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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第3章 エルフの剣編

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増えた家族と増える"いつも"

 翌日、テキパキとベッドと扉の材料の切り出しを終えて、組み立てを始める。蝶番や釘なんかは前回作り置きしておいたので、その分の時間も節約できている。備えあれば憂いなしだな。ベッドはサーミャとリケに任せて、俺とディアナで扉を作っていく。自分の部屋の扉なんだから、多少気合いを入れてもらわにゃな。

 さすがのディアナも大工仕事はやったことが無いので、教えながら作業を進める。枠が歪んで扉が収まらない、なんてことになっても困るし、そこだけは俺がやったが、後はほとんどディアナがやった。剣を振るっていたからか、鎚で叩くのも初めてにしてはなかなか堂に入っている。

「こういうのも、楽しいものね」

「1人で黙々とやると途中でうんざりするかも知れないが、こうやってみんなで1つのものを作るってのはいいだろ?」

「そうね。結構気に入ったわ」

「時々はこういう作業もあるが、やっていけそうか?」

「もちろん。この程度で音を上げてしまいそうなら、そもそも来てないもの」

 ディアナが笑って言う。

「それは違いない」

 俺もそれにつられて笑うのだった。


 ベッドの方は前に作ったことがある2人の作業だから、扉よりも先にできたようだ。

「お、じゃあ運びこんじまってくれ」

「分かった。手前の部屋で良いのか?」

 サーミャがディアナに聞く。

「ええ、そっちで良いわ」

「ほいよ。行こうぜリケ」

「うん。じゃあサーミャはそっち持って」

 サーミャは獣人、リケはドワーフだからか、かなりの力がある。ベッドを軽々と持ち上げて運んでいった。

「よーし、じゃあ俺たちも扉をやっつけちまおう」

「分かったわ」


 それから幾らかの時間で扉が出来上がった。なかなかの出来だ。

「いい出来だな」

「そうなの?」

「ああ。隙間なく板を打ち付けるのは、これで結構難しいからな」

「良かった。使い物にならないとか言われたらどうしようかと」

「俺が見ててそんなヘマさせるわけないだろ?」

「それもそうね」

「安心しろ、お世辞抜きにいい出来だよ。それじゃあ取り付けに行こう」

 ディアナもサーミャたちほどではないとは言え、そこそこ力がある。俺とディアナの2人で扉を運び、取り付けは俺がやる。扉の取り付けはすぐに終わって、先に運び込まれていたベッドとで、ディアナの部屋の完成だ。


「今日からここがディアナの部屋だ。屋敷と違って随分狭いとは思うが」

「いいのよ、これで。ここに来て、必要な広さってそんなに無いんだな、って分かったし」

「そうか」

 ディアナは何かにつけてこの生活に馴染んでくれようとする。前に来た時点である程度馴染んではいたが、あくまであの時は半分は客だったからな。こうしてくれるのはありがたい。

「これでいよいよ家族ですね!」

 リケがディアナにニッコリと笑いかける。

「ええ。改めてよろしくね、リケ。サーミャも、改めてよろしく」

「おう。まぁ、メシの美味さは保証されてるからな」

 サーミャが胸を張って言うが、それ作るの俺だろ。俺の料理を気に入ってるなら、まぁいいか。

 この後、客間からディアナの荷物を運びこみ、ディアナの部屋が完成した。


 翌日、カミロのところへ品物を卸しに行く。以前はディアナが街へ行けなかったので4人で行くのは初めてになる。俺とリケが荷車を引き、サーミャとディアナが辺りを警戒する。歩みの速さは今までと変わらない。時々、草兎や他の小動物の姿を見かけて、ディアナがはしゃいでいた。見た目が可愛いからな。後々食う時の障害にならないと良いが。途中1回の休憩を挟んで街道に到達する。


「どうだ? 俺はいないと思うが」

「アタシも特には感じないからいないと思う。ディアナはどうだ?」

「私もよ」

 念の為、森から街道に出る時はチェックする。今回も何もないようでなによりだ。

「よし行くか」

 俺たちは荷車を引いて街道を行く。もう幾度も行き来した道だが、今日はディアナがいる。それだけでなんとなく新鮮な気がしてくるな。あの街の衛兵は仕事熱心なので、全く警戒しなくていいということはないが、野盗の心配はかなり低い。マリウスがいなくなって、その分の人手があればいいんだが、こればっかりは代わってやれないしな。何かしてやれることがあったら、なるべくしてやりたいものだ。


 予想通り、特に何事もなく街に着いた。立ち番はマリウスの同僚氏ではないので、会釈だけして通り過ぎようとする。そこへ立ち番の衛兵が声をかけてきた。

「おっと、1人増えたか?」

 日に何人も通るだろうに、よく覚えてるな。

「ええ、まぁ」

「モテモテじゃないか。羨ましいな、色男さん」

「いやぁ、そんなんじゃないですよ」

「ちょっと"新入り"のお嬢さんの目と手首を見せてもらってもいいかい?」

「ええ」

 衛兵はディアナの目と手首の辺りを見る。

「すまなかったね。奴隷とか誘拐で無理矢理連れてこられた子は、目と手首を見たら分かるのさ。目と手首のどこをどう見たら分かるのかは秘密だけどね。協力ありがとう。行っていいよ」

「どうも」

 俺たちは4人で会釈して街に入る。色々な人を見てると、ああいう術も身に付くんだろうな。あまり習得して嬉しいたぐいの技能ではないが、あの人もそれなりに辛酸を嘗めてきたに違いない。


 そして俺たちは、いつもの通りにカミロの店に向かった。倉庫に荷車を入れたら2階へ上がる。店員さんや番頭さんも慣れたもので、すぐに商談室に通された。ただ、心なしか倉庫の人も店員さんも増えている気がする。

 そんなに待たずにカミロが商談室に入ってきた。

「よう」

 俺からの挨拶も気軽なものである。カミロはディアナがいるのを見つけて言った。

「おう。ああそうか、ディアナお嬢さん今そっちにいるんだったな」

「そうだぞ。お前たちは本当にああいうやり方好きだよな」

「知ってただろ?」

「知ってたけどな。そういえば、随分人が増えたじゃないか」

「ああ。おかげさまで儲けが増えてね。伯爵家出入りともなると、都に人だけ置いていちに出すんじゃなくて、小さくても店の1つもいるからな」

 前の世界で言えば、大阪本社で東京事務所、みたいなもんか。今から都に倉庫付きの大店となると大変そうだが、最悪店として機能さえすればいいなら、なんとでもなるんだろう。

「なるほど、そりゃ良いことだ」

「そうだろ? それで、今日もいつものでいいのか?」

「あ、今回は火酒と寝具が2セットあったら、そっちも貰えるか?」

「おう、あるぞ。支払いはいつもの方法でいいよな?」

「ああ。よろしく頼む」

 俺が頷くと、カミロは番頭さんに目をやる。番頭さんは頷くと部屋を出ていった。後は荷物の積み下ろしの間、カミロと都にいた時の話をする。俺やディアナが話してなかった内容(ディアナは知らなかった部分もあるが)を、サーミャやリケも楽しそうに聞いているのだった。

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