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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
78/116

戦後処理とわたし

勝敗は、戦う前から決まっている。

今回の戦いは、正にこの言葉を証明するものであっただろう。


私達、連合軍が直接手を下したのは、弩弓による二回の斉射だけだ。

だが、弓ではなく、単純な力攻めを用いたとしても、間違いなく私達は勝利しただろう。

それぐらい、一方的な戦いであった。


彼ら王国軍の苦境をつくったのは、王国が選んだ指揮官だ。

私たちは、敵の立場でありながら、無能な指揮官が、どれほどの害悪となるのかを、嫌というほどに、思い知らされた。


臣民は王様を選べないし、兵卒も指揮官を選べない。

今まで私は、苦労する側であったのだけど、今度は上に立つことになる。

気をつけないといけない。


あと、王国の歴史書には、きっちりこの戦いのことは記録したいと思う。

後世の人達にとって、良い教訓となってくれるだろう。


「アランは、歴史に名前を残したがっていました。きっと、彼も本望でしょう」


アデルの言葉だ。


わずか一週間で、麾下の兵団五千を自滅させるなど、並大抵の愚行ではない。

アランは、王国と帝国の戦史に、最悪の将帥として名を残すであろうこと、疑いなかった。


名前を残すという意味であれば、間違いなく長く残るだろう。

少なくとも帝国軍が続く限り、彼の名は不滅だ。


私なら、そんな名前の残し方、絶対イヤだけどね。


「王国とは不思議な国だな。アリシアのような名将を生みながら、アランのような低能も将軍になれるのだから。まったくもって謎の多い国だ」


ジークの評は苦笑交じりだ。

帝国出身の皆さんからも、つられて笑い声が上がる。


でも、褒めてもらって恐縮なのだけれど、あれと一緒に並べられるのは気分が良くない。

やめておくれ、ジーク。


アランはまさしく愚将であった。


戦闘が終わり、連合軍の主要な将帥が集まった。


集まるのに先んじて、私たちは、王国兵の救護を指示していた。

愚将アランの失策で、遺された王国兵達は、みなひどい有様であった。


即時、武装解除をさせた上、急ぎ衛生兵を向かわせて、飲料水と塩を支給する。

兵達の多くは、動くことさえ難しい。


天幕で日陰を作り、兵たちをその下に退避させる。

しばらく彼らは休憩である。


そして、私たちは、論功行賞と、投降した王国兵の処遇について話し合いをすることになったのだ。


私が、いの一番にやり玉にあげたのは、我が軍の司令官による、問題行動であった。


問題行動とは、総司令官、ジークハルトの一騎打ちのことである。


一騎打ちだ。

馬鹿じゃ無いかと思う。


一応言うよ。


あのジークの一騎打ちだけど、私は、戦場につくまで、一切なにも知らされてなかったからね。

最初は、弩での攻撃後に、もう一度、降伏勧告をする予定だった。

負けを悟った王国軍は、士気が保たずに、動けなくなると予想していたのだ。

実際、彼らは動けなくなっていた。


なのに直前になって、ジークが一騎打ちするなどと言い出したのだ。

より確実に、素早く戦闘を終わらせるための作戦であるそうだ。

その分析は、間違いではない。

でもリスクと比べると、どう考えても釣り合わないのだ。


ジークは政治もできる男だ。

つまり根回しが上手だ。

自分の味方になりそうな、アデルやランズデール騎兵隊の将校に、彼は予め話をつけていた。


一方の私は、絶対に反対するとみなされて、蚊帳の外である。

で、直前になって作戦計画の変更が発表された。

私をはじめ一部の人間は、当然のごとく反対する。

けれど、数と勢いで押し込まれてしまった。


これが自分のことなら、私は元帥として拒否権を発動できる。

でも、ジークのこととなると、翻意してもらうしか無い。


ジークは頑固で、私の言うことを聞いてくれなかった。


もう、ね。

なんて言って良いのかよくわからないよ。

ねぇ、馬鹿なの? 実は、馬鹿でしょ、ジーク?

私の心配をよそに、無事、一騎打ちは終了した。

私は常に状況を監視の上、必要があればアランを射殺するつもりで、準備をしていた。

幸い出番はやってこなった。


だが、無謀な行いであることに違いはない。


婚約者の私は、腹が立つこと山のごとしだ。

おへそが出っ張っちゃう。


だから、私は、話し合い開始から、ジークの顔をじーーーーーっと睨んでいるのである。

ジークの近衛騎士のクレメンスさんも味方だ。


私達二人からの無言の抗議を受けて、ジークは最初、素知らぬ振りをしていたけれど、最後には折れた。


「……正直、すみませんでした」


「もーっ」


そして、私はでっかいため息を吐いた。


ジークは、腰が軽すぎるのだ。

立場をちゃんと考えて欲しい!

