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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
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王国の騎士とわたし

武闘会は終わった。

帝国の勝利に終わった。

帝国は、王国側に契約の履行をもとめ、予想通り王国はこれを拒否。

帝国は、これに怒って王国側の代表者13名を拘束した。


そして拘束され、士官用クラブでお茶やお酒を楽しんでいた王国の人たちに、クラリッサが再就職の話を斡旋した。


「皆さん、帝国で騎士になります?」


今回の武闘会で、王国から来た騎士の人たちはみな若かった。


一番上の人が27歳、一番若い女の子の騎士見習いが私と同じ17歳だ。


国のために戦う気骨がある、熟練の騎士や兵士は、皆、私の父ラベルに従ってとうの昔に領主連合に参加していた。

今王都に残っている30代前後の騎士や軍人は、地位は欲しいけれど、危険な戦いには出たくない人たちがほとんどだ。

要は、腰抜けばかりだ。


故に今回の参加者も、戦争経験は無いけれど、故国や家族のために頑張るぞ!という若い人がほとんどだった。

アリシア姫的には、大変ポイントが高い。

家族のため、故郷のためというお話に、私はとても弱いのだ。

自分と重ね合わせて、すぐうるっときてしまう。


王国が無くなっても生活は必要だ。

その時、騎士の資格はつぶしが利く。


「俺が身元保証人になってやろう」


ジークが後見人となってくれること、職業軍人として士官を目指す道もあること、これらを相談のうえ、王国から来た12人の騎士のうち、9人が帝国本土に旅立っていった。


そして三人の騎士と騎士見習いが要塞に残った。



一人は、武闘会で負傷してしまった騎士さんだ。

ジークと対戦した彼は、不幸な事故であばらをおってしまい、療養のため要塞に留まることになった。

彼は、運とめぐり合わせが悪かったのだ。


ジークは武闘派の皇子だ。


うん。武闘派の皇子ってすごい響きだね。

わたしも、ちょっとだけ戦いの嗜みがあるお姫様だから、人のこと言えないけど、なかなかいないと思う。


そんなジークは、今回の武闘会も、結構ガチ目のぶつかり合いを期待していた。

男の子だなぁ。

実は私は、見てる方が好きだ。

戦う男の人はカッコイイと思う。

そういえば父も今の恋人も戦う人だ。

私の好みがバレてしまう。


対する王国の人は、武術の腕前はともかく戦場には出たことがなかった。

力加減が難しいが、命を救ってもらった恩もある。

絶対に皇子を傷つけるわけには行かぬと、死んでも負ける気で試合に臨んだそうだ。


だがジークはこれに怒ってしまった。

「戦争童貞が、この俺を愚弄するのか」と。

それで強めにはなったジークの前蹴りを、「蹴りなら直撃しても大丈夫じゃないか」と錯覚した相手の人が、正面から受けに行ってしまった。


これを見ていた私は、びっくり仰天した。

身体強化を載せた蹴りは、大変な威力になる。

正面から受けたらただではすまない。

ジークは二戦目の次鋒だった。

ここで大事故を起こしてしまっては、武闘会が成り立たなくなってしまう。


案の定、王国の騎士の人は、ジークの蹴りを受けて崩れ落ちると、倒れたまま動けなくなってしまった。


私は、叫びながら選手席を飛び出した。


「まずい!衛生兵、私に続け!!」


私の魔法は応急処置にも使える。

私は倒れた王国騎士に駆け寄った。

怪我の箇所を見てみる。

あばらが折れているが、急所は外れている。

呼吸にも問題なし、見た限り内蔵は無事だ。

魔法の治療を施しつつ、負傷した選手の患部を触診していた私は胸をなでおろした。


自分の試合が終わったからって油断しちゃだめだね。

私は気を引き締めた。


後にメアリから、可愛いヒロイン道について、アドバイスを貰った。


「そこは、『やめてー!』とか『だめー!』みたいな事を叫ぶのがヒロインの嗜みですよ」


うん。そうかも知れない。

そうかも知れないけれど、私には無理だ。

次に機会があっても、私は「メディック!」って叫びながら救護に向かうよ。

それが私の美学なのだ。


危険を感じ取ったジークが、咄嗟に急所を外してくれたのが幸いだった。

でも危険なことには違いない。


どうしてあんな危ないことをしたの!?と、後で私は問い詰めた。

「アリシアが見ていただろう?見せ場を作りたかったんだ…」

萎れたジークに告白されて、私は真っ赤になった。

不覚にもきゅんと来てしまった。

我ながら安いな、こんちくしょう。

こんな台詞でやられてしまうとは、自分で自分が心配になるちょろさだ。


でも、そんなこと言っても駄目なものは駄目なのである!

