表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
56/116

恋敵とわたし

この私の恋敵マルグリットは、既にカゼッセルまできているそうだ。

アポなし突撃訪問である。

彼女は、要塞の敷地近くに馬車で乗り付けて、面会の依頼を出したのだとか。

今ごろ彼女は、このカゼッセルを遠くに望みながら、「ここが、あの女のハウスね…」と闘志を燃やしているに違いない。

想像力たくましく、私は断定した。


「どうしましょうか」

「そうね、お断りしてちょうだい」

「ま、当然ですね。」


そう言ってクラリッサは出ていった。

考えてみれば、さほど難しい話でもなかった。

彼女と私は面会の約束もしていない。

当然、私の都合でお断りしても何の問題もないのだ。

戦わなければ負けないのである。


そもそも私に会いたいという人は、彼女以外にも沢山いるが、全部ジークがお断りしているような状態だ。

彼女が継ぐオーセール家は、財産は多いらしいが、今は一族が激減して、力もそう強くないと聞いている。

礼儀と手順を守ってもらおう。

それで、このお話は終わりになる。はずだった。


それから、私は、軍関係の書類を決済したり、手紙を書いたり、お菓子をかじったりして、その日の執務を終えた。

今日のおやつは、海産物が原料とおぼしき謎の干物だった。

絶対、メアリの酒のつまみだ、これ。

口寂しくはないけれど、甘味が大好きな私としては、物足りないことこの上なかった。

私は口をもぐもぐさせつつ、メアリに苦情を言った。


「甘いお菓子をおくれ、メアリ」

「肥えますわよ」


それを言われるとぐぅの音も出ません。


窓を見れば、日も西に傾きつつあった。

今日もお疲れ様でしたの時間である。

晩のご飯は何かしら。

執務を終えて、美味しい食事に意識を飛ばしていた私は、ふと思い出した。

今朝方、私に会いたいと言っていた、マルグリットさんのことを、である。

クラリッサに尋ねてみれば、要塞に関する出来事ならなんでも把握している彼女は、今の状況を教えてくれた。


「面会希望のマルグリットですが、まだ門の近くから動いていないようです」


「ごねているのかしら。わがままな方なら、追い返すのもやぶさかではないわよ?」


「いえ、それが、少々、毛色が違いまして…」


クラリッサからの報告によると、マルグリットは騒ぐでもなく、ただ静かにしているとのこと。

カゼッセルは軍事施設だ。

許可もなく近くに居座られるのは、困る。

守衛の兵士が、立ち退きを命じたのだが、お会い出来るまでいさせてくれと、邪魔にならない場所へ馬車を移動させたのだそうだ。

もうかれこれ半日近く、そのままじっと待機していると、困惑した見回りの哨兵から連絡が入った。


「暇なのでしょうか」


この酷い台詞はメアリのものだ。

たしかにその指摘は間違っていないけど、もうちょっとこう、表現に手心を加えてあげて。


帝国本土から、ここカゼッセルまでは片道十日以上の長旅だ。

簡単に、行って帰れる距離ではない。

私の恋のライバルも、相応の覚悟をもっていること間違いなかった。


「強制的に退去させますか?」


「いえ、会いましょう。ただし要塞の外でね」


私は、側付きの三人に武装を命じると、自分も軍服に着替えて外出の用意を整えた。

会うにしても、得体の知れない相手を要塞の中に入れたくない。

トラブルがあったとしても、このメンバーであれば問題あるまいと判断した私は、城外で恋敵を迎え撃つことに決めた。

籠城を捨てて野戦である。


先触れを受けて、門の前で待っていた我が恋敵マルグリットは、完璧な礼で要塞から出てきた私達を出迎えた。

綺麗な人だな。

彼女を見て私は、思った。



そして、我らなんちゃって令嬢四人組は、本物のお嬢様であるマルグリットを伴って、テネーの街に繰り出した。

時間も遅いので、夕食をご一緒しながら、お話することにしたのだ。


テネーの街は賑やかだった。

夕焼けに夜の帳が重なるこの時間は、一日の終わりを感じさせてとても活気がある。

仕事帰りの男達が、明るい声で騒ぎながらすれ違っていった。

お仕事が終わると解放感があるよね。

わかるわかる。


私達が歩みをすすめるのは、お上品な中央街ではない。

いわゆる下町であった。

肉体労働のあんちゃんや、個人のお店を経営するおっちゃんたちが、楽しく夜を過ごす場所である。

庶民ぐらしに慣れっこの私たち四人組と違って、どこから見ても箱入りのマルグリットは、おっかなびっくり歩いていた。

護衛の青年などまなじりを吊り上げて、路行く人達を警戒していた。


「ここにしましょう。酒とつまみが美味しい」


私達を先導していたクラリッサが足を止めたのは、白いうみねこ亭という食堂兼酒場のようなお店であった。

カゼッセルは内陸都市だ。

当然、海など近くには無い。

何を思って、店主はこの名前をつけたのだろうか。

海が好きなのかしら?

