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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
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長期休暇とわたし

「暇ができた」


その時、私達は帝国北部国境線沿いの宿営地にいた。

北方遠征は無事完了した。

私達の完全勝利だ。

ちょっとした戦勝パーティーも済ませて、終わったね、無事に勝ててよかったね、という雰囲気が漂う会議の席上でジークが言った。


暇ができた、と。



今回の遠征は、当初の予定では移動と準備諸々に一ヶ月、作戦行動に二ヶ月という予定が組まれていた。

だが、皆の頑張りもあって、おおよそ一ヶ月半で、すべての作戦は完了した。

結果、私達には、一月ちょっとの思わぬ暇ができたのである。


臨時休暇。


ジークの言葉を聞いて、帝国軍の皆さんが、そわっとした雰囲気を出した。

ランズデール騎兵隊の皆は、それをちょっと羨ましそうな顔で見ている。


そして、私をはじめとした女性陣はじとーっとした目線を彼らに向けた。



戦争で大勝利して、休暇と臨時ボーナスが出た兵隊さん達が、楽しみにしていることとは何か。

古今東西、答えは一つである。

みんな女の人に会いに行きたいのだ。

帝国軍の皆さんも、ランズデールの馬鹿共も、綺麗な女の人のところに行って、戦場の辛さや苦しさを優しく慰めてもらいたいと思っているのだ。


ここで、これまで鉄の結束を見せていた帝国軍とランズデール領軍に温度差が生じていた。

帝国軍の皆さんにとっては、帝国領内はホームである。

彼らにとっては、もう今回の作戦は終わっていて、これからはお楽しみの時間であった。

一方のランズデール領軍は、まだ帰還の途上にある。

私も常々、勝っておうちに帰るまでが戦争であると、口を酸っぱくして言っている。

無事、領都に帰還するまでは、まだ作戦は終わっていないのだ。

当然、女の人に会いに行くのもそれまでおあずけである。


でも、俺達にもご褒美が欲しい。

そんな願いに背中を押されてランズデール騎兵隊の一人から提案があがった。


「アリシア様、我がランズデール領軍も一旦ここで解散し、この後は各自の責任で帰還としてみては如何でしょうか」

「だめです」


いい年したおっちゃんの、すがるような提案を、私は無慈悲に却下した。

どこの司令官が、作戦行動中の部隊を現地解散させるというのか。

貴様らは私を馬鹿にしとるのか。


そんな私の様子を見て、ジークが少し残念そうに眉を下げた。


「やはりアリシアは帰還を優先するのか?折角の機会でもあるし、一緒に観光でもと思ったのだが…」

「お待ち下さい、殿下。考慮します」


私はマッハで手のひらを返した。

手首ぐるんぐるんである。

ドリルハンドアリシア、高速回転モード!


私は並行して、クレバーな頭脳も回転させた。

焦ってはいけない。

よく考えるんだアリシア。

ここは激戦を通じて深まったジークとの仲を、一気に進める絶好のチャンスだ。

ジークとの個人的な距離もかなり近づいている。

いい感じに下がってきたガードを、素敵な観光地の雰囲気にまかせて突破してしまいたい。

最終的に、期限内に全部隊が帰還出来ればそれでいい。

こいつらだって子供じゃない、現地の人に案内してもらえればいけるいける。


私は頭の中で、楽観論を必死に並べ立てた。

ジークとの初の観光旅行は、それぐらい私にとって魅力的だった。


ただなぁ…


私は、横目で、僕達なら大丈夫だよオーラを出しつつ眼からキラキラビームを放ってくるおっさんたちを睨んだ。

懸念はやはりこいつらであった。

今のランズデール騎兵隊は、戦争が終わった開放感に溢れ、臨時支給されたボーナスと十分な長さの余暇があり、そして国外の大規模戦闘に参加できるほどの重装備を所持しているのだ。

