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<第二章>玄衣の踊り手達

<第二章>玄衣の踊り手達




 廃ビルの三階。ボロボロの古いソファーの上。そこに鋭と安形が座っていた。

「俺は少し前まで黒服で研究員として働いていた。勿論イグマ細胞の研究についてな」

 鋭が静かに言葉を吐き出す。

「ずっと黒服で研究し続けると思っていた。イグマ細胞の研究こそが、最高の神秘の研究だと思っていたんだ。だけど――あの時草壁国広の話しを聞いてから、俺は考えを改めた」

「草壁? 黒服の副代表のことか」

「そうだ。俺は黒服本部、つまり第一支部の偽装タンカーが仕事場所だった。そこで草壁に会ったんだ。あいつは言った。黒服での俺たちの研究は科学の進歩のためでも社会のためでもない。イミュニティーやディエス・イレを出し抜き圧倒的な支配力を得るためだとな。……がっかりしたよ。結局は黒服も他の組織となんら変わりはない。ただ力に欲望の涎を垂らす、飢えた獣だ」

「それとこれがどう関係してるんだ?」

「この三大勢力の小競り合いにうんざりした俺は黒服の本部から最高機密の兵器、いや研究体を持ち逃げし、それを世間一般に公表しようとしたんだ。黒服がイグマ細胞の兵器開発をしていることはイミュニティーもディエス・イレも知らない。短期で行動すればすぐにでも公表出来ると思っていた」

 鋭は僅かに俯いた。

「だが……甘かった。そう簡単に反逆が成功するわけがない。俺はすぐに黒服の追手に追い詰められ、何とかこのスラム街に身を潜めることが精一杯だった」

「おい、おかしいぞ? 黒服に追われているのなら何で黒服に助けを求めるメールを送った? 自分から隠れ場所を教えるようなものじゃないか」

 当然の疑問を持つ安形。

「俺を追っているということも、俺が何を持ち逃げしているかも知っているのは黒服の上位だけだ。追手は幹部の直属兵だし、普通の構成員は何一つ知らない。黒服は一度任務に当たれば例え上司が相手だろうと躊躇せず戦えるんだろ? そこを逆手に利用したのさ」

「なるほど、賢しいな。それでその黒服の最高機密の兵器とやらはどこにあるんだ?」

 安形は面倒な依頼を受けちまったと、内心溜息を吐きながら聞いた。

「兵器は……今は俺の手元にはない。このスラム街、夢遊町のどこかにいる」

「『いる?』まさか、その兵器って既に固定形態になっているのか?」

「ああ。というより最初から感染細胞ではないく、大型生物型の兵器として作られていた」

「よくそんな大きな怪物を黒服から持ち出せたな。一体どんな手を使った?」

「……――そんな事より、そろそろ俺を逃がしてくれ。あんたなら黒服のやり方が分かるだろ? そのために雇ったんだ。いつまでもここで話している暇はない」

 何故か突然話を変えるように安形の疑問を鋭が止めた。どうみてもその先を話したくないというような態度だ。

「あ、ああ。そうだな。この町には感染者も居る事だし、黒服の追手が来る前に発つか。――ん? そういえば、感染者たちにくっ付いてたあのミミズは何なんだ? あれもお前が持ち逃げした兵器の一つなのか?」

 ソファーから立ち上がりながら安形が聞く。

「あれは兵器の体内で生産されるいわば兵器の分身だ。兵器本体を守るために周囲の生命体に感染し、排除するように神経系にプログラムされている。十秒以上あのミミズに触れると体内に侵入してくるから気をつけろよ。本体の体から生産される以外に感染増殖することはないが、体から体に乗り移ってくるからな。感染者は普通の人間だしあれが抜ければ元々の意識を取り戻す。ま、一般人を傷つけたくないと思うのなら決してナイフは抜くな」