私は、ジークに厳重注意を与えるとともに、以後、この手の催し物には参加を自粛するよう申し渡した。

ジークはしょぼんとしたけれど、対戦相手への負担が大きすぎるのだ。

私もジークに怪我させてしまったことがあるからわかる。

「どうしても駄目か?」

だめです!


一方、受け身すらとらずに蹴りを食らおうとした王国の騎士さんには、わたしから教育的指導を入れさせてもらった。

お腹と胸に包帯を巻いた彼を練兵場に連れ出す。

彼の前に立った私は、大きな麻袋に砂を詰めて吊るしてから、彼に示した。


「これが貴方の体よ」


私は、ぽんぽんと麻袋を叩いてから、それに回し蹴りを放った。

パァンッ。

いい音が弾けて、砂ぼこりが舞い上がる。

砂が流れる乾いた音が続き、すぐに静かになった。

そして、彼の目の前には、下半分がなくなって軽くなった元麻袋と、砂の小山が残されていた。


「魔法使いの蹴りを甘く見ないこと。人間の体は、この砂袋よりもずっと脆いわ。次はないと思って」


彼は、顔を真っ青にしてこくこくと頷いてくれた。

命は一つしか無いのだ。

油断してはいけないのである。


ちなみにこのデモンストレーション、砂と袋にちょっとした小細工をしておいたのだ。

砂の中にそれっぽく染めたおがくずを混ぜたり、ボロい麻布を使ったりしたのである。

私は非力な女の子なので、代わりに知恵を使ったのだ。

ふっふっふー。

知恵のアリシアと呼んでくれても良くってよ?。



要塞に居残ったもう一人の騎士は、もうすでに帝国で騎士号を受けていた。

そしてその騎士号を剥奪されていた。


「昔、ダチの仇討ちに助太刀しまして。勝てればよかったんですが、案の定、返り討ちです。それでそのまま王国まで逃げてきたんでさ」


この場合、俺の立場はどうなるんですかね?


そう言って笑った訳あり騎士の名前はランベルト・グレン。

王国代表の中では、最年長の27歳で唯一の戦争経験者だ。


彼が参加したという仇討ちは、彼の友人の家に関わるものだった。

彼の友人の家と、対立する家で紛争があり、しかし友人の家だけ取り潰されてしまったそうだ。

すったもんだの末、彼の友人が仇討ちを敢行することになり、友人に恩義があったランベルトは助太刀として参加する。

しかし、バッチリ返り討ちにあってしまい、彼自身の実家からも勘当されて王国へと逃げてきたのだそうだ。

意図せず、相手の家に相当な被害を与えてしまったらしく、帰るに帰れなくなってしまったのだとか。


「俺は特に恨んじゃいないんですが、向こうがなかなか許してくれませんで」と本気で困った顔を浮かべていた。


斜陽の王国は兵が全く集まらず、高い賃金を出して傭兵を集めていた。

帝国と因縁がある彼は、王国の軍に自由騎士として参加し、その腕を買われてそこそこの地位にまで登っていた。

今回の武闘会では自薦して参加したらしい。

「帰参するなら今しかないと思いましてね」

私は笑った。賭けるべき時に自分の命を賭けられる人間は貴重だ。


「どうしてそう思ったのかしら」

「元は帝国人ですからね。殿下のやり方にゃ詳しくないが、陛下の流儀は知っています。立場がありゃ安全だろうな、と」


彼は悪びれずに答えた。


ランベルトは手練だった。

そこで私は、今回の武闘会で彼に八百長を依頼することにした。

対戦相手はクラリッサ、決闘ではなく剣舞を披露して、最後はうまいこと負けるようにと申し伝えた。


「条件次第ですね。流石に、はいそうですかとは言えません」

「私の騎士として取り立ててあげる。どう?」

「そりゃ剛毅なことで。しかし良いんですかい?面倒事がくるかもしれませんぜ」

「貴方の帝国での因縁なら、ノーサイドとすべきところでしょう。聞かせてくれた話のとおりなら貴方に落ち度はないわ。虚偽があるなら貴方の首をもらう。それに重用するとは言っていないわ。実力と誠意を見せて頂戴」