私が心配するのは当然であった。


ここで、彼、ジークハルトの立場を説明しておこう。


なんと、彼は帝国軍のトップなのだ。

帝国軍総勢五十万の中で、一番偉い人間なのである。


それは、もう、すんごい重鎮なのである。


一応名目上は、ジークの上にも一人だけ人がいる。

帝国軍の大元帥、皇帝陛下だ。


ただ、陛下は戦場に出たことがない。

故に、「戦争指導はジークハルトに任せる」と仰っておられるのだ。


帝国軍の階級において、実質的な最上位は大将だ。

慣例として、元帥は、退役時に与えられるか、あるいは皇室の人間にだけ与えられる名誉号だ。


その名誉職のはずの元帥号をもって、ブイブイいわせているのが、第一皇子ジークハルトなのである。


現在、現役の帝国軍人で元帥号所持者は、ジークハルトと私アリシアだけ。

そしてジークは私の先任だ。


繰り返しになるけれど、ジークは、名実ともに、帝国軍トップの男なのである。

彼は、帝国軍の最高司令官なのだ。


そんな超重要人物が、よりにもよって、こんなどうでもいい局地戦で、一騎打ち!

この話を聞いた時、私はもう、空いた口が塞がらなかった。


彼には、自分の立場をちゃんと理解してもらいたい。

そりゃ、私にかぎらず怒ろうというものである。


ん?