「なるほど、あのミミズが感染源なのか。確かに元の人間に戻るのならナイフは使えないが……だったらどうやって戦えばいい? こっちは逃げるしかないのか?」

「倒す方法はある。かなりぶっ飛んだ方法だけどな」

「何だ?」

「あいつの感染特性を利用する。あのミミズが体から体を移る時は、接触面に十秒間触れている事が条件だ。つまり、逆に言えばあいつは十秒かけて体間移動をする。だからその時に、あいつの体が移動しきる前に殺せばいい」

「つまり、俺かお前が囮になって感染者の体に触れて、ミミズが移って来たら感染しきる前に体からはみ出ている部分を仕留めるってことか? とんでもなく危険で無茶苦茶な戦法だな」

「だが対抗策はそれしかない。あんたが一般人を切り刻めるのなら話は別だけどな。あと言っておくが俺が囮になるのは無理だ。俺はミミズに感染しないように研究所で薬を投与してある。戦うのならあんたが囮になるしかない」

 安形は頭を抱えた。

 ――軽い仕事だと思って来たのに、何て厄介な事件に巻き込まれてしまったんだよ。これじゃ俺の手に余るぞ。しかも相手が黒服かよ――最悪だな。

 頭痛でもしているかのようにしばらく額に手を当て続けると、安形はようやく鋭の顔に視線を戻した。

「はぁ、仕方がない。この依頼を断れば俺の首が飛ぶ……で、どこに行きたいんだ? まずはとにかくこの街から脱出か?」

 疲れた顔で質問する安形。しかし鋭は壁の方に顔を向け、真剣な顔で一点を見つめていた。

「? どうした?」

「……囲まれてる。あの服装、あんたの同僚だな」

「は? どこに黒服が居るんだよ?」

「この壁の向こう二十メートル下の車内に二人、一階にさらに二人居る」

 鋭は壁を見つめたままそう言った。

「お前、超感覚者か」

 その事実に安形は驚いた。

「ああ、俺は事象の微小変化伝達をリアルタイムで感じる事が出来る。周囲のどこに誰がどんな姿で居るか分かるんだ。で、どうする? 相手は二人だ。窓から逃げるか?」

「ここは三階だぞ。飛び降りるとは危険が伴うし、ゆっくり降りていても追手に追いつかれる。屋上から隣の建物に移ろう」

 安形は黒服で培われた冷静な判断力を活かし、そう言った。










 安形と鋭が潜んでいるビルの一階。上階へと繋がる階段の前で、黒村の携帯電話のバイブレーションがなった。

「何だ?」

 黒村は上階の気配を探りつつ電話相手に尋ねた。

「黒村さん、奴ら気がついたみたいです。今屋上に出てきました。多分、屋根伝いに逃げる気なんでしょう」

「気づかれた? そうか、超感覚者というのは本当らしいな。仕方がねぇ。お前らはそのまま監視を続けろ。俺と高木は奴らと同じ屋上からのルートで追う」

「分かりました。ではまた後で」

 普通の部下なら気をつけてとでもいうべきなのだろうが、電話の相手は黒村の身体の安否など興味がないと言うようにあっさりと電話を切った。黒村もそれが当然のようにしている。

「黒村、どうした?」

 隣に立っている筋肉質で短い髪を逆立てた男、高木が無表情で聞いた。

「気づかれた。屋上から追う、行くぞ」

 その問いに関して実に完結かつ冷静にこたえる黒村。その言葉だけで現状を把握出来たのか、高木はそれ以上聞くことはなく黙って階段を上りだした。







「なあ、考えたんだけど今追ってきている連中は俺と同じ格好をしてるんだよな?」

 先ほどのビルから隣のビルの屋上に移動した所で、安形が鋭に突然こんな質問をした。まだ午前のためか空には黄金のような太陽が燦々と輝き、水色の大きな空が視界一杯に広がっている。

