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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
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第二夫人とわたし

「第二夫人は置かないつもりだ」


私たちは、その時、ジークと私の結婚について会議をしていた。

新婚旅行とか、結婚披露宴とかの楽しい話題ではない。

残念ながら政治のお話だ。


第二夫人。つまりジークの二人目のお妃様についての会議であった。


私とジークにクラリッサ、コンラート、そして帝都から来た宮内関係の事務官の人で、難しい顔をしながら卓を囲む。

私も漏れなく難しい顔をしているが、これは雰囲気を真似ただけだ。

いや、だって私が口を挟んだら絶対ややこしくなるじゃない!


会議が紛糾していた。

帝国の、特にジークが参加する会議としては、本当に珍しい。

普段は彼が主導して議論がさくさく進んでいくのだが、今回はそのジークハルト第一皇子の対応が問題になっていた。


どうもジークが、二人目のお妃様とのお見合いをことごとくお断りしているそうなのだ。

ここ三代くらい帝国の皇帝は、みんな三人のお妃様を迎えている。

当然ジークハルト殿下もそうされるだろうと、お役人さん達は準備していたのだが、なんとジークがちゃぶ台をひっくり返した。


俺には必要ない!


そんな馬鹿な!

おかげで担当の人達は大慌てだ。


そして、第二夫人を置いてくれ、いや、置かぬと手紙で押し問答をした結果、とうとう責任者のおじさまが直談判に来たという次第だった。


私もはじめて聞いてびっくりした。

そんな話があったのか!


ジークは私には一言も、そんな話はしなかった。

故に、特に事前説明もなく、会議に引っ張り出された私は、手を顎の下で組みながらカッコイイキメ顔で議論を眺めているという寸法だった。


白熱する議論野中、お髭を生やした事務官のおじさまが、顔を真赤にして怒鳴る。

きゃー、つばが飛ぶ!


「なぜ、そうまで頑ななのですか、ジークハルト殿下!」

「不要だ、俺には必要ない!」

「なんと強情な。アリシア様からも、なにか仰ってください!」

「私が口を挟むことではないでしょう…」


ここで私に唐突なパス。

しかしこれについては完全にジークの問題なのだ。

私が困った顔で、首を横に振ると、事務官のおじさまは頭垂れた。


わたしの立場は中立なのだった。

個人の心情としては、ジークを独占したいという思いはもちろんあるけれど、それはそれとして皇帝としてのお仕事は果たさなければならない。


ジークが困ることはしたくないのだ。

つまりジークの意思次第なのである。


会議はそのまま一刻ほども続いたが、ジークは頑として譲らなかった。

帝都からのお客人は、がっくりと肩を落として帰っていった。

「釣書は置いておきますので、目を通すだけでもお願いします…」

彼はそう言い置いて紙束を置く。

30はあるな。頑張って集めたんだろうなぁ。

会議の席を後にする。勤め人の疲れた背中を、私は物悲しい思いで見送った。

サラリーマンの悲壮だ。



そして、大量の釣書が、部屋に残された。

一枚を手に取る。

素敵な人だなぁ。私は思った。

書類だけでは、そのひととなりまではわからない。

けれど、逆に言えばそれだけでお断りしてしまうのも勿体無い。

それぐらい、しっかりした印象のお嬢さんだった。

私はジークに苦笑を向けた。


「ジーク、私の事を想ってくださっているのなら、心配はいりませんよ?」

「違う、問題は貴女ではない。俺がこだわるのは、その二番目の妃となる娘が哀れだからだ」


どういうことかしら?