謎である。


外から見る限り、日雇いのお兄さんたちが楽しくお酒を飲んでいそうな雰囲気のお店であった。

木の扉を開ければ、案の定、日雇いっぽいお兄さんたちが、賑々しく迎えてくれる。

たくましく日焼けした太い腕がまぶしい。


すでに出来上がっている、おっさんから歓声が上がった。


「おい、マスター!すごいかわい子ちゃんがきた。これ、どういうこと。どこから呼んだの?」

「商売女じゃないわ。客よ。服を見なさい、服を!」


私が軍服の胸を張ると、ひぇーともひゅーともつかない歓声がそこら中の客席からあがった。

地元を思い出した私は、ちょっと楽しくなっている。

反面、場馴れしていないマルグリットは、若干の涙目だ。

護衛君は、既に臨戦態勢で、今にも剣の柄に手が伸びそうである。

「意地の悪いこと」

「油断はしないわ」

メアリが笑えば、わたしは小さく答えを返す。

私は、交渉に先立って、地の利を得たかったのだ。

許せ。

戦いは、もう既に始まっている。


「ご注文は何にします?」


席についた私達を、渋いおじさま給仕が迎えてくれた。

「ビール」「一番強いの」「りんご酒」「水」

てんでバラバラな注文が私達、四人から飛ぶ。

完全に面倒な客だ

しかし彼は、嫌な顔ひとつせず、飲み物を運んでくれた。

できる大人であるなぁ。私は嬉しくなった。

私と同じくりんご酒を頼んだマルグリットは、だが、沈着した色素が染みになった陶器のグラスをみて、口をつけずに卓へと戻した。

間違いない。ほんとのほんとにお嬢様である。

なお、お付きの青年は、護衛だからと飲み物を固持して、彼女の後ろで目を光らせていた。


うーん。

この彼が警戒すべきは、私じゃなくて、懐剣を隠し持ってるマルグリットの方だと思うんだけどな。

思い詰めた気配を漏らす、伏し目がちなマルグリットが、私は少し心配だった。


ちなみに我がチームの状況は、いつもどおりだ。

ステイシーは緩めの警戒モード、クラリッサは傍観者モードで、メアリは久々の飲み屋に、うきうき酒飲みモードに入っていた。

ここでも一人、温度感が違うやつが居る。

もう私は突っ込まないぞ。


「それじゃ、お話を伺いましょうか。マルグリットさん」

「ここで、ですか?」

「ええ、ここで」


周囲の喧騒と、聞き耳を立ててる一部の野次馬を気にしたマルグリットの逡巡を、私は一刀両断した。

密室で話すようなことじゃない。

私に譲る気が無いことを感じ取ったのだろう、マルグリットが背筋を伸ばした。

くりっとした目で私を見つめる。

元の顔が優しすぎるせいで、キリッとはしていない。


「私を、第二夫人として認めて頂きたいのです」


アリシア様のお邪魔は決していたしません。

マルグリットは、そう言い置いてから、ジークとの関係、そして彼への思いについて話してくれた。


彼女とジークは、ジーク自身が主催した夜会で出会ったのだそうだ。

5年ほど前のことらしい。

その時、彼女は15歳。

未成年だったマルグリットは、オーセール家のお家騒動に巻き込まれていた。

彼女は本家の跡取り娘であったのだが、不幸な事故により、両親が他界してしまう。

この時、後見人でありながら、お家乗っ取りを企んだ叔父に、従兄弟に当たる男との婚約を押し付けられて彼女は窮地に陥っていた。

追い詰められたマルグリットは、なんとか他所に庇護者を見つけられないかと知恵を絞った。

