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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第四章 皮膚シールを作ろう!

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水果実を探せ!

 〝トネリコの森〟は、杖の材料となる木々が自生する森林地帯である。

 魔力が豊富な木が生えているため、杖職人達の多くが出向き、素材集めを行うという。

 杖の素材以外にもトネリコの森には豊富な植物があり、薬師や魔技巧師にとっても天国のような場所である。

 ただ、魔力を糧とする魔獣も多く生息していて、戦闘能力がない者は護衛の動向が必須となるのだ。

 ユベール様は初めて〝トネリコの森〟に立ち入ったようで、興味深い様子で辺りを見ている。


「このような場所があったとはな」

「どちらかといえば、世界樹のある大森林のほうが有名ですからね」


 大森林はレアな素材がざっくざっく採れると有名な場所で、物作りを行う魔法使いにとって聖地とも呼ばれる場所だ。

 ただ大森林のほうは生息する魔獣の強さが桁違いで、生半可な気持ちで立ち入ると命を落とす。

 一方、ここ〝トネリコの森〟は聖木と名高いトネリコの木が多く自生していて、比較的魔獣や魔物は少ないのだ。

 かと言って、油断はできない。気を引き締めながら水果実を探さなければ。


「メーリス、水果実というのはどのような見目をしている?」

「透明なリンゴみたいな形なんです」


 一度だけ、師匠が美容シールを作るさいに見たことがあった。

 師匠はギルドで依頼し、〝トネリコの森〟で採ってきてもらったと話していた。


鑑定魔法アナライズ常時展開パッシブで探してみます」

「わかった。周囲を警戒しておこう」


 早速鑑定魔法を展開させる。水果実にのみターゲットを絞っているので、情報量の多さにくらくらくることはない。

 魔力を消費しすぎると動けなくなるので、残りの量に気をつけながら先を進もう。


 こうして実際に森を歩きながら素材を探すのは初めてである。

 草木の香りや、頬を撫でる風、魔獣や魔物がどこかにいるかわからない緊張感など、街で感じることのできない感覚が研ぎ澄ませる。

 一歩間違えば死――そんな過酷ともいえる環境の中に、シール作りに必要な素材があるのだ。

 途中、ガサガサと草叢くさむらをかき分ける音が聞こえた。

 動きを止めて警戒するも、すぐにユベール様が大丈夫だと言ってくれる。

 草叢から飛びだしてきたのは、野ウサギだった。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 野ウサギ程度で心臓がバクバクだった。

