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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
花嫁アリシア
108/116

皇后陛下とわたし 後編

さて、私、アリシアであるが、帝国に来てお芋を掘っているだけでは無い。

ちゃんと社交にも、顔を出すようにしている。


お義母さまの陰に隠れて。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ、アリシアさん」


「ありがとうございます、お義母さま」


お義母さまの後ろを、水色のドレスを着た私は歩く。

日中の威勢の良さはどこへやら、すっかり大人しくなった私の姿は、メアリも楽しげに心配するぐらいだ。


ううう、私は目を潤ませる。

だって怖いんだもん。

なんと私は帝国で、持ち前の人見知りを爆発させていた。


もともと、知らない人とおしゃべりするのは、落ち着かないのだ。

周りの視線も気になるし。ひそひそ話が聞こえると心が波立ってしまう。

王国時代は気を張って頑張っていたのだけれど、今は皇后陛下に頼れるので、甘ったれな私はついついべったりになってしまうのである。


私は、今日も今日とて、若干、挙動不審気味であった。

そんな私を見かねてか、お義母さまが扇子で口元を隠しつつ私の耳に顔を寄せる。


「アリシアさんは、本当に社交が苦手なのね。なんだか不思議だわ。いつもは、本当にしっかりしているのに」


「はい、申し訳ありません……」


「あら、やだ。謝らないで。一緒に来てもらえるとありがたいのは、私の方なんだから」


お義母さまが、ふんわりと笑う。


安心するなぁ。

つられて私も、間抜けな笑みを浮かべた。

メアリ曰く、私の顔は「温泉に浸かって脱力する、おおきな鼠のようだ」とのこと。

どんな顔か、いまいち想像がつかない。

でも、とっても間抜けそうな感じがした。


なにはともあれ、お義母さまが一緒だと、私の安心感が全然違うのだ。

優しいお義母さまに助けてもらい、私は、ほっと小さく息をついた。



帝国にお嫁入りする事になった女王アリシアであるが、彼女の社交周りの布陣は、がたがたのぼろぼろであった。


まず私が頼れる腹心として、メアリの名が挙げられるのだが、ご想像の通り彼女も社交は苦手である。

メアリは、その能力も経験も、私と似たり寄ったりだ。

だから二人で帝国の社交界に出たとしても、田舎もの同士で肩を寄せ合って、部屋のすみっこでぷるぷる震えるぐらいしかできないのである。


それは、もう、社交では無い。

ジークやコンラートは喜びそうだが、そういう見世物ではないのである。


次に生粋のお嬢様エリスだ。

彼女は、とーっても頼りになるのだが、何分出身地が帝国東部であった。

顔の広い彼女も帝都には、ほとんど知り合いがいない。


「私も、すぐにお役に立つのは、難しそうです。面目ない」


エリスは私の頼りの綱ではあるのだが、なんと彼女も万能では無かった。

割とこの手の活動については、最強無敵な印象だったのだが、彼女にも不可能があったのだ。

知らなかった。


あと、エリスの物言いが、クラリッサに似てきていて、そこはちょっと面白かった。


だが、エリスでも駄目となると、私にはもう手札が残っていない。

これは困ったと頭を抱えているときに、お義母さまが私の引率を申し出てくれたのだ。


「お芋掘りのお礼と思って頂戴な」


この、とーってもありがたい申し出に、私は即座に飛びついた。

まことに情けない嫁であるが、お義母さまはこれっぽっちも嫌な顔はせずに、やさしく手引きを請け負ってくれたのだ。


「大丈夫よ。ゆっくり慣れていきましょうね」


「はい」


カートレーゼお義母さまは、とっても優しい。

すっかり安心した私は、甘えん坊の本性をむき出しに、陛下にぺったり張り付くようになったのである。


こうしてイソギンチャクのアリシアが地上に舞い降りた。


お義母さまは、大きなヤドカリだ。

私は、ぺたっと背中に張り付いて毒針のついた触手でもって、お義母さまを守るのだ。

ちなみに、威嚇効果は極めて低い。

残念ながらアリシアは、そのびびり癖を発揮してしまい、社交場ではてんで役にたたなかった。


駄目な嫁である。

我がことながら情けない。


しかし、これは悪い事ばかりでも無かった。

こうやって自分の無力をさらしたおかげで、私はすごい秘密を知ることになる。

実は、カートレーゼお義母さまは、とてもすごいお方だったのである。

私は、最初からお義母さまのことを尊敬していたのだけれど、全然、これっぽっちもそのすごさを理解できていなかった。


本当は秘密なのだけど、皆さんにだけは、特別にお教えしよう。

こころして聞いてもらいたい。



私は、五日に一度ぐらいの割合で、お義母さまと一緒に社交場へと顔を出していた。

そしてお義母さまのお友達に紹介して頂くのだ。

陛下のお友達は、皆、お義母さまと仲良くされているというだけあって、優しくて、少し変な方達だった。

