お祭り準備とわたし
私達が帰還したランズデールでは、お祭りの準備が進んでいた。
アリシアの帰還と、アリシアの婚約と、ジークハルトの歓迎と、戦争の勝利の前祝いと、その他もろもろひっくるめてのお祭りである。
もはや、主賓がだれだか、さっぱり分からないが、とにかく名目さえあれば、盛大に大騒ぎするのが田舎の人間の特徴だ。
なにしろ滅多にイベントが無いのである。
仕方ないね。
ランズデールは辺鄙な田舎だ。
故に上と下との距離が近い。
当然のごとく、当主の次に偉いはずの私も、設営準備に引っ張り出されることになった。
「私たちも、お客様扱いとはいかないのですね」
「アリシア様と私の地元ですし、なにより、今は、人手が足りませんから」
苦笑するエリスに、メアリが笑って答える。
準備も、お祭りみたいなものである。
だから私は、そんなに嫌ではない。
そして、私と私の側近達は、自分達の帰還祝いの、お手伝いをすることになったのである。
なお、父に手荒く歓迎されたジークは、まだ疲れてぼろぼろだったので、部屋に置いてきた。
まだ動けないとか相当である。
私達は、持ってきた侍女服に着替えて、設営に駆け回る、おばちゃん達のところへ向かう。
現場を取り仕切るおばちゃんは、私達の恰好を一目見るなり、ダメ出しをした。
「そんなきれいな服、汚すわけにゃいかないよ。これ貸してやるから、着替えてきな! 」
「えぇ……」
ボロい古着を押し付けられた皆は、二度目の着替えのために舞い戻った。
渡された古着は、スポンと着るタイプの粗末なワンピースだ。
女性は腰を紐で縛って調整するようになっている。
大変シンプルな作りの服である。
あと、何とは言わないが、これを着ると、体の一部の格差がとても目立つ。
メアリは、この服を着慣れている。
懐かしい感じだった。
私たちの中で、一人、不満な顔をしている子がいた。
クラリッサだ。
「この手のぼろ服、昔を思い出して嫌なんですけど」
昔着ていたという言葉通り、彼女には、たしかにボロがよく似合った。
そこはかとなく漂う薄幸そうな雰囲気が、クラリッサ可憐さを引き立てて、ちょっと心配になるくらい魅力的だ。
物語に出てくる貧しいヒロインみたい。
逆に、全く似合っていなかったのが、エリスである。
「初めて着る服ですけれど、こういうのも、ちょっと楽しいですわ」
そう言って、笑うエリスの姿は、どこからどう見ても、仮装した良家のお嬢様であった。
エリスは、地の雰囲気が華やかすぎて、服のみすぼらしさが浮いていた。
お嬢様オーラって実在するんだな。
生まれて初めて、私はそのことを実感した。
私もぼろ服を着たことは、あるのだけれど、その時は普通に似合ってたよ。
そして最後にステイシーだ。
彼女も古着に袖を通したのであるが、すぐに騎士服に着替えなおすことになった。
なにしろ、似合うとか似合わないとかいうレベルじゃないぐらい、似合わなかったからだ。
原因はよくわからない。
ステイシーと、粗末で女の子らしい作業着が、概念レベルで反発をおこしたのだ。
そんなに、女の子的な小間使いの仕事が嫌なのか。
とにかく、ステイシーに、作業着を着させられないことだけは、確かだった。
ぺいっと服を脱ぎ捨てた彼女を、私達四人は、呆れたような、でもちょっと安心したような目で眺めていた。
今日も安定のステイシーであった。
準備は完了だ。
メアリ、クラリッサ、エリスはお料理を、私とステイシーは、男どもに混じって狩りを担当することになった。
妥当な役割分担であるな。
「それじゃあ、始めるわよ!」
私が号令をかければ、みんなは、「おー」と、やる気があるんだか無いんだか、よくわからない返事で応えてくれた。
お料理三人組は、作業に取り掛かった。
振る舞うのは、帝国料理だ。
折角の機会なので、文化交流と洒落込むつもりらしい。
ランズデールの郷土料理は、素材の味を活かしたシンプルなものが多い。
調味料はもっぱら塩のみ、これに煮込んだお肉やお野菜の旨みを効かせたり、ハーブなどで香りを付けたりして頂く。
