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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
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新妻気分のわたし

わっふる、ありがとうございます。

でも、ちょっとおおすぎぃ…


考えてみます。

初めての夜の後、私はジークを送り出した。

入れ替わりに入ってきた私の側仕え達は、私を祝福してくれる。

お風呂に入って体を流し、すっきりした私は、これからのことを相談するため皆を集めた。


「まずは、アリシア様のお立場ですけれど、いわゆる内縁の妻ということになります」


クラリッサが教えてくれる。

内縁の妻!

ちょっと淫靡な感じがするね。


うっふん。

お色気アリシアである。


うん、少なくともこの路線で進むのは危険だ。

ダメダメな気配しかしない。


しかし私に色気がなかろうとも、実質的な奥さんという扱いになるのは間違いないだろう。

奥さんである。


「でも、具体的にはなにをすれば良いのかしら」


見回せば、私の周りは独身者ばかり。

自然と、唯一の既婚者、ステイシーに視線が集まった。


「私の家庭は、妻は頑張って稼ぐのがお仕事ですわね」


あ、この子もだめみたいですね。

知ってた。


ある意味、今の私に一番近いのだけれど、新妻道を学ぶ上では参考になりそうもない。


でも、一応、話だけでも聞いてみよう。

世の中、いろいろな家庭があるわけで、お嫁さんも十人十色だ。

あと、結婚とか関係なしに、ステイシーの家庭に興味があったのである。


ステイシーは、お家の大黒柱だ。

聞くところによると、彼女の稼ぎは相当に多いらしい。

近衛騎士の基本給に加えて、私の護衛と、皇帝夫妻への報告で、手当がたくさん付くとのこと。


「今年、上の子は幼年学校に入学したんですよ」


ステイシーは、そう言って、お家から送られてきた手紙を見せてくれた。

完全に出稼ぎのお母さんである。

旦那さんの教育の賜物か、手紙の文面からあふれる息子さん達の尊敬が眩しい。

でも私的に、この路線に進むのはちょっと違う気がする。

ジークもお金ならいっぱい稼げるし。



折角だから、他の皆についても聞いてみよう。

まずは、男女交際的には、私とほぼ横並びの位置にいるメアリちゃん。


「メアリは、コンラートとよね」


「まだ、決まったわけではありませんわ」


ふーん。

私がにやにやすると、メアリはぷいっとそっぽを向いた。


すごいな、こんな初々しいメアリ、初めて見た。

10年以上も一緒にいたけれど、こんなふうに照れるのか。

人様の恋路はにやにやできるね。


「結婚の話とか出ているの?」


「いえ、出てはいません。あ、時々、いえしょっちゅう求婚はされますけど、そういう意味ではないかと」


「へぇぇぇ」


みんながメアリを見る視線が生暖かい。

でも、参考にする感じではなさそうかも。

メアリもこれ以上は、詳しく教えてくれなかった。



お次はクラリッサだ。


「相手がいませんね」

「そうね」


ちなみに好みのタイプを聞いてみたところ、あまり偉そうにしない男性が良いそうだ。

ゆえに、ジークみたいなタイプは駄目とのこと。

いや、でも実際問題、ジークは偉いし。


「ランベルトとかどうなのよ」


ランベルトは、前に登用した王国出身の騎士で、今、クラリッサの下につけている男だ。

あまり私とは接点がないが、彼に対するクラリッサの覚えは悪くない。

年下の、しかも女であるクラリッサの指図にも、特に気負うこともなく従うし、忌憚なく意見も述べる。

飄々とした雰囲気の男だが、苦労人だったところは、クラリッサと同じだ。

根が真面目な彼女とも、意外と話は会うらしい。

特に照れもなく、教えてくれた。