「さっすが、音に聞くアリシア王女殿下、大変お厳しい」


よろしくお願いします。


そう言って彼は、私の提案を受け入れた。

彼からしてみれば、私、アリシアの後ろ盾は、喉から手が出るほど欲しいだろう。

私としても、ちょうど都合が良い人材だったのだ。

私は、クラリッサが担当するお仕事のうち、危険な任務をすべてランベルトに押し付けるつもりだった。

仇討ちで返り討ちに会いながら、それでも五体満足で逃げ切った彼の生き汚さを私は買っていた。


ちなみにクラリッサには何の相談もせずに決めた。

当然、後から彼女には怒られた。


「私の実力は、信用できないということでしょうか?」

「実力の問題ではないわ。なんとなくだけど、クラリッサは死にそうな気配がするの。だから、これは予防措置よ」


私の言葉にクラリッサはキョトンとした顔をした。

彼女は健康体だ。

たしかに、自分がいきなり死ぬなどと言われたらびっくりするだろう。


だが、私はクラリッサを心配していた。

とてもとても心配していたのだ。


突然ではあるが、死んでしまうキャラってどんなキャラだろうか。


例えばジーク。

彼はよく死にそうになる。

では彼は、死んでしまう可能性が高いキャラだろうか。

私の答えは否だ。

なんでかやたらとキツめのイベントを引き込むのは、心配ではある。

だが、私は、彼を主人公ないし、かっこよくてコミカルなお兄さんポジションのキャラであると考えている。

かっこいいの部分は特に強調したい。

私の独断と偏見によるが、この手のキャラは相当に死ににくい。


頼りがいのあるお兄さんキャラは死にやすいと言われるかもしれないが、彼らはたいてい誰かをかばって死ぬ

ジークがかばう相手は私だ。

自分で言ってて照れるが、私だ。

自他ともに認めるところの地上最強生物がかばわれるような事態はまず無い。

自分で言ってて寂しいが、私だからな。滅多なことではピンチになどならぬ。


しかし、地上最強生物て…。

でも、野生の動物に限定すると、地上生物枠外のシャチが水中戦で私より強いぐらいな気がするのだ。

象とかライオン相手なら無手でも勝てる気がしている。

熊とは戦って勝ったことがある。

まぁ、とにかくまず死なない。


ならば危険なのは誰か。

私は、クラリッサが一番危険だと踏んでいる。

彼女の特徴をあげるなら、天才肌、敏腕、如才ない立ち回り。

切れ者系の二枚目キャラだ。

にもかかわらず、実はすごい寂しがり屋で、根はとても優しい。

なんていうか犬っぽいのだ。

もうこの時点で危険な気配がする。

そして、トドメのそこはかとなく漂う、薄幸臭。

この手のキャラは、主人公の片腕として一緒に成功の階段を登る。

そして物語の終盤、彼女自身の幸せもようやく手にできそうなその瞬間に、作者の都合とか物語の盛り上がり的な理由で、殺されてしまうのだ。


クラリッサはまずい。

クラリッサの本当の笑顔は、ふわっとして優しくて、そしてとても儚げなのだ。


危険だ!

とても危険だ!

絶対にそんなことはさせぬ!


ゆえに私は、徹底して彼女を過保護にすることに決めた。


武闘会など、事故の危険性が極めて高い。

クラリッサにだけは二重三重に安全策を敷かせて頂く。

他の奴らは勝手に自衛しろ。


私は、以上のような内容を一部ぼかしつつ力説した。

クラリッサは、涙を浮かべるほど爆笑し、最終的にはこの八百長話を認めてくれた。


「わかりました。アリシア様がそうまで仰るなら言うとおりにしますよ」

「本当に、気をつけるのよ!心配なんだから」

「無礼を承知で言わせてもらいますよ。お母さんかよ!」


お母さんだよ!

今日から私は、クラリッサのママ、アリシアお母さんである。


ちなみに残りの二人には全く心配していない。


ステイシーは、絶対死なない。

あれは私より死ににくいはずだ。確信がある。

今いる帝国メンバーが全滅しても、語り部みたいな顔して最終話か物語冒頭に出てくる。

間違いない。


メアリの一番考えられる死因は戦死だ。

私をかばっての戦死だ。

逆に別行動中は絶対に死なない確信がある。

部隊の半数が戦死するような大敗でも、生存者の中にしれっとした顔で混じってくる。

奴はそういう女だ。

私はその点、メアリを大変高く評価している。



こうして、騎士の人たちは皆、帝国に加わることになった。

王国から来た宮廷貴族っぽい代表の人は、ジークがそのまま登用して使うそうだ。



私達の武闘会、別名王国人材引き抜き作戦は終了した。



上々の作戦結果に、私とジークはニンマリと笑み交わしたのであった。

ステイシー「ちょっと扱いの違いに文句を言いたいですわ」

アリシア「不満があるなら仕事してから言って」

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