花嫁行列とわたし
「そろそろ出発しようか」
ジークの言葉だ。
出発とは、私の帝国行きの話である。
結婚式を帝国で挙げるのだ。
そして、私は皇子妃になるのである。
その出発は、盛大なパレードで飾ることになっていた。
私達は着飾って、兵にお仕着せの服を着せ、賑々しい行列を作り、帝国へと向かうのである。
女王の嫁入りだ。
ある種の記念行事であった。
「そうですね。準備をしておきます」
「ああ、期待しているぞ」
ジークが楽しそうに笑う。
期待って、彼はなにを期待しているのだろうか。
やっぱり、王都を出発するときの、私の格好だろうか。
目一杯、着飾ってこいということなのだろうけれど、面と向かって彼からドレスアップを希望されたことは少なかった気がする。
なんとはなし、私は照れてしまった。
お部屋に戻り、近々王都を出発する旨、側近達にも通達する。
アリシアの飾り付け担当班に、準備を申しつけるのだ。
コーディネートはお任せだ。
今は、生粋のお嬢様であるエリスにクローディアがいる。
この二人は、私や旧式侍女メアリよりもよほど頼りになるのだ。
チームアリシアも、人材が豊富になったと思う。
その彼女達であるが、メアリらも含めてなにやら相談をしている。
私は椅子の上で待機である。
ご主人様を放り出して、あの子達はなにをしているのかしら。
メアリがごそごそと二着の服を取り出した。
「今回は花嫁行列でもありますし、凱旋行進でもあります。アリシア様はどちらのお洋服をご希望でしょうか?」
そうして見せてくれたのは、片方がかちっとした騎乗服、片方が涼しげなロングドレスであった。
メアリが悪戯っぽく笑う。
私に選べということか。
前までの私なら、ズボンの騎乗服を選ぶということだろう。
絶対動きやすいし、機能性も高い。
私は、将軍だからな。
そして私は、指さした。
「こっちがいいわ!」
当然、ロングドレス一択だ。
このふりふりがついて、胸元がちょっと頼りない感じの、女性らしいデザインのドレスだ。
綺麗で、ちょっとセクシーな感じがするドレスだ。
可愛いドレスだ。
絶対に、可愛いのが良い!
私の断固たる意思表示に、側近の皆は楽しそうに笑った。
「ええ、ではそのように手配しますね」
彼女達は最初から、私がどちらを選ぶかわかっていたようだ。
その動きは淀みない。
知ってて聞くなんてなんて奴らだ。
まったくもー。
私は、内心のうきうきを隠しつつほっぺを膨らませた。
私の不満顔を見たクラリッサが、私の口元へクッキーを突っ込んでくる
「これでも食べてお待ちください」
君たちは、私がお菓子を食べていれば黙ると思っているのかね。
まぁ、その通りなのだけれど。
もぐもぐ。
私は、女の子なのである。
お嫁入りする女の子なのでる。
私は、皆に手伝ってもらいながら、ドレスを着付け、お化粧を整えた。
そして、鏡の中には、鮮やかな紅い花が咲いた。
念のためお断りすると、流血沙汰が起きたわけではない。
誰かが鼻血を吹いたわけでも無い。
私が着るドレスの色に、赤が選ばれたのだ。
真っ赤で、ド派手なドレスである。
赤は情熱の色、そして攻撃色だ。
「なかなか、大胆な色を選んだわね」
「遠くからでも、目立ちますから。一目見たいと思う者も多いでしょう。サービスですわ」
王国における女王とは、サービス精神も要求される職業であるようだ。
お仕事もなかなかに奥が深い。
でも、それも今回に限っては、よくわかる。
鏡の中に映る私は、文句なしにすっごく可愛かったのだ。
ジークにも、お披露目したいなあ。
私はうきうきそわそわした。
「どうしました、おトイレですか?」
「違うわよ。可愛いから早くお披露目したいなっておもったの!」
「左様ですか」
笑ったメアリが、ジークを私室へと呼んでくれた。
最近、美人度が上がって自信を付けてきたアリシアである。
深紅の裾を翻しつつ、私はびしっとポーズを決めた。
「どうかしら、ジーク」
「……ああ、綺麗だ、アリシア。手を突っ込みたくなるな」
ジークから頂いた、素晴らしいコメントである。
どこに手をつっこむのかなど、聞く気にもなれない。
私の頬は、ドレスの赤が移ったみたいになってしまった。
いきなり何を言い出すのかね。
最近ちょっと涼しくなって、今日も過ごしやすいかと思っていたけれど、やっぱりまだ夏だ。
だから、こんなに暑くて汗が出るのだ。
あー、今日も暑いなー!
