ダンスレッスンとわたし
「ダンスのレッスンをいたしましょう。ジークハルト殿下からもご要望を受けております」
エリスが言った。
ダンス。
あれである。
男の人と女の人で組になってくるくる回る優雅な遊びだ。
ある意味社交の花形技能である。
これさえできれば、他は大概ごまかしが効くという便利技能でもある。
なお、私はステップすら習ったことがない。
「私にできるかしら」
「体を動かすのに慣れていれば、そう難しくはありませんよ」
エリスの言葉に励まされて、私のダンスレッスンが始まった。
要塞内の一室を、この日のために空けてある。
実は、エリスが来る前にもレッスンのお話はあったのだが、私の体に他の男性が触れるのを嫌がったジークが、全部お断りしてしまったのだ。
故に、習うのも今回が初めてのことであった。
そして私は、あっというまに基本のステップをマスターした。
私やるじゃん!
もっとも、考えてみれば当然である。
相手の呼吸に合わせて決まったステップを踏むだけなのだ。
私にかかれば、そう難しいことでもなかった。
エリスをお相手に、くるり、くるくりと一曲踊り、曲が終わってから一礼する。
「どうかしら?」
私はエリスに向き直った。
なかなか上手くできたと思うのだけれど。
私はお褒めの言葉を期待した。
エリスは、しかし、ちょっと難しい顔をした。
「アリシア様、完璧です。でも、完璧ではあるのですけれど、なんというか、こう、ビシっとしすぎですわね。はっきり申し上げますと女らしくないというか」
体幹がしっかりしすぎているのです。
体捌きに切れがありすぎて、余り可愛くありません。
こう、全体的に、凛々しいかっこよさに溢れているのが問題ですね。
ガーン。
遠慮の無くなったエリスは、ずけずけものを言う娘だった。
言われて私は、酷いショックを受けた。
でも女性的な柔らかさと言われても困る。
なよっとした感じを出すべきだろうか?
思案にくれた私とエリスに、一つ提案をする声があった。
「でしたら、アリシア様、女性側の動きを見てみませんか?アリシア様は男性側でリードするのです」
メアリだった。
どういうことだ?
彼女を見れば、その顔に「私も踊ってみたい」とでかでかと書いてあった。
そういうことかい!
もう、メアリはしょうがないなあ。
そして私は、メアリ姫のパートナーを務めることになった。
しかし、これが、大変な間違いであった。
曲が始まり、私は、メアリと一緒に踊った。
メアリの動きは、柔らかくたおやかだ。
ほうほう、こんな感じで踊れば良いのか。
心底楽しそうにくるくると回るメアリはとても可愛くて、私も調子よく彼女の相方を務めた。
「どうかしら、メアリ嬢」
「とても素敵でしたわ。アリシア様」
メアリは少し上気した顔で、楽しげに微笑んでいる。
私も楽しかった!
やっぱり私とメアリの相性は最高である。
周りを見回せば、皆も暖かく拍手をしてくれた。
次は私も、メアリみたいに踊ってみようっと。
メアリのような、ふわふわ感が大事だと私は学習した。
私は早速イメージトレーニングを始めたのだが、その思いは続く叫びに吹き飛ばされた。
「いける!」
クラリッサだった。
どうした、何がいけるんだ。
皆の視線が集まる。
注目を集めたクラリッサは、拳を握りしめ熱弁を振るった。
「そもそもジークハルト殿下がお相手であれば、アリシア様のダンスがうまかろうと、そうでなかろうと関係などありません。奴は、足を踏みつけられれば、身悶えして喜ぶでしょう。加えて、あの男は、アリシア様のお体に他の男が触れるのを絶対に許さない。故にアリシア様が女性パートを練習する意味は極めて薄い」
クラリッサの目は活き活きしている。
しかし、彼女が何を言いたいのか、なんとなく察した私は顰め面だ。
クラリッサは、だが、故意に私の不満顔を無視した。
「そこで、発想を切り替えるのです。要は、パーティーのダンスは、華やかで目立てばよい。故に、素敵に見えるのなら、アリシア様が男性役をつとめても何の問題もない!」
力強い断言に、おぉーという感嘆の声が重なる。
私は、えぇー、と口を尖らせた。
不満だ。
当然、不満だ。
私だって女の子だ。できれば女の子のパートを踊りたい。
でも、その場に居る側仕えの皆と、お手伝いに入ってくれている兵卒の方々は、皆クラリッサの意見に賛成のようだった。
私はエリスを見た。
エリス先生、悪ふざけする連中は放っておいて、レッスンを続けませんか?