そして藁をもすがる思いでジークの夜会に参加したのだそうだ。


ドラマチックな展開だ。私は既にドキドキである。


マルグリットの意図に気付いた叔父が、彼女を連れ戻そうと人を放つ。

夜会の会場で追い詰められるマルグリット。

そこに颯爽と現れるのが、夜会の主催者であるジークハルトだった。

お約束の展開すぎる。


ジークの優秀さと誠実さは、私もよく知るところだ。

帝国の成人は16歳。

ジークはマルグリットが成人するまで彼女の庇護者となってくれた。

成人したマルグリットは、叔父を退け、オーセール家の家督と財産を継承することに成功する。

マルグリットにとってジークは恩人だった。

彼女のジークへの思いは募る。


そしてジーク運命の日がやってくる。

彼が王国との戦争に乗り出す日がやってきたのだ。

ジークが旅立つ前日のこと、マルグリットは彼女の想いを告げた。


ジークは最初、それを退けた。

当然だ。家督を相続したとは言え、嫁入り前の娘さんだ。

ほいほい関係を持つわけにもいかない。

でも、マルグリットは諦めなかった。

自分はもう成人した一人の女なのだからと、もし自分の事が嫌いでないのなら受け入れてほしいと、彼女はうったえた。

彼女がにくいわけではない。ジークはそれに応じた。


そしてジークは、王国との戦いに旅立ち、帰ってきた彼は、なぜか自分を半殺しにした敵国の将軍に夢中になっていた。

ジークは、マルグリットに別れを告げたのである。


これは酷い…


それは、だれのつぶやきであったろうか。

私もあまりにあんまりな結末にめまいを覚えた。

だれだ、このクソみたいな脚本を書いたやつは!

この結末で客が納得するとでも思ってるのか!


私は憤ったが、まともな脚本になると割をくうのはアリシアである。

黙っておこう。


「とても悲しかった。でもそういうお約束でしたから…」


マルグリットの目には涙があった。


諦めよう。

そう決心したマルグリットは、混乱するオーセール家の取りまとめに奔走した。

そして三年の時を要しながらも、その目処がつく。

彼女は当主として、家を継いだ。

しかし、それでも彼女は忘れることができなかったのだ。

ジークへの想いを。

そして彼女のカゼッセル行へとつながるのである。


私は聞き惚れてしまった。

後ろで聞き耳立てていたおっちゃん二人が、肩を震わせ、嗚咽を漏らす。

ごついガタイしてるけど、こういう筋肉達は、意外と繊細だったりするのだ。

分かるよ。わたしも素行のせいで凶暴だなんだと色々言われるけれど、この手の話は大好きだし。


ジークとマルグリットの関係は、私が小説で見るようなラブロマンスだった。

一方の私とジークの関係は、戦地での暴行事件がきっかけだ。

しかもジークは被害者で、私は殴りにいった加害者だ。

なぜこの出会いで、ジークは私に惚れたのか。

帝国の七不思議になってもおかしくないレベルの怪奇現象である。


故に、私は沈黙した。

私には、マルグリットにかける言葉が見つからなかった。


だが沈黙しなかったやつが居る。

その女は意地悪げに口元を歪めると、マルグリットの話しを切り捨てた。


「今のお話、アリシア様は全く関係ありませんよね。加えて、貴女とジークハルト殿下の関係は、切れてるように聞こえます。そのあたりの事情も、アリシア様が口を挟むような問題ではないと思います。その点、如何?」