私が頭に疑問符を浮かべると、ジークは困ったような笑みを浮かべて説明してくれた。


「そうだな、なら第二夫人になったつもりで、俺の話を聞いてくれ」


そして第二夫人になったアリシアちゃんが登場する。

良家の令嬢アリシアは、美貌と教養をもった素敵な女性だ。

人格もたおやかで、優しく理知的な、素晴らしい女の人だ。

家柄も素晴らしい。


完全に別人だった。

ニヤニヤ笑いで、メアリあたりが突っ込みそうだ。

無視だ、無視、無視。


そんなアリシアに縁談がやってくる。

お相手はなんとこの国の皇子様だ。

だが、アリシアに示された地位は第二夫人、政略結婚であることは間違いないが、お相手は誠実な方だという。

そして迷った末に、アリシアは輿入れを決意する。


華やかな結婚式を経て、だが待っていたのは幸せな結婚生活などではなかった。

その皇子が愛していたのは、第一夫人、ただ一人だったのだ。


なお、私の想像の中の第一夫人は、メアリの顔をしていたので第一夫人の仮の名をメアリとさせてもらう。

私にとって、メアリは越えられない壁なのだ。

察してくれ。


結婚後、アリシアは一人寂しい日々を過ごすことになる。

夜会も、晩餐会も、皇子が伴うのはメアリだ。

公務で外遊で、仲睦まじい姿を見せる皇子夫妻の事を聞きながら、自分は一人、離宮で過ごす寂しい日々。

皇子は、時折訪ねてきてはくれるけれど、それは優しい義務感からだ。

そこに愛など存在しない。


そんな折、メアリの妊娠が知らされる。

皇子はメアリの体を労りながら、皇統をつなぐためにアリシアを抱いた。

そして、健康なアリシアもまた、一人の赤ん坊を身ごもる。


メアリは皇子を授かった。幸せそうに微笑む皇子夫妻。

国民からも暖かい祝福が送られる。

それからしばらくして、アリシアもまた健康な男子を産む。

同じく皇子の息子だ。

だが、その子が顧みられることはなかった。

なんとなれば、その子の母は、第二夫人のアリシアであったのだから。


あかん。

この時点で私の心は折れた。

だって、悲しすぎるじゃないか。

第二夫人のアリシアは自分だけでなく、その子供まで日陰の人生を運命付けられてしまうのだ。


俯いた私の瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。

そういえば最近涙もろくなったなぁ。

一人、違う感慨を懐きつつも、流れる涙は止まらない。

想像のなかのアリシアちゃんに感情移入しすぎてしまった私の頭を、ジークは二度、三度と撫でてくれた。


「その娘は、俺の第二夫人になどならなければ、もっと幸せな道を選べたはずなのだ。悪い娘ではないのだから。愛もなく、せっかく授かった子供も、父親から顧みられることはない。そんな一生に縛られる人間はいないほうがいいと、俺は思う」


私は頷いた。

そんな人生は悲しい。


「今の言葉を、帝都から来た方にも、伝えて差し上げれば良かったですのに」


「帝国の安定と娘一人の人生、どちらに重きを置くかという話になる。連中は譲れん。だからこれは俺のわがままだ」


ジークの言葉もまたもっともだった。

その第二夫人も、虐げられているわけではないのだ。

政略結婚だと割り切れる人なら良いのかもしれないが、恵まれた家庭環境の娘さんには、やはり日陰者の人生は酷だろう。


ジークは優しいなぁ。

私は胸の奥がジーンとなった。


「そうですね。悲しい思いをする人はできるだけ少ないほうがいいと、わたしも思います。」


「本当にそれだけですかね」


暖かい雰囲気になりかけた空気を、冷たさを装った声が切り裂いた。

クラリッサだ。


「アリシア様には、知らせておくべきでしょう。皇帝は、女がほしいなら第二夫人なんて面倒なものを置く必要が無いんですよ。愛妾ならいくらでも持てますから。面倒な女の数を減らしておくのが目的かもしれません」


