34、次の街へ
朝一でモリーに別れを告げた四人は、西側の門へと歩いていた。
東側にある入場門はランディアとグランテに続くもの。遠ざかっていく祖国へ帰るための門を振り返る二人は、ここにはいなかった。
――未練? まさか。
あるのは「せいせいした」という開放感。そして西門を抜けると、二人はまだ見ぬ土地に思いを馳せる。ベルドとウルが馬車の時間を確認している間に、ミナとレアは空気を思いっきり吸い込んだ。今までで一番美味しい空気のような気がしてくるから不思議だ。
馬車は出発時間が遅いとのことで、四人は歩いて向かうことにした。
目の前に広がる大きな草原。
そこに曲がりくねりながら伸びる道を見ていると、ふとミナは国を出た時のことを思い出す。あの時は肩の重荷が降りて、心が軽くなっていた時だった。けれど、心の奥底では拭いきれない影が、まるで汚れとしてこびりついているような……そんな心もあったのは事実だ。
けれど今は違う。
確かにランディア王国の情勢を聞いた後なので、心の奥に懸念を残しているのは事実。ただ……なんとなくではあるが、最後には然るべき結果に落ち着いていくのでは、と思うのだ。
そんな希望が心の内に生まれたのは、彼女たちのお陰だとミナは感じていた。
次の街は歩いて半日ほどの場所にあるのだそう。
帝国と王国との国境付近では一番大きな街、それが次に向かう場所なのだとか。土地はあの街の二倍はあり、人の数も多いらしい。この場所は辺境伯――アドルフ・シュトライト辺境伯が治める領土のようだ。そして今から行く街は、彼のお膝元でもある城下街なのだという。
ベルド曰く、彼の治める街の名前はトライトの街と呼ばれているそうだが、トライトの街の北側に辺境伯が暮らす王城が聳え立っているのだとか。
そのお城がまた大きく見応えがある、と聞いて二人は目を輝かせた。
太陽が下がり始めた頃、ベルドたちの言う通り……遠くに街が見えてくる。その街の光景にミナとレアは目を丸くした。
目の前には大きな川が流れていた。ここまで幅がある川を渡るのは、ミナもレアも初めてだ。
どうやって渡るのかと思えば、橋か小舟を利用するのだとか。馬車が通れるような橋は、下流にあるらしい。今向かっている場所は、小さな橋があるところで。数人が並んで歩けるような幅しかないようだ。確かに歩いていくと石造りの橋が敷かれていた。
川の内側には木のようなものが植えられている場所があった。ちなみにベルド曰く、あれはお酒を作るための物……ウーヴァと呼ばれているらしいが、紫色の実が幾つもくっついて成る果物の畑なのだそう。
「ここは天然の要塞になっているんだ」
そう教えてくれたのはベルドだった。
彼曰く、北側にある瘴気の多い森や山脈に面しているのは、シュトライト辺境伯の住む城なのだそう。この街の東西にはこのような大きな川が流れており、街の周囲を囲っているような形になっているのだとか。
そのため、もし魔物が山や森から降りてきた際は、城の北側で討伐を行うらしい。何かあれば城へと逃げ込むことができるような仕組みになっているようなので、要塞も兼ねているのだとか。
だからだろうか、橋を渡った先にある入場門も前の街と比べ物にならないほど大きい。あちらは小さいながらも非常に繊細な装飾で門を飾り立てていたのに対し、こちらは飾りっ気ひとつない簡素なものだ。
「機能性を重視しているんだな」
「その通り。さすがミナさんだね!」
ベルドが思わず漏れたミナの言葉に反応する。彼女はまさか反応がもらえるとは思ってもみなかったので、無意識にベルドへと顔を向けた。
不思議そうな表情で、こちらを窺っているベルドに話しかけようと口を開こうとしたその時。
「次の方、どうぞ」
「あ、僕たちの番だね」
前にいた門番に呼ばれて、四人は彼の元へと歩いて行った。
「あれば、身分証の提出をお願いいたします」
門番に言われて、四人はギルドのカードを彼に手渡す。
最初二人が前の街の検問を通ろうとした時、身分証がなかったために結構な額のお金を取られたことを思い出していた。今回もそれくらいの金が必要なのだろうか、と用意していると……
「ではお嬢さん方は銅貨五枚、お二人はそのままお通りください」
「「えっ」」
門番の言葉に気づいた時には、言葉が唇からこぼれていた。二人は前と比較して金額が安いことに驚いたのだ。以前は銀貨二枚だったから。
そしてもうひとつ驚いたのは、ベルドたちは金銭を払わずに入っている、ということだ。
ミナは思った。羨ましい……と。
今は依頼を受ければ、ある程度の金額を入手することができるけれど……節約できるなら節約したい、と思うのはミナもレアも同じである。
節約したら、その分美味しいものを食べて歩くことだってできるからだ。
門番に金銭を支払った後、四人は街中へと入る。
ベルドとウルはこの街に何度か来ているらしく、特にベルドが二人に色々と教えてくれた。そんな彼をミナはまじまじと見つめる。
あまりにもじーっと、穴が開きそうなほど見つめていたからだろうか……途中でベルドは居心地が悪くなったようだ。今までにないほどゆーっくりとミナへと顔を向ける。そして癇癪を起こしている子どもの様子を窺うかのとうに恐る恐る声をかけてきた。
「あのー、ミナさん……? 僕、何かやっちゃいました?」




