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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
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母とわたし

シリアス風味です

私は母を殺した。



魔法は便利な力だ。

にも関わらず、人がそれを、血統により強くしようとしないのは何故であろうか。


その理由の一つは、遺伝の不確実性だ。

両親に強い魔力があったとしても、子供がそれを受け継げるとは限らない。


逆に、不運にも、度を越して強い魔力を持つ子供を、授かってしまう夫婦もいる。

魔力は偶然の授かりものであり、また突然降りかかる呪いでもあった。


もう一つは、魔法そのものが持つ不安定さだ。


便利な魔法だけではない。

忌み嫌われる魔法も存在する。

例えば変質の魔法。

近くの物体を、歪み捻じ曲げるその魔法は、その性質上、疎まれることが多い。


特に、制御の未熟な子供のうちは、あたり構わず物を壊す。

またこれを使う者達に、後ろ暗い家業を営むものが多いことも、悪評に拍車をかけた。


そして最大の理由。


強い魔力を持った胎児は、母親を殺すのだ。


母親の魔力が強ければ、問題はない。

あるいは、子供の魔力がジークハルト程度であれば、母親が傷つけられることもない。

だが、過ぎたる魔力を持った子を宿した時、その母は、例外なく命を削られ、多くの場合は命を落とす。


私の父は魔法使いであった。

私もまた強い魔力を授かった。


しかし私の母は、ほとんど魔力を持たなかった。


母は、私をこの世に産み落としてから三日後に、この世を去った。

私を身籠ってから産み落とすまで、彼女は、苦しみ抜いたと聞いている。


母の出自は明らかではない。

聞くところによると、我が父ラベルが、どこぞで拾ってきた娘であるという。


私が、下賤の娘などと呼ばれる所以である。


もっとも私は母の出自など気にしたことはなかった。


ただ一つ、私にとって大事なことは、父が、母を深く愛していたということだけだ。


そして、私は、父、最愛の女の命を糧に、産まれてきた。


なぜ産んでくれたのか、などとは言いたくなかった。

母は覚悟をしていたはずだ。

その覚悟を踏みにじるような物言いはしたくない。


だが、なぜ、どうして私は女だったのかと、そのことだけは悔しかった。


それは、なぜか。


理由は単純だ。

女には、相続権がないからだ。


母の命を奪っておきながら、私には、父の跡を継ぐ資格がなかったのだ。


王国において領地に纏わる相続権は、すべからく男児のみに与えられる。

女児に相続権は無い。

王国法にそう記されている。


なぜなら女は弱いからだ。

特に孕んだときが弱い。


貴族家として、領主の役目は、その地の守護者たるべしと、定められる。

故に、女には、不動産の相続権は認められなかった。


幼き日より、私がただひたすらに、強さを求めたの理由もそこにあった。


女が弱いと言うならば、強ければ良いのだろうと、私は吼えた。

そして、私は、強さを得るすべを兵士達に尋ね、己を鍛えた。


どこまで強くなれば良いのかは、わからなかった。

ならばどこまででも強くなるしかなかった。


それが、私の人生の始まりだ。



領館より少し離れた小高い丘の上に、ランズデール家の墓所はある。

歴代の当主とその妻が眠る場所だ。


簡素な陵墓だ。


その片隅に、母の墓もあった。


私は一人、その前に立つ。

墓参りである。


出征から戻れば、真っ先に母への挨拶に向かうのが、私の変わらぬ習慣だった。


「お母様、ただいま戻りました」


私は、母が生きた証であった。


私の髪と瞳と頑固な性格は、亡き母譲りであるそうだ。

父は懐かしそうに語ってくれた。


だから、この髪と瞳と頑固な性格は、私の自慢である。

私の一番の自慢である。


「貴女の娘のアリシアは、勝ちましたよ」


私の命は、母のものでもあるがゆえに、粗末にすることはできなかった。

故に私は、全ての戦いにおける必勝を、自らに課した。


戦争に限らない。


勝つために手を尽くし、策を用いて敵を追い込み、そして倒す。

それは私にとって義務だった。


勝利を望むのは、皆同じだ。

敵とても同じだ。


だからこそ、私は勝つことに徹底的に拘り、負ける戦いを遠ざけた。


