アレとわたし
サブタイを「さよなら、エドワード」にするか悩みました。
私とジークは、一つの隠し事をすることになった。
今日はそのことについてお話したい。
一応お断りしておくと、やましいことではない。
断じて無い。
だが、大した問題でもないし、我が軍のちょっとした不始末や、王宮の秘密に関わることでもある。
だから、この日の出来事は、私達の秘密にしておこう。
そう、ジークや側近達と話して、決めたのである。
内戦が終わった。
決戦前夜のこと、たった一晩で、全てが終わっていた。
蓋を開けてみれば、実にあっけない幕切れであった。
昨晩、連合軍が、旧市街に篭もる王国軍を、強襲したのである。
既に敵の戦意はどん底で、ほとんど戦いにもならなかったそうだ。
敵の士気を削りきった父達と、その好機をがっちり掴んだジークの采配は、見事であった。
一夜のうちに、数々の要衝を制圧し、戦争責任者たちを全て確保、処断した上で、深夜の真っ暗闇の中、王城の接収までやってのけたのだ。
なんでも、放火の準備をした火事場泥棒が、王城に侵入していたのだそうだ。
ジークは現場判断で、王城への強行突入を実施した。
これがなければ、王城は焼失していたかもしれないと聞いている。
すごいなぁ。
本営でお留守番をしていた私は、それを後から知らされた。
私は、これを聞いて我が事のように嬉しく思ったのだ。
旦那さんのお手柄を自慢したがる、奥さんの気持ちがよく分かった。
自分のことではないのだが、それ以上に誇らしいのだ。
うちの旦那さんは、すごいでしょ! って、言いたくなるのである。
この作戦でも、戦死者は皆無であった。
城を攻めるは下策、心を攻めるは上策とはよく言ったものだ。
自軍だけでなく、王国軍の犠牲者も減らすことが出来たのは、誠に重畳であった。
王族は皆、鬼籍に入るか逃亡して、全員が表舞台から退場した。
一人、残された宰相が、王国の全権代理として、降伏文章に調印。
これにて戦争は、終結したのである。
一夜明けて、現在、父を始めとした諸侯軍は、各施設の接収にあたっている。
特に王城の調査は、念入りに進めているようだ。
領軍を大量に動員し、重たい家具や調度品まで動かして、隅々まで、あらためているとのこと。
「蟻一匹、見逃さんぞ」
と父は息巻いていた。
大の男が、せっせと調度品をひっくり返していく姿は、庭の裏手で石ころをひっくり返して遊ぶ、悪ガキ達にそっくりだった。
ダンゴムシとか、ヤスデとかがにょろにょろ出てくるんだ。
女の子は要注意である。
見た目がすごい気持ち悪いのだ。
兵士総出で、しつこく調査をすることになった原因は、エドワードの逃亡にあった。
深夜、あの男は王城から忽然と姿を消したのだ。
奴が逃走は、王城に隠し通路を使ったものに違いなかった。
この手の秘密の抜け道は、権力者の住まいの定番だ。
王国の王城は、築二百五十年、十階建て、隠し通路付きの豪邸なのである。
秘密の通路というものは、それを知る人間にとっては、便利なものかもしれない。
だが、新規の入居者からすれば、迷惑極まりない置き土産だ。
合鍵を、古い住人が持ち出したようなものなのだ。
防犯上、とても困るのである。
ある晩、ベッドですやすや眠っていたら、不審者さんがこんばんわとかなったら、たまらない。
臆病者の私など、びっくりして死んでしまう。
そこで、今、人海戦術を使って、この手の抜け道を探索中というわけだ。
人手を繰り出して、地道に壁やら床やらを叩いて回っている。
「誰か、隠し通路を発見するコツとか、知らないものかしら」
「私にお任せくだされば、バッチリ探し出してみせますわよ」
この発言は、ステイシーだ。
たしかに、すごく得意そう。
彼女は、身辺警護に関するかぎり、とても頼りになるのだ。
でも、彼女を、王宮調査隊の応援に出すわけにはいかない。
彼女は腕利きなので、私の護衛からは手放せないのである。
帝国軍の皆さんは、昨晩、徹夜で頑張ったジークと一緒に、お休み中である。
彼らの帰還は非常に遅くて、私は、とても心配したのだけれど、仕事人間のジークが、いつもの悪い癖を、発揮してしまっただけだった。
奥さんは心配するんだから、旦那さんには気をつけてもらわないと困ります。
えへへ。
奥さんって言ってみました。
王城含めた旧市街は、まだ落ち着いたわけではない。
私が行っても混乱するだけなので、立ち入りを自重している。
現在、がさ入れ真っ最中のお城にも入れない。