 この先心臓がつのか、心配になってしまった。

 途中、森の中に川が流れていた。


「ユベール様、飛行シールを使いますか?」

「いや、この程度ならば跳んでいける」


 簡単に言っているが、川幅はかなり広い。

 人間の運動神経で跳び越えられるものなのか。

 私は飛行シールを使って飛び越えよう。なんて考えていたら、ユベール様がまさかの行動に出る。


「失礼」


 そう言って私を横抱きにし、助走もなしに跳んだ。


「へ――!?」


 川を一息で跳び、見事に着地した。


「大丈夫か?」

「は、はあ」


 返事と驚きの声が同時に出てしまう。

 その後、ユベール様は丁寧に私を下ろしてくれた。

 まだ胸がばくばく鼓動している。


「どうした?」

「び、びっっくりしたんです! まさか私を抱えて跳ぶとは思っていなかったので!」

「すまない」

「いえいえ……。その、ありがとうございました」


 ユベール様のおかげでシールを消費せずに済んだのだ。感謝しなくては。

 それにしても、とんでもない運動神経である。

 魔法に精通し、騎士としての精神や強さも申し分なく、さらに運動神経まで万能だとは。

 神様は二物も三物も与えるものなのだな、としみじみ思ってしまった。


 それから一時間ほど歩いていると、鑑定魔法の審検サーチに水果実が引っかかった。


「ユベール様、ここから少し進んだ先に水果実がありそうです」

「わかった、先を急ごう」


 水果実にシーズンはなく、魔力さえ貯まればたわわな実を生らす。

 ただまったくないタイミングもあるので、見つかってよかったと胸を撫で下ろした。

 しかし――。


「こ、これは……!」


 水果実を発見することはできた。

 けれども水果実を生らす蔦が、樹魔人トレントに巻き付いていたのである。

 樹魔人トレントは魔力を持つものを糧とし、成長する。

 それは植物だけでなく、人も該当するのだ。


「ユベール様、見てください!」


 樹魔人トレントの近くには、人骨と思われるものが転がっていた。

 もしかしなくても、この樹魔人トレントは〝トネリコの森〟にやってきた人々を糧としているのだろう。


「倒すしかないな」

「そう、ですね」

「メーリスは下がっていろ」

「わかりました」


 一歩、ユベール様が近づいた途端、眠っているように動かなかった樹魔人トレントが覚醒した。


『オオオオオオオオ!!!!』


 雄叫びを上げ、襲いかかってきた。

 樹上から蔓を伸ばし、槍のようにザクザク突き刺す攻撃を繰り出してくる。

 水晶剣に火を纏わせたユベール様が、次々と斬っていった。

 魔王相手に戦ってきたユベール様にとって、樹魔人トレントなんて敵ではない。

 今回は樹魔人トレント自身が私達の目的である水果実を所有した状態でいるので、非常に戦いにくい状態だろう。

 樹魔人トレントは蔓攻撃を止めえ後退った。そうしたあと、ぶんぶんと樹上を揺らす。

 すると木の実のような物が広範囲に落ち――爆弾のように爆ぜた。


「くっ――!!」


 ユベール様はなんとか回避したようだが、着地した場所に向かって蔓攻撃が繰り出された。

 危ない。

 そう思った瞬間、私は地面にシールを貼り付けた。

 ボコボコと土が突起しながら、大きな植物がユベール様の前に盾のように生える。

 蔓攻撃を防いでくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。

  先ほど貼ったのは、〝盾葉じゅんようシール〟。

 ありとあらゆる攻撃を一度だけ必ず防ぐ、鋼鉄製の葉を生やすものだ。


 樹魔人トレントは攻防に長けており、なかなか接近できない。

 どうしたものかと考えていたら、シュシュが話しかけてきた。


『隙ができたら、シュシュを投げて』


 樹魔人トレントが所有する水果実を採ってきてくれるという。


「大丈夫なのですか?」

『うん、平気!』


 シュシュは耐久性はピカイチらしく、たとえ樹魔人トレントの攻撃を受けても平気だという。

 しかしながら、私側に問題があった。


「その、上手く投擲とうてきできるかどうか……」


 正直な話、肩に自信がなかった。

 どうしようかと考えていたら、コゼットが挙手する。


『きゅう!』

「もしかして、コゼットがシュシュを投げてくれるのですか?」

『きゅ!』


 幼竜とはいえ、コゼットは私よりも肩の力が強いのかもしれない。


「では、私はタイミングを見計らいますね」


 そんなわけで、作戦をスタートする。

 樹魔人トレントの攻撃方法を見ていたら、パターンが決まっていることに気付いた。

 蔓攻撃で距離を取ったあと、木の実爆弾で広範囲攻撃を繰り出し、最後に蔓攻撃でとどめを刺そうとする。

 木の実爆弾を仕掛ける前がチャンスだろう。

 ユベール様が注意を引きつけている間に、私はタイミングを見計らう。

 そして、そのときが訪れた。


「今です!!」

『きゅーう!!』


 コゼットはシュシュを樹魔人トレントをめがけて投げた。

 ベルト部分がびょーんと長く伸び、シュシュは弧を描いて飛んでいく。

 口を大きく開けたシュシュは、樹魔人トレントが大事に所有していた水果実の蔓にかぶりつき、麺を吸うように一気に収納する。

 無事、水果実を入手できたのを確認すると、コゼットがシュシュのベルトを引き戻した。

 私の胸めがけて飛んできたシュシュを、無事受け取った。


「ユベール様、水果実、入手できました!!」

「承知した」


 もう手加減する必要はない。

 ユベールは水晶剣に炎をまとわせ、樹魔人トレントを倒す。

 見事、討伐に成功させていた。


 樹魔人トレントの近くにあった遺骨はここに埋葬するのかと思えば、ユベール様は丁重に革袋に収めていた。なんでもギルドに預けるという。

 行方不明になった家族を、探す依頼が多くあるようだ。

 魔力を鑑定すれば、該当する人物も判明するようなので、その後の処理を任せるようだ。


「魔王討伐の旅でも、仲間の魔法騎士が命を落とした――」


 亡骸を連れて帰ることができず、家族に責められる場面を目にしたという。


「せめてここにいる者達は、家族のもとへ返してやろう」

「はい」

 

 どうか安らかに眠れますように。

 そんな祈りを捧げたのだった。

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