幸いにして、勝機が全くない戦いは、ただの一度だけ。

その相手は、私の婚約者、帝国の皇子のジークハルトであった。


私の顔には笑みがあって、視界は霞んでいた。

最後の最後、私は幸運に恵まれたのだ。


母のおかげだ、などといい子ぶるつもりはない。

それでもいちばん大事な瞬間に、運命が味方してくれたのは、事実だった。


ゆえに報告ぐらいは、しておきたかったのだ。


「それで、今度、結婚することになりました」


ジークは、多分、生涯の伴侶になると思う。

少なくとも、私は一生、離す気はない。


そういえば、私の母も、最期まで父と添い遂げた女であった。


母の薫陶厚い娘であると、胸を張れるようになりたいと思う。

私は、一人の女として、母の短い一生を誇りに思っている。



私の手には、一株のヤマユリがあった。

墓地に供える花の代わりである。


子供の頃、私は墓地に花を捧げるのを嫌がった。

綺麗な花が、枯れてしまうのが嫌だったのだ。

周りは、そういうものだと宥めたが、私はそれでも駄々をこねる。


母の命日は、初夏だ。


ユリの季節である。

ユリは強く美しい花だ。

世界で一番美しい花であると思う。


私の主観だ。


ゆえに私は、この花を母のお墓の傍に植えることにした。


我がランズデールの陵墓は、だだっ広い。

お金はないが、土地だけはある、我が領の縮図であると言えよう。


ゆえに、花を植えるぐらいの場所はあった。

だから大人たちは、子供のすることだと、見逃してくれた。

どのみち、すぐに枯れるだろうという思惑もあったに違いない。


しかし、私はユリを植える時、絶対に枯れるなと念を込めた。

死んでも枯れてはならぬと理不尽にも命令した。


そして、ユリは、根付いた。


もう15年、私はずっとこの習慣を続け、植えられたユリは、子株を増やして、生い茂った。


結果、母のお墓の周りだけ、この季節になるとユリの花で一杯になる。

綺麗だと思う。


だが、私は少し反省もしていた。


繰り返しになるが、我がランズデールの陵墓は広い。

広いのは確かだが、その広さは有限でもあったのだ。


ユリの株に土をかぶせながら、私は頑張って精一杯生きるぞと、そう願いを込めたつもりだった。

そして、このしぶとい多年生植物は、私の願を受けて、見事に生き抜き、美しく白い花を咲かせた。


しかし、最近、この子達は、ちょっと頑張りすぎなのだ。

綺麗な花は、意外としぶとかった。


今や、百合は、母の墓石の周りを覆い尽くしていた。

先代の墓にまで侵食しようとする有様だ。

元気に咲き誇る、この白い花を見て、私は、少し申し訳なく思った。


母の墓石にかぶさろうとするユリを退ける。


お前ら、頑張りすぎだよ。


墓石に甘えるように、しなだれるユリを見て私は笑った。

今の私には、これが、一つの素敵な未来のように見えたことも、確かだったから。


「また参ります。そのうち、家族をいっぱい連れてきます」


日は中天に差し掛かっていた。

夏の空は、高く青い。

今、自分の頬を伝って墓石を濡らした雫も、すぐに乾いてしまうだろう。


母が私に遺した言葉は、ただ一つであったそうだ。


「幸せになって、アリシア」


と、彼女は言い遺したと聞いている。


強さとか、勝利とか、そんなものは全部、私の自己満足だ。

私が、私を愛してくれた母に、捧げたいと、そう願ったのだ。


母は、そんなものは何一つ望まなかった。


母がもし生きていたのなら、絶対に私を叱っただろう。

間違いない。

私が親でも叱るもの。


でも、そんな私の無鉄砲も全部まとめて、それでも私は幸せになれたから。

だから、私は、孝行娘になれたのだと、胸を張りたいと思うのである。


「私は、幸せです、お母様。これからもいっぱい幸せになりますわ」


日に照らされた母の墓石は、暖かくてとても綺麗だった。

私は母に一礼してから、踵をかえし、一族の墓所をあとにした。



しかし、それはそれとして、このユリの群れは、流石に間引きが、必要かもしれない。

綺麗ではあるけれど、このままでは代々の陵墓が、白い花達の群れに侵略されてしまう。


墓参りを済ませた私は、現実的な墓地管理について考えながら、館へと戻ったのであった。

昨日は、急遽、構成を変更しまして、それで投稿がおそくなりました。

今後も基本的には朝方の投稿の予定です。

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