故に、少し変わり者の自覚がある私も、安心してお話しができた。


私は、よくお友達の皆さんに田舎民の生態についてお話しした。

これが意外と受けが良かったのだ。

特に人気だったのは、農家の短期労働者アリシア嬢のお話しだ。

皆さんにとっては、この馴染みが無い話が新鮮であるらしく、興味津々でお話しを聞いてくれた。


私は、地元ではいつもお腹をすかせていたので、農家の人たちのところでご飯を食べさせてもらう事もよくあった。

当時は、北部からの難民の人たちもいて、領地の開発が急務だったのだ。

農耕馬の代わりに畑も耕したし、木の根っこを引っ張って抜いたりもした。

地面を掘り返すとごろごろ石が出てくるので、それを道具を使って取り除くのも頑張った。


万能重機アリシア物語である。

地元の農民の間では、語り草になっていることだろう。


それとあわせて、生き物が好きな私は、畑に住むモグラやおけらの生態についても語った。

身振り手振りで、生き物の動きを再現すると、皆さん大笑いでわたしの動きを褒めてくれた。

ちょっと照れちゃうぜ。

恥ずかしいのはわかっているけど、受けるとついつい調子に乗っちゃうのだ。


その代わりとして、私は帝都の流行や、素敵なお洋服店について教えてもらった。

私が地元で狩ったミンクの毛皮が、帝国に流れてコートやマフラーになっているのを知るのは、なんだか不思議な感じであった。


事件があったその日も、そんな集まりの一つだった。

たった四人のこぢんまりとした会でのことであった。


私はその日、お義母さまのご友人と、冬場の暖の取り方について、激論を交わしていた。

私が腹巻きを強く強くおすすめすると、皆さんも良い感じで食いついてくれる。

私は、この女子力が低い暖房用品の普及に、確かな手応えを感じていた。


これは、いける。

もしかしたら、冬場の腹巻き仲間を増やせるかもしれない。

私以外も腹巻きをするようになれば、私がしていても恥ずかしくないのである。

腹巻きも皆ですればかわいいのだ。


いや、流石にそれはないな。


私の、寝冷え防止用品に関する熱弁を聞いていた上品なおばさまが笑う。


「アリシア様はこんなにもお綺麗なのに、腹巻きがお好きなんてとっても意外だわ」


「ええ。でもこの子のそんなところが可愛いの。ジークハルトも、そういうところが大好きなのだと言っていましたよ」


「まぁ!」


お義母さまの息子であるジークのお話に、皆さんが華やいだ声を上げた。

いくつになっても女性は、恋バナが大好きだ。


おばさま方から、恋人について根掘り葉掘り聞かれてしまい、表面上は慌てて見せる私であったが、内心は満更でも無い。

もー、こまっちゃうなー。さてさて、なんて言ってごまかそうかしら。

などと私は、のんきに考えていた。


そんな平和なひとときに、トラブルが発生したのである。


私達がお話ししていたのは、大きな会館の広間にある休憩所であった。

個室では無く開放された場所であるので、見知らぬ人間が通りかかったりもする。


普通そういった人たちは、私達を気にもとめずに通り過ぎていくのだが、その日はなぜか、よくわからないおっさんが、私の姿を目にとめて挨拶の体を装って話しかけてきたのである。


「もしや、アリシア女王陛下ではありませんか? 初めて御意をえます。私ルドルフ・クーデンボルンと申すものです。帝都にいらっしゃるのであれば是非ご挨拶差し上げたいと思っていたのです」


頭上から投げかけられた長々しい口上に、私が訝しげに見上げれば、そこにいたのは丸くて脂ぎった男だった。

この男が「初めて御意を得る」などと言っていたように、私はこのアブラギッシュな男には、これっぽっちも面識がなかった。


私はカチンときた。


親しくもない相手に対し、突然話しかけるのは無礼である。

それは話しかけた相手を、低く見ていることに他ならないからだ。

だが、それ以上に、私はこの男がお義母さまの存在を無視したのが許せなかった。

この男は、私の事はアリシア陛下と呼んだけれど、皇后陛下には挨拶をしていない。

有り得べからざる無礼であった。


周囲がその振る舞いをとがめたら、適当にごまかすつもりなのだろう。

他の女性達の様子を見る限り、そのぐらいのことは出来る立場の男であるようだった。


なにかしらの地位を笠に着て、尊大な態度をとるこの男のことを、私は王国にいた古い宮廷貴族のようだと思った。

無視された格好のお義母さまは、何かを言い返すこともなく静かに椅子に座っている。


陛下は、控えめな女性だ。

でも私は、陛下が立派な方だという事を知っている

だって、陛下はジークを育てた人なのだ。

そして、他国の田舎貴族の娘でしかなかった私を、皇子の伴侶として歓迎してくれた人でもある。

そんな大事な恩人を、この男はまるで目に入らないかのような態度で黙殺した。


許せん。

喧嘩なら、買ってやるぞ。


「どなたか存じませんが……」


表情を消した私が、この男をやっつけるべく立ち上がろうとすると、私の袖が、やんわりと引っ張られた。


何をする、止めてくれるな!


