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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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出立の朝

 朝起きてから、いつもの通り娘たちと水汲みに向かう。

 朝夕の暑さはかなり和らいできたように思う。少なくとも起きた時にじんわりと身体を蝕まれているような、憂鬱な感じはない。


「クルルルルル」

「ワンワン!」

「キュッ」

「あはははは! 冷たい!!」


 それでも娘たちが水浴びをして喜べる程度の気温である。もっと季節が進んで冬になれば、喜びはしない……いや、それはそれで「すごく冷たい!」とはしゃぎそうだな。


 さておき、水を汲み終わり、家に戻る。

 明日からしばらくはできないと思うと、少し寂しい気もするが、なに、帰ってくればまた毎日のことになる。


 朝飯(と昼飯)は今日も俺が作った。これもしばらくはなくなるものだが、水汲み同様、俺が帰ってくれば復活する物なので、その間は我慢して欲しい。


「ようし、こんなもんかな」


 朝食を終え、テキパキと準備を済ませた。

 とは言っても鍛冶屋として出向くので、かえって用意しないといけないものはそうない。

 愛用の鎚と革手袋、革の前掛け、あとは魔力を篭めた板金が少々。流石に金床は持って行けないので置いていくが、多少の物ならここにある道具と材料で作れる。


 あとは保存食と、一度煮沸したうちの水を入れてある水袋、小さめの毛布が日常道具だ。

 普通なら火起こしする道具一式が必要なのだろうが、馬車での移動になるなら用意してくれているだろうし、いざとなれば火起こしする方法はインストールの知識にある(おそらく生き残るためと、この世界での一般常識だからだろう)ので、それを活用する心づもりである。


 一応、こういったことのプロでもあるヘレンにも確認してもらったが、


「大丈夫だろ」


 とのことだった。ま、いざとなれば現地調達も含めてなんとかするしかないか。

 現地調達という意味では今回我が家ではあまり出番のなかったものを持っていくことになった。


 帝国金貨である。王国の物よりも大きく、金の割合が多いとかで少し価値が高い。うちにはそれがいくらかあるが、ポンと使う機会もそうそうないので、減ることがなかった。

 今回は帝国へ行くのだし、鍛冶屋という身分でも、俺の年かさなら全財産ということで2枚ならギリギリ持っていてもおかしくないのでは、とそれだけ持っていくことになった。

 使う機会がなければないで、我が家の金庫に戻るだけである。


 そうこうしていると、バサリと翼の音が聞こえた。ハヤテはこの時間クルルの背中でのんびりしているので、アラシだろう。

 外に出て伝言版をみると、アラシがそこにとまっていた。


「ご苦労さん」

「キュイッ」


 脚の筒から紙を取り出し、空の筒を脚にくくりなおしてやると、アラシは一声鳴いて、再び空へ舞い上がっていった。


「どれどれ」


 紙を開くと、やや乱暴な字で、簡潔に内容が書かれていた。


「今馬車で店を出たから、森の外で待っていてくれ」


 アラシが矢のように飛んでいけることを考えれば、ここに来るのにそう時間はかからないはずである。

 街から〝黒の森〟までは馬車でも少しかかる。ちょうど俺が森の入り口まで歩いて行くのとそう変わりない時間だろう。


「それじゃあ、行ってくるとしますか」

「クルルに送ってもらわないのか?」


 サーミャがそう言ったが、俺は頭を横に振る。


「それで森の入り口で見送られたら決心が揺らぐかもしれないからな」

「なんだそれ」


 言いながらも、サーミャは大きく笑う。


「無茶はしないでくださいね」

「気をつけてね」

「お身体に障るようなことはしませんよう」

「危ないと思ったら逃げろよ」


 リケ、ディアナ、リディ、ヘレンも口々にお見送りの言葉をかけてくれる。


「ま、なんかあったら、すぐ帰ってきて、私に言いなさい」


 最後にアンネが胸をドンと叩いて請け合ってくれた。


「みんな、ありがとうな。じゃあ、行ってくる」


 娘たちの声と、大きく手を振る家族たちに見送られ、俺は家を発った。




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― 新着の感想 ―
今まで留守番組の視点が語られる事ってあまりなかった気がするけど、エイゾウさんがいないときの水汲みや調理って誰が担当してるんだろ? 各々の料理の腕前がどの程度なのかも知りたいな。
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