なんだか、美味しそうに聞こえるけれど、実際美味しい。
私は実家のご飯が好きなのだ。
素朴だけれど、旨みをギュッと詰めこんだ地元の料理は、私にとって故郷の味である。
「帝国出身者としては、負けられませんね」
令嬢エリスが闘志を燃やした。
文化大国である帝国の人間として、負ける訳にはいかないのだろう。
彼女は、自分では手を動かさないが、味見をしたり、作業の監修をしたりするのに自信があると胸を張った。
なお、実家では、包丁などの刃物は、危ないからと、触らせてもらえなかったそうだ。
「指図するだけとか、根っからのお嬢様じゃねーか!」
クラリッサが突っ込む。
エリスは指図しかできない。
こうなると、実作業で手を動かせる人間が、二人しかいなくなってしまう。
当然、これでは手が足りない。
三人は、労働力の確保から着手した。
そして、彼女らは、あっというまに三十人ほどの作業員を確保した。
集まった日雇いバイト達の平均身長は、小柄なメアリよりも小さかった。
そう、彼女らは、ちょろちょろとお手伝いに走り回る子どもたちを、大量にかき集めたのである。
給料はお菓子であった。
砂糖なんて、領主の娘の私ですら、口にしたことが無い高級品だ。
エリスが大量に持ち込んだお菓子をばら撒けば、子どもたちは我も我もと群がった。
「甘い!」
「おいしい!」
言語中枢を砂糖にやられた人間は、甘いと美味しいしか言えなくなる。
私も経験がある。
あれは麻薬なのだ。
なめると幸せになれる白い粉である。
「手伝ってくれたら、おかわりをあげますよ」
クラリッサが宣言すれば、あとは入れ食いであった。
群がる群がる、まるで地獄の亡者のようだ。
まぁ無理もない。
「精神年齢がアリシア様と同じなのです。とてもやりやすかったですわ」
とは、メアリの言だ。
失礼な!
無礼な言われように私が反発したところ、「アリシア様ほど素直な子は、いませんでしたよ」とクラリッサがフォローしてくれた。
そうでしょう、そうでしょう。
ん、でもこれは、フォローになっているのかな?
まぁ、褒められているようだからいいか。
メアリとクラリッサが勧誘したせいか、お手伝いの募集に集まったのは、女の子が多かった。
男の子たちは、綺麗なお姉さん達を前にして、気後れしてしまったらしい。
私が勧誘すると、男の子もガンガン釣れるんだけど、それはなぜだろうか。
そして、帝国チームのパーティー料理、量産作戦が始まった。
「材料なら、うなるほど持ってきております。作りおきできるぐらい作ってしまいましょう!」
「帝国の、富貴と物量を教えて差し上げますわ!
」
帝国人二人の熱い演説に、お菓子に買収されたランズデールの子どもたちが、歓声でもって応える。
若い世代は売国奴ばかりだ。
ランズデールの未来は明るい。
お料理は、大量に作れる品目がチョイスされた。
その分、ちょっと手間がかかるが、味付けは、大雑把でも問題無いメニューである。
ハンバーグ、肉団子のスープ、そしていろんな種類のパイ。
屋敷の調理場を貸し切りにして、彼女たちは作業に取り掛かった。
豚と牛のお肉をミートチョッパーで滅多打ちにして挽肉に変え、芋やパン粉と練り合わせる。
ソースと合わせて煮込んでしまえば、おいしい煮込みハンバーグの出来上がりだ。
余ったお肉は肉団子に。
味付けには、帝国印の固形調味料を、これでもかと使っていた。
旨味が強い調味料だ。
小さい子は好きだと思う。
私も大好き。
少量の塊に野菜やお肉の旨みが凝縮されていて、ちょっとお高いけれどやみつきになる味である。
お次はパイだ。
パイは王国にもあるにはあるが、ランズデールのような田舎では、なかなか口には入らない。
油がお高いせいだ。
その点、帝国はすごい。
菜種の油を量産しているのだ。
ゆえに油を贅沢に仕える。
クラリッサの指揮のもと、ちびっこたちはパイ生地を必死にこね回し、肉、野菜、魚、そして果物のパイをどんどん作る。
そして、具だけ変えた生のパイが、次々とオーブンへ放り込まれた。