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

 足を止めることなく鋭が聞く。

「俺と同じ格好ってことは普通の黒服メンバーってことだ。お前を研究所から追っていた奴らじゃない」

「だから何だ?」

「お前、研究所の追手を全員殺したのか?」

 安形は僅かにいぶかしがるような視線を鋭に向けた。

「全員殺していたらこんな街に潜んでいるわけ無いだろ。まあ、一〜二人は仕留めたけどな。黒服が追手の追跡を止めさせて正式な熟練メンバーをよこしたのは、確実に俺と生物兵器を捕まえるためだ。研究所からの追手はあくまで追手であって本場のメンバーには実力が劣るからな」

「一、二人ね……」

「別に何も嘘はついてない。そんなに怪しむなよ。ところで、俺もあんたに聞きたい事があるんだ」

「何だ?」

 安形は意外そうな顔で鋭を見た。と同時に次の隣接している建物の屋根に飛び乗る。密集地帯のためか建物と建物の幅は数十センチしかない。

「あんたが現れてすぐ連中は襲ってきた。連中とあんたがグルって可能性もある。俺があんたを信じれる保障は?」

「俺がグルなら最初に会ったときにお前を攻撃してるだろ。それにさっきだってお前が奴らに気がついた時点でいつでも逃げ道を塞げた。多分追手の連中はお前が黒服に送った依頼に気がついていたんだ。それで俺がそれを受けた事も知っていた。恐らくさっきの待ち合わせ地点付近まで俺を見張ってたんだろうな。お前が現れた時を狙って捕まえるつもりだったんだろう」

「ごっつい見かけによらず頭が働くじゃないか」

 鋭はニヤリと口元を歪めながら言った。

「俺を試したな? お前は超感覚者だ。待ち合わせの場所に現れなかったのも俺を尾行していた追手の姿を感じていたからだろ? だからあのミミズ感染者が現れて俺と追手の距離が離れるまで姿を見せなかった。結局は追手に見つかったけど」

「そこまで分かっているのなら十分だ。あんたが使えそうな人間で良かったよ」

 再び小さく笑う鋭。

「……それで、脱出方法なんだが、俺はこの夢遊町の手前までヘリで来てる。そこまで辿りつければ連中も追って来れない筈だ」

「ヘリが衛星で追われる心配は無いのか?」

「衛星だって万能じゃない。トンネルの中や橋の下とか見えない場所は幾らでもある。そういった場所でお前をこっそりヘリから落とせばいいさ」

「なるほどな」

 鋭は頷いた。

「ところで――」

 安形は次の疑問をぶつけようと声を出した。

「――来たぞ、走れ!」

 だがその瞬間、鋭が背後の黒村と高木の姿を感じ取った。どうやら透視のように間にどんな障害物を挟んでも相手の姿を感じる事が出来るらしい。

「居たぞ高木!」

 安形と鋭から二つ後ろのビルの屋上で、ドレッドヘアーを振り乱した黒村が大声で叫んだ。

 高木は未来から来たロボット兵士のように無表情でただ一点を見つめ、肩から小型ナイフを抜き取り前方に向かって投げた。

「つっ!」

 それが鋭の背中に突き刺さる直前、安形は素早く腰から黒柄ナイフを引き抜くとナイフを叩き落とした。

 拳銃のグリップのような形の黒い柄に、ダークグレーの刃が付いた変わったナイフだ。その刃の内側は一センチほど銀色に光っており、ナイフにしては珍しくローマ字の「E」のような鍔止めが付いている。

「この野郎!」

 安形はお返しと言わんばかりに弾いた小型ナイフを拾い上げ、追手の二人目掛け投げ返した。

「ふん」

 先ほどの安形のようにそれを叩き返そうとする高木。だが、予想よりも遥かに飛んでくるナイフの速度と力が強かったためか、逆に高木の黒柄ナイフが弾かれた。

「がっ!? 何て馬鹿力だ!」

 高木は手首を振りつつもう一方の手で自分の黒柄ナイフを拾うと、急いで既に先へ進んでいる黒村の後を追った。

「このままじゃこっちが不利だぞ!」

 次の建物に飛び移りながら鋭が安形に怒鳴る。それを聞いた安形は必死に冷静さを保たせながらこう言った。

「相手は四人居たんだよな? だったらあと二人の黒服メンバーがどこかで俺たちを見ているはずだ。そいつらの視界から外れない限り永遠に追われ続ける。どこか狭い場所は無いか? 遠くから姿が見えないような道とか」

