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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
33/116

戦場の夜と皇子

俺は本営にあって、作戦の状況がなかなか分からず非常にやきもきしていた。

アリシアが心配だったのだ。

本当にどうかしていると思うが、彼女が傷ついたり囚われたりしていないかと思うと、強い焦燥感におそわれた。


アリシアはメアリを俺の傍に預けていた。

メアリはアリシアの腹心であり、今回の作戦の相談役として俺のお守りを担当していた。

常の冷静さを欠いている自覚があった俺は、少し考えてから彼女に尋ねた。


「今日、アリシアが夜営する宿営地はわかるか」

「状況次第です」

「俺はアリシアを直接出迎えたい。可能か」


この日の行程は、戦闘が長時間に及んだ場合やアリシアに不測の事態が発生した場合、途中で中断されることになっていた。

このためアリシアの宿営地も定まっていなかった。


メアリは少し考えてからこう答えた。


「どこになるかはわかりません。ですが、殿下が向っても問題ない宿営地は一番西の第四宿営地だけになります」

「理由は?」

「他で出迎えられますと、作戦行動中のアリシア様の邪魔になります」

「わかった」


要はアリシアの邪魔をせず、彼女の作戦完遂を信じて待てということだろう。

俺はアリシアに会うために第四宿営地に向かうことになった。


本営を離れようとする俺を見て、クラリッサは肩をすくめた。

「第四ならここからすぐですからね。大丈夫でしょう」

彼女は連絡将校として、本営に待機してくれるそうだ。

助かる。俺はメアリと護衛を伴い本営を出た。


ちなみにであるが、俺が本営を離れる件については、概ね好意的に受け入れられた。

アリシアと行動をともにしたほうが、事故の恐れも少なかろうという事だそうだ。

今回の作戦の実質的な司令官はアリシアで、俺の司令官職がお飾りであったことも関係しているだろう。

「北弦作戦の殿下は、帝国東部方面軍司令官ジークハルトじゃなくて、ランズデール元帥のお気に入りの男ジークだったんですよね。アリシア様のご機嫌取りをしてもらえるなら、むしろ期待通りの働きです」