でも、アップルパイとミートパイの生地が同じなのだが、大丈夫なのであろうか。
質より量派のランズデール人相手なら、問題無さそうではある。
焼き加減の監視にも、子供たちがあたった。
ただ堪え性がない子がオーブンを開けたがって、年かさの女の子が必死にそれを止めていた。
やめろ、生焼けになるぞ。
そして、エリス監修、クラリッサ指揮のもと作業は、順調に進んだ。
余り物のメアリは、もっぱら力仕事の担当だ。
奴のパワーは段違いだ。
大振りな骨付き肉を、分厚い鉄の包丁で、骨ごとばらしていくメアリは、子どもたちから羨望と畏怖の眼差しをむけられていた。
「なかなかやるもんだね」
これは、お祭り設営の監督に当たっていた、自称メイド長(48歳)の評である。
私の侍女三人組は、地元のおばさま達を、うならせる働きぶりであったそうだ。
主人の私も鼻が高かった。
一方の私たち狩猟班は、屋敷からすぐの森に来ていた。
「本当に、お屋敷のすぐ近くに森があるのですね」
ステイシーは感心していた。
うちの屋敷には、庭園がない。
代わりに、この森がある。
だから、私にとってこの森は、我が家の庭みたいなものだった。
雑木林と言うには、ちょっと深くて、特に夜は怖い。
近くには小さい川も流れている。
川幅も深さもそこそこあって、夏の暑い日にはよく泳ぎに行ったものだ。
泳ぐ時はもちろん素っ裸である。
「アリシア様の水浴ですか……。
是非一度、見てみたかったですわ」
ステイシーは、素敵なオブラートで、私の蛮行を包んでくれた。
水浴。
こう聞くと、途端に響きが乙女になるな。
この手の優しさは、メアリにはないところだ。
私は、ステイシーのこういうところが大好きである。
平服に着替えて、待合場所に顔を出せば、猟犬を従えた男共が、私の到着を待っていた。
「お嬢、お待ちしてましたぜ!」
「ええ、頼むわよ!」
男達は気勢をあげ、可愛いわんちゃん達は、私を見て平伏する。
我がランズデールは、犬やら馬やらが沢山いる動物王国なのであるが、私に出会った動物たちは、何故か皆こんな感じである。
会えば、五秒で服従する。
もう慣れっこではあるのだけれど、ちょっとはじゃれつかれたりもしてみたい乙女心だ。
だって、こいつら、可愛い女の子には、尻尾を振りながら殺到するんだよ?
まったく、現金な奴らである。
私は、歴戦のおっさん達と、狩りの準備に取り掛かった。
勢子の装具を確認し、犬を割り振り獲物を探す。
このあたりの分担は、もう阿吽の呼吸である。
狙いはやっぱり大物だ。
害獣退治もかねて、私たちは猪に狙いを定めた。
猪は、とても強い生き物だ。
急所の頭部は、硬い頭蓋骨に守られて、鉄のやじりもはじいてしまう。
体躯は大きく強靭で、力だってとても強い。
本気の体当たりは、立ち木すらなぎ倒す破壊力だ。
猪突猛進と言われる所以である。
猪は体が大きい分、小回りが効かなそうに見えるが、それも違う。
意外に長い牙や、噛みつきも大変な脅威である。
迂闊に近づけば、ざっくりと、腕や脚を切り裂かれてしまう。
野生の猪は、人間と猟犬の綿密な連携のもと、総掛かりで相手取らねばならない強敵なのである。
以上が、一般的な話だ。
ところで、骨の硬さは、カルシウム系無機化合物に由来する。
たしかに硬いが、鋼鉄よりは脆くて弱い。
鉄のやじりは防げても、超高速で打ち出される鉄塊ならば、当然話は違うのだ。
そして私の手には鋼鉄製の投げやりがあった。
私が戦場で愛用している逸品だ。
実に良く、私の手に馴染む。
まぁ、あれだ。
私の投槍の腕は、狩りの中で磨いたのである。
猪の頭蓋骨と、フルプレートの防御力は、大凡、同程度であると、わたしは考えている。
猟が始まった。
まもなく一頭の猪が見つかり、追い込みが始まる。
森の中、声と音で連携を取りながら、狩人達は獲物を追い詰めていく。
遠く聞こえる、猟犬の吠え声が勇ましい。
私の前だと涙目で、きゅーんとか言ってるくせに、やる時はやるわんころ共だ。