「……一つある、こっちだ」

 鋭は次のビルの屋上に移った途端、屋内への扉を開け放ち階段を降り出した。安形もすぐにそれに続く。

「下に降りたぞ! 本田、曽根、見逃すな」

 その姿を目撃した黒村は、懐の通信を入れっぱなしの携帯電話に向かって叫んだ。










 先ほどのビルの地下。

 ガラス張りの両開き扉を開け放つと、鋭は静かに言った。

「ここは元々は地下商店街だった。今では見る影もないけどな。この道を真っ直ぐに進めばビル密集地帯を気づかれずに抜けられるはずだ」

「一応屋上の扉はモップをつっかえ棒にして開かないようにしたけど、いつまで持つか分からない。出来るだけ急ごう」

 安形は真剣な面構えで答える。

 二人はナイフをそれぞれ構え慎重に歩き出した。

 ガタ、ガタ――

 風の所為で、ボロボロの商店街のシャッターが鳴る。鋭はその度に鋭い目つきでシャッターを睨み付けた。

 ザッ、ザッ――

 二人の足音が無音の地下通路に響く。その音は緊張感を引き起こし、二人の心臓の速度を加速させ、額からは冷たい水を絞り取った。

 僅か数十メートルの短い道が嫌に長く感じられる。今にも立ち並ぶ商店の中から何かが飛び出してきそうだ。

 カランッ――

 安形の真左の店の中から空き缶が転がる音が聞こえた。

 すかさずナイフをそちらに向ける二人。

 店の中は真っ暗でここからでは何も見えない。

 安形は声を出さずに左手で鋭にここで待つように指示を出すと、足音に気をつけながら店の中に踏み込んだ。

 雑貨屋だったのだろうか。店の中は無数の日用品が散らばり棚が立ち並んでいる。

 いつミミズ感染者や黒服の追手に襲われても良いように、安形は前後左右全てに気を張りながら奥へ進んでいく。その姿を心配そうに店の外から鋭が見つめた。

 安形はカウンターの前、内側にまで来た。そこに空き缶が転がっている。こんな屋内にある空き缶が風で転がるとは考えられない。ましてやコロコロではなくカランッと何か硬いものに当たったような音を響かせていたのだ。ほぼ間違いなくこの店の中には今何かが居る。

 安形は用心しながらカウンターの下を覗きこんだ。

 しかし、誰かが潜んでいるような事も物音を立てる原因になりそうなものも無かった。

「何で音が鳴ったんだ?」

 不思議に思いながらもカウンターの下から顔を上げた。

 その瞬間、目の前に涎を垂らした女が立っていた。

「うぉおおっ!?」

「あぅうううぁあああああー!?」

 女、ミミズ感染者は安形が反応するよりも早くその首に両腕を巻きつけた。

 ――ま、まずい!

 相手が悪魔だったのならすぐにナイフで倒せるのだが、この場合はただ体を一時的に乗っ取られているだけの被害者だ。攻撃することなど出来るわけが無い。

 頚動脈が圧迫され次第に安形の顔が赤く染まっていく。これでは窒息死してしまうだろう。 だが、それよりも恐ろしい危険があった。そう、十秒感染だ。

 首本に電気が流れるような何かが染み込むような嫌な感覚が走る。既に首を掴まれてから六秒近く経過している。このままではあとたった四秒でこの女の体内からミミズが移って来てしまう。そうなれば任務達成も自分の命も危うくなる。

 ――くそっ!