とは黒髪の悪魔クラリッサの評であった。

この作戦における俺の重要度の低さが伺えようというものだ。



俺が第四宿営地に到着したのは、太陽が中天を過ぎた時分であった。

その後、日が暮れ、夜になってもアリシアは帰って来なかった。

天幕の中で待つよう勧められたが、俺は断った。

なぜだろうか。アリシアを一番最初に出迎えたいと思ったのかもしれない。

アリシアの宿営地が別に決まるか、帰還するまで待つと言い渡し、長外套と床几を持ってこさせた。

長期戦の構えである。


闇の中、篝火がたかれた。

暖冬とはいえ、北方の夜は冷える。

俺を心配した従卒が、都合三度目の忠言にきて、俺と二人、天幕の中に入る入らぬで言い争っていると、馬蹄の音が聞こえた。


アリシアだった。今日の作戦は、成功したのだ。

良かった。

俺は立ち上がった。


「アリシア!」

「殿下!」


アリシアは下馬すると、迎えに出てきたものに乗騎を預けてこちらに歩いてきた。


「何分、戦場帰りにございますゆえ、この様なありさまでして。すぐに身支度を整えてまいります。失礼」


俺がなにかを口にする前に、アリシアはそう言い置くと、騎兵隊の男を二人連れて天幕の中に入っていった。

周囲の暗さと、鉄帽子のせいで彼女の表情は伺えなかった。

すれ違いざま、僅かに、血と汚物を混ぜたような、すえた臭いがした。


一気に頭が冷えた。浮かれた自分の考えを俺は恥じた。

のこのこ本営を離れて、こんなところでなにをしているのか、そうアリシアに咎められたような気がしたのだ。

しばらく呆けていた俺だが、傍らに立つ従卒からの非難がましい視線に気付いて我に返った。

彼女は身支度をすると言っていたが、俺はそんなことよりも先に、彼女を労いたいと思ったのだ。

初志は貫徹した上で、叱責されるなり、呆れられるなりしたほうがいいだろう。


俺はアリシアの天幕をくぐった。

天幕の中では甲冑を脱いだアリシアが、騎兵隊の男に世話させて、体の汚れを拭わせていた。

アリシアの白い肌と小さな乳房が見えた。

アリシアは上半身裸だった。

彼女は俺を見て、苦笑した。


「殿下、身支度を整えると申し上げたはずです。覗きはあまり感心しませんな」


この時、おれは何と言うべきだったのだろうか。

俺は、俺が一番最初に口にすべきだと感じたことを言った。


「すまないが二人共、ここから出ていってくれないか」


俺の言葉を受けて、アリシアは、短く「さがれ」と命じた。

騎兵隊の二人は、一礼して部屋を出ていった。

俺はアリシアに向って一歩踏み出した。


「少し汚れております。着替えますゆえお待ちを」

「構うものか」

「垂れ流しなのですよ。ご理解ください」


そうか。

アリシアは絶食中であっても水は飲む。

俺の察しの悪さが悔やまれた。

俺は回れ右して天幕を出ると従卒を呼びつけた。

湯と清潔な布と洗髪料と温石を手配させると、それらを抱えて天幕の前に立った。


「入ってかまわないだろうか!」

「どうぞ」


答えたアリシアの声は、少し笑っていたように思う。

中に入ると、アリシアはまだ上半身裸のまま、体を拭いていた。

下は着替えたらしく、真新しいズボンを履いていた。


「手伝おう」

「助かります」


俺の申し出をアリシアは快く受け入れてくれた。

アリシアの体は、とても綺麗だとは思ったが、そういった気分にはならなかった。


あぐらをかいたアリシアの背中や脇を丁寧に拭う。

冬とはいえ、一日中戦場の只中にあった彼女の体は、汚れていた。

濡れた布で肌の汚れを丁寧に落としてから、乾いた布で水を拭きとる。

アリシアは自分で前のほうを綺麗にしていた。


「髪も綺麗にしよう」

「臭いますか?」

「ああ、とてもくさい」


ひどい!そう言いながらアリシアは楽しそうに笑って、詰めていた髪を解いた。

当然だが、彼女の髪が臭ったわけではない。

こう言ったほうが、アリシアが素直に言うことを聞いてくれそうな気がしたのだ。

湯と洗髪料でアリシアの髪を湿らせてから、木櫛でゆっくりとすいていく。

アリシアは、気持ちよさそうに目を閉じて笑っていた。


「なんだかこんな場所なのに、お姫様みたい。楽しい」

「喜んでもらえてなによりだ。他に何か望みはあるか?なんでもするぞ」

「じゃあお膝に乗せてください」


一通り身支度を整えて上着を着たアリシアは、そう言うと返事を待たず俺のにあぐらの上に座り込んだ。

小さな尻をもぞもぞさせて、丁度落ち着く場所を探っているようだ。

俺が腹の前に腕を回すと、その腕を上から抱え込むようにして、彼女は体重を預けてきた。


「足がしびれたら言ってくださいね。言われるまでずっと乗ってますから」

「アリシアは軽いからな。朝まで抱えていることになりそうだ」


アリシアは笑った。

アリシアには、俺を責める様子など微塵もなかった。

彼女に失望されたのではないと知って、俺は安堵の息を吐いた。


「アリシアが怒っていなくてよかった。出迎えた時にろくに挨拶もできなかっただろう?貴女に幻滅されたのかと思った」

「そんな!ジークが来てくれて本当に嬉しかったんです。でも、ほら、私、とても汚れていたでしょう。恥ずかしかった。我ながら情けない理由なのですけど…」


でも、私、臭かったでしょう?