私は手を振り払おうとして、そのままピタッと静止する。

なにしろ袖の先に続く手は、お義母さまのものであったからだ。


お義母さまは、いつもと同じ穏やかな笑顔を浮かべていた。

その表情からは、なんの感情もうかがえない。

周囲からは、馬鹿にされていることにも気付かずに、ただ笑っているだけのように見えただろう。


だが、私は知っている。

お義母さまは、おっとりしているけれど、心の機微には大変に聡い方なのだ。


扇子に隠されたお義母さまの口元が、小さく動いた。

周囲のさざ波のような喧噪が、私には遙か遠くのように聞こえた。


『アリシアさん、ここは私に任せてもらえないかしら』


『はい、わかりました』


私が小さく唇をうごかすと、お義母さまは、密やかな笑みをひらめかせてから、満足げに頷いた。


『でも、お義母さま、この男はどういたしますか。すぐに追い払いたいのですが』


『心配要らないわ。アリシアさんは、どうかそのままで』


私とお義母さまは二人見つめ合って、静かに会話する。

二人とも動かすのは唇だけ、一切声には出さない。


そうなのだ。

なんとお義母さまには、読唇術のたしなみがあったのだ。

侍女さん達も使うのだけど、お義母さまの方がずっと慣れている感じがする。


男は突っ立ったまま、私達を訝しげに眺めていた。

扇子で口元を隠した私達は、傍目には二人でただ見つめ合っているようにしか見えないはずだ。


お義母さまが口を開く。


「こんばんわ、クーデンボルン卿」


「おお、これはこれは、皇后陛下。申し訳ありません、私、気付きませんで……」


それから、私達は男と言葉を交わした。

もっぱら矢面に立ってくれたのお義母さまであったが、男は終始、陛下を軽んじる態度を崩さなかった。

目線も話しかけるのも、私に対してだけ。

私は、頑張って視線に殺気を込めたりもしてみたのだが、結局なんの成果もあげられなかった。


無礼な闖入者のせいで、その場は、そのまま解散となった。

男のお義母さまへの無礼についても、おとがめ無しだ。

それでも、私達から波風を立てることはせずに済んだ。

まだましな結果であったと言うべきだろう。


早めにおしゃべり会を切り上げた私達は、明るい会館を出て、夜闇の中に停まる馬車へと向かう。

遠くに感じる華やかな夜会のさざめきが、私にはとても耳障りだった。


お義母さまと二人、馬車に乗って皇宮へと戻る道中も私は無言を貫いた。

私の周囲だけ空気が重かったと、後でお義母さまからは笑われた。



その晩、私は、屋敷に戻ってから泣いた。

涙を流すのは、帝都に来て初めてのことだった。


だって、悔しかったのだ。


私は、こんなにもお義母さまに大事にしてもらっている。

なのに、いざとなったら何の役にも立たないのだ。

ただべったり甘えるだけで、お義母さまを守ることも出来ない。


イソギンチャクでさえ、お世話になっているヤドカリを守っているというのに。

一匹の脊椎動物として、私はとても恥ずかしかった。


私はあの場で、とっさに反論しようとしたけれど、効果的な言葉があったわけではない。

もしあの男に、感情的にかみついたとしても、良いようにあしらわれて終わりだっただろう。

そうなれば、私は悔しさを作り笑いで押し隠して、内心で唇を噛むことしかできないのだ。


自分の事であれば、ただ黙って我慢すれば良い。

でも、今は、大事にしてくれる人を助けたいのだ。


私はベッドの上で、ごろごろと回転運動をし続けた。

頭に血の巡りを良くして、良い作戦を考えるのだ。

そして最終的に、私アリシアには腕力しか無いという、単純明快な結論に行き着いた。


そうだとも。

私は、直接的な戦闘ならば絶対に負けはしない。

だから私は、この腕で大好きなみんなを守ればいいのである。


それから私は脳裏で帝都の地図を開き、襲撃ポイントや男の屋敷の想像図を参考に、討ち入りの妄想にふけった。