部屋に、私とジークの二人を残して、側近達が退出する。
彼女達は、楽しそうに含み笑いを堪えていた。
私はその背中を、くすぐったいような、でもちょっと忌々しいような、複雑な気持ちで見送った。
そして、出発。
王都に残るお留守番組から私は挨拶を受け取った。
その代表は、女官長クローディアだ
彼女は王国に残って、私の留守を守ってくれることになっていた。
「私は、お帰りをお待ちしておりますね。いってらっしゃいませ、アリシア様」
「ええ、後のことはよろしくね」
「はい、お任せください」
クローディアがふんわりと笑うと、彼女の豪華な縦ロールがぼよよんと揺れた。
最近、彼女の髪はさらにボリュームアップして、見た目にも頼もしくなってきた。
お嬢様力の高まりを感じる。
戦争の中で、普通の女の子であったクローディアは萎びていた。
そんな彼女も、王国が平和を取り戻すにしたがってすぐに元気を取り戻した。
直接戦うことは出来なくとも、女の子は逞しいのだ。
彼女の活力あふれる姿に、私も嬉しくなって微笑み返す。
二人で顔を見合わせてくすくすと笑った。
今は主従だけど、もとはクラスメイトだからね。
私が帝国で挙式してから王国に戻るのは、おそらく一年後ぐらいになるだろう。
その時には、彼女はさらに成長した立派なねじねじドリルヘアーを披露してくれるに違いない。
「留守を頼みます。あなたも元気で」
私の言葉に応えて、クローディアと彼女が率いる侍女達が深々とお辞儀した。
私は部屋を出て歩みを進める。
玄関のホールにたどり着く。
静かな光が差し込む部屋で、私はもう一組の留守番組と挨拶を交わした。
父とアデルである。
父が最初に手を上げる。
「おお、アリシア、今日も綺麗だな。だが、少し露出が多すぎやしないか。私は心配だ」
「アリシア、とっても派手ね。よく似合ってるわ」
それぞれ、彼らなりの言葉で私の格好を褒めてくれた。
父の心配は男親ならではだろう。
実はこういう台詞を言ってもらうのは初めてだ。
ちょっと嬉しい。
一方のアデルは、からかう色が強そうだ。
恥ずかしがりな私の性格を知っての上での言葉だろう。
ちょっとだけ自信がついたから、私は大丈夫だよ、アデルちゃん。
二人は、私の式には参加してもらう予定だ。
彼らは、王国での仕事を片付けてから帝国へと出立する手はずになっている。
「一足先に、帝国で待っています。二人とも、王国のことよろしくね」
「ああ、任せておくがいい」
「ええ、アリシアも気をつけてね」
アデルの笑顔は、いつだって頼もしい。
自信に満ちあふれた彼女は、実に頼りがいがある友人である。
ちょっと心配性なところもあるけれど、そこは一緒に残る父が上手くフォローしてくれるだろう。
その父ラベルは名残惜しげだ。
「本当は、同道したかったんだがな」
「娘のためです。我慢してくださいませ」
私がお願いしてみせると、父は気を取り直したように請け負ってくれた。
いくつか言葉を交わしてから私は外に出る。
二人はにこやかに、見送ってくれた。
王城まえの広場へと歩みを勧めながら、私はしてやったりとほくそ笑んだ。
最大の懸念材料である父を置いていくことに成功したからだ。
この田舎者を義実家のご両親に会わせる前に、事前準場が必要なのだ。
両陛下の前で、野生を爆発させてもらっては困るのだ。
彼がゴリラであることを私は、上手く隠し通さねばならないのである!