そういう、お前、アリシアも元帥のくせして先陣切って突撃するじゃないかって? そんなことない。

私は常に安全に配慮している。


私は、常に、魔力残量を気にしながら戦っているのだ。

だから体感で、残り魔力が七割を切ったら、回復のために休憩するようにしている。


アリシアは魔力が続く限り、体が傷つくことはないし、衝撃も全部吸収される。

故に、魔力切れまでは無敵なのである。


この点が、ジークとは違うのだ。


私は、どっちかと言えば、慎重な性格だ。

彼やメアリみたいな戦闘狂と、一緒にしないでもらいたい。


そうだなぁ。

この際だから、私のこともちょっとだけ説明させてもらおう。


私、アリシア・ランズデールもジークハルト殿下と同じ元帥だ。

実質的な帝国軍のNO.2である。


帝国人歴一年足らずの小娘には、どう考えても過分な地位だ。

普通に考えてありえない。

実は、私の元帥就任は、慣例の二十か三十ぐらいは、踏み潰してのものなのである。


王国でも私は元帥だった。

でも、帝国と比べると「元帥」の重みがぜんぜん違うのだ。


王国の「元帥」って○○将軍って意味だ。

王国軍の常設職は、大元帥、元帥、弩弓大将、提督があって、その下に、城主とか城代みたいな役職の人が続く。


王国では、元帥の重みが超軽いのである。

具体的に言うと、元帥が十人以上いる。


さっきやっつけたアランとかいう男も、おそらく元帥であるはずだ。

弓を使わないのに、弩弓大将ってことはあるまい。


要は、王国の元帥は、たいして偉くないのである。


帝国と王国で一緒なのは、名前だけだ。


それを、私が亡命した際に、ジークと東部方面軍のみなさんが運動して、無理やり私を帝国の元帥にしてしまったのである。

特に東部方面軍司令官の、ルーデンドルフ大将が大暴れしたらしい。


「あのランズデール元帥の頭上で、指揮を振るうなどご勘弁願いたい」


多少の物議を醸した物の、皇帝陛下とジークハルト元帥のやり取りが決め手となった。


「アリシア・ランズデールという将軍は強いのか? 」


「間違いなく史上最強の将帥です。陛下」


こうして、私は帝国軍で、とってもえらいはずの元帥におさまったのである。



じー。


私、アリシア・ランズデール元帥は、ジークハルト・レインザー・ミュンテフェーリング元帥を睨んでいた。


ジークは偉い。

とても偉い。

そんなジークを諌めるのは、次に偉い立場にいる私の役目であろう。


私は威厳ある態度で彼をたしなめる。


「以後このような事があった場合、私は抗命罪覚悟でお止めしますからね。そのつもりでいてくださいませ」


ギロリ。


「はい……」


睨まれて、ジークは素直に頷いた。

でも、顔だけ反省して見せただけのような気がしないでもない。

まだ私は、信用していない。


ジークの企みにのせられたバカどもにも、忘れずに雷を落としておこうか。


ジークにあっさり懐柔されたランズデール騎兵隊の連中は、出撃のローテーションを二回休みだ。

戻ったらきっちりしごき直してやる。


帝国兵の皆さんは「俺たち関係ないっすー」みたいな顔をしていたので、救護活動や設営作業での賦役を課した。


彼らは、ぎゃーと叫んだ。

炎天下で、ちょっと反省しろ。


残るは、問題児のアデル・バールモンド辺境伯令嬢だ。

彼女は、ここぞとばかりに可愛い女の子モードを発動。

完璧な令嬢ムーブで媚を売ってきた。


私は、にっこり微笑んでから、彼女の頭に拳骨を落とす。


ご褒美である。


私の鉄拳制裁を受けたアデルは、「おぉぉぉぉぉ……」とか言いながら、たんこぶのできた頭を抱えてうずくまっていた。

君も、ちょっと反省してなさい。


最後はジークだ。


彼には、特別にしんどいお仕置きを考えておいた。

覚悟しておけ。



我らが連合軍の、不良将校共に対するお仕置きは完了した。


次は王国兵達の処遇である。

話し合いの結果、私たちは、投降した王国兵達を正規の捕虜として扱うことに決めた。


彼らの中には、王国内での略奪に参加した者たちもいるだろう。

当然、軍規に照らし合わせれば、有罪である。

だが、彼ら兵士たちは、命令があれば、従うしか無い立場の者たちでもあった。


「この惨状を見れば、さらに罰を与える気にはなれませんわ。どうか寛大な処遇を」


アデルは、いつもの無表情な仮面の下に、沈痛なものを滲ませていた。

辺境に住まう人間からすれば、王都の兵士など、恨みこそあれ、同情する余地などない。

アデルはその代表格だ。


だが王国兵達の窮状は、そんな彼女でさえも、憐憫を禁じ得ないほどのものであった。


アデルは黙っていれば、とても気品がある。

頭に、でかいたんこぶが無かったならば、今の彼女から、威厳とか、高貴なサムシングを感じることができたはずだ。


勿体無いなぁ。

私は、とても残念に思う。

私の周りは、黙っていれば綺麗なのに、行動や発言で台無しにしてしまう子ばかり集まってくる。

本当に、どうしてこうなった。

私は、内心、彼女たちの残念女子ぶりを、惜しむ事しきりであった

王国兵には、その手当なども含め、交戦規定に準拠した待遇が与えられた。


だが、例外がいた。

督戦隊の人間だ。

自軍の兵を、後ろから切りつけ、無理やり戦わせていた者たちである。

督戦などという任務は、残酷で、また、極めて楽な仕事であった。