この容赦の無さ、流石は我が懐刀、クラリッサである。

メアリが、ひゅー、やっるーみたいな顔をして発言者に視線をやる。

ステイシーは、気持ちニコニコレベルが上った。

一方のマルグリットは蒼白だ。

彼女は震える声で訴えた。


「ジークハルト殿下は次期皇帝であらせられます。ですが第二夫人は置かぬとおっしゃいました。それはアリシア様に配慮なされてのことではありませんか?私なら…」


「違うわ。私は、第二夫人を置くことには反対していない。そこは、完全にジークの意思よ」


私は、遮るように否定の言葉を重ねた。

なるほどな。私は得心すると同時に、彼女の思い違いに気付く。


これははっきり言っておかねばなるまい。

今のマルグリットがそのまま突き進むと、間違いなく、悲劇の第二夫人アリシアちゃんルートである。


おそらくマルグリットは、ジークに第二夫人の話を持ちかけて断られたのだろう。

その裏に、私の意図があると考えてもおかしくない。


「納得できないって顔をしているわね」

「…はい」

「でも本当のことよ。そして私も話していて気がついた。貴女はジークの伴侶には向いていない。貴女には決定的に足りないものがあるの」

「なんですか、それは!?」


マルグリットが食いついた。

それはそうだろう。

ジークへの思いの強さでは負けない。彼女はそう思っているはずだ。

遥々、片道半月以上の道のりを走破してしまうその恋心は、一人の乙女として尊敬の念すら抱く。

しかし、その手の感情は、妃の身分を狙う上では無意味と言わざるを得ないのだ。

クラリッサが辛辣なのも、むべなるかな、である。


私は、一呼吸置いてから、彼女に宣告する。

神託を告げるような荘厳さで、私はマルグリットの弱点を告げた。


「貴女に足りないもの、それはパワーよ」


私は断言した。

そのほうが説得力が出る。

マルグリットは目を丸くした。


パワー、あるいは腕力と言ってもいいだろうか。

善良で可愛いマルグリットは、深窓のご令嬢に過ぎるのである。


ちなみに、後にジークにも確認をとったが、あながち間違いでもなかった。

ジークは彼女のことを「伴侶にするには線が細すぎる」と評していた。


…相対的に私の線が太いってことになるのだけど、それには目をつぶろう。

自分でも、か弱いお姫様扱いしてもらえるとは思っていない。


「あなたの思いは分かったわ。でもそれを貫くだけの力はあるのかしら。皇帝の妃は想いだけで務まるほど甘くはないわ」

「でしたら、私に機会をください。私の力が本当に足りないのかどうか試してもらいたいのです!」

「よろしい。ならば、勝負よ。私との、腕相撲でね!」


腕相撲。アームレスリングである。

どんと私が机に肘を付くと、なぜだか周りから、うぉー!と歓声が上がった。

気づけば、私達の会話に聞き耳を立てていたお店のお客さん達が、卓の周りを囲んでいる。

なにせ周りは、遠慮など知らない下町出身者の、それもよっぱらいばかりなのである。

この展開も当然であった。


ちなみに、最初から傍観者気分で成り行きを楽しんでいたメアリも、一緒に囃し立てていた。

酒が入ってご機嫌モードである。

ほんと、駄目な侍女だなぁ。

楽しそうに騒ぐ彼女の姿に、私は笑ってしまった。


今頃、良い見世物ができたとお店の人もほくそ笑んでいるに違いない。


マルグリットは周囲に気圧されつつも、踏ん張った。

彼女が右手を机の上に立てると、私はその手をガッチリホールドする。

やだ、この娘の手、超、柔らかい。


マルグリットの気合は十分だ。

店のマスターがどこからか持ち出してきたゴングをカーンと鳴らすと、私と恋敵の腕力勝負が始まった。


で、当然のことながら、マルグリット嬢は私に歯立たなかった。

当然である。

私は地元じゃ負け無しのアームレスラーだ。

ひ弱なかわいこちゃんに、勝てる要素など皆無であった。