しかしエリスは、私の期待に反し、うっとりと頬を染めていた。
そして、しずしずとその手を差し出すエリス。
「私とも、一曲お相手願えませんでしょうか…」
ぎゃー、どういうことなのエリス!
わたしにそっちの趣味は無いよ!
私は困った。
筋から言えば、ここで心を鬼にして、嫌だと断るべきだったのだろう。
しかし、おだてられると、木にも、城郭の防御塔にも登っちゃうのが私アリシアである。
攻城戦では、上を押さえると、城壁上の敵を鴨撃ちにできる。
ゆえに城壁無視しての防御塔強襲戦術は、決まればマジで強いのだ。
問題は、そんな芸当ができるのが私アリシアしかいないってことだ。
話がそれた。
今はエリスだ。
どうしようかと私は迷ったが、ダンスが好きらしいエリスは期待を込めた目で私を見つめている。
仕方ないなぁ。
私は彼女の手を取って丸々一曲分、踊ってしまった。
そしてダンスが終わり、エリスの体を離そうとすると、彼女は私にひしとすがりついた。
「…もう一曲だけ」
もー!
この子、無駄に積極的だよ!
しかし、クラリッサをはじめ、見ている皆は大興奮だ。
それから二曲ほどエリスと踊り、エリスはずるい私に代われと今度はクラリッサが踊り、ステイシーが踊り、メアリに戻り、これだけでは物足りぬと、気づけば街のダンスホールに繰り出すことになっていた。
私は、軍服着て男装の麗人モードで出撃らしい。
最初はしぶしぶだった私も、知らず乗せられ、いつのまにやらスイッチが入っていた。
ノリノリで偽名まで考えて、ついには、王女アリシアならぬ、男装の麗人アリソンがテネーの街に繰り出すことになったのである。
今になって思う。
アホだろ、こいつら。
流石に下町のダンス会場は危険だ。
故に私たちは、街の一等地にある、おしゃれなホールにお邪魔することに決めた。
随員に新しく加入したばかりのエリスも加えて、なんちゃって令息アリソン率いる四人娘が出撃である。
加えてそれとは別に、警護の兵士を5人つけてもらった。
五人がそれぞれ別行動になる可能性もあるので、ツーマンセルで護衛を頼んでいる。
ホールの扉をくぐれば、私たちに視線が集まる。
うふふ。目立ってる目立ってる。
楽しいことが大好きな私は、内心うきうきになりながら、それでもすまし顔でエリスの手をとった。
「まずは、一曲、お相手願えますか」
「ええ、喜んで」
そしてエリスが優雅に一礼する。
エリスは本物のお嬢様だ。
彼女の気品あふれる振る舞いは、豪華なドレスとあいまって、それはもうとっても目立つ。
彼女と一曲踊ってから、予定通りメアリとも踊り、その後、私は一人離れて、壁際に下がった。
すると瞬時に、目の色変えたお嬢さんたちが、私の周りに殺到した。
「次は是非、私と一曲踊ってくださいませ!」
気迫がこもったお誘いに、私は内心で後ずさった。
みんな鼻息が荒い。
「あぁ、では順番にお相手しよう」
私ことアリソンは、軽く引きながらも、彼女たちのお相手を務めた。
そこからがすごかった。
若い子も、年かさのお姉さまも、女性がわんさと集まってくる。
下は、初めてダンスに来たばかりと思しき小さな女の子から、上は40過ぎのマダムまで、それはもう大人気であった。
一曲踊ればすぐに次の女の子が礼をする。
順番待ちの行列だ。
アリシアもてもて王国とか建国できそうな勢いである。
でも私は、女の子に興味はないんだよなぁ!