確認の結果、彼ら督戦隊の人間は、全員アランの腰巾着であったことが判明する。

アランは、身分ぐらいしか取り柄がない男だ。

「血の高貴さこそが至上の価値である」として、家柄が良い人間を、優遇していたのである。


故に、督戦隊のほとんどが、王国では、それなりの身分の者たちであった。

自分たちの権勢と、アランの権威を笠に着て、彼らは王都で、威張り散らしていたのだろう。

私達が、一兵卒にまで、丁重な扱いを約束したことで、督戦隊の者たちも、普段の態度を思い出したようだった。


私は、督戦隊に所属していた男たちを、一箇所に集めておいた。

全部で百人ぐらいだろうか。

恰好からすると、指揮官の立場の人間であるようにも見受けられた。


彼らの感覚としては、督戦というより、下賤の兵士たちを、指揮したつもりであったのかもしれない。


得戦隊の人間達の元へ足を運ぶ。

一人が、私の姿に目を留めて手をあげた。

一際、豪華な装備に身を包んだ、金髪の男だ。


督戦隊でも高い地位にいたのだろう。

男は、居丈高に要求した。


「兵どもと同じ扱いは御免こうむる。身分あるものとして、相応の待遇を用意して頂きたい! 」


そして、この男の、自慢げな長広舌が始まった。


私はよく知らないが、彼の実家は伯爵家で、彼は嫡男であるそうだ。

王家とも親戚であるらしい。

家格や、伝統や、自分のコネについて、彼は滔々と語ってくれた。

男の口元には得意げな笑みがあった。


ふーん。


通常の戦争であれば、彼は、身代金のために厚遇してもらえる立場である。

ゆえに王国貴族の常識に照らし合わせれば、そうずれた要求ではなかったのだろう。


でも、私達は、王国とは違うんだけどな。


「そうね。そうさせてもらうわ」


私は、彼の要求通り、彼に相応の待遇を与えてやることにした。


騎兵隊の人間に指示を出すと、後ろに控える男たちから、三人が進み出る。

そして一人が、鞘ごと抜いた剣で男を殴り倒し、残りの男たちが力づくで組み伏せた。


「な、なにをする貴様ら! 」


貴族の男は、四つん這いにさせられて、狼狽えたように叫ぶ。

その男の頭部に打撃を加え、大人しくさせてから、私は、首を落とさせた。

頭部を無くした体から、鮮血が吹き出す。


残りの督戦隊員達は、みるみる血の気を失せさせた。


まだ、お前らの血は残っているだろうに、不思議な事だ。


「あなた達、味方を後ろから殺したでしょう? 軍規違反だから全員斬首よ。これが私達の用意できる相応の待遇なのだけれど、それでもよろしい? 」


当然である。

交戦規定を守るとはこういうことだ。


あと、ついでに言うなら身代金など交渉せずとも、こいつらの家は全部まとめてお取り潰しで、財産は没収だ。

ゆえに、私達は、こんな下衆共のご機嫌を伺う必要はないのである。


想像力が足りないのも困りものだね。


「それで、全員が同じ待遇をご希望なのかしら」


私は、それでもかまわないけれど。


私が一瞥をくれれば、残りの男たちは、震え上がった。

口々に言い訳を並べ立てる。


「私はアランに命じられただけなのです! 」


機転が回る男もいて、ちょっと前までの自分の主に、罪をなすりつけていた。


へぇ、随分と安い忠誠ね。


私の不機嫌に、周囲の温度が低下する。

後に、私の傍に控えていた騎兵隊員からは、多少は快適になって良かったと、教えられた。


私も氷の魔法が使えたのか。

知らなかったな。


督戦隊の連中は、戦闘中も後ろでふんぞり返っているだけだった。

体力も有り余っていることだろう。


私は、この男たちに、労働の喜びを教えてやることにした。

七日間に渡って、兵たちをこき使ってきたのだ。

同じ期間を働かされたとして、文句を言うことはできないはずだ。


「なら、誠意を見せてちょうだい。まずは墓穴掘りよ。作業が終わるまでは休みもなし」


男たちが、悲嘆と絶望の表情を浮かべながら、何事か叫ぶ。

お許しをとかなんとか、言っているようだ。


だが、今更、慈悲など請われても困るのだ。

何しろ私たちは、今さっき、こいつらより万倍ましな王国兵を、殺してきたばかりなのだから。


「水だけは与えてやりなさい。怠けるようなら始末してくれて構わないわ」


「承知しました。それで、最後はどうします? 」


「使えるようなら、使える間は生かすつもりよ」


「どうします? 」とは、作業が終わってから、殺すかどうかの確認だ。

働き次第というのが、私の回答になる。

労働力になるなら、使ったほうが良い。

そうでないなら規定通りだ。


全員に鎧を脱がせ、戦死者を埋めるための穴を掘らせる。

のろのろと動く男達の見せしめに、最後尾の一人を捕まえて、首をはねさせた。


全員が血相を変えて動き出す。


「あぁ、アランの鎧も剥かせておいて。あれは良いものなのでしょう? こちらで有効に使います」


これで、裁かれる者たちについても、処断が終わった。

後は、王国兵の体力が回復するのを待って、彼らを後方に送るだけだ。

私は、督戦隊の人間たちを処分した。

軍規に照らして対処したのだが、それでも甘いとみなされたようだ。


王国兵達の目の奥に込められた殺意は、私達の比ではなかった。


これも仕方がないことであった。

自分たちを死地に追いやりながら、戦闘中、督戦隊の人間たちは、最後まで後ろの安全地帯にいたのである。

事実、督戦隊の戦死者は、一人もいない。