マルグリットは右腕で挑戦し、左腕で挑戦し、最後は両手で私の片手を握りこむと、うんうん唸りながら頑張った。

ピクリとも動かぬ私の腕に、顔を真赤に染めながら、必死に取り付くマルグリットは可愛かった。

周りのおじさんたちの、優しい視線が注ぐ。

護衛のお兄さんまでマルグリットに釘付けだ。


腕が上がらなくなるまで力戦したマルグリットは、しかしついに力尽きると、机の上に突っ伏した。

よく頑張ったなぁ。

わたしが、何辺、彼女の腕を倒したのかわからなくなるくらい、彼女は最後まで諦めなかった。

暖かい拍手が彼女に送られた。

私は笑う。


「降参?」

「…いやです。まだ続けます」

「そう、じゃ、勝てそう?」


マルグリットは机から体を起こす。

彼女の優しい顔からはぽろぽろと涙がこぼれていた。

泣かないで、とは言い難いなぁ。


「…アリシア様は酷い。私が絶対勝てない事を知っていて、こんなことを仰るんだわ」


私は一つため息を付いた。

今の私は、眉尻を下げて困ったような顔で、苦笑を浮かべていることだろう。


「でも、貴女は第二夫人になったら、この腕相撲と同じような日々をずっと続けなければならいわ。もし、お望みの第二夫人の座を手に入れたとして、貴女は、少しでもいい、私からジークの寵愛を奪えそう?」


マルグリットは、はっと顔を上げた。

マルグリットは意志力だけなら悪くはない。

だが、それだけでは、ジークを振り向かせるには不十分な気がしてならなかった

もし彼の心を射止めたいのなら、お家騒動の時に、その細腕で邪魔な叔父をなぎ倒し、そのまま家を奪い取るぐらいのパワーを見せる必要があったように私は思う。

私、アリシアを見る限り、ジークの好きなタイプは戦える女の子だ。

その点、マルグリットは、厳しい。


「貴女は幸せになりたいのかしら。それとも私からジークを奪いたいのかしら?」


マルグリットは俯いた。

彼女には自分で気づいてもらいたい。

ジークに拘る必要なんて無いのだということを。

そうすれば、割りと綺麗におさまるはずなのだ。


私の、この超イケてる誘導は、しかし続く陽気な声にふっとばされた。


「そもそも、男なんてたくさんいるじゃないですかぁ。別にジークハルト様に限らなくてもいいとおもうんですよねぇ」


おぃい!

頭がゆるそうな発言で割り込んできたのは、ランズデール出身の酔っぱらい女メアリだった。

無礼な言われように、マルグリットは眦を釣り上げる。


「どういう意味ですか?」


男なら誰でも良いだろうなどと言われたら、そりゃ怒る。当然だ。

しかし、メアリはお構いなしにぺらぺらと喋った。

陽気に腕を振り回し、卓の前を占拠する。

乱暴に揺らされたジョッキから、ビールがこぼれて卓を濡らした。

やめろ、きたねぇ!


「なにもそこのおっさんと、恋仲になれと言ってるわけじゃないんですよ。すぐ後ろにいる護衛の男の子とか、いい感じじゃないですか。君、お嬢様のこと好きなんでしょう?」

「ひっでぇ!」

「なっ」


ダメ出しされた汗臭そうなおっさんと、推薦を受けた爽やかイケメンの護衛青年が、同時に声をあげる。

評価の差は天と地だ。

あと、メアリの図々しさが、相当おばさんくさい。

メアリは、まだ17歳のはずなのに。ほろり。


当事者のマルグリットは驚いた。

それからちょっと赤くなって、「そうなのですか?」とか聞いている。

このお嬢様の鈍さも相当だ。

遥々、半月もかけた馬車の旅に同道するぐらいだ。

今までの様子を見るに、マルグリットへの好意は間違いない。

そもそも若い男が純粋な忠誠心だけで、可愛いお嬢様に従うわけがない。

下心ぐらいあって当然じゃないか。


ちなみに、私のランズデール騎兵隊の皆さんは、忠誠心だけで付いてきてくれます。

たまには、私のことを、女として見てくれてもいいのよ?