こころゆくまでダンスを楽しんだ私が、そろそろ切り上げようかなと考えていると、私が腕に抱いた女の子が、耳元でささやいた。
「アリソン様。アリソン様のお望みを、どうか私めに教えて下さいまし…。私、それを貴方に捧げます。」
うわぁ。私は内心呻いた。あと調子に乗りすぎたことをちょっとだけ反省する。
ここはおそらく、「君が欲しい」とか答えるのが筋なのだろう。
でも私は女だ。
女の子をもらっても困る。
というか男の子もジーク以外は欲しくない。
うーん、と考え込んでから、私は正直に自分の希望を告げた。
「金が欲しいな」
正直者アリシア、ここに見参。
いやあれだ、女の子を現実に戻すための台詞である。
この子はちょっと自分の世界に入りすぎである。
完全に雰囲気に酔っ払っちゃっているのだ。
ゆえに冷水をぶっかけて、頭を冷やしてやらねばならぬと私は考えた。
可愛い女の子を前にして、金が欲しいとか言っちゃう男に入れ込む娘はおるまい。
その私の認識は、しかし、甘かった。
「そ、そうですわよね。私ったらごめんなさい!」
言うや否や、彼女は首にかけていた見事な真珠のネックレスを私に押し付けた。
「これを。これを、売ればそこそこのお金になるはずです!」
言いながら目をうるうるさせる、ブロンドの女の子に私はびっくり仰天した。
ちょっとぉ!
そんなに簡単に高価なもの渡しちゃだめだよ!
悪い男に騙されちゃう!
「いけないな。それは君が身につけるべきものだ。それが一番似合うのだから。それと、僕は現金主義なんだ。それ以外、受け取るつもりはないから、そこんとこよろしく」
歯の浮く台詞と最低な台詞を組み合わせつつ、私はその女の子を諭した。
ちょっと悪ふざけが入ってしまうのはご愛嬌だ。
「もし、明日になっても僕のことが忘れられなければ、カゼッセルまでお金を届けてくれないか。でも可愛い君が困るのは見たくないから、余ったお金以外は受け取れないよ」
そう言い置いて、私は、その日、ダンス会場をあとにした。
それから数日後。
カゼッセル要塞に結構な重さの布袋が届けられた。
宛先はアリソン。中には銀貨と銅貨がいっぱいだ。
ずっしりと重い。
可愛いレターもついている。
私は、自分の執務部屋に戻ってから手紙を開いた。
後ろから側仕えの四人が覗き込む気配を感じる。
中には、「麗しのアリソン様へ」から始まって「また会える日をお待ちしております」で結ばれる、女の子たちの寄せ書きが綴られていた。
女の子たちに、うちの貧乏な実家のことも話したのだ。
どうやら、この袋につまったお金はアリソンあての寄付金らしい。
「折角のお気持ちだから、受け取っておきましょうか」
「パーティ券みたいなものですわね。よろしいのではないかと」
私とメアリは頷いて、このお金をありがたく頂くことにした。
お金はいくらあっても困らない。
少なくともうちのランズデールに関して言えば、それは真理だ。
だがしかし、ひとり納得しなかった者がいた。
エリスである。
「もう、返してらっしゃいませ。そんなお金受け取れません」
市井の皆様からお金を巻き上げるなんて、王女様のすることではありませんわ!
エリスはプンスカ怒りだした。
なんだか、怒らせちゃったみたい。
私は、慌てて言い訳した。
このお金は、実家に送らせてもらう予定だ。
使途は、傷痍軍人の年金基金と、戦災孤児の生活支援を予定している。
余剰分についても、きちんと公費にあてさせてもらう。
決して、私が遊ぶ金欲しさに、いたいけな娘さんたちをだまくらかして、せしめたわけではない。
きれいな事実を、私はせっせと並べ立てた。
余った端数は私のおやつ代にする予定であったが、もちろんバカ正直に申告するつもりはない。
そしてメアリからも援護が入る。
やつもつまみを買うための小遣いがかかっている。
必死だ。
利害が一致した時のメアリは大変頼もしい。
「アリシア様は、つい最近までドレスの一着すら仕立てることもできなかったのですよ。生活に余裕があるお嬢様方から、少しお気持ちを分けて頂くのに、なんの問題がございますの?それに彼女たちも、アリシア様と楽しいひと時をすごしたのですから、騙したわけではございません」
「それは、たしかにそのとおりですわね…。私が間違っておりました!」
エリスはあっさり騙された。
メアリは、立派な詐欺師になれると思う。
そして、私はここで、悲しい事実を告げねばならない。
私はかなりのチョロインであると自負しているが、上には上、いやこの場合下か?とにかく、私以上のチョロさを誇る娘がいたのである。
