも変わらず、軽薄な笑みを浮かべていた。


メアリが私を庇うように一歩進み出る。

主人を守らんとする構えだ。


それを、私は手で制した。


「アリシア様……」


「大丈夫、問題ないわ」


気遣わしげに振り返ったメアリは、私の顔を見て、表情をあらためた。


メアリが、笑う。

半ばは安心したように、半ばは戦意を掻きたてられたように。


「承知しました」


私に前を譲りながら、彼女は不敵に微笑んでいた。


自分で、自分の顔を見ることは、かなわない。

でも、きっと私も、メアリと同じ顔をしているに違いなかった。


エドワードの襲来は、全く予期せぬものだった。

だが、突然の襲撃にもかかわらず、私の心は、ひどく凪いでいたのである。


あれだ。

実物を見ると、こんなもんだったな、と落ち着いてしまうあれである。

勝手に想像を膨らませて、怯えていたのが恥ずかしい。


私の心に、恐れなど無かった。

私は、先だって、我が軍が取り逃がした怨敵を前にして、戦意と闘志を燃やしていたのである。


「アリシア! あぁ、やっと会えた。ずっと探していたんだよ……」


エドワードは言葉をつなぐ。


いい加減、脳裏から追い出したい声音であった。


実は、私は、ここのところ酷い不眠に悩まされていた。

理由は、皆さんもお察しの通りだ。

エドワードの変態メールが、原因である。

私が、眠りに落ちようとする度に、奴の粘っこいボイスがリフレインして、我が安息のひと時を、怖気とともに妨げるのだ。


こんな風に。


「やっと会えたね、アリシア。ずっと君を探していたんだ。まったく、僕を置いてどこに行っていたんだい? こんなにも待たせて、君にはお仕置きが必要だね……」


これは、長そうだな。

付き合ってられん。

私はバッサリと切り捨てた。


「私は、貴方に会いたいなどと、思ったことはありません」


「何を言うんだい、アリシア。そんなわけにはいかないだろう? 僕の妻にならないのに、王国を統治するなんて、できるわけがないじゃないか。王妃になって僕の子供を産むんだ、アリシア。そうすれば、……」


「貴方の妻になるのも、その先も、断じてお断りですわ」


エドワードはいやらしい笑みを浮かべた。

蛇のような顔というけれど、実は私は爬虫類が嫌いではない。

トカゲとか、ちょこちょこした動きが、可愛いとおもう。


だから奴の顔を汚い猿のような顔、と表現させていただこう。

お猿が好きな方、ごめんなさい。


「言うことを聞かないなら、無理やりにするしか無いかな」


それからエドワードは、腰元の短剣を引き抜いた。

力づくということだろう。


思い返してみても、この男と、会話が成立したことはなかった。

そして、事あるごとに、私に暴力を振るう機会を狙っていたように思う。

思えば、常に下卑た男だった。

奴の行いから、私は、それを再確認した思いである。


でも、その果物ナイフみたいな短剣じゃあ、私には刺さらないよ。

忠告してやる義理もないけどさ。


「アリシア様」


メアリが私の耳元で囁いた。

そして、彼女は、渡してくれる。

厚手の手袋(土木作業仕様)の利き手側を。


なんでこんなもの持ってるの、メアリ?


「どうぞ、これをお使い下さい」


それから、この頼りになる私の側付きは、バチンと片目をつぶってみせた。


私は盛大に眉をしかめた。


えぇー。


一応、言おう。

外歩きということで、今の私は、ちゃんと武装している。

剣だって、腰に佩いているのだ。


普通に、叩き切ればいいじゃない。


手袋越しとはいえ、直接触るのは、嫌なのだけど。


でも、メアリは、素敵な笑顔を貼り付けて、革製の無骨な手袋を、ぐいぐいと押し付けてくる。

振り返れば、残る三人の女たちも、皆、何かを期待するような目で、私の顔を見つめていた。


エリスがボソリと呟いた。


「これは、生ストレートですわ!」


なんだよそれぇ!

たしかに私は、この男との因縁に、ここで決着をつける心算であった。

だが、斃し方にまで、拘るつもりはなかったのだ。


周囲の女たちは、そんな私の思いを、そんたくしたりはしなかった。


彼女たちのリクエストは「生ストレート」。


あほか!

居酒屋の注文みたいじゃないか!