護衛の青年は、意を決したようにマルグリットへと向き直った。

そして、切々と彼女への想いを語りはじめる。

彼は、ちょっとありきたりで、しかしとても素敵な愛の言葉をマルグリットに捧げた。

周囲の酔っ払った野次馬に囲まれながら、それでも砂糖を口から吐くような甘ぁい台詞を言い切った彼は、とても立派な男だと私は思う。

あと、やっぱ幼馴染って良いな、って思いました。


「五年前はできなかった。でもこれからは、貴女を守りたいんだ!」


基本的に酔っ払いは、テンションとその場の雰囲気だけで適当に動く。

周囲のおっさんたち(メアリ含む)は、護衛青年の熱い告白にすっかりその気になってしまった。

やんややんやと無責任に囃し立て、それっぽい雰囲気を作って二人を祝福した。

なし崩し的にくっつけてしまう流れだ。

若干方向性がぶれたが、私としても悪くない着地点だった。

私は心のなかで頷いた。


マルグリットにとっては、ジークとの思い出が、ちょっとドラマチックすぎたのだと思う。

でもドラマなんて無くても、お見合い結婚で素敵な愛を育む男女はいっぱいいるのだ。

まして今の彼女は財産も地位もある恵まれた立場だ。

自ら望んで、茨の道を歩む必要などどこにもない。


その後、しばらく酒場で騒いだ後、私たちは、マルグリットと青年を宿屋に案内してから帰途についた。

彼女が胸元に隠し持っていた懐剣は、ついに一度も握られることは無かった。

あんなものの出番は、ないに越したことはない。

私はほっと安堵のため息をついた。


「大きいベッドが一つしか無い部屋を取っておきました。多分、明日にはくっついてるでしょう」


クラリッサに抜かりはなかった。

やることやらせるために、きっちり手は打っている。

あの馬鹿騒ぎの中、護衛に徹してくれたステイシーもよくやってくれたと思う。

残りの一人は、でかい乳放り出して私にしなだれかかっていた。


メアリさん、一人だけ油断が過ぎませんかねぇ!?


私たちは、深夜のテネーの町を歩く。

私が一歩歩くたび、軍服のポケットにいっぱいになった銀貨がじゃらじゃら音を立てた。


いや、実は、あのあと、酔っぱらい共に腕相撲勝負を挑まれたのだ。

私の脱衣を賭けて、一勝負小銀貨一枚で勝負をふっかけたところ、我も我もと入れ食いで、あっというまに銀貨の山ができてしまった。


実は私は、腕相撲が強すぎて、地元じゃもう誰も相手をしてくれないのだ。

一時期暴れすぎてしまった。

故に私は、久々の出番に張り切って、今日を限りと荒稼ぎしてしまったのである。


そして、大小含め、全ての戦いで勝利を掴んだ私達チームアリシアは、本拠カゼッセルへの帰途へついたのだった。



なお、後日、ジークからは、滅茶苦茶謝罪された。

私は気にしてないよ、ジーク。ウフフ。

メアリ「酒が人間をダメにするんじゃない。あれは人間がもともとダメだということを教えてくれるものなのだ」

アリシア「黙れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動強襲型令嬢アリシア物語 発売中です
一巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B0775KFGLK/
二巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B077S1DPLV/
三巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B078MSL5MY/
是非、お手にとって頂けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
クラリッサが優秀すぎるwwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