そのうちに、この非生産的な活動に疲れた私は、いつの間にやら眠りに落ちていた。


翌朝も気分が優れなかった私は、実力行使の手段について思いを巡らせていた。

手頃な敵を全員路上でぶっ倒せば、残った連中はびびって何も言わなくなるだろう。


無論、皇子妃がそんなことを出来るわけがないのだが、妄想するだけなら自由である。

思想の自由という奴だ。


私は悶々と悩みながら、檻の中の熊のようにお部屋の中をうろうろと歩き回った。

ちょうどそんな時だ。

私はお義母さまから、陛下の私室へとお招きを頂いたのである。



お義母さまからのお誘いとなれば、私に否やはなかった。

私はお部屋を訪ねる時間をお知らせし、お返事の手紙を持ってお義母さまのお部屋へと向かう。

訪ねる時間とはすなわち、即時だ。

予定とかそんなまだるっこしいことを調整する気は無い。

善は急げなのである。


一応お断りしておくと、相手の迷惑になるので真似をしてはいけない。

あと、手土産の茶菓子も忘れていた。

いろいろと駄目な嫁である。


「いらっしゃい、アリシアさん」


突然お部屋に突撃してきた常識知らずな嫁を、お義母さまは笑って迎え入れてくれた。

ふんわりとした柔らかな笑顔は、いつもと変わらぬ暖かさだ。


でも少しだけ、なにかが私の感性に引っかかる。

陛下の笑顔から、優しさと暖かみ以外のサムシングを私は感じたのだ。


「こちらへいらしてくださいな」


そして私はお義母さまのお部屋へと、足を踏み入れた。

お義母さまとは仲が良いわたしだけれど、実は私室を訪問するのは初めてのことなのだ。

毛足の短い絨毯を踏みしめ、私は部屋の中へと進む。


陛下のお部屋は、大帝国の頂点に立つ女性のものとは思えないほど、こぢんまりとしたものだった。

良く整頓され、ちょっと歩くだけで欲しいものに手が届きそうな案配である。

部屋の中は明るくて、空気が綺麗で過ごしやすい。

採光と快適さと住人の動線とに、徹底的に配慮されたお部屋は、ある種、帝国の技術の粋を集めたものであった。

両陛下の人となりがよくわかる。


ほへー、と間抜けな感嘆の息を吐く私を、お義母さまは背中越しに奥へと誘った。

その足は、書斎へと向かい、さらにその奥のお部屋へと入っていく。


そうしてくぐり抜けた小さな扉の先にあったのは、扉に相応しい大きさの、狭い、本当に狭い小部屋であった。

書棚が一つ、書き物机が一つ、椅子が一つ。

そこに私とお義母さまが入ると、もうお部屋はパンパンだ。


「ここが私の秘密のお部屋」


私に背を向けたお義母さまが、手に持つ鍵で書棚の鍵をあけ、背伸びしながら一冊の分厚い本へと手を伸ばす。

指をかけた本の装丁は立派なもので、故にその本棚の中ではとてもありきたりであった。

お義母さまは、するりと本を引き出してから、その中をあらためる。

目線を本へと落としたまま、お義母さまは仰った。


「私がよそでなんと呼ばれているか、アリシアさんはご存じかしら」


「お答えしたくありません」


思わず、私は口答えしてしまう。

部屋の中の暖かい空気が、扉の外へと逃げ出したような気分になった。

お義母さまは、私の言葉に小さく唇の端を持ち上げる。

一方の私は、うつむくばかりだ。


社交の場に出れば、嫌でも耳に入ってしまう。

それは、お義母さまをあなどる言葉の数々だった。


「お飾り妃。拾われ皇后カートレーゼ。皇后である以外に取り柄の無い女。もっと酷いのだと『白痴』というのもあったかしら」


「私は、それが違うことを知っています」


私が強く言葉を吐き、お義母さまを見つめると、私を見返す陛下の視線にぶつかった。


陛下の目は優しげで、その内側はいつものように凪いでいた。

一方の私の目は、怒っていたんじゃないかと思う。

でも涙目ではなかったはずだ。

アリシアは強い子だから、ベッドの上でしか泣かないのだ。


泣かないもん!


