表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
84/116

王都炎上と皇子

明日も更新があります。

きっかけは、暇を持て余した、諸侯たちの遊びだった。


「競射でもしてみませんか、ラベル殿」


「いいな。久々にやってみるか」


「おう、俺も忘れるなよ」


ウェルズリーのおっさんが、ランズデールのおっさんを誘い、バールモンドのおっさんがそれに乗っかった格好だ。

中年諸侯、三匹がゆく。

こいつら、本当に人生楽しんでいるな。


彼らは、競射と言った。

競射とは、弓矢でもって、的への的中率を競う遊びである。

本来は競技用の的を使うのであるが、武闘派であるこの男たちはもっと手頃なものを狙うことにした。


「折角だ。敵兵どもに、投降を勧めてみようじゃないか」


そう言って、彼らが用意したのは矢文であった。

それぞれ、内壁近くの高台に陣 取って、矢文を結わえた百の矢を、敵陣の適当な場所に打ち込むのだ。

文は、各々、準備したらしい。


その文面は、投降を促すよりも、むしろ敵の内紛を煽るものであった。


曰く、次の決戦は、国王と騎士団長が命惜しさに企まれたものである。

曰く、国王と騎士団長が居なくなれば、もう戦う必要はない。

曰く、連合軍と戦えば、間違いなく、殲滅される。

曰く、連合軍に投降すれば、命は保障される。

曰く、王族、貴族共に従い続けたところで、犬死であるぞ。


彼らは、狐狩りをするような気安さで、敵陣営の切り崩しを相談していた。


「壁超えなら一点、窓を抜いたら五点、人に当てたら百点減点だ」


「人に当てるなというが、万が一、騎士団長あたりを射抜いたらどうするのだ?


「それはもう、殿堂入りでよかろうよ」


しかし、騎士団長の顔などわかるのか? 