あと、今回の帝国行きは、ジークとの長期旅行だ。
お邪魔虫は排除すべし。
実家帰りの折に、私はそのことを学んでいた。
今回は私の勝ちですわね、お父様。
「さあ、行こうか、アリシア」
「ええ、参りましょう」
王城から広場に繋がれた乗馬まで、ジークにエスコートしてもらう。
それから、ひらりと白馬に跨がって私は馬上の人となった。
馬は二人乗り、私は前の鞍に跨がって、後ろに座ったジークと二人で一緒に進むのだ。
そうとも二人乗りである。
今回の行列では、オープンになっている馬車で、二人仲良く寄り添って、手を振りながら出発というプランもあった。
だが私がお断りしたのである。
なぜなら、密着度が足りないからだ。
私は、ジークと一度だけ二人乗りをしたことがあった。
あのときは本当に楽しかったのだ。
あれはすごく、恋人っぽい感じがした。
私はお嫁になるのである。
一緒にいたいのである。
なのである。なのである。
女王の政務は忙しかった。
私を支えるジークも同じであった。
故に、二人でふれあう機会もあまり無かったのだ。
はっきり言おう。
私は大変に不満であった。
それでも私はは我慢の子、アリシアである。
そこは、ぐっと堪えてきた。
だがそれも、今日で終わりなのである!
ジークとの空白時間を埋めるべく、私はあらゆる機会を使うことに決めていた。
決めたったら決めていた。
この思いは、誰にも邪魔はさせないぞ!
この日は、ランズデール騎兵隊、帝国軍、領軍、あわせて数千人が動員された。
花嫁行列に凱旋行進。
内戦の終結と、戦争の勝利と、女王の結婚とを全部まとめてお祝いする大パレードだ。
整然と組まれた騎兵隊の隊列、その先頭を私達が進む。
いまだ日差しは強く、夏の空気は暑さを残している。
通りを包み込む歓声も、人々の熱気を運んでくる。
最近お祭りごとが多い、王都では、沿道にも市民や観光客が総出で詰めかけていた。
見渡せば、人、人、人。人の海だ。
だが、風は近づく秋の気配を乗せて、肌に心地よかった。
時折、私の髪を撫でながら、耳元を吹き抜けていく。
背中に感じるジークの感じも、とても安心する。
空には、紙吹雪が舞っていた。
一体、どのぐらいの量を用意したのだろう。
舞い上がる色とりどりの紙切れで、私達の視界が悪い。
皆、笑顔で手を振っている。
嫌いな女王が王都を出て行くから、大喜びしているというわけではないだろう。
彼らは私を祝福してくれているのである。
私はそれをとても嬉しく思った。
ぼそりと私は呟いた。
「こうして、馬に乗っていると、王都を脱出した日の事を思い出します」
「そうか」
もう一年近く前になるのだろうか。
コンラート達から分捕った馬を駆り、私とメアリは王都を脱出した。
決死の逃避行の始まりだ。
あの時の事は、今でもはっきりと思い出せる。
あの日、内壁には帝国の工作員がいて、私達の避難誘導をしてくれた。
今は、王都の衛兵達が、しかつめらしい表情で私達を見送ってくれる。
道なり進めば、今度は外壁だ。
城門は広く開け放たれ、衛兵とその後ろに詰めかけた市民とで、周囲はごった返していた。
あのときは、ここにでっかい馬車が突っ込んでいたっけなぁ。
私は当時の事を思い出して、小さく笑った。
戦後の補修作業で綺麗になった城門をくぐり抜け、私達は王都の外に出た。
あの日着ていたのは、お粗末なドレスであった。
今の私は、豪華なドレスを装備中だ。
ちょっと胸元がすーすーする。
防御力は下がっているかもしれないな。
私は、振り返って、城門を見上げる。
ジークの横顔の後ろで、あの日、哨兵すらいなかった城門には、沢山の兵士達が鈴なりになって、みなにこやかに手を振っていた。
お前ら、平和ぼけするんじゃないぞ。
私は、また帰ってくるからな。
心の中でかつを入れてから、私はきりっと前を向く。
そして私の花嫁行列は、王都を出て帝国へと向かったのだった。
道中は平穏そのものだった。