「でも、ランベルトは今、王国に送りっぱなしなんですよねぇ。とりあえず状況が落ち着いてからの話になると思います」


「そうなのね」


万能を誇るクラリッサも、可愛いお嫁さん道となると、分が悪いみたいだ。



最後はエリスだ。

エリスはいいとこのお嬢様である。

知識も経験も豊富そうだ。


「エリスにも婚約者がいるのではないの?」


エリスは苦笑した。


「小さい頃からの婚約者がおりました。ですが、別れて参りました」


「「「えっ、そうなの!」」」


私は、驚いた。

一方、メアリとクラリッサは食いついた。

ステイシーは変わらずニコニコしている。


この反応の差よ。

性格が出るなぁ。

あと、私の中で、ステイシーの株がちょっと上昇した。


いや、婚約破棄はそれなりの事件である。

なにしろ私が、半殺しパンチで応えるぐらいだ。


もしかして、いやもしかしなくても、私のところで働くことになったから、婚約がだめになっちゃったのではないだろうか。

そんな私の心配を、エリスは笑って否定した。


「アリシア様の一件が、最後のきっかけではありました。でも、それがなかったとしても結局は別れることになったと思います」


そしてエリスは、彼女の事情を教えてくれた。


エリスとそのお相手は、家同士の都合で結ばれたご縁であったそうだ。

婚約者のことは、嫌いではないが、好きでもない。


そんな相手との結婚にエリスは疑問を抱いていた。

あるいは、結婚してから愛を育めるのでは、と思ったこともある。

しかし、引っかかりを覚えた彼女は、なかなか最後の踏ん切りがつかなかったそうだ。


そんな折、エリスのもとに、両親がアリシア王女との会見で不興を買ったという話が入る。

彼女の婚約者は、疎遠になりこそしなかったが、積極的に彼女を助ける様子もまた見せなかった。

エリスの結婚に対する疑問は、深まった。


そして、アリシアの侍女が募集される。

私が、おいたをしちゃったせいで、お目付け役を公募したあの件だ。

ちょっと下町で馬鹿騒ぎしただけじゃない、と私は主張したいが、結構な問題行動であったようだ。


そんな、行儀作法がボロボロな粗忽者のアリシア姫であるが、巷の評判は異なった。

一言で言うと、超気難しいらしい。

だれだそれと言いたいが、他人の噂とはそういうものである。

結果、皆、怖いと噂のアリシア王女に仕えるのを尻込みした。


エリスは、考えた。

側仕えの技能には、自信がある。

アリシア様のお役に立てば、実家への勘気も許されるかもしれない。


どうしようかと迷った彼女は、婚約者に相談した。

相手のアリシアは、知らない相手であるし、絶対に上手く行く保障もない。

エリスにも、当然、不安があったのだ。


彼は、私のことを心配してくれるだろうか。

エリスは、多少の期待を持ってこの話を婚約者に切り出した。


エリスの婚約者は、彼女がアリシアの元に行くことに反対した。

しかし、それは、エリスを心配してのことではなかったのである。


アリシアに仕えるならば、自分との婚約は宙ぶらりんになる。

その間、待たされる身にもなってもらいたい。

俺は、随分待ったはずだ。

いい加減、俺との結婚話を進めてくれないか。


気安さもあったのだろうが、もっぱら婚約者の口から出てくるのは、彼の都合や希望ばかりだった。


これを聞いて、エリスは、すっかり冷めてしまった。


彼の言っていることは、間違いではない。

しかし、それならば、私を引っ張る努力ぐらいしたらどうだ。


そしてなにより、この婚約者は、エリスや彼女の実家のことなど、ろくに気にかけていない事がわかってしまった。

今、私の実家が大変なのに、心配すらしてくれないのね。


家の力は、エリスのブレアバルク家のほうが断然強い。

この男に拘る必要など、どこにもない。

エリスは吹っ切れた。


「でしたら別れましょう。わたしは家のため、アリシア様のもとに向かいます」


エリスは、ズバッと相手を切り捨てると、返す刀で、私の募集に手をあげて、単身、アリシア王女の元へ乗り込んだのだ。