馬鹿を言え。

俺があの男を見誤るわけがないだろう。

それもそうだな、はっはっは。


愉快そうに笑いあった男たちは、優雅で野蛮な遊びに興じた。

城壁近くの建物の屋根の上に、簡易な櫓まで立てさせる熱心ぶりで、散々に敵陣地へ矢を射掛けたのだ。


時として向こうからも撃ち返されたらしいが、「あたるものかよ」と言って、彼らは憚らない。

現実問題として、ろくに訓練もしていない敵の矢は、櫓まで届きもしなかった。


大変に楽しそうであった。

今だから言うが、俺も参加したかった。

貴様ら、誘えよ。


彼らは、最初、日が高く明るいうちにその腕を競っていた。

だが、そのうち暗くなってからも、松明の明かりを頼りに、矢を射掛けるようになる。

敵陣には、とうとう灯火管制が敷かれることになったそうだ。

この中年共に睨まれると、明かりすら焚けなくなるのだ。

夜はさぞ、心細かったことだろう。


何日間か、彼らは、その腕を競い合った。

最終的な順位は、ウェルズリー候、ランズデール公、バールモンド伯となったようだ。


僅差で負けたラベルが、しきりに悔しがっていた。

ウェルズリー候は得意げだ。


そして残る一人は、娘のアデルに、惨敗した不甲斐なさを、叱られていた。


用いる矢文は、最初は、自分たちで用意していたようだが、そのうちに面倒になったらしい。

手間を惜しんだ彼らは、食料の配給に並ぶ王都市民に、代筆をさせるようになった。


市民からしてみれば、権力者相手に悪口を言える、またとない機会である。

彼らは、こぞってペンを取り、現王家や貴族達への鬱憤を込めて、好き放題に書き立てた。


また代筆の報酬として、ペンを取った市民らには、パンやら野菜やらが、追加で支給された。

これも大変に喜ばれた。

特に、大農場主ウェルズリーが、自領から取り寄せた、大ぶりのかぼちゃが人気であったようだ。


地場の産品が人気とあって、王都の人間には、堅い態度を取ることが多いウェルズリー候も、珍しく相好を崩していた。

時間をみつけて、手ずから配給にも参加したようだ。


「お髭のおじさん、その大きいのがいいわ!」

「はっはっは、いいですとも」

子供連れの要望に、愛想よく応える男の姿を見て、おれは目頭を押さえた。


馴染みの八百屋のような顔をしているが、その男、現役の侯爵だからな。


この三人の行いは、真面目とは言い難いものであった。

だが、困ったことに、皆、腕は確かで、その目論見も的確であった。

決戦に先んじて、敵陣に内応を誘う文が、嫌というほどばらまかれる。

毎日欠かさず、数百もの矢文が撃ち込まれるのだ。


やられる方はたまったものではないだろう。


特に王国の騎士団長は、この内容を見て激怒した。

角ばった顔を真っ赤に染めながら、部下たちに矢文を見つけ次第、焼き捨てるするように命を出す。


しかし、それを集めて捨てるのは兵士たちだ。

隠れて、文面を覗き見する者が、後を絶たなかった。

そして、その内容も、兵たちのよく知るところとなる。


王国の兵たちは、連合軍に皆殺しにされると脅されて、籠城に参加していた。

しかしこの欺瞞が暴かれる。

投降すれば許されるのだ。

王族や貴族が、自分たちの命惜しさに、彼ら兵士を死地に駆り出そうとしているという事実が、知られてしまった。


当然のことながら、忠誠心など持ちようがない。

日に日に、兵たちの不満は募り、彼らの我慢は臨界へと迫ろうとしていた。



王国軍内には、急速に不穏な空気が広がっていた。


しかし、我々、連合軍にも不満を溜めている人間がいた。


不肖の父を持つ、アデル・バールモンド辺境伯令嬢だ。

楽しく遊び回る中年達を尻目に、花盛りの彼女は、アリシアの補佐として、地味な仕事に精を出していた。

彼女とアリシアは、大変に真面目な性格で、滞ることなく業務を終わらせていく。


アリシアは楽しそうに。


そして、アデルは、胸に殺意を秘めながら。


「あのおっさん共、後でまとめて締めてやりますわ」


アデルが、目に剣呑な光をたたえて、拳を固める。

彼女は、ここのところ無休で働いているらしい。

俺は、アデルの背中から、荒ぶる殺意の胎動を感じた。


怒り心頭の友人に、アリシアは苦笑いだ。


「まぁまぁ。たまの息抜きなのですから。許してあげてくださいませ」


アリシアは優しい。

腕白な父親を、叱りつけたりもしないようだ。

俺が馬鹿をしても、許してくれそうな気配を感じる。

つくづく、いい嫁をもらったと思う。


ところで、ラベルは本当にアデルを嫁にもらうのか?

そうなれば、間違いなく尻に敷かれそうだ。

ラベルは大変であるな。


そして、アデルは俺の義母になるわけだ。

俺も大変そうであるな!