しかし、戦いは終わったので、本営にいても仕事が無い。
ついでに、ジークは就寝中。
私は完全に暇を持て余していた。
そんな私に、久々に休暇が取れたクラリッサが、提案してくれたのだ。
「でしたら、巡察にでも出てみませんか? 」
巡察。
いわゆる街の見回りである。
そして、市井の皆さんから、直接お声をいただくのだ。
今の私達がどう見られているか、ダイレクトに情報を集めるのである。
ちょっと自画自賛になってしまうけれど、次期女王のアリシアの行政手腕は、悪くない。
流通路をすぐに確保して、王都の食料事情を改善させ、治安の維持にも熱心だ。
しかし、一方で、外国の勢力を引き入れて、王都に攻め込んできた侵略者でもある。
故に、良い材料も悪い材料もあって、私の評価は安定しない。
どうにも、アリシア政権の支持率が、把握しにくいのだ。
そこで、街に出て、町の人達の空気を、直に感じてみようというわけである。
アリシアは、凶暴極まりない将軍であるともいわれている。
風評被害ではある。
でも、この悪評のおかげで、街を歩いていて突然周りを囲まれる、というような事にはならないだろう。
クラリッサの提案であれば、そう酷いことにもなるまい。
それで、私は、側近四人を伴って、街を練り歩くことにしたのである。
私は、王都の中のできるだけ広い範囲を、歩いて回る予定であった。
一方の奴は、私を捕まえる機会を、ずっと狙っていた。
だから、ある意味で、この邂逅は必然であった。
奴。
その名は、エドワード。
王城を脱出したこの男は、持ち前の妄想癖を爆発させて、いつの間にやらアリシアと恋仲になったつもりになっていた。
そして、空想上の恋人との逢瀬を果たすべく、その機会をしつこく狙っていたのである。
うげぇ。
ストーカー男、ここに極まれりである。
自衛のための護身術を学んでいて良かったと、心の底から思う。
巡察の間、私は、大変にご機嫌であった。
王都の皆さんが、皆、暖かく私達を迎えてくれたからだ。
お店に入れば大歓迎。
道を歩いていても、みんなにこにことした顔で会釈をしてくれる。
石や卵を投げつけられたらどうしよう。
私はちょっと心配していたのだが、恨みがましい視線にさらされることもなく、久々の街歩きを楽しんでいた。
案内のクラリッサが、私が悲しんだりしないようにと、手を回してくれたのだとは思う。
でも、行く先々のお店で歓迎されて、ちやほやお姫様扱いしてもらえるのは、やっぱり嬉しかった。
私は、学生時代にも王都で暮らしていたのだが、あまり楽しい思い出はなかった。
当時の私は、公爵令嬢。
でも、高いのは地位ばかりで、お金もなかったし、格好もつけられなかったのだ。
やっぱり、多少はコンプレックスもあったのだ。
でも、今は違う。
欲しいものがあっても、我慢する必要はないし、きれいなおべべを着ているおかげで、胸を張って素敵なお店にも入っていける。
あ、「おべべ」って言って通じるのかな。
着物のことね。
私たちは、服や小物のお店を回りながら、合間合間に屋台をめぐり、楽しいショッピングを満喫していた。
私の片手には、冷たい果汁のカップがあった。
もう片方の手には、小洒落た具材のはさみパンを握っている。
どちらも、とても美味しい。
私の隣には、似たような戦利品を手に持ったクラリッサがいた。
「おかしい。なぜか、食べてばかりの気がしますよ、アリシア様」
「どうしてか、食べ物だと、気兼ねなくお金を使えるのよねぇ」
染み付いた癖って、おそろしい。
買い食いには、躊躇しないアリシアだが、お高いアクセサリを買おうとすると、手が止まってしまうのだ。
故に、手にとるのが、飲食物ばかりになってしまう。
お店を見て回っても、ほとんど冷やかすばかりだったのだが、店員さんは嫌な顔ひとつせず、私の相手をしてくれた。
私の横でがんがん買い物をしていた、エリスのおかげもあるかもしれない。
いや、完全にそのおかげか。
「経費で落とせますから!」
キリッとした顔で、勤め人みたいな台詞を口走るエリスは、ここ数ヶ月で、大分図太くなったと思う。
あと、経費って言ったけど、私の方に請求は回さないでね。
ちょっと遅めの昼食を済ませてから、私達は、巡察を再開した。
そして、広めの路地が交差する、小広場のような場所に出た時、私と奴は出会ったのだ。
「アリシア! 」
呼び止められて、私とメアリはすぐに反応した。
声を聞くのは、およそ、一年ぶりだ。