ひぇー。

聞いていた私達は、感嘆の声をあげた。

私の声は若干悲鳴混じりだ。


なにしろ、このアリシアは、王太子との婚約を、イヤダイヤダと言いながら、結局なにもせずに流され放題だったのだ。

得体が知れない主人の元に、身一つで飛び込んでいくこの度胸。

行き遅れのリスクなど、歯牙にもかけない決断力。

エリスはなかなかの女であった。


「今、私は相手がいないのです。良い人がいれば紹介してくださいませ」


エリスは最後にそう締めくくった。


誰からともなく拍手があがる。

エリスは、ちょっと上気した顔で、得意げに微笑んでいた。


そして私たちは顔を見合わせ、一つ頷く。


「総括いたしますと、全員、アリシア様の参考にはなりそうもありませんね」


うん。

たしかにそのとおりだけれど、君も役に立たなかったうちの一人だから、その点は忘れないでね、メアリ。


結局、新妻として何をすればいいかわからない。

とりあえず私は、女子の合宿所みたいになっていた自室から、三人の侍女もどきを追い出すことにした。

夜はジークが来るからね。


行き場を無くした女たちが額を寄せてあって相談する。

メアリが提案した。


「とりあえず、エリスの部屋に間借りしましょうか」

「えっ」

「もうしばらくしたら王都に引っ越しでしょうし、それでいきましょうか」

「えっ」


エリスは驚いていたけれど、だれも気にしない。

とりあえず、部屋の主の許可ぐらいは取ったほうが良いと思うよ、メアリ、クラリッサ。


エリスの部屋はそこそこ広い。

他の三人は、そこに三段ベッドを運び込んで、しばらく間借りするそうだ。


エリスの素敵なセンスで上品にまとめられたお部屋に、兵員宿舎から持ち出したごつい三段ベッドがでんと鎮座する光景は、なかなかにシュールであった。


なお、このベッドに興味を持った令嬢エリスが、一番上のベッドで眠ろうとして、夜中に転がり落ちそうになったりもしたらしい。

エリスは、どんなときでも攻める姿勢を忘れない。

良いことだと思う。


それ以来、私は、夜は、一人きりですごすことになった。

ジークが来ない日はちょっと寂しそうだな。

旦那さんを待つばかりの奥様の気持ちを、私はすこし実感した。



新妻用のグッズについても話した。


「YES NO枕とかどうします。扉に札をかけても面白そうですけど」


「わたしずっとYESよ。あと扉にかけるとクラリッサは絶対いたずらするでしょ」


にやりとクラリッサとメアリが笑う。

絶対こいつら何かする気だ。

残念ながら実用性に乏しいグッズばかりで、アイデアは出るだけ出たもののそのまま立ち消えになった。



その日のお夕食には、お米を赤く炊いた食べ物が出た。

お赤飯というらしい。

もぐもぐと咀嚼する。

嫌いではないけれど、私は普通の食事でいいな。


「記念日に食べるようなものだそうですし、よろしいのでは」


メアリがしたり顔で教えてくれた。

ふーん。


「メアリも食べたの?」


私がからかうと、高速で後ろに回り込んだメアリに、容赦なく首を締め上げられた。


やめろメアリ!きまってるきまってる!


コンラートが絡むと、メアリは五割り増しぐらいのパワーを発揮するのである。

からかうのも命がけだ。


まぁ、私はやめる気はないんだけどね。

メアリかわいいし!



それから数週間、私は夜以外は、いつもと同じように日常を過ごした。

今日も元気でご飯が美味しい。

しかし、そんなある日のこと、私はジークの執務室に呼び出しを受けたのである。

大事なお話があるとのことだった。


だ・い・じなお話。


もしかしたら、お義父さまやお義母さまからのお話かもしれない。

私はお二人と仲が良いのだ。

ゆえに、私は、るんるん気分でジークの部屋にお邪魔した。


ガチャリと扉を開けて中に入れば、部屋にいる人と目線があった。

お相手は、白衣を着たおじいちゃんだ。


あれ、ジークはどこ?