そんなおっさんを6000人も野放しにして、何も起きないはずがなく…


私は迷った。

迷った末に屈した。

このおっさん達と、なにより自分自身の欲望に。

せめて問題が起こらぬようにと、案内と通訳に帝国軍から人を借り、小隊単位の行動を厳命したうえで私は現地解散の許可を出した。


「全員欠員なく二月以内に帰還すること。現地で問題を起こさないこと。この二点が守られなければ、次からは私が帯同してでも絶対に帰還させます。いいわね!?」

「「「はっ!!!」」」


ほんと返事だけはいいんだよなぁ、こいつら。

私は半目になりながら、帝国兵の皆さんと一緒に繰り出して行く王国南部出身のお上りさんたちを見送ったのだった。



私は切り替えることにした。

自分ではどうしようもないことを、いつまでも心配したところで仕方がないのだ。

なるようになるさ、と開き直った私は、騎兵隊の皆と分かれて、ジークと行く初の観光旅行に出発した。

目的地は北部森林地帯の入り口ブルッフザールだ。


ジークとメアリと親衛隊の皆様を引き連れて、いざ出発である。


「待て、アリシア。一人で行かないでくれ。道がわからないだろう」

「いえ、このあたりは一度来たことがあるんです。お任せください」


初のデート、しかも外泊付きである。

わたしのテンションはがんがん高くなり、どんどん先行して皆を引き離し、追いかけてきたメアリにがみがみ説教された。

独断専行ならぬ先行がひどかった私は、そのまま自分の乗馬を取り上げられてしまった。


「楽しみにしてもらえているようで、嬉しいよ」

「ちょっと、はしゃぎすぎました。お恥ずかしい」


ジークに苦笑交じりに囁かれた私は、えへへ、と笑ってごまかした。

私を怒ったメアリであるが、徒歩で走るか、ジークハルト殿下に同乗させてもらうかしろと、二択になってない選択を私にせまった。

私は一も二もなくジークの鞍に飛びついた。


メアリ!ナイスアシスト!


我が友メアリはとんでもない策士である。

私はるんるん気分で、二人がけにしたジークの鞍の前に乗り込んだ。

他の人に手綱を任せるのは本当に久しぶりだ。

両手がフリーになった私は、馬の背を撫ぜたり、ジークの手をくすぐって怒られたりしながら楽しく道中をすごした。

澄み渡る青い空と、北に望む山々の白い尾根のコントラストがとても綺麗だ。

風光明媚な草原を馬に乗ってかける、お嬢様みたいにおめかしした私と、正装してきりっとかっこいいジークは、もしかしてとっても絵になるんじゃなかろうか。

わたしは心の中でにんまりと笑った。


「えっきし!」


だがちょっと寒いな。

鼻水がたれなくてよかった。

私はすまし顔を取り繕うと、ジークの腕の中でしゃんと背筋を伸ばしたのだった。



「ようこそ、ブルッフザールへ」


目的地にたどり着いた私達を、街の入口で延々と同じ挨拶を繰り返す暇人みたいな台詞とともにコンラートが迎えてくれた。

メアリが眉をひそめた。


「どうしてあなたがここにいるのですか…」

「君に会いたくて」


コンラートがキメ顔で言った。

え、どういうことなの!?とちょっと吃驚したが、思い返せばそう珍しいことでもなかった。

メアリは美人なうえ、雰囲気が控えめで見た目も華奢な女の子だから、異性からやたらともてるのだ。

本当の姿は蛮族もびっくりするぐらいの戦闘民族なのに、男の人ってすぐ騙されるんだから、もてない私はやってられない。

今はジークがいるからいいけどさ!


「口説くのなら、先に俺たちを案内してからにしろ、コンラート」


そのジークはしかめっ面だ。

こんな町の入口で、大所帯抱えながらの立ち話は通行の邪魔である。

みんなで連れ立ってお宿に向かうことになった。


しかしよりによってコンラートを引っ掛けちゃったのか…

罪な女だなぁ、とか思いつつメアリを見やると、とてもめんどくさそうな顔をしながら、コンラートにおざなりな返事を返していた。


メアリも嫌じゃないのか。

珍しいこともあるものだ、と私はコンラートにちょっとだけ感心した。



宿は、この街の一番いい旅籠にお部屋を借りた。

皇室だから街の有力者さんからも招待があったようだが、ジークはお断りしていたようだ。


「挨拶やら晩餐会の招待やらがあって面倒くさい」


この言葉に私も心から頷いてしまった。

これなら、どっぷり楽しめそうだ!



明日からは、観光旅行の始まりだ。とてもとても楽しみである。

遠征を終えて家路へ向かうランズデール騎兵達。疲れからか、不幸にも黒塗りの高級馬車に追突してしまう。部下をかばいすべての責任を負ったギュンターに対し、車の主、公爵令嬢アリシアが言い渡した示談の条件とは…


ジークハルト「おっと、そこまでだ」

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