無表情を装ったクラリッサの相貌からは、なんの感情も読み取れなかった。

だが彼女のの言葉は殊更に刺々しい。

ジークはそれを聞いて笑った。

どことなく嬉しそうな笑みだ。私もつられて笑う。


クラリッサは露悪的なところがあるのだ。

私よりも付き合いが長いジークが気づかないわけもなかった。


「何がおかしいんです?」

「すっかりアリシアの近衛騎士が板についたな、クラリッサ。お前とアリシアが上手くいってるようで安心したよ」


噛み付いたばかりの、クラリッサははっと目を見張ってから、きまり悪そうに視線を反らした。

頬に朱がさす。


「それとこれとは関係ありません。とにかく、アリシア様やその第二夫人の方にとっていい話のように聞こえますが、決してそれだけではないことを覚えておいて下さい」


「わかったわ」


若干強引に話を畳んだクラリッサに、皆は生暖かい視線を向けながら首肯したのだった。

彼女自身の生まれのこともあるのだろう。

だがそれよりも私を心配して敢えて憎まれ役を買って出てくれたクラリッサの優しさが嬉しかった。

可愛い。


多分、ジークは浮気する時は教えてくれると思うのだ。

なぜなら、私は物理力がクソ高いから。

下手に隠し事をすると命に関わる問題になってしまう。


とにかく、ジークに第二夫人は置かない。それが会議を通じての私達の結論となった。



さて、しかし、じつはこの騒動これでは収まらなかった。


ジークの気持ちとはまた別に、彼がモテ男であるのも事実だった。

考えてみれば当然である。

ジークは、帝国の第一皇子で、誠実な優しい人で、お金持ちだ。

私は惚れているから客観性には疑問があるが、多分、見た目もカッコイイ。


世界には、男性とほぼ同じ数だけ女性がいる。

彼女らは、素敵な王子様を捕獲せんと、日夜、牙を研ぎ、爪を磨きながら、激しい戦いを繰り広げているのだ。

当然、その沢山の女性の中には、素敵なジークに恋してしまった女の子も含まれる。

王女様だろうと、お店の小間使いだろうと、戦場で鬼呼ばわりされる女だろうと関係ない。

恋愛とは奪い合いであり、それすなわち戦争なのだ。


それとは別に、私を最初に鬼呼ばわりしたやつは覚えてろよ。


男女比率が偏り過ぎのカゼッセルに起居して、ジークに甘やかされっぱなしだった私は、すっかりそのことを忘れていた。

そんな、私を叩き起こす事件が発生するのは、エドワードの果たし状が届いて、しばらくしてからのことだった。


「アリシア様に帝国から面会希望者が来ていますね」


その日、ジークは帝国東部の大都市、リップシュタットに出かけていた。

なんでも、帝国本土に用事ができたのだとか。

根回しなど進めたいので、数日の間カゼッセルを離れると、私は伝えられていた。


寂しいなぁ。


でも、今の私がジークについていっても、手伝えることなど何もない。

故に、私は、留守を守るお嫁さんの気分で、お仕事に励んでいた。

軍務限定仕様の、判子押しマシーンアリシアである。

幕僚の皆さんの声を聞く限り、意外と役に立っているらしい。

私とて、色ボケしているだけではないのだ。

ドヤ顔で主張させてもらいたい。


さて、来客と聞いて、私は首をかしげた。

そもそも私アリシアは、しばらくの間、社交を控えるつもりで、その旨おふれもだしてあったはずだ。

故に、突然の来客は、招かれざる客である可能性が高い。


「心当たりがないわね。どちら様かしら」


「お名前はマルグリット様。オーセールの本家を最近になって継がれた女性ですね」


「要注意人物ですわ」


クラリッサの言葉に、ステイシーが注釈を加えた。

要注意とは、どういうことなのか。

私が視線で、ステイシーに詳しい説明を求めると、彼女は簡潔かつ的確な言葉で問題点を教えてくれた。


「ジークハルト殿下が、昔、関係を持たれていた女性です」


わーお!

ジークの元カノだ!


突然の恋敵の襲来に、自らの女子力不足に自覚がある帝国軍元帥アリシアは、腹心の三人娘を招集した。

迎撃の態勢を整えねばなるまい。


「このメンバーで女の戦いを挑むのは、無謀にすぎるのでは?」


開口一番、自軍戦力の不足を指摘したのはメアリーだ。

やめて、メアリー。

事実は時として、人を酷く傷つけるのよ!


アリシア「どろどろの昼メロみたいな展開にしてやんよ!」

メアリ「愛憎の果て、アリシアに突き込まれた果物ナイフが、無残な最期をとげそうですわね」


◇◇◇


お礼です。

お手にとって頂けた皆様ありがとうございます。

うへへ、って感じになっております。今後も頑張りますのでよろしくお願いします。

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