私はお義母さまに、とても良くして頂いていた。

陛下は優しくて、思いやりがあって、どんな相手にも分け隔て無く優しい。

その有り様はとても立派であるし、だれにでも真似できるようなものでもないと思う。


だから、私は悔しかった。


そんな私に、お義母さまは笑顔をむけた。

それは皇后陛下の笑みであった。


陛下は私へ歩み寄ると、ゆっくりと私の顔へと手を伸ばす。

あたたかい指先が、私の頬を撫でてから耳元をくすぐった。


「怒っちゃ駄目よ、アリシア」


お義母さまの仕草は、とてもとても優しくて、いつもと同じ柔らかさであった。


「アリシアさんは、本当にまっすぐね。好きよ。とても好き。だから大好きなアリシアさんに、私の秘密の日記帳を見せてあげる」


そんな悪戯っぽい言葉と共に、陛下は手元の本を私へと手渡した。

分厚い装丁に大量の紙片が収められていて、それなりの重量がある本であった。


「アリシアさんには、知っておいてもらいたいの。私が、外で集めてきたお話しについて。これを見せるのは、貴女で二人目よ」


皇后陛下が笑う。

その手には、大きめの手帳と愛用のペンが握られていた。



カートレーゼ陛下は物書きだ。

詩文も書くし、随筆も書く。


そして、お話しのネタを集める名目で、お義母さまはいろんな集まりに参加するたびに、ペンと手帳書を持ち込んでいた。

お話しの資料集めだと、陛下や陛下の周りの人たちは言っていた。


だが、お義母さまに悪意を持つ人たちは、新聞記者のようなお義母さまの姿をあざ笑った。


皇后陛下は、物覚えが悪いのだ。

人の顔と名前が一致しないせいで、あのようなものを持ち歩くのだ。

知恵の足りない愚かな女。


私も、そんな言葉を、エリスから又聞きに聞かされた。


「事実よ。私は誰が何を言ったのか、とても覚えていられない。だから、手記を持ち込んで書き留めているの」


お義母さまは、怒るでも嘆くでもなく、その悪意ある言葉を首肯した。

お義母さまはいつでも柔らかく、霧に霞む湖面のような静かさだ。


私は、それが陛下の、強さの証明であると気付かされた。

お義母さまの笑みの下にあったのは、皇后の誇りと、それを裏付けるたしかな実力だったのである。


「皇后カートレーゼは愚かな女。そんな相手には、油断してしまうのね。皆さん、いろいろと語ってくれるわ。本当にいろいろと」


さあ、ご覧になって。


そして、促された私は、陛下から渡された秘密の日記帳のページをめくる。

私の目に飛び込んできたのは、収賄と処置済みの文字列だった。


私の目は、釘付けになった。


本の内容は、又聞きの体をとっているが、詳細な汚職に関する裏付け情報だった。

日時、手口、金額、関係者の相関図、状況証拠から、参考人の名前まで事細かに記されている。


ページをめくるたびに、詳細が追加され、それが一段落すると新しい事件が始まる。

後ろのページには、まだ現在進行形の事案も三つ載っている。

そのうちの一つには、真新しい筆跡で、処理予定と記されていた。


「昨日の夜会でお会いしたルドルフ・クーデンボルンさん。彼は、財界に強い影響力をお持ちよ。でも、三日後に、彼が大口の出資者になっているフロント企業に監査が入る予定なの。多分、言い逃れできないでしょうね」


お義母さまは、実はとても耳が良い。

小声のひそひそ話も、ちゃーんと聞いている。

それに加えて聞き分けもとても上手で、喧噪の中でも、誰の声かを判別できるのだ。

そして、読唇術の使い手でもあらせられる。


そんなお義母さまは、夜会に出る度に色々な情報を集めていた。

そこで得られた手がかりから、ご友人達に情報を集めさせ、それを皇帝陛下にお届けしていたのである。


お義母さまは仰った。


皇后カートレーゼは侮られている。

故に政敵は、まるで陛下を嘲るがごとく、その柔らかい腹をお義母さまにさらすのだと。

隠れて話しているつもりでも、お義母さまはその地獄耳と読唇術で話の内容を聞き分けて、その本意を掴まえてしまう。

そして、お友達という名の配下に情報を集めさせ、敵を丸裸にしてしまうのだ。


「なかなかのものでしょう? 最近は帝国も綺麗になったから、あまり私の出番も無いのだけれど」


陛下の言葉に、私は衝撃を受け、目をきらっきらに輝かせた。


すごい、すごいぞ。


私は内心で興奮の声をあげる。

なんと、私の可愛いお義母さまは、凄腕の女スパイであったのだ。

こんなの、おとぎ話の中でしか見たことが無い。

まさか目の前にいる大好きなお義母さまが、そんな存在であったとは。


お義母さまは、あくまで穏やかに笑っていた。


「これが、私のもう一つの仕事なの。あの人を支える皇后カートレーゼの仕事。アリシアさんにだけは、お話ししておきたくって」


私は、日記帳を読むのを止めてばっと顔を上げる。


「素敵です、格好いいです、お義母さま!」


私はついつい叫んでしまい、慌てて周囲を見回した。

私は、慌てて口を押さえるものの、目の輝きはそのままだ。

星とかバンバン飛ばしちゃう。


私のお義母さまはとってもすごい人なのだ。

だが、この事は秘密だから余所で広めちゃだめなのである。

狼狽える私を、陛下は優しくたしなめた。


「アリシアさん。あまり可愛いく誘わないで頂戴。でないと、私が我慢できなくなってしまうわ」


私は、格好いいお義母さまに、すっかり参っていた。

褒められて嬉しくなった私は、ついつい心の赴くまま、お義母さまに飛びかかる。


がばり。


いや、体が勝手に動いたのだ。

カートレーゼ陛下が、素敵なのが悪い。

まるで痴漢の言い訳だね。


諸君、法廷で会おう、私はきっと有罪だ!


