アリシアの夜這いと皇子
題名とジャンルを変更いたしました。
活動報告に変更に至った経緯をアップしております。
作者の言い訳が気になる方はご確認下さい。
また、これだけは改めて申し上げたく。
このお話が、恋愛譚ってところだけは、絶対に譲らないんだから!
以上です。よろしくお願いいたします。
事件が発生したのは、エルベスの街に俺が到着した、その日のことであった。
俺の寝室の警備にあたっていたクレメンスは証言した。
アリシアは、その日の夜、膝まで届く厚手の紺色ワンピースに身を包み、ばかでかいふかふかの枕を小脇に抱えて寝室の前に現れた。
素足に毛足の長いスリッパを履いていたそうだ。
今日は白いウサギだ。他に黒とピンクのものがあったはずだ。
湯上がりのいい香りをさせながら、俺の寝室の前に立ったアリシアは、居丈高に要求を述べ上げた。
「アリシア・ランズデール帝国軍元帥だ。ジークハルト殿下に緊急で面会を申し込みたい」
どう見ても寝間着姿のアリシアに、クレメンスは当然の質問を返した。
「ご用件は」
「機密だ。重ねて言うが緊急である」
機密とは何であるか。
機密の案件ではなくて、秘密のあんあんではないのか。
そう思ったが、立場上クレメンスは反駁できなかった。
アリシアに艶姿にやられたからだ。
アリシアの滑らかな銀髪に乗せられた紺色先折れナイトキャップはそれほどまでの破壊力であったそうだ。
引くに引けず、しかし進むわけにもいかないクレメンスは、アリシアに睨まれて狼狽した。
「早くしてくれたまえ」
くっと、アリシアが顔をあげて睨めつけると、それに合わせてキャップ先端にぶら下がったふわふわのボンボンが揺れた。
クレメンスは屈服した。
彼は扉の前を空け、アリシアを通した。
どのみちアリシアが強行突破を計ればどうしようもないのだ。
今、俺が通したところで、時期が早まるだけじゃねーか、もう勝手にしろバカップル。
そう思ったのだそうだ。
率直すぎるだろクレメンス。
「機密だ。一刻ほどは何があっても扉を開けないように」
「…」
「返事は」
「はっ」
こうしてアリシアは俺の部屋に堂々と乗り込んできた。
この時おれは何も気づかずに、平和な眠りを貪っていた。
俺は目を覚ました。
柔らかいものが俺の背に当たる感触がある。
柔らかく、こう、なにか丸い…
これは頬だな。
おれの覚醒した意識は、すぐに答えを導き出した。
アリシアに関する俺の感覚に狂いはない。
多分アリシアが頬をこすりつけている。
摩擦熱で背中が暖かくいい感じだ。
ただ、問題はここが寝室のベッドの上で、今は夜半で、俺が寝間着姿だということだ。
おかしい、これは現実か?俺は自室で眠りについたはず。
夢でもし会えたら素敵な事ねで済ませられるが、現実世界ではそうもいかぬ。
どういうことだ。
否が応にも森での試練が俺の頭をよぎった。
アリシアは、俺が目覚めたことに気づいたようだ。
「おはようございます、ジーク。私、来てしまいました」
「そうか、来てしまったか」
なるほどアリシアが俺の寝室に来ていたのか。
なら仕方ないな。
仕方ないで済ませられるわけがないわ!
なんとか追い返さねばならぬ。
なぜこうアリシアは積極的なのだ。
普通逆だろう。
「アリシア、前にも言ったが…」
「ジーク、私は、ジークが私のこの行為を決して嫌だと思っていないという確信を持ってここに来ています。その上で聞きます。ご迷惑ですか?」
「いいえ、とても嬉しいです」
むふーという声が背後から聞こえた。
これは敵わぬ。
「そのうえで、敢えて言わせてもらうぞ、アリシア。部屋に戻ってくれ。あなたにはもう少しだけ待ってもらいたいのだ」
「なぜですか?私の背丈の事をおっしゃられても引く気はありませんよ。今日のお嫁さんを見たでしょう?」
ああ、なるほどと、俺は得心した。
今回の嫁取り騒ぎで、同じ年頃、同じ背格好の娘が嫁に行くことになったはずだ。
たしかに仲睦まじそうな様子であった。
特に娶られる娘はとても幸せそうな顔をしていた。
あれにあてられたのか。
森とは違って、本当に睦事のためだけに来たのだな。
なお悪いわ!
