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野宿ガール  作者: 五月雨拳人
15/68

15話 焚き火でテンションUP

     ◇


 三月十四日(火曜日)


 午後二時過ぎ。


「とうちゃ~く」


 紗月は毅然山きぜんやまキャンプ場に到着した。


 毅然山キャンプ場は四国のほぼ中央に位置し、ここを起点に四国のどこにでも足を延ばせるため紗月がホームにしているキャンプ場だ。設備はトイレと調理場があるだけだが、新しいしきれいだし、何より無料なのが嬉しい。


「おまけに滅多に人がいないから、いつも貸し切り状態なんだよね」


 バイクから荷物を降ろし、駐車場から少し離れたキャンプサイトへと運ぶ。途中に勾配の急な坂があるので、紗月は膝に負担をかけないように慎重に歩いた。


 坂を下ると目の前には河原が広がっていた。ここがキャンプサイトだ。


「やっぱり誰もいない。より取り見取りだぜ~」


 紗月はなるべく地面が水平な場所を選ぶと、さっそくテントを張り始めた。


 まずは大小問わずできるだけ石を取り除き、グランドシートを敷く。こうすれば寝る時に背中がごつごつしないし、地面の湿気がテントに染みてくるのを防いでくれる。


 テントを張ったらペグダウンだが、紗月のテントは自立型なので中に荷物を入れておけば風で飛ばされるということはないから滅多にペグは打たない。今日も省略だ。


 テントの中に荷物を入れて重しにし、全体のバランスを見る。フライシートにヨレはないし、テント全体がグランドシートの中にきれいに収まっている。


「よし、完成」


 テント設営が終わっても、まだ午後三時。この後する事と言えば、夕飯を食べて寝るだけである。完全に手持ち無沙汰だ。


「久々に焚き火でもするか」


 紗月はキャンプ漫画の影響でキャンプを始めたが、実際に道具を揃えてやってみると単純に野宿が好きなだけで、キャンプが好きというわけではないのに気づいた。なのでそれ以降はテントは張っても焚き火はしないということが多かったのだが、コロナのせいで野宿どころかバイクツーリングもできない時世が続いたので、体内の焚き火成分が枯渇し焚き火に飢えていた。


 焚き火をするならまずは薪集めだ。紗月は河原を適当にぶらつきながら、手頃な薪を探す。


 昨日の雨で薪が湿気っているかもと心配したが、日当たりが良かったのかどれも良く乾いていた。


 適当に薪を集めてテントの戻ろうと思ったら、ススキが群生しているのが見えた。


「あれも持って行こう。良く燃えるぞ~」


 紗月はススキの穂の部分だけを十本ばかり手でちぎる。ふわふわとした白い穂は、いかにも良く燃えそうだった。


 テントに戻った紗月は荷物の中から焚き火台を取り出して組み立て、風上になる位置に置く。


 続いて拾ってきた薪を手頃な大きさに折り、大中小と仕分けする。手で折れない薪は折り畳みの鋸を使って小さくし、ナイフでバトニングして細くする。


 焚き火の下準備が終わると、次は火を着ける準備だ。


 焚き火台にススキの穂を敷き、その上に細い小枝を乗せていく。その上に少し太い枝を乗せ、その上にさらに太い枝をと徐々に枝を太くしながら積んでいく。


 そうして隙間の多い枝のピラミッドが完成すると、いよいよ着火だ。


「一度これやってみたかったんだよね」


 紗月が取り出したのは、ファイヤースターターというマグネシウムで出来た棒をナイフなどで削って粉にし、火花を起こして着火する道具だ。


 普段なら着火剤の上に適当に枝を組み上げ、ライターで着火する味も色気もない焚き火をするのだが、テレビのキャンプ番組で使っているのを最近見てやりたくなったのだ。ちなみに100均で買った。


 焚き火台の底に敷いたススキの穂を目がけて、ファイヤースターターをナイフで力一杯こする。


 シュバッという音とともに大きな火花が飛ぶと、ススキの穂に引火して一瞬にして燃え広がった。


「うわ、すご!」


 燃え上がったススキの穂はその上の小枝を燃やし、火は徐々に大きく育っていく。


「やった、一発着火! うひょ~!」


 初めてやったにしては上々の出来栄えに、紗月のテンションが一気に上がった。


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