私は、エドワードを見た。

私の従者たちを見た。

みんな、キラキラした目で私を見ている。

私は、一つ大きなため息をついた。


もう、しょうがないなぁ。


ここで折れちゃうから、側仕え達が付け上がるのだろう。

自覚はある。

認識もしている。

でも私は言うことを聞いちゃうのだ。

とっても、押しに弱いから。


このあほな希望に応えるため、私は、メアリから手袋を受け取った。


ぐっと引っ張り込んで、突っ込んだ指をのばす。

革製の頑丈な手袋は、私の手に、ぴたりとフィットした。

絹のそれより、よっぽど馴染むのが、ちょっと悲しい。


そして、私は大きく一歩踏み出した。


エドワードは、短剣を見せびらかすように振り回しながら、近づいてきた。

これで、女性を脅したこともあるのだろう。

場末のチンピラとやってることが変わらない。


「さあ、言うことを聞くんだアリシア。僕と結婚しよう!」


「いいえ、お断りさせてもらいますわッ!」


私は、突進した。

彼我の距離はおよそ二十歩ほどだ。


一歩、二歩。


私は、地面を蹴り出し加速する。

エドワードの顔が急速に接近する。

奴の反応は鈍いままだ。


戦争をしていたと言うのに、鍛えもしなかったのだろう。

反撃も回避もしようとしない。


馬鹿め。

私は、一直線に肉薄し、奴の顔の正中線、鼻の頭を撃ち抜くように、右の拳を叩き込んだ。


「アリスゥァァァァッ!」


グシャァ!

私の名前を言い切る前に、私の右ストレートが、エドワードの顔面ど真ん中に着弾する。

鼻を陥没させる勢いで、私は拳を振り抜いた。

手袋ごしの手応えが、少しだけ懐かしい。

そういえば、あの時は、手を洗う暇なんて無かったな。


ばっちい。


シュッという短い息が、わたしの食いしばった口元から漏れた。


この男は、性犯罪の常習犯であった。

十年以上に渡って、私のことを付け狙い、私とメアリを苦しめてきた。

そして、故国を傾かせた、戦犯の一人でもあった。


その因縁に、私はこの拳で決着をつける。


私が叩き込んだ一撃は、間違いなく痛打であり、確実に奴の意識をかりとった。

吹き飛んでいくエドワードの姿を眺めながら、私は心のなかで慨嘆する。


やっぱり、この手で触るのは、ちょっと抵抗があったなぁ。


私は、持てる力の全てを叩き込むことが、できなかったのだ。

こう、返り血で汚れるのが嫌で、ぶち抜くというよりも、押し込む格好になってしまったのである。


奴の体は、浮き上がり、すごい勢いで吹っ飛んで、後ろにあった空樽を粉砕した。

ガシャーンと、景気良く樽の留め具がはじけ飛び、木片が盛大に飛散する。

エドワードは、大の字に両手を広げ、尻もちをついたみたいな格好のまま、動かなくなった。


確実に、戦闘不能にはしたはずだ。

私は対象の沈黙を見届けると、いそいそと手袋を外し、ペイっとそれを投げつける。


撃破完了。

ふー、と息をつく私。

その隣にメアリが並ぶ。


「アリシア様の勝利ですわ!」


勝利宣言だ。


メアリは大音声で叫びながら、私の右腕を高々と持ち上げた。

私は、得意げに勝利のガッツポーズを決める。


一瞬の沈黙。

それから、戦々恐々としながら見ていた人たちが、わっと歓声で応えてくれた。


第一ラウンド開始三秒、右ストレートからのワンパンK・Oだ。


それが、私とこの男との、因縁の決着であった。


間もなく、巡回の兵士が飛んできた。

事態に驚いた市民のだれかが、呼んできてくれたものらしい。


私は、この事態をどう処理したものかと、首をひねった。

樽につっこんでのびたままの、性犯罪者に視線を流す。


メアリが私に問いかける。


「あれをどうなさいますか、アリシア様? 」


「うーん」


あの男は、「元」とはいえ王族であった。

だから、奴の身分を明かしてしまうと、その死体は王家の墓所に葬られることになる。


はっきり言おう。

私は、この男を王家の墓に入れたくなかった。


だって、私が女王になったら、国事でお墓参りだってするのである。

もしかしたら父だって、入ることになるかもしれないのだ。

そんな墓所にこの男を入れてしまったら、一緒に嫌な出来事も思い出してしまう。


そんなのは嫌だ!