その名をエリス。
いいとこの出のお嬢さんである彼女は、しっかりしているようで、全く世間を知らなかった。
「でしたら、私もアリシア様とのダンスを楽しんだのです。お気持ちを差し上げねばなりませんね」
そう言って、彼女は金貨まで入った袋を私に差し出した。
えぇー。
流石の私も、これは渋った。
同僚からお金なんて受け取れないよ。
だが、悪魔クラリッサが私の耳元で囁いたのだ。
「エリス様のご実家のブレアバルク家は、超お金持ちですよ」
「ええ、ご安心下さい。それに一種の賂です。ご笑納あれ!」
エリスもまた力強く太鼓判を押してくれた。
その代わり、また私とも踊ってくださいませ。そう言って彼女は笑った。
エリスは、お金持ちのお嬢様だ。
これだけのお金があれば、うちの実家の貧乏人どもに、新品の服を買ってやることもできるだろう。
まぁいいかと納得した私は、ありがとうとお礼を言って、それを実家への仕送りに加えた。
私たちランズデールは、人間だけでなく、馬まで養わねばならぬ。
ありがたく、お言葉に甘えることにしたのである。
ブレアバルク家って、本当にお金持ちなんだな。
その時の私は、そのぐらいにしか考えていなかった。
ダンスホールからも、また是非来て下さい、とお招きを頂いた私達は、それから二回ほど同じ会場にお邪魔して、それはもう熱烈な歓迎を受けた。
こうなると、政治家か、歌劇役者が開く資金繰りのパーティーに近い。
ある意味、大変貴族的な社交活動であるとも言えよう。
「私、お金は持ち合わせていないんです。でも一曲踊って頂けませんか?」
もちろん私は、そんな女の子とも楽しく踊った。
お金はお金、これはこれ。
そうしないと、折角のダンスがつまらなくなってしまうのである。
私がお邪魔する度、カゼッセルのアリソン宛に送られてくるお金の量も増えていった。
そして、ついに審判の日が訪れる。
不正な資金の流れを監視していたコンラートからジークに連絡が行ったのだ。
「アリシア様が、夜中、街に繰り出しては、援助交際をしておられるようです」
夜も遅い時分に、激怒したジークから呼び出しがきたのは、私が三度目のダンスパーティーから戻って三日目のことだった。
事情を察した私アリシアは、単身、ジークの執務室にお邪魔した。
「これはどういうことなのか、説明してもらおうか、アリシア」
コンラートの調査報告書を手にジークは言う。
「ダンスのレッスンですわ。ジーク」
私はにこやかに返事した。
ジークは一瞬で沸騰した。
「ダンスの、レッスンで、わざわざ男装して、街のダンスホールにまで出ていく、王女がいるはずあるかぁぁぁ!!!!!」
「ジーク、ジーク落ち着いて」
肩で息をするジークを、私はにこにこしながら宥めた。
かわいい。
ジークは頭を抱えた。
「前から、言っているだろう。金が要るのなら俺に教えてくれないか…。」
「そうはいきません、ジーク」
私は、苦笑いである。
私アリシアが、ジークからお金をもらうのを嫌がるのにはちゃんとした理由があるのだ。
私が、ジーク、というより帝国から公的なお金を受け取らないのは、端的にいうと、政治的な判断である。
私は、ランズデールに、帝国からの直接的な資金援助を入れたくないのだ。
でなければ、騎兵隊の独立性に問題が出てきてしまう。
うちの騎兵隊は、フットワークの軽さが強みだ。
私の意向で西へ東へ自由に動かせる。
でもその運営に外部からスポンサーが入ると、その意向を無視できなくなってしまう。
私は、私達の行動を、帝国の政治的な利害関係に左右されたくなかったのだ。
今回は悪ふざけが過ぎてしまったけれど、今後もこの方針は崩さない予定である。
だから、ジーク、ごめんなさい。
「私個人のことであれば、たっぷりジークに甘えさせてもらうつもりですから。それで許して下さいませ」
私のダンスのレッスンも終わりましたから、もうダンスホールにも行きません。
そう、私が説得すれば、ジークは一応、納得してくれたようだった。
「納得したわけじゃないぞ」
あっ、納得はしてくれてないみたい。
失敬、失敬。
とにかく、私の方の問題はそれで片付いた。
片付かなかった子が、一人いた。
エリスだ。
あくる朝、私の部屋にきたエリスは、真っ赤に目元を腫らしていた。
あとほっぺも赤い。
何事かと、顔を見合わせる私たちに向かって、エリスは開口一番懇願した。
「お金を…、お金を貸してくださいませぇぇ!」
「えぇー!」
エリス、お金持ちって言ったじゃない!