数ヶ月前、旧い王家を倒すために、私達がカゼッセルから王国へと進んだ道である。
今度は反対方向へと歩いて行く。
見渡せば私の周りには麦畑。
既に、刈り入れが始まっていた。
王国は、平和になったのだ。
道中も同じく、とてもとても平和であった。
ただ、少しだけ気になることもあった。
ジークが道を急いでいるようなのだ。
私が確認してみたところ、ジークは重々しく頷いた。
「母がアリシアに会うのを、楽しみにしているようでな。父も巻き込んで、早く戻れとうるさいのだ」
「まぁ、そうなんですか」
なんでも矢のような督促が、皇后陛下からきているらしい。
はよ嫁を連れて戻ってこいと、ジークは急かされているのだそうだ。
母から手紙が来ない日が無いと、彼は遠い目をしていた。
「私の方には、いつも通りのお手紙が来ているだけなのですけれど……」
「嫁には、自分の中身がばれていないつもりなのだろう。威厳ある皇后で通せると思っているようだ」
その言い方だと、お義母さまの素顔がばれちゃいますね。
私は笑う。
私は、皇后陛下のことを知っている。
ちょっと不敬な言い方になってしまうのだが、皇后陛下はとてもかわいらしい方だ。
私はそんな陛下のことが、大好きなのだ。
「ただ、母は、滅多にわがままを言わないからな。今回は、ちょっとした騒ぎになっているようだ」
「でしたら、私が先行しましょうか?」
「アリシアに全力でとばされると、俺がついて行けん。常識の範囲内の行軍速度なら、そう時間がかかるものでもない。それにここから先は、先行するのも難しいぞ」
それはどういうことかしら。
私は、ジークの言葉に首をかしげる。
そして、私達の行列は大きな河に差し掛かった。
大河に。
私達の目の前には、とうとうたる流れをたたえた大きな川があった。
向こう岸が、遠くに見える。
実家の小川とは比べものにならない。
私は得心した。
「なるほど。この川を渡らないといけないのですね」
「ああ、この時期は水量も多くてな。かなり上流までいかないと、橋もかかっていない。遠回りをする時間が惜しい。今回は船で渡ることになる」
彼の言葉に従って、丘の上から見下ろせば、河岸にたくさんの屋形船が係留されていた。
既にこぎ手の人も、船のそばについている。
私達を待っていてくれたようだ。
「あの船に乗るんですね。なんだか楽しそう」
ジークは、弾む私の言葉を否定した。
それから彼は、屋形船が係留されている船着き場よりも、さらに向こうを指さした。
「あれは兵員用だ。俺たちが乗り込むのは向こうの船になる」
彼の指が示す先には、とても大きな帆船の姿が見えた。
その船は、高々と帝国軍の軍旗を掲げていた。
側舷には、等間隔に弩の穴が空いている。
あれは、もしや、戦艦なのでは。
私の胸は高鳴った。
ジークは、私の内心を読み取ったように首肯した
「帝国軍、東部方面軍艦隊旗艦エルデリッサだ」
そして私は、生まれて初めて軍船に乗ることになったのである。
帝国海軍の戦艦が、私の渡河のためにわざわざ出迎えに出てきてくれていた。
乗員四百人強の大きな船だ。
帝国海軍の主力艦であった。
「母が、一番安全な方法で嫁を運べとわがままを言ってな……」
ジークが遠い目で呟く。
私は恐れおののいた。
私は皇后カートレーゼ陛下のことを、奥ゆかしくて、控えめな方だと思っていた。
けれど、やっぱり皇后陛下は帝国の最高権力者の伴侶なのだ。
彼女の一声は、戦艦を動かしてしまうのである。
やはりお義母さまは、すごい人なのだ。
でも、川を渡るためだけに外洋船を持ってくるのは、やり過ぎだと思います、お義母さま。
ジークは、乗馬を船の係留先へと向かわせた。
河岸で何やらやりとりを済ませると、小舟に乗って戦艦に向かい搭乗する。
そして私達は、船上の人となった。
船内は板張りだ。
足下がぎしぎし揺れる。
艦長と交わす挨拶もそこそこに、私はジークの手をひいて甲板の上へと急いで上がった。