「私は頑丈でございます」
「なるほどな。だが駄目だ。これは貴女のためではない。俺の意地だ。男の見栄と言ってもいい」
「見栄ですか?」
アリシアがキョトンとした顔をした。
いい機会だ。
俺の心理ついて、教えておこう。
アリシアが生涯知る男は俺だけであるから、これが男の心理と言っても問題あるまい。
「あぁ、男の心というのはそういうものだ。少なくとも半分はこの手の見栄でできている」
「半分」
アリシアが繰り返す。
「愛した貴方を守りたい。傷つけたくない。貴女を守れる自分でありたい。貴女には誠実でありたい。交わした約束を守りたい」
ここで一つ区切る。
「そして、そういう男であると貴女に見てもらいたい。見栄であり美学だ。自分にとって特別な相手に対するこだわりだ」
「特別」
「そう特別だ。特別でなければ、お互い合意のうえだ、好きにする。だが、特別な相手だと逆に手を出せなくなる。美学を貫きたいのだ。それが男だ。馬鹿馬鹿しいと思うか?」
「いえ、嬉しいです」
アリシアは本当に嬉しそうに笑った。
俺は、なるべくアリシアには率直でありたいと思っている。
故にありのままの俺のの心情を吐露した。
喜んでもらえて幸いだった。
これで、あほを見るような目で見られたら、泣く自信があった。
「なるほど、ジークは私を特別だと思ってくださってるんですね。特別。えへへ」
アリシアの照れ笑いが聞こえた。
楽しそうに、俺の背中を指でつつく。
やめてくれくすぐったい。
ひとしきり俺を突つき回して落ち着いたのだろう、アリシアは当然の疑問を口にした。
「今、ジークの心の半分は聞かせてもらったのですけど、もう半分はなんですか?」
「もう半分は欲望だ。詳しく聞きたいか」
「ええ、是非」
アリシアはいたずらっぽく笑った。
そうか聞きたいか。
俺の欲望を。
俺は寝返りをうってアリシアに向き直る。
少し驚いたように身を引いたアリシアの肩に手をおくと、俺は真っ直ぐその目を見据えた。
「貴女を犯したい」
アリシアがひゅっと息を呑んだ。
「貴女を滅茶苦茶に犯したい。貴女の全てを暴いて体を肢体を愛撫したい。貴女の脚に脇に乳房に指を這わせて、貴女の漏らす声を聞きたい。
裸に剥かれて恥じらう貴女を灯りのもとに照らし出して辱めたい。もうやめてと許しを請うあなたを腕尽くで組み敷いて責め立てたい。まだ聞くか?」
みるみるうちにアリシアが真っ赤になった。
対する俺は大変冷静だ。
何を驚くことがある。
こんなのは序の口だ。
俺のアリシア妄想シチュエーションは108まであるぞ。
いや、過少申告だな。
細かいのを合わせればもっと増える。
真っ赤に茹で上がったアリシアが胸元を抑えるようにしながら叫んだ。
「ジーク!私を見ていつもそんなことを考えているんですか!?」
「おうとも」
「エッチ!」
「言われるまでもない」
「もうもう!」
「今も貴女のスカートの中に手を突っ込みたくてウズウズしている」
アリシアは慌てて股を閉めるとスカートを手で押さえた。
今度は胸元に隙ができたな。
手を突っ込みたい。
俺はため息をついた。
「男の欲望などよく知っているだろうに」
「いえ、たしかに知ってはいますけど!いましたけれど…。ジークの口から直接聞くのはやっぱりびっくりしてしまいます。恥ずかしい」
夜這いまでかけておいて恥ずかしいも何もないだろうに、と俺は思ったが、口には出さなかった。
それだけ信頼されているのだと思えば悪い気もしない。
「真面目な話をすると、関係を進めると楽しみが減る事も多いからな。俺達は茶会の機会ももっていないし、夜会もダンスもまだだろう」
「そういえば、そうですね」
「関係を焦って進めて、他の思い出が色褪せてしまうのも惜しい。今一番楽しめるものから楽しんでいければいいと思っている」
なるほど、とアリシアは手をうった。
「ファーストダンスとセカンドダンスのお作法は楽しんでみたいです。お茶会もですけど、夜会で夜のお庭を二人でお散歩するのも素敵」
おそらく恋愛小説から仕入れたのだろう、アリシアは可愛らしい希望を並べた。
かわいいなぁ。
だが、アリシア、夜会の夜の庭はもよおした男女がそこら中でいたしているからあまりロマンチックな気分にはなれんぞ。
別の雰囲気を味わえること請け合いだが。
アリシアがため息をついた。
「先にこっちの理由を言ってくれれば、良かったですのに…」
「俺の本音は聞きたくなかったか?」
「いえ、聞けたのは良かったですけど!よかったですけれど、絶対意識してしまいます」
そうとも、意識してくれ。
男とは狼なのだということを。
たとえ赤ずきんのほうが遥かに精強で、積極的であったとしても、狼がその心を忘れるわけではないのだ。
しばし布団の中で見つめ合う。
アリシアが笑った。穏やかな笑みだ。
「ジーク、わかりました。もうちょっとだけ待ちます」
「そうか分かってくれたか」
「でもその代わりにお願いがあります。私、今一番したいことをしたい。あなたと」
「なにかな」
アリシアは目をつむった。
「キスして」
私、ファーストキスですから。
そうアリシアは言った。
嘘つけ、組討の稽古で顔面ぶつけて四十路近いおっさんと事故ったことがあるとメアリから聞いているぞ。
などとはもちろん口にしない。
俺のファーストキスも他の女だからな。
絶対喧嘩になる。
俺はアリシアの額にキスした。
「違います」
ついばむように、アリシアの薄い唇に口付ける。
「もっと」
俺は唇を重ねてすぐに離した。
「もっと」
今度はもう少しだけ時間をかけた。
アリシアはもうねだらなかった。
代わりに彼女は俺に組み付き覆いかぶさると、腕を頭の後ろに回し、唇を重ねる。
アリシアは、熱く湿った唇を押し付けると、俺の都合などおかまいなしに口の中に舌を這わせた。
それからしばらく布団の中での攻防が続いた。
五分後、おれはようやくアリシアの捕獲に成功する。
俺は、アリシアを脇から持ち上げて、扉の前まで搬送すると、外で待ち構えていたステイシーにこの雌豹を引き渡した。
アリシアは「もっと」と呟きつつ反抗的な顔でぶすくれていたが、特に暴れること無く近衛騎士に運ばれて自分の部屋へと戻っていった。
残された俺は、クレメンスに伝えねばならぬことがあった。
悲しい事件があったのだ。
「すまん、やらかした。俺の着替えを持ってこさせてくれ」
「…はっ」
俺は皇子から賢者に転職していた。
アリシアの「もっとー!」という声が、廊下の奥からこだまして消えていった。
アリシア!他の方のご迷惑になるから静かにしなさい!
アリシア「パジャマは黒とか紺が好き」
ジークハルト「えろい」