遠慮を知らないアリシアから、ぎゅっと体を抱きしめられたお義母さまは、少し驚いていた。

でも、お義母さまは、私にとっても甘いのだ。

困った子ねと言いいながら、背中をぽんぽんと叩いてくれた。


「お義母さま、格好いいです」


「ありがとう、アリシアさん」


お義母さまはお優しいお方だが、それだけの女性では無かったのだ。


それから私は、またべったりとお義母さまに張り付いて、いろいろと昔のお話しを聞かせてもらった。

お義母さまの武勇伝は、とても一日で語り尽くせるものではなくて、私は次のお約束を取り付けてから、お義母さまのお部屋を辞去したのである。


お義母さまと、あの秘密の日記帳は、まさに帝国の裏の歴史であった。


それを間近でこの目にした私の胸の高鳴りは、とどまるところを知らなかった。

興奮も覚めやらぬ私が、鼻歌交じりに部屋に戻ると、出迎えに出てきたエリスが目を丸くする。


「アリシア様、御髪に赤い物が付いてますよ」


「え、ほんとに!?」


いかんいかん、私ったら、興奮のあまり鼻血を出していたらしい。

私は、これを「お昼に食べたミネストローネだ」と言って、ごまかした。

本当のお昼はおにぎりだった。

ジャポニカ米おいしい。


でも鼻血を出した覚えはないのだけど、いつのまについたのかしら。



それから、三日後、お義母さまの日記帳に記されていた、どこぞの会社に監査が入る。

そこからどんどん話が大きくなり、それはちょっとした規模の疑獄事件に発展していった。

新聞にも記事が載り、一時期はあちこちで話題になるのを、私は内心、むずむずしながら聞いていた。


お義母さまに無礼を働いたクーデンドルフ氏も、小さくではあったけれど記事に名前を載せられていた。

その後、社交場で私達が彼の姿を見ることは無かった。


私は、このニュースを聞きながら、楽しい妄想をして過ごした。


やさしいお義母さまは、凄腕の女スパイ。

小さな体で、悪の組織に立ち向かう。

しかし、そんなお義母さまに蹴散らされた悪者達が、復讐のために刺客を放つ。

追い詰められるお義母さま。

まさに、絶体絶命のピンチである。


そこに颯爽と現れるのが、嫁のアリシアだ。

お義母さまを救うべく、並みいる敵をばったばったとなぎ倒す。


うふふ、素敵じゃない。


精神年齢が一桁の妄想に、私の頬がつり上がる。

子供っぽいと笑われるかもしれないが、おかげで人生楽しいのだ。

妄想は、私の大好きな趣味なのだから、止めないでくれ給えよ。


ベッドに転がった私は、にまにまとだらしなく笑い続けた。

メアリはそんな私を、若干、気持ち悪そうな目で見つめていた。

彼女の視線を感じた私は、くぐもった笑いを枕に隠す。


「メアリ、残念だけれど、このことは秘密なのよ。だから、メアリにもな・い・しょ」


「左様でございますか。それはようございました」


メアリは、平気な顔をしているけれど、本当は知りたいって思っているはずだ。

だって、こんなに素敵なお話しだもの。


でもこれは、私とお義母さまだけの秘密で、私アリシアの口は、金剛石のように硬いのだ。

だから、メアリといえど教えるわけにはいかないのである。


ちなみにだが、金剛石はとても硬くて叩くと割れる。

あんまり堅くはないのである。



私は、何度もお義母さまのお部屋を訪ね、社交界での諜報活動について詳しいお話しを伺った。

このお義母さまの情報収集は、お義父さまと結婚する前からの習慣であるそうだ。


「夜会の主催者が、家人に小声で命令している姿が気になったのが、最初のきっかけなの。その後すぐに、何人か男の人がつまみ出されて、私は怖くなってしまったのよ」


それがだんだんとこうじていき、とうとうスパイの技術にまで発展したそうだ。


お義母さまは、一度婚約を破棄されたことがあった。

でも実はその当時から、この習慣を続けていたのだそうだ。

お義母さまの古い婚約者の男は、本当に見る目が無い。

でもそのおかげでジークが生まれて、私も無事結婚ができそうなので、その男には感謝しなくてはいけないだろう。


目が良く耳も良いお義母さまは、社交界では相手にされず、暇していたこともあって、いろいろなお話しを集めていた。

お義母さまは、ゆっくり人と人との関係を探り、裏の情報に詳しくなっていく。

そうして積み上げた情報と分析力が、皇后になってから花開いたのである。


表の顔は、優しくたおやかな皇后カートレーゼ。

しかしてその裏で、陛下は、社交界に深く深く情報網を張り巡らせていたのである。


お義母さまの集めた情報は、役に立ったり立たなかったりする。

特に身内のことは、周りの人たちも口をとざすため、わかりにくいのだそうだ。

逆に、お義母さまを悪く言う人たちの情報は、沢山集まってくるのだとか。

それはそのまま、皇帝の政敵に関する情報でもある。


皇帝であるお義父さまの、宮廷における基盤は盤石だ。

それを支えたのは、紛れもないお義母さまの手腕であった。


お義母さまは仰った。


「アリシアさんも困ったことができたら、私に相談して頂戴。私がきっと守ってあげる。だって、私はアリシアさんのお義母さまなんですもの」


「はい、お義母さま!」


私は感激した。

性懲りも無く、私ががばりと抱きつくと、だんだん私のくっつき癖になれてきたお義母さまが、しっかりと抱きとめてくれる。


「アリシアさんが、こんなに甘えんぼだったなんて、思わなかったわ」


お義母さまはそう言って笑っていた。



ところで、お義母さまは記憶力がいい。

その力は秘密のスパイ活動でも役立ったが、私的なところでも発揮された。


あの夜会の事件からしばらく後、私はうきうきした様子のお義母さまから、何かの督促をもらうことになる。


「アリシアさん。そろそろ良い頃合いでは無いかしら。準備をしましょう」


「準備って、何かありましたっけ」


「もう、忘れちゃったの? 前に収穫したお芋よ。今日でちょうど二月、食べ頃なんでしょう?」


あっ!