「できれば、このまま闇に葬りたいわ」


私は、願望を口に出した。

私の眉は、ひん曲がっていたはずだ。


こんな時に頼りになる女がいた。

ステイシーである。

にっこり糸目が頼もしい。

彼女はどんと、胸を叩いて、請け負っってくれた。


「でしたら、そのように手配いたしましょう」


「ほんとに!? 」


彼女は、兵士に経緯を説明してから、私服姿の部下を呼び集めた。

何処に潜んでいたのやら、男たちが数人集まってくる。

こそこそっと話しをする姿は、今夜の飲み会の相談をするかのような気安さだ。

でも、絶対物騒なことを話してるんだよ。

この人達。


一人が、話し合いの輪から抜け出すと、そそくさとエドワードに近づいて、ぽきっと首の骨をへし折った。


悪は滅びた。

エドワード、あっけない最期であった。


「後は、おまかせくださいませ」


「ありがとう、ステイシー! 」


そして、彼女に処理を一任した私は、その日の巡察を切り上げた。

業務終了である。

一応、襲撃を受けたわけだからね。


本営に戻った私が、巡察で、トラブルがあった告げたところ、皆、頑丈なアリシアのことであるのに、とても心配してくれた。

特にジークは非常に気にしてくれて、平気だったよと宥めるのに苦労したぐらいだ。

それから、彼はたくさん甘やかしてくれた。


この事件は、公式には、アリシアに恨みを持った暴漢の犯行として、処理されることになる。

その男は、アリシアに刃物で襲いかかったが、返り討ちにあったのだ。

犯人は、その場で処断され、遺体は刑場に葬られた。

暴漢の身元は、不明。


以上で一件落着であった。


私はジークにだけは、暴漢の正体を伝えておいた。


「俺は何も聞かなかった。そういうことにしておこうか」


アリシアが、したいようにすればいい。

なんでも俺に話す必要はないぞ。

そう言って、彼は笑ってくれた。


彼は、私達の秘密の共有者だ。


それとあと一人だけ、事件の真相についてお伝えした。


皇帝陛下である。

ステイシーがお義父様にだけは、報告を上げたのだ。

陛下からも、「よくあることだ。好きにしなさい」とお手紙を頂いた。


よくあること。


帝国はいろいろな国を併合してきた。

似たような秘密は、たくさんあるのだろう。

歴史の裏側を、ちょっとだけ垣間見た思いである。


もしかしたら、行方不明になった王太子が、どこかの創作劇では、大活躍したりするかもしれない。

そこでは、きっとアリシアは悪役で、奴か奴の子供に、かたきを討たれたりもするのだろう。


一国の興亡の裏側には、いろいろなドラマが潜んでいるのだろうなぁ。

私は、大河のロマンに、思いを馳せたのだった。


いや、ちょっと雄大な歴史に浸りたい気分だったのだ。

奴を殴った感触を、できるだけ早めに忘れたかったから。

私アリシアは、ゴキブリだって素手で退治できる女だが、エドワードは、それ以上にきつかった。


忘れろー忘れろー。


不快な感触を拭い去るべく、わたしは就寝前に、ジークのほっぺたをむにむにしておいた。

念入りにこねくり回した所、ジークもとっても喜んでくれた。

ジークはおかえしにと、私のおっぱいを触りたがった。


でも、今日はおあずけです。


また今度ね。


こうして、古い王国の負の遺産は、綺麗さっぱり片付いた。


これからは、私達の新しい治世が始まるのである。


アリシア「メインヒロイン、トラウマ克服からのパワーアップイベントだぞ」


◇◇◇


かつてのジークハルトの発言に、一箇所だけ、嘘が含まれることになりました。

整合性を取るために、アリシアに黙っていて貰おうかとも思ったのですが、彼女なら絶対に隠し事はしないだろうなぁと思いまして。

そちらは、そういうこととして、お話を進めていきたいと思います。


原案だと、王国の最後については詳しく触れず、全員ナレ死の予定だったんだよなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動強襲型令嬢アリシア物語 発売中です
一巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B0775KFGLK/
二巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B077S1DPLV/
三巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B078MSL5MY/
是非、お手にとって頂けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 47話あたりで攻め入るのをわざわざ止めてまでして、延々と舐めプして散々引き伸ばした割には、随分としょぼい決着だと思った。さっさと決着させたほうが面白かったと思う。 率直な感想としては、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