いきなりの事態に、私たちはびっくりだ。
どういうことなのと、私達がエリスに詰め寄る中、クラリッサだけが、いっしっしと邪悪な笑みを浮かべていた。
さてはこの女、はかりおったな!
何事であるか。
事情を聞いて、私は大変驚いた。
エリスは、なんと自分の生活資金まで、ランズデールに寄付してしまったそうなのだ。
戦災孤児の話や、私の貧乏話にいれあげてしまったらしい。
なんて馬鹿なことをしているの!
私が怒ってみせれば、エリスはめそめそと涙を流した。
聞けば、全く同じことを両親にも言われたのだとか。
エリスはしっかりものである。
少なくとも、私のもとに来るまでは、しっかりものであった。
エリスのご両親も、そんな彼女を信用して、お金が足りなくなったなら、手紙を寄越しなさいと言っていた。
そんなエリスは、せっせと私に貢いでは、手元資金が尽きるたび、実家に援助を頼んでいた。
ヒモにのぼせた、駄目な女の子とやってることが同じだった。
残念過ぎる。
度重なるお金の無心を、ブレアバルク家の人たちは訝しんだ。
おかしい。
アリシア様は、奢侈を好まれないはずだ。
にもかかわらず、この出費。
このままでは小さな屋敷が買えてしまう。
故に、彼らは、事情をエリスに問い詰めた。
もしかして、アリシア殿下にいじめられているのではないのかと。
そんなことは無い、アリシア様はお優しいとエリスは懸念を否定した。
ならばなぜこんなに金がかかるのかと、何度かやり取りがあった結果、エリスの散財が発覚したのである。
事情を知ったブレアバルク家のご夫妻は、無慈悲に援助を打ち切った。
そして資金繰りに窮したエリス・ブレアバルクが、本日、借財の嘆願に来る次第となったのである。
折しも、私は受け取った寄付金を実家に送金したばかりだった。
今回のエリスの寄附金額は、金貨10枚ほどであったはず。
これで、麦の大袋がいくつぐらい買えるかしら、と想像しながら、私は彼女からの援助金をありがたく受け取っていた。
「これを、アリシア様に、お渡ししろと、預かっておりましゅ…」
ぐしぐし涙を拭きながら、エリスは一枚の手紙を差し出した。
送り主を見る。
ブレアバルクご夫妻からの手紙である。
中はこんな内容であった。
不肖の娘が、ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
お渡ししたお金を、お返し頂く必要はありません。
そのままお収めいただいて結構です。
今後、この娘がする借金は、娘の私物を担保としてください。
そこそこの額にはなるはずです。
借金を返済した上で、今回、無駄遣いしたお金を稼ぐまで、本家には戻らせないつもりです。
それまで、この娘の性根を叩き直して頂けますと幸いです。
仕事はできるはずです。少なくとも以前はできました。お勤めが終わるまでこき使ってくださってかまいません。
残念過ぎる…
私は溢れんばかりの憐憫を目に、エリスを見た。
この子、親御さんにまで見限られてるじゃん。
私の小さな胸の内は、しょっぱい気持ちでいっぱいだった。
「エリス…」
「お願いです。見捨てないでくださいませぇぇぇ!」
エリスは、私にすがりついた。
しょうがないなぁ。
私は、この困った貴族令嬢の背中をぽんぽんと撫でた。
こうして、私達のパーティーメンバーに、負債をかかえた金欠令嬢が加入することになったのである。
私は、嘆息を禁じ得ない。
「どうして、こう、私のもとには、普通の子がこないのかしら」
「部下は主に似ますから。仕方ありませんわね」
私は極めて常識人だよ、メアリー!
プンスカ怒る私の横で、貧乏人代表のクラリッサが、エリスを早速いじめていた。
落ちぶれ令嬢の末路は悲惨だ。
でも、君も、調子にのりすぎるとしっぺ返しがあるからね、クラリッサ!
以上が、わたしのダンスレッスンの成果である。
私は、やたらと男性側のステップがうまくなり、結構な額の寄付金を稼ぐとともに、変な側近が一人増えた。
どうして、物事が思った通りに終わらないのか。
原因が全くわからない私は、一人、首を傾げた。
ステイシー「類は友を呼ぶ」
メアリ「あるいは、You deserve it」