アリシアの声は少し寂しそうだった。

たしかに、一般論でいうなら、彼女の姿は見苦しいものだったかもしれない。

だから、俺は本音を言った。


「とても綺麗だった」


ついでにこうも付け加えた。


「俺がこう言うとわかっていて、聞いてくれたんだろう?」

「…期待はしていましたけど、それを言うのはずるくありません?」


アリシアは少しすねたような顔で俺を睨んでから、でも、ありがとう、と小さく付け加えた。

アリシアの頭を右手で撫でてやると、彼女は嬉しそうにじゃれついていた。

そうだ、俺にはもう一つだけ言うことがあった。


「もう他の男には、貴方の裸を見せないで欲しい」

「ジークがずっと私についてきてくれるなら、いいですよ」

「…最大限の努力を払うと約束する」


ここで、必ずついていく、と断言できなかった俺を許して欲しい。

我ながら情けない話だが、アリシアに嘘は言いたくなかった。

努力はするが、彼女についていける絶対の自信はない。

うなだれてアリシアの肩にもたれかかった俺をアリシアは慰めてくれた。


「実は私も、少し嫌だったんです。前は平気だったのに、不思議」


だから頑張ってくださいね、ジーク。そういってアリシアは俺の肩を叩いた。

アリシアに頑張れと言われたので、俺は頑張ることに決めた。



俺は、今日の作戦のことをアリシアに尋ねた。

聞いて今の俺になにができるわけでもないが、彼女の戦いを知っておきたかったのだ。

アリシアは、「私、弱くなったかもしれません」と、真面目な顔で言い置いてから、彼女の戦果を話してくれた。


本人の自己申告によると弱体化しているらしいアリシアは、

都合十二回の強襲作戦を指揮し、蛮族800を討伐、5000近くを敗走させた。

自軍の損害は騎兵部隊に重傷者8名、軽傷者複数名だ。戦死は無し。

これに加えて、アリシア個人が、首級120以上をあげていた。この首級にはすべての敵指揮官が含まれる。


弱体化とは一体なんであるのか。

完全体となったアリシアは、どんな存在と化すのか。

俺が、膝の上で楽しげに笑う可憐な少女の不思議に背筋を震わせていると、メアリが入ってきて、就寝時間を告げた。


一応男性であるところの俺は、天幕を追い出された。

俺は、しばらく夜風にあたってから就寝することにした。

少し頭を冷やしたかった。

ずっと俺に付き合ってくれた忠義者の従卒には、後で酒を持っていって労った。



翌日のアリシアは、日が高くなるまで眠っていた。

この日は、新たな敵の捕捉と部隊の再配置が行われた。

今回の作戦では、遠見の魔法が使える。

安全に敵位置を捕捉しつつ部隊を展開できるため、斥候を危険にさらす必要もない。

アリシアは睡眠時間を多めに取れると喜んでいた。


午後になり、アリシアは、翌日の出撃のために宿営地を出発した。

今日は一番東の宿営地で一晩明かし、翌日の出撃に備えるそうだ。


「殿下は、ここで待っていてくださいね!私、必ず戻ってきますから!」


そう挨拶して出発したアリシアは、それから都合3回出撃し、3回とも俺が待つ宿営地に帰還した。



前段作戦も終盤になると、絶食続きのアリシアの空腹感も耐え難いものとなるらしい。

彼女は、食事の代わりに俺の手指をねぶっては、口の無聊を紛らわせていた。

あまりに一心不乱に口にふくむので、可愛くなってからかってみたところ、怒ったアリシアにかなりの力で齧られた。

俺の迂闊さの代償は、人差し指からの出血と、全治一週間の裂傷だった。

総司令官の負傷で作戦の戦果を汚したとして、俺は後に幕僚たちから散々に責められた。

これはアリシアのためにした、名誉の負傷である、と俺は主張したが、アリシア以外はだれも認めてくれなかった。

俺は納得しかねる。


前段作戦は順調に推移し、蛮族共のアリシアに対する恐怖は限界にまで高まっていた。


そして、蛮族部隊の集結が確認される。

敵総数は約20000。



作戦は、後段へと移行した。


メアリ「やめて!アリシアの強襲突撃で直卒の親衛隊を薙ぎ払われたら、この戦いに全戦力投入してる蛮族王の勢力まで燃え尽きちゃう!お願い、死なないで蛮族王!あんたが今ここで倒れたら、帝国北部を荒らして回る略奪計画はどうなっちゃうの?兵力はまだ残ってる。ここを耐え切れば、アリシアに勝てるんだから!」

ジークハルト「いや、無理だろ」

アリシア「次回、蛮族王死す。デュエルスタンバイ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] おいおい血塗れと臓物あと汚物まみれの戦場での純愛とかこれはいかにww 温い乙女ゲームっぽい導入からこの展開は新鮮でこの作品は面白いな。
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