見回してみたが、部屋にいるのは、そのおじいちゃん、ヘルマン先生だけであった。

ジークがいない。

主治医のヘルマン先生はいる。

その瞬間、私は、全てを悟った。


伏兵だ!

なんと、待ち伏せであった。

このアリシアが謀られるとは、なんたる不覚!


嘆いてみたところでもう遅い。

ヘルマン先生は、私をじとっと睨みつけた。


ひぇー。


実は私は、あの夜以来、ヘルマン先生から逃げ回っていた。

だって、会ったら、怒られるのがわかりきっているのだもの。

故に、私は、持ち前の気配察知能力をフル活用し、迂回や隠行で、彼との接触を回避し続けていた。

できれば次の健康診断まで会いたくなかったのである。


ごほん。


咳払いの声が、響く。

わたしは、耐お説教防御姿勢を取って、衝撃にそなえた。


しかし、かのおじいちゃん先生は、心配するような表情を浮かべると、小さく苦笑しただけだった。

聞き分けのない娘に向けるような、優しいお顔だ。


「お話は、既に伺っております」

「…はい」


私は、なにが、などとは聞かなかった。

聞くまでもない。

ヘルマン先生は穏やかに続けた。


「どうです、お体にお変わりはありませんか?」

「ええ、相変わらず元気に過ごしています」

「それは結構。たしかに大変お元気そうですな。私も安心いたしました」


そしてにっこりと微笑む。

仏様のような慈愛に満ちた笑みだ。


「後日、あらためて診察をいたしましょう。それで問題がないようであれば、もはや何も言いますまい。何卒ご自愛くださいますよう」


ヘルマン先生は、そう良い置くと一礼して、部屋を後にした。

私はちょっとだけ、反省した。

先生は、私の体のことを気にかけてくださっていたのだ。

苦手意識が強くて、逃げ回ってばかりでごめんなさい。


少しいい子になった私は、あくる日、健康診断を受けることになった。

足取りは軽い。

お詫びもしなくちゃいけないな。


そして、以前の診断の時と同じように、身体計測を終えてから、私はヘルマン先生の問診に向かったのである。


私は、しゃーっと音を立てて、問診部屋のカーテンを開く。

ヘルマン先生は、先日の優しい様子など微塵も感じさせない怒り顔で、わたしのことを待ち構えていた。


あっれぇ?


執務室で見た時は、出来の悪い生徒を心配してくれるような、優しい感じだったのに、いったいこれはどうしたことか。

あの時のふんわりムードはどこにもない。

今のヘルマン先生は、紛れもない地獄の男、Hell-Man先生なのであった。

先生は、怒り心頭、拳を振り上げんばかりの剣幕で私に雷を落とす。


「さぁ、アリシア殿下、言い訳があるようでしたら聞きますぞ。なに、時間はたっぷりあるのですから!」

「えぇ、どういうことですの?先生!」


もう許してくれたんじゃなかったの!?


「あの場で私が説教を始めれば、逃げられるかもしれないではありませんか。やらかしたアリシア殿下と、じっくりみっちりお話する機会を待っておったのです」

「それじゃあ、私に落ち度があるみたいじゃないですか、先生!」

「もはや落ち度しかありませんぞ、アリシア殿下!」

「いいえ、先生。これには深いわけが」

「ええい、だまらっしゃい!」


がっし、ぼか。

アリシアは拳骨を落とされた。


おのれー。私はすっかり涙目になった。


ちょっと反省した私が馬鹿みたいだ。

やっぱりヘルマン先生は、私の苦手なお説教魔神であった。

ヘルマン先生のお説教は、本当に、長くて面倒なのだ。

がみがみたくさん怒られて、わたしのギザギザハートはさらにとんがってしまった。


いつか元気な赤ちゃんを産んで、先生を見返してやるんだから!

私は固く固く、心に誓ったのだった。

アリシア「盗んだ軍馬で走り出す」

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