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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第3章 エルフの剣編

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完成と教育?と

 翌日、サーミャの言ったとおり、雨はまだ降り続いていた。それでも昨日より更に雨脚が弱まっているようだ。水を汲みに行ったが、昨日ほどは濡れなかった。

「明日には止んでくれるといいが」

「そうねぇ。お洗濯ができないものね」

 そうなのだ、この3日洗濯ができていないので、洗濯物がそこそこ溜まってきている。幸い、5日分ほどは各人とも下着の替えがあるので、まだ平気ではあるが、明日止んでくれないと流石に困ることになる。ただこればかりは祈るしか無い。


 今日も俺はハルバード、リケたちは一般モデルの製作をする。サーミャもディアナも少しずつ手際が良くなっているようだ。この調子なら俺が一般モデルを手伝わずとも良いかも知れない。実際に昨日もそれなりの数ができてるし。これなら俺は俺で自分の作業に集中できるな。


 果たして、この日は2本分のハルバードの頭と石突きを作ることができた。作業自体は昨日やったのと変わらないからな。ただ、ナイフとかと違って手間が段違いに多い。仮に一般モデルに品質を落としたとしても、大量生産は無理そうだ。手間が多すぎるから、リケたちに作らせるのもなぁ……。それなら槍とかそっちのほうが良いかも知れない。

 少し時間が空いたので、その時間で矢じりの補充をしておいた。明日雨が上がったら、サーミャとディアナは採集か狩りに出るだろう。そろそろ肉の在庫も心許ない。1週間やそこらは平気だし、ケチれば2週間だって持たせる自信はあるが、それはちょっと寂しいからな。また長雨が来るとも限らない。補充には行ってもらおう。


 次の日、サーミャの言ったとおり、雨は上がっていた。外に出てみると、まだ水たまりなんかもあちこちに残っている。それでも昇り始めた朝日が世界を金色に染め上げ、森の木々の影とであたかも一幅の絵画のような光景である。早起きは三文の徳とはよく言ったもんだな。

 水を汲んで戻ってきたら洗濯が始まるが、今日は量が多い。すぐには終わりそうにないし、水もいつもより使いそうなので、もう一度汲みに戻ったりした。俺はあんまり洗濯物手伝えないからな。前の世界ほど色っぽい感じのものではないとは言え、やはり女性の下着を洗うところに参加するのは、彼女たちが気にしなくても俺がなんともいたたまれない気持ちになるので遠慮している。家事分担として、食事は俺の担当だから許していただきたい。


 やや遅めの朝飯を終えたら、サーミャとディアナは狩りに出かけていった。サーミャがやたらと機嫌が良かったのだが、どうも矢じりを補充してもらったのが嬉しいらしい。リケに聞いた。「乙女心ですよ、乙女心」とリケは言っていたが、どんな乙女心なんだ、それは。


 俺たち、鍛冶場組の今日の作業は俺がハルバードの続きで、リケは一般モデルのナイフの製作だ。これは元々サーミャとディアナはそんなに手伝えないやつだからな。

 2人ともが鍛造の作業なので、作業場に鎚の音が常に響き渡る。作っているものが違うので、響く音が少し違う。それがまるで大きさの違う楽器を二人で奏でているように聞こえて、少し楽しい。


 俺の作業の合間に、リケの作ったナイフを見てみるが、少しずつ腕は上がっている。以前よりも、バラつきのようなものが格段に減っている。ここで「お主にも鉄の声が聞こえるようになったか……」とか言えれば良いんだろうけど、あいにく俺はチートでその辺をやっているので、いまいち分からない。なので俺が何を見てどう叩いているかを観察して会得する"見て盗め"方式しかできないんだよな。

 リケのナイフを見せてもらったので、勝手が違うが高級モデルのハルバード製作を見学してもらう。1つ目はもう作ってしまったから、今日2つ目のものになる。槍、斧、ピックそれぞれ違うものの組み合わせだから、俺がそれぞれをどう作るのか、どう組み合わせているのかを学んでくれたらいいのだが。


「どうだ?」

 完成したハルバードの頭部分を渡す。受け取ったリケはしげしげと眺めると

「それぞれの部分の完成度もさることながら、接合部分も凄いですね。元々一枚だったように見えます」

 といつものように品評を始める。とりあえずはリケに見せても問題ないクオリティのものには仕上がっているようで安堵する。

「で、何か掴めそうか?」

「ええ。親方には追いつけそうにはないですが、見ていていくつか試したいことも増えました」

「それなら良かった。ちゃんと教えてやりたいが、どうにも説明がなぁ」

「いえいえ、こういうのは普通、盗み見て覚えるものですよ。親方は優しいくらいです」

「これからも見たい作業とかあったら、遠慮なく言ってくれていいからな」

「はい、親方。精進します!」

 リケは決意に目を燃やしながらそう言った。


 さて、今日は雨も降ってないし、ハルバードの仕上げをしてしまおう。外においてある材木を持ってきて、2mの棒を5本作る。特注モデルのナイフとチートで、正確に綺麗な棒が大して時間もかからずに作れてしまうのは、何度も思うがつくづくズル(チート)だな。

 その棒の両端にハルバードの頭と石突きをそれぞれ釘で取り付けたら、ようやっとハルバードの完成である。ちょっと試したいが、流石に作業場内で2mの長さのものを振り回すのは無理がある。俺は外に出て、振った感じを確かめることにした。


 もう少しすれば、朝は金色に世界を塗っていた太陽が、今度は橙色に世界を染め上げるだろう。だがまだもう少しだけ、空は青さを保っている。そんな中で2mのハルバードをいない敵に向かって、ただ単に振り回したり、槍で突いたり、斧で薙ぎ払ったり、ピックで足元を払ったりしてみる。ピック部分と斧部分は丁度釣り合いが取れているし、頭部分と石突きのバランスも悪くない。ちゃんと使いこなせれば、短槍1本よりは役に立ちそうには思う。

 そうやってしばらく一通りの動きを何回か繰り返し、太陽が今日の仕事を終えようとするころ、俺も"試し振り"の仕事を終えた。すると、パチパチと拍手の音が3つ聞こえる。

「あれ、サーミャとディアナ帰ってたのか」

「おう、とっくにな。ただいま」

「ただいま。エイゾウってハルバードの扱いもできるのね」

「2人共おかえり。見ての通りの腕前だけどな」

 自分ではロングソードよりもいい動きができているようには思えないが、ロングソードのときは超強いみたいなので、ディアナがああ言うってことは、ハルバードでもそこそこ強いらしい。ホームディフェンス用に2本ほど特注モデル作ろうかなぁ。

「そんなことより、みんな戻ってきたならメシにしよう。サーミャとディアナは今日は何を獲ったんだ?」

「そうそう、聞いてくれよ! 今日はな……」

 そんなことを話しながら、俺たちは家の中へ戻っていくのだった。

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