だが、聞き間違いようが無かった。
路地裏の物陰から、奴がゆっくりと姿を現す。
やはりというべきか、その男はエドワードであった。
王城から逃げ出した元王太子が、私のことを待ち伏せていたのである。
奴が好んで身にまとう派手なデザイン絹服は、すすけて光沢を無くし、生地は汗染みで汚れていた。
城から逃げては来たものの、着替えの類などは、持ち合わせていなかったに違いない。
連れていたという従僕の姿も、消え失せていた。
奴はひとりきりだった。
派手な金髪は、以前、見たときのままだった。
私にへこまされた頬骨は、古傷となって陥没し、顎が若干しゃくれている。
その顔には、あいも変わらず、軽薄な笑みを浮かべていた。
メアリが私を庇うように一歩進み出る。
主人を守らんとする構えだ。
それを、私は手で制した。
「アリシア様……」
「大丈夫、問題ないわ」
気遣わしげに振り返ったメアリは、私の顔を見て、表情をあらためた。
メアリが、笑う。
半ばは安心したように、半ばは戦意を掻きたてられたように。
「承知しました」
私に前を譲りながら、彼女は不敵に微笑んでいた。
自分で、自分の顔を見ることは、かなわない。
でも、きっと私も、メアリと同じ顔をしているに違いなかった。
エドワードの襲来は、全く予期せぬものだった。
だが、突然の襲撃にもかかわらず、私の心は、ひどく凪いでいたのである。
あれだ。
実物を見ると、こんなもんだったな、と落ち着いてしまうあれである。
勝手に想像を膨らませて、怯えていたのが恥ずかしい。
私の心に、恐れなど無かった。
私は、先だって、我が軍が取り逃がした怨敵を前にして、戦意と闘志を燃やしていたのである。
「アリシア! あぁ、やっと会えた。ずっと探していたんだよ……」
エドワードは言葉をつなぐ。
いい加減、脳裏から追い出したい声音であった。
実は、私は、ここのところ酷い不眠に悩まされていた。
理由は、皆さんもお察しの通りだ。
エドワードの変態メールが、原因である。
私が、眠りに落ちようとする度に、奴の粘っこいボイスがリフレインして、我が安息のひと時を、怖気とともに妨げるのだ。
こんな風に。
「やっと会えたね、アリシア。ずっと君を探していたんだ。まったく、僕を置いてどこに行っていたんだい? こんなにも待たせて、君にはお仕置きが必要だね……」
これは、長そうだな。
付き合ってられん。
私はバッサリと切り捨てた。
「私は、貴方に会いたいなどと、思ったことはありません」
「何を言うんだい、アリシア。そんなわけにはいかないだろう? 僕の妻にならないのに、王国を統治するなんて、できるわけがないじゃないか。王妃になって僕の子供を産むんだ、アリシア。そうすれば、……」
「貴方の妻になるのも、その先も、断じてお断りですわ」
エドワードはいやらしい笑みを浮かべた。
蛇のような顔というけれど、実は私は爬虫類が嫌いではない。
トカゲとか、ちょこちょこした動きが、可愛いとおもう。
だから奴の顔を汚い猿のような顔、と表現させていただこう。
お猿が好きな方、ごめんなさい。
「言うことを聞かないなら、無理やりにするしか無いかな」
それからエドワードは、腰元の短剣を引き抜いた。
力づくということだろう。
思い返してみても、この男と、会話が成立したことはなかった。
そして、事あるごとに、私に暴力を振るう機会を狙っていたように思う。
思えば、常に下卑た男だった。
奴の行いから、私は、それを再確認した思いである。
でも、その果物ナイフみたいな短剣じゃあ、私には刺さらないよ。
忠告してやる義理もないけどさ。
「アリシア様」
メアリが私の耳元で囁いた。
そして、彼女は、渡してくれる。
厚手の手袋(土木作業仕様)の利き手側を。
なんでこんなもの持ってるの、メアリ?
「どうぞ、これをお使い下さい」
それから、この頼りになる私の側付きは、バチンと片目をつぶってみせた。
私は盛大に眉をしかめた。
えぇー。
一応、言おう。
外歩きということで、今の私は、ちゃんと武装している。
剣だって、腰に佩いているのだ。
普通に、叩き切ればいいじゃない。
手袋越しとはいえ、直接触るのは、嫌なのだけど。
でも、メアリは、素敵な笑顔を貼り付けて、革製の無骨な手袋を、ぐいぐいと押し付けてくる。
振り返れば、残る三人の女たちも、皆、何かを期待するような目で、私の顔を見つめていた。
エリスがボソリと呟いた。
「これは、生ストレートですわ!」
なんだよそれぇ!