決戦に先んじて、諸侯三人組は、大いに敵の不和を煽った。

彼らは、櫓の上から眺望して、敵陣にきな臭いものを感じていたようだ。


そして、決戦前夜。


諸侯たちは、持ち前の戦場勘に従って兵を集め、旧市街近くに布陣した。

総兵力は、全員合わせて二千ほどだ。

軍旗まで持ち出し、暗所でも敵味方の区別がつくようにと、兵達の腕には、明るい色の布を巻かせていた。


容易周到すぎる。

最初から、狙っていたとしか思えない。


そして奴らの予想、というか期待通りの事態が発生する。

敵が篭もる旧市街、その東側で、火の手が上がったのだ。


瞬く間に、炎は大きくなった。

石造りの王都では、まずありえない事態だ。

おそらく、失火ではなく放火、しかも可燃物を、周囲に積んでおいたのだろう。


天を焦がさんばかりの勢いで、街を焼く炎は燃え広がった。

火災とそこから立ち上る黒煙は、王都の外からも見えたそうだ。


にわかに起こった騒ぎを遠目で見つつ、バークモンド伯が口を開く。


「火の手は東からか。何だと思う? 」


「陽動だろうな。脱走兵が火を放ったのだろう。おそらく西門が開くはずだ」


三人は、その予測に従って、西門に布陣。

間もなく王国兵の一団が、内壁の城門を開け放ち、逃げ出してきた。


予想通りである。

一分の隙もない布陣で、諸侯の軍は脱走兵達を出迎えた。


脱走兵達は、目の前に展開する、完全武装の兵団に立ちすくむ。

そこへ、ラベルが一歩進み出て、重々しく口を開いた。


「我々は、連合軍だ。卿らはなにものであるか」


「我々は、王国兵です。投降します!」


脱走兵たちの顔に浮かんだのは、紛れもない喜色であった。

安堵の表情を浮かべ、喜び勇んで駆け寄ってくる。


良かった! 俺達は助かった!

ラベルの名乗りを聞いた兵士たちは、諸手を挙げて降伏した。


ラベルは、一時期ではあるが、王国軍に籍を置いていた。

公明正大で、時として融通も効かせてくれる、彼のやりようは、特に、古参の兵たちには信用があったのだ。


王国兵達は、自ら進んで手に縄をかけ、自発的に点呼した後、誰に言われるともなく隊列を作った。

そして、厳格な統制のもと捕虜となった。


王国兵達からは、プロ意識が感じられた。

奴らは、プロの投降兵であった。


何事も極めた一芸というものは美しいものだ。

だが、帝国軍に、そんな兵は要らんぞ。


脱走兵たちを代表して、下士官と思しき男が、口を開く。


「我々は、今後どのようにすべきでありましょうか。後送されるのであれば、捕虜の収容場所について、お伺いしたく思います」


「後送するが、場所については、案内の兵をつける。暴れるなよ」


「無論であります。我々はおとなしくしております」


こうして王国の兵士たちは、意気揚々と、捕虜収容所に旅立っていく。

彼らの足取りは、弾むように軽かった。


「今後もこの調子が続くのか」


「多分な」


諸侯達は、憮然とした表情を見合わせた。

敵兵は、戦意もへったくれもない有様であったからだ。


おそらく俺でも、同じ顔をするだろう。

こいつらやる気あるのか、と。


もっとも、諸侯たちにも安堵はあったはずだ。

無用の流血は避けるに越したことはない。


「城門を制圧する。続け。焦るなよ」


ラベルの号令に従って、諸侯の軍が無人となった内壁の西門を制圧する。

城門の詰め所はもぬけの殻で、西門の指揮官と思しき甲冑姿の男と、何人かの人間が、死体になって、転がっているだけだった。


これと言った抵抗もなく、諸侯達は、城門の制圧を完了する。


その後、ラベル達は、俺がいる本営に伝令を出した。


「我、内壁を突破せり。敵影は無し。追加の指示を請う」


こうして、我々連合軍は、戦闘らしい戦闘もなく、敵の最後の防壁を突破することに成功した。

後から振り返ってみても、本当に、これは戦争だったのかと、疑いたくなるような容易さであった。



その当時、俺は、寝台の上で安らかに眠っていた。

いや、俺達は、翌日に決戦を控えているのだ。

戦いに備え、休養をとるのは、当然のことだろう。


事態を予期していたアリシアに起こされるまで、俺は、寝台の上にひっくり返っていたのである。


俺は、不良中年共のいたずらのせいで、深夜の火消しに駆り出されることになった。

俺を叩き起こしたのがアリシアでなければ、間違いなく機嫌を損ねていたことだろう。


ウェルズリー「おーいラベルー!夜襲しようぜー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動強襲型令嬢アリシア物語 発売中です
一巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B0775KFGLK/
二巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B077S1DPLV/
三巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B078MSL5MY/
是非、お手にとって頂けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