なんとお義母さまは、芋掘り遠足で集めた芋のことをしっかり覚えていたのだ。

私はすっかり忘却の彼方であったのだが、義母さまは、今日のこの日を指折り数えて、楽しみにしていたのだそうだ。


これはいかん。


なんの備えもしていなかった私は、慌てた。

この流れだと、これから二人でお料理をする事になるのだが、事前の準備無しでは非常にまずい。

なにせ、私の女子力は地べたを這いずった初期値のまま、まったく向上していないのだ。

しかし姑息な私は、こういうところでお義母さまの評価を稼いでおきたいと考えているのである。


内心、冷や汗だらだらで硬直する私に、お義母さまのお付きの方がこそっと情報を流してくれた。


「準備はできておりますゆえ、アリシア様は陛下のお相手をお願いします」


「りょ、了解です」


さすがは、大国の側仕え、対応力も一流であった。


そして、私達は、綺麗に整えられた臨時の調理場へと案内された。

普通の調理場は、土が付いたものを扱ったりもするので、地階のちょっと汚いお部屋が割り当てられるのだが、そのはお庭に面した来客用の一室を改装して使うことになった。

庭には、急ごしらえのオーブンまで見える。


すごいー。

この扱いに、私とメアリは震えた。


そして、発表されたその日のメニューは、スイートポテトであった。


手順はお芋の皮を厚めにむいてから、お水に浸してあくを抜き、その後なんやかんやしてオーブンで焼く。

なんやかんやってなんだろう。


とにかくやるぞ、と意気込む二人は、現皇后と次期皇后だ。

なせばなる、というかお付きの人たちがやってくれる。

ゆえに二人に失敗はない。


最初の工程は芋の皮むきだ。

刃物は危ないため、やる気十分のお義母さまは、私を応援する係である。

ちなみに私は刃物の扱いは慣れているけれど、精密動作はさっぱりである。


皮を剥くのは厚めで良いって言ってたし、最後は潰すから大雑把でも大丈夫だよね。

私は、お芋を一つわしづかみにし、皮むきに取りかかった。


「すごいわ、アリシアさん。とてもお上手ね」


つたない私の手つきを、お義母さまは、満面の笑みで褒めてくれる。

対する私は曖昧な笑みだ。


すみません。お宅の息子さんの方が、私よりもお料理、上手なんですよ。


私が一つの芋を剥いたところで、侍従の方が大きなボウルを抱えてやってきた。

私の芋を受け取りつつ、その方がボウルを差し出す。


「ここに皮をむいて、あく抜きしたお芋がございます」


なんと、既にあく抜きした芋が準備されていた。

皇室、三分クッキングである。

下ごしらえもばっちりだ。


これは、果たしてお料理と言えるのだろうか。


「そうね、お芋の皮を剥くだけだと飽きてしまうものね」


楽しそうなお義母さまの姿を見て、私は深く考えるのを止めた。


それからも、凄腕サポーターの指示に従って、お義母さまと私は芋をふかし、それとは別にすでに良い感じに柔らかくなったお芋を潰してから、クリームやお砂糖などを加えて混ぜた。

ペースト状になったお芋を、指でつまんでこっそり食べる。

お義母さまも、私の真似をして上品に一さじすくい頬張っていた。


「甘いわ。おいしい」


「ほんとね。つまみ食いも初めてだけど楽しいわ」


私は甘い物が大好きだ。

お砂糖とクリームをたっぷり使ったスイートポテトの生地は、優しい甘さでとっても美味しい。


「全部食うんじゃねぇぞ……」って顔でメアリが睨んでこなかったら、もっと沢山、食べてしまっただろう。


一方のお義母さまは、食い意地の張った私とは違って、本当に味見したかっただけみたいだ。

私がもりもり半生の生地と食べる姿を楽しそうに眺めていた。

育ちの違いが浮き彫りになる。


それから、私達は芋製の生地を陶器の型に入れ、空気が入らないように気をつけて、ぎゅぎゅっと中に詰め込んだ。

鉄板の上に整列させたら、あとは、それをオーブンに放り込みプロの仕事で焼き上げてもらう。


本当はこの温度調節が一番難しいのだけれど、担当の人がバッチリしてくれた。

当然失敗もしようもないので、完璧に焼き上がるはずだ。

なんということだ。

これが皇室のサービスなのか。


おののく私が、お茶とお菓子を片手に、お義母さまと歓談しつつ待つことしばし、お庭のオーブンで今日のおやつが焼き上がる。

鉄板の上に載せられたスイートポテトが運び込まれると、お部屋にあまーい匂いがただよった。


それを見つめるお義母さまの目はきらきらだ。

「すごいわ! 早く味見したい!」って顔に書いてある。

私?