たしかに私は、この男との因縁に、ここで決着をつける心算であった。
だが、斃し方にまで、拘るつもりはなかったのだ。
周囲の女たちは、そんな私の思いを、そんたくしたりはしなかった。
彼女たちのリクエストは「生ストレート」。
あほか!
居酒屋の注文みたいじゃないか!
私は、エドワードを見た。
私の従者たちを見た。
みんな、キラキラした目で私を見ている。
私は、一つ大きなため息をついた。
もう、しょうがないなぁ。
ここで折れちゃうから、側仕え達が付け上がるのだろう。
自覚はある。
認識もしている。
でも私は言うことを聞いちゃうのだ。
とっても、押しに弱いから。
このあほな希望に応えるため、私は、メアリから手袋を受け取った。
ぐっと引っ張り込んで、突っ込んだ指をのばす。
革製の頑丈な手袋は、私の手に、ぴたりとフィットした。
絹のそれより、よっぽど馴染むのが、ちょっと悲しい。
そして、私は大きく一歩踏み出した。
エドワードは、短剣を見せびらかすように振り回しながら、近づいてきた。
これで、女性を脅したこともあるのだろう。
場末のチンピラとやってることが変わらない。
「さあ、言うことを聞くんだアリシア。僕と結婚しよう!」
「いいえ、お断りさせてもらいますわッ!」
私は、突進した。
彼我の距離はおよそ二十歩ほどだ。
一歩、二歩。
私は、地面を蹴り出し加速する。
エドワードの顔が急速に接近する。
奴の反応は鈍いままだ。
戦争をしていたと言うのに、鍛えもしなかったのだろう。
反撃も回避もしようとしない。
馬鹿め。
私は、一直線に肉薄し、奴の顔の正中線、鼻の頭を撃ち抜くように、右の拳を叩き込んだ。
「アリスゥァァァァッ!」
グシャァ!
私の名前を言い切る前に、私の右ストレートが、エドワードの顔面ど真ん中に着弾する。
鼻を陥没させる勢いで、私は拳を振り抜いた。
手袋ごしの手応えが、少しだけ懐かしい。
そういえば、あの時は、手を洗う暇なんて無かったな。
ばっちい。
シュッという短い息が、わたしの食いしばった口元から漏れた。
この男は、性犯罪の常習犯であった。
十年以上に渡って、私のことを付け狙い、私とメアリを苦しめてきた。
そして、故国を傾かせた、戦犯の一人でもあった。
その因縁に、私はこの拳で決着をつける。
私が叩き込んだ一撃は、間違いなく痛打であり、確実に奴の意識をかりとった。
吹き飛んでいくエドワードの姿を眺めながら、私は心のなかで慨嘆する。
やっぱり、この手で触るのは、ちょっと抵抗があったなぁ。
私は、持てる力の全てを叩き込むことが、できなかったのだ。
こう、返り血で汚れるのが嫌で、ぶち抜くというよりも、押し込む格好になってしまったのである。
奴の体は、浮き上がり、すごい勢いで吹っ飛んで、後ろにあった空樽を粉砕した。
ガシャーンと、景気良く樽の留め具がはじけ飛び、木片が盛大に飛散する。
エドワードは、大の字に両手を広げ、尻もちをついたみたいな格好のまま、動かなくなった。
確実に、戦闘不能にはしたはずだ。
私は対象の沈黙を見届けると、いそいそと手袋を外し、ペイっとそれを投げつける。
撃破完了。
ふー、と息をつく私。
その隣にメアリが並ぶ。
「アリシア様の勝利ですわ!」
勝利宣言だ。
メアリは大音声で叫びながら、私の右腕を高々と持ち上げた。
私は、得意げに勝利のガッツポーズを決める。
一瞬の沈黙。
それから、戦々恐々としながら見ていた人たちが、わっと歓声で応えてくれた。
第一ラウンド開始三秒、右ストレートからのワンパンK・Oだ。
それが、私とこの男との、因縁の決着であった。
間もなく、巡回の兵士が飛んできた。
事態に驚いた市民のだれかが、呼んできてくれたものらしい。
私は、この事態をどう処理したものかと、首をひねった。
樽につっこんでのびたままの、性犯罪者に視線を流す。
メアリが私に問いかける。
「あれをどうなさいますか、アリシア様? 」
「うーん」
あの男は、「元」とはいえ王族であった。
だから、奴の身分を明かしてしまうと、その死体は王家の墓所に葬られることになる。
はっきり言おう。
私は、この男を王家の墓に入れたくなかった。
だって、私が女王になったら、国事でお墓参りだってするのである。
もしかしたら父だって、入ることになるかもしれないのだ。
そんな墓所にこの男を入れてしまったら、一緒に嫌な出来事も思い出してしまう。
そんなのは嫌だ!
