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【連載】「偽物だ」と追い出された最強聖女たちの、自由気ままな珍道中  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第四章 新たな地へと向かう聖女たち

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38、瘴気溜まり

 辺境伯の言葉に黙り込むウルとベルド。

 彼らの顔から血の気が引いていく。それと同時に部屋が静寂に包まれていき……帝国の者たちが無言で辺境伯の指差す先を見つめている中、置いてきぼりにされていたミナとレアは眉間に皺が寄っていた。

 『瘴気溜まり』という言葉に聞き覚えが無かったからである。


 声を出すのも憚られた。現にレアは何度か男性陣に声を掛けようとして、言葉を呑み込んでいる。

 ……だが、ここで黙って見ているわけにはいかない。そう考えたミナは声を上げた。


「話の腰を折って申し訳ないのですが……瘴気溜まりとは何でしょうか?」


 ミナの言葉にベルドが正気を取り戻した。そして二人が王国出身であることを改めて思い出す。


「そうだった。二人は王国から来たから、この言葉に馴染みがないよね。瘴気溜まり、というのは瘴気が浄化されずに溜まってしまった場所のことを指すんだ」

「ランディアもグランテにも聖女が多い。だから瘴気が溜まる前に浄化が可能だ。だが、帝国は領土が広い上に聖女の数が少ない。それもあり、浄化が行き届いていない分、瘴気溜まりというのができてしまう」


 ベルドの説明に付け加えるように辺境伯も言葉を紡ぐ。

 

「現在、研究所による研究結果によると、特に泉のような水のある場所に瘴気が溜まりやすいとされている。今回我らが懸念しているのは、この泉の水を我々が生活用水として利用していることにより起こる、瘴気被害だ」


 話を聞くと、街の人々は地下を流れる森や山脈から届く湧き水を生活用水や飲料水として利用しているらしい。もちろん、湧き水の中にはこの泉を通るものもあると思われる。

 ただ、この街も対策していないわけではないのだ。この水をそのまま利用するのではなく、魔道具を使用して浄化した上で使用しているので、現在瘴気による被害の報告はない。


 けれども、その魔道具にも浄化の限界というものがある。今回近くの泉に瘴気溜まりができたことによって、湧き水が更に瘴気に侵されてしまうと……浄化が追いつかなくなってしまう可能性が出てくるのだ。

 

「だから定期的に瘴気溜まりができないよう、道具を使用して浄化を行なっていたのだが……今回は森に闊歩する魔物の数が例年より多かったために、泉を浄化することが叶わなかったのだ。それもあって、瘴気溜まりができてしまったのだろう」

「魔物の数が多いのも、その瘴気溜まりから出現している可能性もあるということでしょうか?」

「その可能性も否めないな」


 ベルドの言葉に腕を組んで考え込む辺境伯。

 ミナとレアは辺境伯やベルドたちが血相を変える理由を理解した。聖女が少ないことによる弊害なのだろう。

 

「そのため、お前たちに泉の浄化を任せたいと思って呼び寄せた。魔物を討伐しつつ、泉の浄化を頼みたい」


 そう告げた辺境伯は、後ろに控えていた執事を呼び寄せる。執事の手には……何やら手のひらふたつ分ほどの四角い箱が。彼は辺境伯の横に立つと、その箱をテーブルの上へと静かに置いた。

 辺境伯は優しい手つきで箱に触れ、上蓋を持ち上げる。すると、その中に入っていたのはふたつの腕輪が収められていた。


 腕輪の中心には、金貨よりひと回り大きいであろう透明な石が埋め込まれている。そして腕輪自体は銀色で、何かの鉱石を利用しているようだ。

 そしてミナとレアは一眼見て気がつく。この腕輪には浄化の力が込められていることに。


「それは聖女様によって浄化の力を込めていただいている。それを利用して、泉を浄化して欲しい」


 ベルドとウルが首を縦に動かしているのを見て、帝国の浄化はこれが普通なのだと理解する。聖女不足を魔道具で補っているのだ。

 高位冒険者の担う役割を理解したミナは、祖国へと想いを馳せる。お前は平民で力が強いから……こき使われたと言える日々。一方で働かず、全てをミナにお押し付けて権利だけ享受し……優雅に過ごしていた侯爵令嬢たち。

 今思えばよく自分は仕事を頑張れていたものだ、とミナは思う。聖女であってもある程度の対価が必要だ。お国のため、という言葉で搾取され続けるだけであれば、いつかその気持ちはすり減っていくに決まっている。

 あの時ミナは、搾取される体制に疑問を感じ始めていた。その引き金になったのが追放劇だっただけ。そして追放と言われたので、喜んでそれを受けただけ。


 聖女としての仕事が嫌いなわけではない。むしろすぐに結果が出るので、個人的には聖女の仕事は好きだ。神聖魔力だって訓練すればするほど魔力が伸びるので、最後の方は楽しくなり鼻歌を唄いながら訓練していたこともある。


 だから、元聖女として……これは見逃せなかった。


 ふと隣にいるレアへ顔を向けると、二人の視線が交差する。

 どうやらレアもミナと同様の考えらしい。やはり似たもの同士だったのだと改めて実感する。


 ベルドたちは後ろで決意を固めている二人の様子に気がつくことなく、辺境伯と話し合っていた。地図を見ながら、瘴気溜まりが発生している泉の近くに、他の泉がないかを確認しているようだ。

 話を聞いていると、どうやら大本命の泉の他に二箇所ほど水の溜まり場があるらしい。


「では、そちらも確認しましょう。もし瘴気があるようでしたら、こちらの道具で浄化してきます」

「ベルナルド、ウルバーノ……よろしく頼む」


 二人へ頭を下げる辺境伯。それに微笑むベルド。

 

「ちなみに辺境伯様。今度から僕たちのことはベルドとウルとお呼びください。今はその名で活動していますので」

「そうだったか……それではベルドとウルと呼ばせてもらおう」

「感謝いたします」


 礼をとるベルドとウル。その姿はどう見ても平民ではなく……王宮の舞踏会に参加するような貴族たちよりも非常に美しい動きをしていた。

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