森の縁で待ち構える私の元に、たくさんの人間と、大きな獣の気配が近づいてくる。
そして、追い立てられた猪が私の目の前に飛び出した。
その獲物は、鉢合わせ気味に投じられた私の投げやりを、頭に受けて、どう、と倒れ込んだ。
短く鋭いなき声をあげるも、すぐにそのまま動かなくなる。
猪はまもなく息絶えた。
野生動物にも不意打ちは成立するのだ。
私が狙うのは眉間。
もっとも頭蓋骨が厚い場所だ。
そして、生物にとっては、一番の急所でもある。
分厚い骨の防御を抜けるのであれば、一番確実な弱点であった。
猪が討たれてより間もなく、追い込みをしていた男達が合流してきた。
皆で、すでに動かなくなっている獲物を囲む。
なかなかの大きさですな。
ああ、食いでがありそうだ。
これで一頭目。
幸先が良いと言うべきだろう。
「助かります。お嬢のおかげで、遠慮なく大物を狙える」
私に謝辞を述べる男達の顔は、真剣だった。
何人かがかりで、仕留めた猪を運んでいく。
罠に頼らずとも、安全に大型の獲物を仕留められる私は、貴重な戦力だった。
野生の獣は、追い詰めてからが大変手強い。
万が一、立派な猪に暴れられると、負傷者は出るし、犬が腹を切り裂かれることもある。
猪とて、生きたいのだ。
当然、必死になって抵抗する。
お互い、命がけの戦いである。
久々の狩りだけれど、腕はなまってないな。
私は腕を回して体をほぐすと、次の獲物を探すよう、指示を飛ばした。
それから、私たちは、四頭の猪に加えて、鹿やら兎やらを仕留めた。
大猟であった。
私は、帰路につきながら、猟場である森を振り返る。
ここのところ、出征続きで、狩りをしてこなかったせいか、動物の影が多かった。
人間の手が入らなければ、森はすぐに荒れてしまう。
専門の猟師を入れる許可を出したほうが、良いかもしれない。
男達とそんな話をしながら、私は家路をたどった。
ステイシーは、私に随行しながら、時折紙片を取り出しては、なにやら様子を書き留めていた。
「ワイルドライフな感じも素敵ですわね」
そう言って、うっとりと頬を染めるステイシー。
一体、彼女の手記には、なにが書かれているのだろうか。
私は気になったが、怖くて聞くことはできなかった。
猪のうちの一頭は、お祭りで供されることになるそうだ。
帝国の皆さんが期待する、ランズデール的なワイルド感を出すには、丸焼きにでもしてみたいところだが、残念ながらそこまで大きな窯がない。
実は、丸焼きは、見た目の大雑把さとは裏腹に、高度な技術が必要なのだ。
物が大きいと、中まで火が通らないのである。
ちなみにであるが、お肉は、採れたてよりも、ちょっと熟成させたほうが美味しい。
夏場は難しいのだけれど、上手く温度を下げる道具とかがあると、狩りの獲物も美味しく頂けるようになるはずだ。
いや、傷むと言えば、肉より先に処理せねばならない部位があったな。
モツ、内臓だ。
「モツは先に皆で頂きましょうか」
「いいですな。今なら帝国産のワインもある。楽しみだ」
「お酒は程々にしなさいよ」
内臓はとにかく足が早いから、先に処理せねばならないのだ。
わたしは内臓だとハツが好きだ。
ハツってつまりは心臓のことね。
こりこりした歯ごたえがとても良い。
お塩のシンプルな味付けが、良く合うのも、アリシアちゃん的にはポイントが高い。
それと、レバーも美味しいと私は思う。
好き嫌いが別れるらしいが、私は好きな味だ。
歩みを進めるうちに、食いしん坊な私の思考は、領地の森の管理から、おいしい猪肉の調理法へと流れていった。
楽しそうに猪肉の食べ方を話す私を見て、ステイシーが笑いをこぼす。
「アリシア様は、狩りの時より、食べ方を話されている時のほうが、活き活きされますね」
「当然じゃない!」
私は力強く肯定した。
私アリシアは、基本的には食べ専だ。
怠惰な食っちゃ寝生活が、物ぐさなわたしの理想像なのである。
私達があちこち走り回って準備する間、我がランズデールには、大変浮ついた空気が漂っていた。