「できれば、このまま闇に葬りたいわ」
私は、願望を口に出した。
私の眉は、ひん曲がっていたはずだ。
こんな時に頼りになる女がいた。
ステイシーである。
にっこり糸目が頼もしい。
彼女はどんと、胸を叩いて、請け負っってくれた。
「でしたら、そのように手配いたしましょう」
「ほんとに!? 」
彼女は、兵士に経緯を説明してから、私服姿の部下を呼び集めた。
何処に潜んでいたのやら、男たちが数人集まってくる。
こそこそっと話しをする姿は、今夜の飲み会の相談をするかのような気安さだ。
でも、絶対物騒なことを話してるんだよ。
この人達。
一人が、話し合いの輪から抜け出すと、そそくさとエドワードに近づいて、ぽきっと首の骨をへし折った。
悪は滅びた。
エドワード、あっけない最期であった。
「後は、おまかせくださいませ」
「ありがとう、ステイシー! 」
そして、彼女に処理を一任した私は、その日の巡察を切り上げた。
業務終了である。
一応、襲撃を受けたわけだからね。
本営に戻った私が、巡察で、トラブルがあった告げたところ、皆、頑丈なアリシアのことであるのに、とても心配してくれた。
特にジークは非常に気にしてくれて、平気だったよと宥めるのに苦労したぐらいだ。
それから、彼はたくさん甘やかしてくれた。
この事件は、公式には、アリシアに恨みを持った暴漢の犯行として、処理されることになる。
その男は、アリシアに刃物で襲いかかったが、返り討ちにあったのだ。
犯人は、その場で処断され、遺体は刑場に葬られた。
暴漢の身元は、不明。
以上で一件落着であった。
私はジークにだけは、暴漢の正体を伝えておいた。
「俺は何も聞かなかった。そういうことにしておこうか」
アリシアが、したいようにすればいい。
なんでも俺に話す必要はないぞ。
そう言って、彼は笑ってくれた。
彼は、私達の秘密の共有者だ。
それとあと一人だけ、事件の真相についてお伝えした。
皇帝陛下である。
ステイシーがお義父様にだけは、報告を上げたのだ。
陛下からも、「よくあることだ。好きにしなさい」とお手紙を頂いた。
よくあること。
帝国はいろいろな国を併合してきた。
似たような秘密は、たくさんあるのだろう。
歴史の裏側を、ちょっとだけ垣間見た思いである。
もしかしたら、行方不明になった王太子が、どこかの創作劇では、大活躍したりするかもしれない。
そこでは、きっとアリシアは悪役で、奴か奴の子供に、かたきを討たれたりもするのだろう。
一国の興亡の裏側には、いろいろなドラマが潜んでいるのだろうなぁ。
私は、大河のロマンに、思いを馳せたのだった。
いや、ちょっと雄大な歴史に浸りたい気分だったのだ。
奴を殴った感触を、できるだけ早めに忘れたかったから。
私アリシアは、ゴキブリだって素手で退治できる女だが、エドワードは、それ以上にきつかった。
忘れろー忘れろー。
不快な感触を拭い去るべく、わたしは就寝前に、ジークのほっぺたをむにむにしておいた。
念入りにこねくり回した所、ジークもとっても喜んでくれた。
ジークはおかえしにと、私のおっぱいを触りたがった。
でも、今日はおあずけです。
また今度ね。
こうして、古い王国の負の遺産は、綺麗さっぱり片付いた。
これからは、私達の新しい治世が始まるのである。
アリシア「メインヒロイン、トラウマ克服からのパワーアップイベントだぞ」
◇◇◇
かつてのジークハルトの発言に、一箇所だけ、嘘が含まれることになりました。
整合性を取るために、アリシアに黙っていて貰おうかとも思ったのですが、彼女なら絶対に隠し事はしないだろうなぁと思いまして。
そちらは、そういうこととして、お話を進めていきたいと思います。
原案だと、王国の最後については詳しく触れず、全員ナレ死の予定だったんだよなぁ。