兵たちは、皆殺しにしてやりたいと思っているはずだ。


「鬱憤ばらしに、石打ちにでもさせればよかったのに」


一部始終を見ていたアデルの言葉であった。


忠誠もうなぎのぼりになるでしょう。


アデルは、いつでも物騒でまっすぐだ。

良いものを大切にし、悪いものは許さない。


私は苦笑する。

私が処断をしなかったのは、下衆共を哀れんだわけではなく、王国兵のためであった。

暴力に頼った対処は、心を荒まさせる。

そして心が荒んでしまうと、平和になったとき、兵士たちが、社会に復帰するのが難しいのだ。


信賞必罰の観点から、戦争犯罪者には、きちんと罰を与えたけれど、必要以上に残虐な扱いをするのは気が進まなかった。


程度の問題かもしれないが、これが私のやり方である。


なお督戦隊の男たちは、ろくに仕事ができなかったため、不要と断じられて全員が斬首された。

その事を、王国兵全員に知らせた所、彼らはようやく納得してくれた。



おおよその後始末を終えてから、私たちは、戦死者たちを埋葬した。

荷駄を取り壊して簡素な墓標を作り、弔いの言葉を述べてから、彼らの冥福に祈りを捧げる。


それで終わりであった。


なお、アランを含む犯罪者達は、別の場所に積んで放置してある。

戦場で戦い抜いた人たちと、一緒に弔ってやる訳にはいかないからね。


彼らの方には、上から草の種を蒔いた。


土質改良用の多年草だ。

土壌の汚染にも強いやつで、わっさりと葉が茂るはずだ。


「まぁ分解されるだろう。疫病を防げるのは助かる」


ジークの言葉であった。


「終わったな」


ジークが言う。


「まだですよ」


私が答える。


ジークは、訝しげな表情だ。


うん、まだだよ。

まだ、一騎打ちなんて馬鹿やった、ジークへのお仕置きが済んでいない。


「『あれ』を持ってきてちょうだい」


私は端的に命じた。

口の端を釣り上げる。

私の口元は、大きな三日月型の弧を描く。


「何をする気だ? 」


禍々しい私の雰囲気に、ジークが警戒の色を強くした。


悪いことをするわけではないわ。

みんなのためになることよ。


そして騎兵隊の男たちが、金属の固まりを運び込んだ。

金属塊の正体は、魔法が込められた全身鎧である。


豪華な飾りがつけられた、愚将アランの鎧であった。


「ジークって、アランと同じぐらいの体格だったわよね」


私の意図を悟ったジークが、顔を青くする。


気づいたかな? でも、だめだよ。

やんちゃ坊主には、お仕置きです。


「ジーク。領都に帰還するまで、これを着ていって下さいませ」


「いや、ちょっと待て、アリシア。流石にそれは厳しすぎるだろ。勘弁してくれ! 」


「いいえ、許しません!」


私は、無慈悲に言い切った。

ジークの後ろでは、クレメンスとクラリッサが満面の笑みを浮かべている。

後に聞いたところによると、私も負けないくらいのいい笑顔だったそうだ。


さもありなん、である。


アランの着ていた鎧は、特別性だ。


魔法で強化されて、とても頑丈。

しかも温度調整までできる代物らしい。

王家の家宝になってもおかしくない、逸品であった。


唯一の問題点は、あのアランが着ていたことだ。

愚将アランの装備品となると、商品価値が無くなってしまう。


では、どうするか。


私知ってるよ。

曰く付きの物件を売リ出すときには、新しい利用者で上書きすれば良いんだよ。


つまり、鎧の価値を取り戻すには、アラン以上の評判がある人間に、身につけてもらえばよいのである。

例えば、一騎打ちで大活躍したジークハルト様とかね。


帝国の第一皇子が、凱旋時に纏ったとなれば、この鎧の悪評も消えるだろう。


そのうえ、ジークへのお仕置きにもなる。

まさに一石二鳥の作戦だ。


私は指をパチンと鳴らす。

合図を受けて、屈強な男たちが、ジークの周りを取り囲む。


さぁ、わが完璧なる策の前に、ひれ伏すが良い!


「おい、ちょっと待て、なんだ、貴様ら。まさか裏切ったのか! 」


「さぁ、お着替えの時間ですよ、ジーク!」


私は、お義母さまみたいな優しい笑顔で、ジークに言った。


つい先だっての裏切りで、アリシアからの報復を恐れた騎兵隊員は、私の忠実な下僕と化していた。

幹部の皆も根回し済みだ。


そして、ジークの護衛騎士であるクレメンスは、今回の企みの共犯者である。


故に、ジークの味方は、一人もいない。


男たちに、取り押さえられ、鎧を剥かれて、ジークの眼からは光が消える。

その彼に、益荒男たちが群がって、がちゃがちゃ鎧を組み立てた。


彼らはとても手際が良い。

あっという間に出来上がりだ。


仕事を終えて、着付け人達がはけていく。

その場には、棒のように立ち尽くす、完全武装のジークが、一人、ぽつねんと取り残されていた。

彼の表情は、犬面の鉄兜のせいで窺えない。

彼の雰囲気は煤けていた。


でも、婚約者アリシアの愛のムチである。

きっと喜んでくれているのだろう。


ふふん。


ジークの目の前で、私は肩をそびやかす。


これに反省したら、金輪際、一騎打ちなどしてはなりませんよ!

アデル「いたぁい!」

ジークハルト「くさぁい!」

アリシア「反省しろバカども」

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