私は味見じゃなくて、がっつり食べたいと思っているよ。


私は身体強化で耐熱防御を施してから、陶器の一つをつまみ上げた。

お義母さまのためなら、このぐらいちょろいのである。

それからさあどうぞと、お義母さまにお一つ差し出してみせる。


お義母さまは器にスプーンを突っ込んで、一口頬張ると、頬をおさえて笑みをこぼした。

そのお顔の輝きは、金色に染まる甘いお芋の生地のごとしだ。


「おいしいわ、アリシアさん。とてもおいしい!」


「ええ、おいしいですね。やりましたよ、お義母さま」


私は、お義母さまの喜びの声に、満腔の同意を込めて頷いた。

そりゃ、プロの人が準備してくれてたのだから、美味しいに決まってるじゃないですかって話ではあるのだけれど、そこに突っ込んではいけないのだ。

とにかく、お義母さまとアリシアが、おいしいお菓子を完成させたという事実が大事なのである。


「これは自慢できる出来映えね。あの二人にも食べさせてあげないと」


初めてのお菓子クッキング。

そのミッションを成功させた私達は、完璧な仕上がりのスイートポテトを旦那さん達の元へと持って行ったのである。



しかし。


「菓子か……」


私達は、執務室で何やらお話しをしていたお義父さまとジークを捕まえた。

でも、陛下もジークも甘い物はあまり好きではないようで、お義理で一個ずつつまんでくれてからは手の動きが止まってしまう。


私は、カートレーゼ陛下と顔を見合わせた。

お義母さまは私と同じ顔をしていた。


物足りない。


折角はじめてのお料理を大成功させた私達は、男性陣からの大絶賛を期待していたのである。


そのうっすい、白湯のように淡泊な反応は許せない。

出がらしのお茶だって、もうちょっと味があるぞ。

私的には、折角、女子力高めのお料理に成功したのだから、思いっきり褒めてもらいたいのである。


はた迷惑な親切の押し売りをすべく、私とお義母さまの心は一つになった。


やりましょう、お義母さま。

ええ、アリシアさん、思い知らせてやりましょう。


そしてここに嫁と姑、二世代の共同戦線が実現する。


アリシア、先行します!


お義母さまにスイートポテトをお任せし、私はジークに肉薄した。

彼の脇を潜り抜け、後ろからがっちりと拘束する。


一方のジークは目を白黒させた。


「何をする! 離せ、アリシア!」


「今です、お義母さま。芋をジークの口に!」


「ええ、喰らいなさい。不肖の息子よ!」


お義母さまの小さな手が翻り、鮮やかな銀の軌跡を描きながら、スプーンがジークの口に突き刺さる。

さあ、喰らえ、私達の芋を!

顔の斜め下から突き込まれた匙を、優しいジークは頑張ってお口で受け止めていた。

なんだかんだ言って、彼はとってものりが良い。


後にお義母さまに聞いたところ、口に匙を含んだジークの顔は、十歳ぐらい老けこんで見えたそうだ。

彼は、おじさんみたいな顔をしながらも、オーブンで焼いた芋生地をふがふがと頬張った。

この間、第三十四代皇帝フリードリヒ三世陛下は、私達の完璧なる連携に、ただただ恐れおののいていた。


私とお義母さまの息はぴったりだ。

その日私達は、チームワークがなってない皇帝と第一皇子の二人をを、お芋の焼き菓子を用いて、各個撃破する事に成功したのである。


「こんなに美味しいお菓子をもらって、お世辞の一言も言えないなんて、もう一度しっかり教育する必要がありそうね」


「まったくですわ、お義母さま」


お義母さまと私は、二人仲良く腰に手をあてふんぞりかえる。

ジークとお義父さまは、変なのを嫁にしちゃったなぁという顔で、もそもそと口を動かしていた。



カートレーゼ陛下はすごい皇后様ではあるけれど、中身は優しいお義母さまだ。


後日、お義母さまの秘密の日記帳には、今日のこの日の出来事が記された。

事件の名前はお芋事変。

日記帳の最後には、お芋とお嫁に対する愛情が事細かに記されていて、私はうれしいやら恥ずかしいやらで真一文字に結んだ口元をぎざぎざにしてしまった。


お義母さまと一緒に作ったスイートポテトは思い出の味。

帝国の裏の歴史にも名前を刻んだそのお菓子は、とてもあまくて美味しかった。

アリシア「カートレーゼノート」

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