 安形は無我夢中でミミズ感染女の腕を引き剥がそうとした。幸いにも安形の筋力は並外れている。幾ら相手がミミズ感染者だろうと悪魔化しているわけでは無いため、安形の剛力なら引き離せるはずだ。

「うおおおおおおっ!」

 安形はミミズ感染女の腕を強引に振り解いた。その瞬間、ばったりと倒れるミミズ感染女。

 一安心する間もなく、安形は自分の首本から伸びている、うねうねと蠢く触手だらけのミミズの姿に気がついた。もう既に前半部が安形の体内に侵入している。

「うわああっ!? 気持ちわりぃー!?」

 慌ててそれを引っこ抜き、地面に叩きつけると思いっきり踏みつけた。

「はぁっ、はぁっ――はぁ……!」

 間一髪だった。

 短時間の疲れがどっと湧き出てくる。安形はカウンターに寄りかかるように体を傾けた。

「どうした!?」

 鋭が急いで駆けて来た。

「いや、ただ感染者に襲われただけだ。心配はない。……さあ行こう」

 安形は自分の情けない姿を見られまいと強がった。

「待て、この女性はどうするんだ?」

「ん? あ、そうか。まいったな。ここでこうして放って置くわけにもいかないし。――仕様が無い。鋭、お前が安全な場所までおぶってやれ」

「い、いや俺は力が無いからあんたがおぶってくれ。それにもう何日も逃げ続けて体力が無いんだ。頼む」

 その言葉を聞いた途端、何故か鋭は怯えたような表情を作りこう言った。

「しかたねぇな……?」

 安形は鋭の態度に奇妙な違和感を感じつつも、床に倒れていた女性を背中に乗せる。それを見てホットしたように息を吐き出すと、鋭はさっさと店から出て行った。

「あいつ、何かまだ隠してることがありそうだな。」

 その後姿を見ながら安形は誰にも聞こえないような声で呟いた。










「外には出ていません。はい、まだ中に居るか地下を使ったかどちらかだと思います。……ええ、はい。分かりました。そうします。では」

 ハリネズミ頭の黒服メンバー、本田は黒村との電話を切った。

「何だって?」

 茶色の短髪のもみ上げと顎鬚がくっ付き、まるで顔を毛が一周しているような外見の男、同僚の曽根が確認するように聞く。

 二人は今黒塗りの車の中に居た。ここからスラム街の狭い道路を走り、双眼鏡を使って鋭と安形を追っていたのだ。

「黒村の旦那の奴そうとう焦ってるな。このまま見逃しそうならナルキッソスをばら撒けってよ」

「ナルキッソス? 任務直前に草壁から渡されたあれか。こんなに早く使うのか?」

「らしいぜ。って言っても、あくまで見逃しそうな場合だけどな」

「あれは使い方を間違えれば俺たちにも危険が及ぶ。それに、あれをアウトブレイクさせてはこの任務のことがイミュニティーにバレてしまうんじゃないのか? 確かこの任務は黒服内の最重要機密に関わっているのだろ?」

「バレるよりも飛山鋭を逃がす方がヤバイってことさ。どうやらあいつは黒服にとってそれほど重要な存在らしい」

「ふむ。草壁は詳細を黒村以外には教えてくれなかったからな。俺たちは鋭について何も知らないが、それほどの価値のある男と言う事か」

「らしいな。さあ、そろそろ行こうぜ。こんな所でだらだらしてたら俺らが黒村の旦那に追われちまう。働けってな」

 本田は車のハンドルを握り締め、アクセルを踏んだ。段々と速度が上がっている。

「どこに向かうんだ?」

 助手席から曽根が聞いた。

中心街ミッドタウンだ」

 質問に対し、本田は完結に答える。

 その瞬間、二人の後ろ、後部座席に置いてある一つのクラーボックスが、まるでもうすぐ自由になれる事が分かっているかのように嬉しそうに揺れた。

 それが車の振動によるものなのか、中に入っている物の所為なのかは誰にも分からなかった。









題名のE1やE2のEはEXTRA(番外編)の略です。

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