お祭り前のちょっと落ち着かない、でも楽しげな雰囲気である。
皆、明るく、雑談を交わしながら、準備に精を出す。
でもそわそわの原因は、それだけでは無かった。
とても真剣に、このお祭りに挑もうとしている者たちがいたのである。
私の里帰りには、ジークが同道したこともあり、当然のごとく護衛がついた。
帝国軍騎兵部隊の皆様、総勢一千人。
そして、そのうちの八割は独身者。
フリーの若い男性であった。
以前にも、少し触れたのだが、今のランズデールは、大変な男不足であった。
そこへやってきた、若くて身元もしっかりした男達。
それを迎えて、意気をあげる女の子達が、ランズデールにはいたのである。
そう、女の子達が、大変に張り切っていた。
歓迎会にかこつけて、彼女らはすっかり合コン気分であった。
お祭りは、ちょっとした出会いの場でもある。
例えば、ダンスの時間など、素敵なお相手を探す絶好のチャンスだ。
しかし、そこには、厳しい時間制限も存在する。
故に、良さげな相手には、予め目星をつけておくのが定石なのだ。
先んずれば人を制す。
戦争と同じである。
先立つ情報収集が、勝負の明暗をわけるのだ。
彼女たちは、行動した。
そして、屋敷に戻った私とステイシーは、お料理班の三人組と、彼女らを囲む、数十人の女の子達に迎えられることになったのだ。
「あ、アリシア様がお戻りになられましたわ」
人垣の中から、メアリの声がする。
メアリは背が低いから、周りを囲まれると、人混みに埋もれてしまうのだ。
でも、メアリからも私の姿も見えていないはずなのに、気配を察知しちゃう辺りは、流石だなぁ。
私専用の、探知能力があるのかも知れない。
すごいぞ、メアリ!
私は、現実逃避気味にそんなことを考えていた。
私の方に振り向いた、女の子たちの眼光がすごかったのだ。
「ぎらり」とか「ぎんっ」みたいな効果音がしそうなくらいの鋭さだった。
まさに獣の眼光である。
猛禽もかくやという眼力だ。
狩猟者の眼差しであった。
メアリは、女の子達に囲まれていた。
そして、彼女は私をおとりに使ったのだ。
私はその意図に気づいていた。
畜生め。
私は恨みがましく、内心で毒づいた。
私は、狼の視線に射すくめられた子兎のように、その場に立ち尽くした。
硬直した私の前に、代表者らしい女の子が、進み出る。
「アリシア様。大事なお話があるんですの。ランズデールの未来にも関わる、とても大事なお話が」
「え、えぇ。聞かせて頂戴」
「今回、同道された帝国の皆様に、是非、ご挨拶する機会を頂きたいのです。つきましては、予め、お話を伺いたく思いまして」
恭しく口上を述べる彼女は、まさに鬼気迫る様子であった。
私はこくこくと素直に頷く。
私とて、ランズデールの女である。
その積極果敢な攻めの姿勢は、大いに称揚したいと思う。
でも、最近、彼氏ができた関係で、多少は男性心理についてもわかってきたつもりだ。
もうちょっと、控えめにアタックしたほうが、効果的なんじゃないかなって私は思う。
でも怖いから口には出せない。
女の子達の人垣に包囲された私は、彼女らに、帝国軍の情報を売り渡した。
彼女らは、その情報をメモしたり、顎に手をあてて物思いにふけったりしながら、みな真剣に聞き入っていた。
まだ十代の小娘の分際で、こいつら、一端の熟練兵みたいな顔をしていやがるのだ。
彼女らからは、ランズデール魂を、ひしひしと感じた。
私から一通りの情報を集めた彼女たちは、瞳に決意を込めて一礼した。
「ありがとうございます、アリシア様。このご厚情にお応えするため、必ずや戦果をあげてみせますわ」
そして、代表の女の子を先頭に、彼女たちは出撃した。
屋敷の扉を潜り抜け、いくさばへと向かう戦士たちだ。
乙女道とは戦うこととみつけたり。
扉から差し込む逆光の中に消えていく、華奢な背中を見送りながら、私はしみじみと思ったのであった。
メアリ「帝国から輸入が増えると、ランズデールが養豚場になってしまいますわ」
アリシア「(´・ω・`)らんらん♪」




