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ファンタジアの救世主 ~生命の名前を欲すモノ~  作者: 白夜いくと
道なき心の道をさまよう少年
9/11

罪深きオルターナ

「どこ行ってたモグ―!」


 オルターナの姿を見ると、九匹のモグモグ族がキラキラと涙を流して優斗(ゆうと)たちのもとへと勢いよく寄ってきた。星空のように強くきらめく極寒の地。

 彼らが十匹揃うと、次第に激しい雪は止み、まばゆい彩雲が現れて、辺り一面を美しい野原に変えていった。それはそれは、美しすぎるくらいに眩しかった。


「まるで絵本みたいだ……」


 目の前の光景に息をのむ。

 その横で一匹だけ赤くルビー色に輝いているオルターナ。明らかに不自然だ。無言で震えている。優斗(ゆうと)はオルターナから焦りの気持ちを感じた。


「これはどういうことじゃ。説明するモグー」


「……」


 モグモグ族の一番偉い者がオルターナに尋ねた。俯いて黙り込んでいる。


「居心地のよさそうな空だ。オレが照らしたいのはこのような美しい空だった」


フェニキアスは、彩雲の空に焦がれて、そのまま飛んでいった。まるで太陽のように光と影を創りながら。

 同時に見えなかったはずの道も現れた。フェニキアスの照らす大地は幻想的に輝いている。その一方で、そうではない道は真っ暗闇だ。極端すぎるくらいに明暗が分かれていた。


「……べちゃったモグー」


「聴こえんぞ」


 頭をバッと上げたオルターナの目には大粒の涙があふれていた。あたり一面に水滴が飛ぶ。それは優斗(ゆうと)の頬にもかかった。と同時に、彼はオルターナが聖なる泉の宝珠を食べてしまったという情報を知る。


「聖なる泉の宝珠って何? 君、食べちゃったの」


「なんじゃと!?」


 それを聞いたモグモグ族たちがざわめく。大人しく様子をうかがっていたエルフィンも、彫刻画のような顔をゆがませた。まるでムンクの叫びのようなポーズだった。

 理由はいたってシンプルだ。聖なる泉の宝珠は、女神フォルトゥナの供給するフォルスの行先だからだ。これがなくなっては泉は正常に機能しない。


「でも、どうやって聖なる泉にたどり着いたんだい。ここの住人は全員その在りかを知っているの? だったとしたら宝珠を食べたらだめなことぐらい知っているよね?」


「モグー……」


「あ、ごめんね。泣かせるつもりはないんだ。僕が知りたいのは、聖なる泉の在りかなんだよ。いったいどうやって行けたの。教えて」


「突然、黒い影が我をそこに連れてったモグー。影は言ったモグ。帰りたければ宝珠を食べて見ろって。そうしたら、どんどん後悔の気持ちが出てきて納まらなくなって……モグー!」


 大泣きするオルターナ。すればするほど、輝きは増していく。優斗(ゆうと)は次第に、オルターナの後悔の気持ちが移ってきてしまった。自身の心が揺らいでいる。大変居心地が悪い。こんなにも目の前のファンタジアが美しく見えるのに。


「女神フォルトゥナ様のフォルスが一か所に集中しておるから、こんなにもファンタジアが美しく見えるのじゃ。しかし、遠くの空を見るモグー。黒々としておる。あぁなんと罪深きオルターナ。さては、デーモンにそそのかされおったな」


 ここで、優斗(ゆうと)に一つの疑問が生まれる。


「デーモンは魔界のボスじゃないですか。ファンタジアを行き来できたのですか?」


 むぅ、と唸ってモグモグ族の一番偉い者はこう言った。


「心に汚れがあれば、デーモンはそれを察知して近づいてくるモグー。行き来する。というより、憑りつくというのが正しかろうな」


「いったいモグモグ族の間で何があったのです」


 優斗(ゆうと)が未だルビー色に輝くオルターナに問いかけた。彼の心が汚れた理由。それは“つまみ食い”。ガクッとこけそうになるのをこらえて、彼は話を聞いた。

 オルターナは、モグモグ族みんなで貯めた食べ物を、出来心で独り占めしたいという気持ちになったのだという。それを咎められていじけていたら、デーモンの声がしたらしい。


「ファンタジアの住人として恥ずかしい奴め。もうお前なぞ仲間ではないモグー」


「そんなーモグー!」


 オルターナの心が揺れるたびに、遠くの空が漆黒に染まっていく。きっと女神フォルトゥナのフォルスをオルターナが無駄に消費してしまっているのだろう。

 そこで優斗(ゆうと)は、一つの提案をした。


「ねぇオルターナ。僕と一に聖なる泉を復活させに行こうよ。名誉挽回しよう」


「そんなことできないモグー」


「大丈夫。ハートナイトの僕と一緒ならできるよ!」


 これでいいね、と優斗(ゆうと)は、モグモグ族たちに言った。そこで残るのは彼らの不安だ。聖なる泉のフォルスの恩恵が無い地では、モグモグ族やフェニキアスの居場所が再び脅かされることになる。

 そしていつ魔物が現れるかもわからない。

 彼は考えた。


(そうだ!)


 ハートナイトの力で、オルターナの食べた、聖なる泉の宝珠のフォルスの力の一部を宿した剣を創り、それを地面に刺して、泉の代わりにしようという案が浮かんだのだ。


「意外と大胆ですね。罪人を利用するなんて」


 エルフィンが、オルターナのうるんだぱっちりな瞳を見ながら言った。それにおびえている様子のオルターナを人形のように抱きかかえる優斗(ゆうと)


「原因は些細なことだったんだ。この子は罪人なんかじゃない。喧嘩両成敗だよ」


「我らは何もしとらんモグー!」


 笑ってごまかす優斗(ゆうと)。問題はその方法だ。ハートナイトの力をどう使うか。彼の想い、気持ちなどの力が試される。それに加えて想像力も。


「またお呪いでも考えますか?」


 エルフィンが言うと、「それはいいアイデアだね」と優斗(ゆうと)。しばらく考えた。聖なる泉の力をオルターナから拝借して、地面に定着させる。そのための剣を創る。

 どのようなものが良いだろう。格好いい剣。派手な剣。シンプルな剣。大きな剣……。


「よーし!」


 優斗(ゆうと)の想像が固まった。あとはオルターナと協力して剣を創るだけだ。モグモグ族やエルフィンは、彼がどんなお呪いを考えたのか想像していた。

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