近衛騎士とわたし
ちょっと紹介が前後してしまい申し訳ない。
今日は私に仕える事になった、クラリッサとステイシー、二人の近衛騎士について紹介したいと思う。
私が彼女たちから自己紹介を受けたのは、ジークとの顔合わせの翌日のことだった。
「クラリッサ・エベルバーンと申します。
帝国軍近衛騎士団所属です。
本日より、アリシア様付きとなりました。
どうぞよろしくお願いいたします」
「ステイシー・レセ・ラナと申します。
近衛騎士団所属です。
同じくアリシア様付きとなります」
彼女たちとは改めて握手をかわし、差し出された帝国軍の制服と帯剣を受け取った。
ぴかぴかの新品である。
あの帝国の軍服を、自分が着ることになるのかと思うとちょっと感慨深い。
ちなみに帝国軍の軍服は、黒字に金の刺繍で大変格好いいのであるが、夏場は暑そうなのが気になるところだ。
私とか日中ずっと外にいることが多い。
蒸し焼きになりそう。
愚にもつかないことを考える私に、クラリッサはカゼッセル要塞で過ごすにあたってのいろいろを教えてくれた。
「お部屋から出られる時はこちらをお召しください。
外出される時は私、クラリッサに一言お願いしますね。
申請しておきますんで! 」
締めにそう言って、彼女はびしっと敬礼を決めた。
この間、ステイシーはずっと微笑みを浮かべていた。
クラリッサ・エベルバーン。
割と人懐っこい感じのする彼女は、黒髪ボブに黒い瞳の女の子だ。
年齢は秘密らしいが、彼女のことを女の子っていうと、ちょっと喜ぶから参考にして欲しい。
彼女が自称するところの、信頼できて、有能で、かつ社交性がある近衛騎士なクラリッサは、ジークが近衛騎士団から引っ張ってきたらしい。
私にとって大事なジークとの連絡役である。
ちなみに彼女はジークハルト殿下とは父方の従兄妹にあたる。
ステイシー・レセ・ラナ。
こちらは金髪碧眼の美人さんだ。
年齢は二十七歳でなんと二児のお母さんらしい。
純粋な護衛役で腕っ節に自信があるとのことだった。
後に、腕っ節以外がからっきしだと判明する。
主夫業をしている旦那さんに子どもたちを任せて、自分は出稼ぎに来たのだそうだ。
「母がいなくても子は育つ」とのこと。
なんだかたくましそうな方だが、見た目はたおやかな美人さんである。
ちなみに彼女は当代皇帝のフリードリヒ陛下とは父方のはとこにあたる。
そう、このふたり、帝室の血を引く方々なのである。
驚きに目を見張る私の横で、同僚になる予定のメアリ准男爵が白目を剥いている。
おかしい、メアリの爵位が霞んで見えるよ……。
「ちょっとだけ、帝国の近衛騎士団についてお話しますね」
そう言ってクラリッサは語ってくれた。
はじめに私の王国の近衛騎士団に対する印象を語っておこう。
私の、ひっじょーに独断と偏見に基づいた、彼らに対する評価は、着飾ったカカシである。
私の立場上、評価が辛くなってしまうのは申し訳ない。
私の感想を聞いて、「帝国の近衛騎士団も最初は似たような感じでした」とクラリッサは笑った。
帝国の近衛騎士団も、設立当初は帝室の護衛を担当していたそうだ。
ただ陰謀やら何やらに対して、ずっと受け身で守っているだけってわけにもいかない。
やられっぱなしだとどんどんエスカレートしてくからね。
経験あるある。
そこで諜報部の一部門が、主として宮廷に関わる任務を担当するようになったのだ。
が、しかし。
皇子と皇子の陰謀合戦みたいなのになってしまうと、身分の関係でなかなか立ち入れない。
そこで、歴代の皇帝やらお偉いさんやらが、その手のやんごとない方々用の機関を立ち上げた。
立ち上げまくった。
みんな自分に都合の良い機関を、ぽんぽんぽんぽんたちあげて、収拾がつかなくなってしまったそうだ。
そこで先代の皇帝が、「帝室を守るすべての業務は全部近衛騎士団! 」とまとめて今に至るそうだ。
今の帝国の近衛騎士団は、皇族の直接の護衛ももちろんするけれど、情報収集や陰謀の阻止みたいな捜査権、執行権も兼ねそなえた一つの機関なのだそうだ。
要するに帝室絶対守るマン&ウーマンの集まりである。
ほー、と他人事のように感心する私であったが「アリシア様がご成婚されたら、またもう少しお話しますね」と言われてしまい思わず苦笑してしまった。
まだ気が早いよ!
騎士団員に帝室と血縁がある人間が多いのも、お仕事的に血統が役立つ場合がままあるためだ、と教えてもらった。
ちなみに血はつながっているけれど、ふたりとも両親や祖父母が臣籍に降りているので、帝国における身分は平民である。
もともと帝国内だと皇族でも法律的な身分差は殆ど無いんだけども。
ロイヤルな同僚に囲まれるのでは!? と不安でぷるぷるしていたメアリは、ほっと一息ついていた。
でも、メアリはなんだかんだ図太いから、すぐ慣れたんじゃないかなって私は思うよ。
帝国の戦う女性事情についても聞くことができた。
私の将来にも関わることである。
神妙に拝聴させてもらった。
王国では、女性の軍人というのはほとんどいないのだが、帝国でも事情は変わらないらしい。
ただ女の人でも、魔力の関係もあって無闇に強かったりする人がいる。
近衛騎士はそんな女性の才能を活かせる数少ない職業なのだそうだ。
このため競争率が高くて、腕っ節にもそれなりのものを求められるらしい。
昔から荒事志望が強かったステイシーは、まさにこの女傑枠で近衛騎士団に入ったのだとか。
「微笑みのステイシーといえば、それなりに有名だったんですよ」
とステイシーが教えてくれた。
二つ名はさほど強そうに聞こえないが、腕前は相当なものらしい。
あとその笑顔には年季が入ってるのね……。
一方のクラリッサはお家が貧乏だったので、若いうちからお給金がいい近衛騎士団を志望したとのこと。
皇子の従兄弟なのに貧乏なの!? と聞いたら
「特に、ここ何代かの皇帝陛下はみんな子沢山なんで、いろいろあるんです」
と笑っていた。
もっぱら書類仕事を頑張っていたのだが、三年ほど前に殿下に引っ張られて、彼付きで働くことになったそうだ。
自分の仕事が評価されたに違いない! とよろこんだ彼女だったが、殿下に理由を聞いてみたところ、そっけなく「いとこだったから」と返され、それはもうがっかりしたのだとか。
それ以来殿下とは何かと縁があり、今回、私のために本国からきてくれたらしい。
「アリシア様は殿下の天敵ですからね! これから楽しみです! 」
との決意表明に私は笑った。
「あんまり殿下を困らせるものじゃないわ。
それにステイシーから殿下に言いつけられるわよ? 」
ステイシーは見た目だけ見れば落ち着いた女性だ。
私は、てっきり彼女をお目付け役か何かだと思っていたのだ。
大外れだった。
彼女は首を横に振った。
「私はジークハルト殿下ではなく、両陛下の命で参りました。
息子の意中の女性を見てこいと言われまして」
殿下をやり込めるのでしたらご協力しますよ。
陛下にいいおみやげ話ができそうですし。
そう言って、ステイシーはまた微笑んだ。
……今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がするんだ。
不安に眉をひそめる私の横では、メアリが口から魂を吐き出しそうな顔で固まっていた。
現実逃避するなら、私も連れて行っておくれ、メアリー!