「なぜ、俺がエスコートされているのか」
ジークは首をかしげていた。
気にしたら負けだよ、ジーク。
帝国への道行きを急いでいるというのは本当なのだろう。
船はすぐに出航した。
戦艦の甲板は高かった。
船上に立った私の髪を、川風が心地よくゆらす。
今、渡ろうとしているのは、とても立派な大河であった。
河は相当に深そうである。
私は、ジークの手をぎゅっと握りしめた。
河を渡りきるまで、私はこの手を離さないぞ。
心配性な私の行動に、ジークは片眉を動かした。
おかしそうな声音で、問いかける。
「どうした、怖いのか」
「はい。ジークが流されてしまわないか、心配です」
「馬鹿を言うな、アリシア」
ジークは破顔した。
彼は川どころか、海を渡って遠征したこともある。
たかが一度の渡河に怯える私が、怖がりに見えたのだろう。
でも私は、心配だった。
水は恐ろしいものなのだ。
甘く見てはいけない。
あの中には魔物が棲んでいて、時として人間を、みなもの下へと引きずり込むのである。
きっとその魔物は、美人な上半身をしているに違いない。
そして下半身は魚だ。
うろこがびっしり生えた魚だ。
美味しいのかな、人魚って。
ジークがぽろっと船から落ちたりしないよう、私はしっかりと彼を捕まえていた。
アリシアは、変なところで心配性だな、とジークは笑っていた。
「たしかに、この川には帝国も因縁がある。向こう側の川岸が帝国のものでは無かった時代に、この川を越えて、他国へと攻め込んだのだ」
「それは、大変そうですわね」
「ああ、連戦して連敗した。結局上流を制圧してから、川を下ったそうだ。負けたのは渡河中ではなく、渡河した先での戦いだったそうだが」
なるほどな。
私は頷く。
背水の陣とも言う。
こんな大きな川が後ろにあっては、退却することもままならない。
これを超えて戦うのは、さぞかし大変だったことだろう。
ジークが語ってくれたのは、遙か昔の話であるはずだ。
帝国は、その歴史の中で戦い続けてきたのである。
婚姻間近の恋人同士がする会話じゃない気もするが、気にしてはいけない。
私達は、こういう二人なのだ。
怖い怖いと言いつつも、私はこの大きな川に興味があった。
ジークの手を握りしめたまま、私は船べりへと足を向ける。
上から水面をのぞきこむ。
足の下で、船は水を切って進んでいた。
船首をみれば、舳先が白い波を蹴立てている。
水上を走る船に驚いたのだろうか。
大きな魚が水面にはねるのが見えた。
「魚がいますね」
「鯉の一種だ。小さい船だと、あれが船内に飛び込んでくることもあるそうだ。食えるらしいぞ」
ジークの言葉も終わらぬうちに、またしても、魚が銀色の腹を見せて、水面から飛び跳ねた。
美味しそう。
私は思った。
川魚は泥臭いこともあるけれど、淡泊なお味で美味しいのだ。
私はとても好き。
そして、私の心配は、食欲に塗りつぶされた。
代わりに頭に浮かぶのは、美味しいお魚料理である。
私達は無事川を渡りきり、揺れない地面の上へとたどり着いた。
無事に渡河が終わったのだ。
その時、私はお魚のことを思い出していた。
大きくて重そうで、食べ出がありそうだった。
「今日はお魚料理が食べたいですね」
などと私が口にしてしまったせいで、お世話係の人に大変な苦労をさせてしまうことになった。
大急ぎでメニューに、お魚料理を追加してもらうことになった。
皇后様の事を笑えない。
これでは私もわがまま娘である。
でも、とても美味しかった。
ありがとう。
道中は平和で、ジークとの道行きは楽しかった。
陸路は馬を駆り、私達はもう一本、大きな川を超えた。
そして、王都から街道を西へと進むこと約半月、わたしたちは帝都に到着する。
ついにたどり着いた、華の帝都である。
都の城門をくぐった時、季節は、秋へと差し掛かりつつあった。
明日はジークハルト視点、仮称「女王をさらう皇子」をアップします。




