授業
話し合いを終えたあと、この日は予定通りの休日になった。
今、俺とリディ以外の皆は庭で夏の名残を惜しむかのように、貯水槽の水を互いにかけあっている。
貯水槽の水は定期的に入れ替えている。水源は井戸水なので、飲用にするときはどのみち飲む前に沸かすとは言え、長いこと入れっぱなしで水が腐ってしまうのも良くないからだ。
大量に飲んでしまうようなことがなければ、腹を下すこともあるまい。
そうやってはしゃぐ声を横に、俺とリディはまだ居間のテーブルで向かい合っていた。
「つまり、森や湖なんかは比較的魔力が集まりやすい?」
「そうですね」
リディは頷いた。今、俺はリディに「魔力がありそうなところの見分け方」を伝授して貰っている。
「リディを連れて行けたら手っ取り早いけど、うまく魔力のあるところを辿って行けるとは限らないからなぁ」
「旅をするエルフもいますし、実際に会ったことがありますので、恐らくは辿っていけるとは思うのですが……」
そう言ってリディは目を閉じる。その旅のエルフを思い出しているのだろう。
しかし、彼女はすぐに眉根を寄せた。
「具体的なことは何一つ聞いていないのです」
「まあ、こうなるとは思ってなかっただろうしな」
前の世界の作品にもあったように、この世界でもエルフの寿命はとても長いらしい。その中の一瞬のような間に、住んでいた森を出て、そこからさらに動く可能性まで出てきているのである。
備えろと言われてもなかなかできるようなものではない。
「まあ、でも今回で見つけられれば、それを伝って帝国あたりまで行けば良いってことだからな。うちは魔力が必要なことも多いし、ちょうど良かった」
なぜ見分け方を教わっているかといえば、俺がいない間では間に合わないが、いずれ来るかも知れない脱出のときに、いわば魔力を補給しながら移動するので、その補給地点を見つけるためだ。
脱出のときなど来ないに越したことはない。だが、そう言っていても相手が来ると決めたら来てしまうものなので、覚悟は決めておかねば。
「森が広そうなら、しばらくそこに居るのも良いかもな」
「今とそう変わりませんしね」
「だな」
俺とリディは笑い合った。
「よし、それじゃあ、おさらいをしよう」
「ええ。森や湖など『あまり動かない自然のもの』が多いあたりは、魔力も多いです」
「山とか?」
「そうですね。山は大地から離れるので、エルフが暮らしていることはあまりないですが」
「なるほど。で、あとは洞窟なんかもそうだけど、なるべくそういったところは避ける」
「何故かは……もう十分お分かりですよね」
「身をもって体験してるからなあ。洞窟みたいに行き場のないところの魔力は澱みやすい。つまり、魔物が発生しやすいから危ない」
「はい。よくできました」
冗談めかして、先生のようにリディが言った。いや、実際に今は先生なのだが。
「まとめるとだ、『木々が生えている山』は、魔力が多い、であってるかな」
「はい。正しいです」
「そこで今みたいなものは作れるかな?」
「どうでしょう。この〝黒の森〟は他とは群を抜いて多いですからね」
「ああ、そっか。理由が理由だしなぁ」
俺はその「理由」を思い出して苦笑する。
この世界は〝大地の竜〟という一人の竜が眠る上にできている。〝黒の森〟はそんな世界の根幹を担う竜の、頭と心臓に近い場所に位置しているのだそうだ。
それが、この森の魔力が多い理由であり、よその土地には決して存在しない特徴である。
そして、その魔力をふんだんに使うことで、我がエイゾウ工房の製品は作られているわけだが、魔力の量が少なければ当然同じ物を作るのは難しいだろう。
「皆が困らない程度の魔力がありそうなところを見つけてくるよ」
「お願いします」
俺とリディは互いに頭を下げ合う。こうして、ちょっとした授業は終わった。




