報告と相談を
その後、打ち解けた私とアデールを見たブルジェ伯爵は驚いていた。
「ええっ、本当に仲よくなったの!?」
「はい、メーリスとお友達になりましたの」
「嘘でしょう!? 奇跡みたいだ!!」
ブルジェ伯爵は眦に涙を浮かべ、私に感謝してきた。
「メーリス嬢、アデールのお友達になってくれて、ありがとう!! これからもよろしく!!」
大型犬がじゃれついてくるような勢いだったので、ユベール様が途中でブルジェ伯爵を制止してくれた。
「じゃあ、少しだけ四人でお茶でも囲んで――」
「お茶はメーリスとたくさん飲みましたわ」
「だ、だったらお菓子でも食べる?」
「お菓子もたっぷりいただいて、お腹いっぱいです」
「えー、そうなの? だったら四人で少しお話ししない?」
「ユベールお兄様がいたら緊張するので、今日のところは止めておきますわ」
「それ、本人を前にして言える度胸があれば、緊張なんてしないと思うけれど」
ブルジェ伯爵とアデールのやりとりを聞いて、笑ってしまいそうになる。
「メーリス、今日のところは帰るとしようか」
そう提案すると、ブルジェ伯爵の表情がパッと明るくなった。
「じゃあ、アデール、あとは二人で」
「ナゼルも帰ってくださいませ」
「えーー、なんで!?」
「一人でいろいろ考え事をしたいので」
「そんなーー!」
ブルジェ伯爵は、捨てられた子犬のようなしょんぼり顔を見せつつ、アデールに「じゃあまた会おうね」と言っていた。
そんなブルジェ伯爵にアデールは「気が向きましたら」なんて素っ気ない言葉を返す。
「アデール、俺は君のことを、絶対に諦めないからね!」
そう伝えると、アデールは困ったような顔で微笑んだ。
するとブルジェ伯爵は嬉しそうな表情で私達を振り返る。
「ねえ、今の見た!? これまでのアデールだったら、結婚できないって言い返していたんだ!! 脈あり!? 脈ありまくりだよねえ!?」
こうしてブルジェ伯爵とアデールの様子を見ていると、お似合いの二人だと思ってしまう。
絶対に結婚してほしい。
それを叶えるためには、皮膚シールの素材を探して、作成を成功させなければならない。
ひとまず、ユベール様に話を聞いてもらわなくては。
玄関まで見送りに来てくれたアデールに、声をかける。
「アデール、また、お茶を囲んでお喋りしましょうね」
「はい、楽しみにしておりますわ」
別れの言葉を交わしたあと、馬車に乗り込む。
アデールは馬車が見えなくなるまで、私達に手を振ってくれた。
「驚いたな。アデールとあれほど打ち解けていたとは。夜の街でメーリスに助けてもらった件だけで、あんなにも警戒が和らぐとは思えない。いったいなんの魔法を使ったんだ?」
「魔法の力ではありませんよ。私達には共通の趣味があったんです」
それに加えて、ユベール様の婚約者であったこと、師匠の弟子であったことも、アデールが気を許してくれた要因だったのかもしれない。
「アデールはユベール様や師匠を苦手と言いながらも一目置いていて、その二人と関係のある私にまで、敬意を払ってくれたんでしょう」
「まあ、そうであっても、あのアデールがあそこまで気を許すとは思えない。メーリスの心遣いが胸に響いた結果だろう」
何はともあれ、アデールから事情は聞き出せた。
あとは対策を打つばかりである。
「少し、話を聞いていただきたくて」
「では、場所を移動しよう」
ユベール様が御者に指示を出し、会員制の喫茶店に向かうこととなった。
その喫茶店はすべて個室になっているようで、声が外に漏れないよう結界も張られているらしい。内緒話をするのに打ってつけの場所というわけだ。
赤レンガに蔓が這ったクラシックな外観に、中は真っ赤な絨毯に白い壁が美しい、洗練された空間が広がっている。
案内された部屋にはすでに紅茶とお菓子が用意されていて、これ以上店員の干渉がないことがわかる。
店員が出て行った途端、防音の結界魔法が展開された。
「徹底されたお店なんですね」
「ああ」
ユベール様は仕事帰り、一人になりたいときはここに通っていたという。
「もともと、賑やかな場や人の多い場所は得意ではないからな。長時間そういう場にいると、緊張の糸が切れるのか、一人になりたくなる」
「そういうところは、アデールに似ていますね」
「オーベルジュ大公家の血筋なのだろう」
基本的に、オーベルジュ大公家の人達は物静かだという。師匠のように朗らかで明るい人間はほぼいないようだ。
「家に帰ってまで、他人と顔を合わせたくない。それゆえ、私は結婚生活に向かない者だと思っていた」
なんでもオーベルジュ大公の強い勧めで、婚約者候補の女性と数回面会したことがあったという。
「たった数十分、一緒にいるだけでも苦痛だった」
この場にアデールがいたら「わかりますわ!」と言っていたに違いない。
本当にいとこ同士、そっくりな気質を持っているようだ。
「ただ、メーリスだけは、一緒にいても苦痛ではない。むしろ楽に思える」
「それはそれは、光栄です」
私はきっと主張が少ないので、空気みたいに思われているのだろう。
「すまない、余計なことまで話してしまった」
「いいえ、そんなことはありません。ユベール様のことも、知りたいと思っていました」
「私のことも、か?」
「はい」
師匠があれほど後継者にしたいと言っていたお孫さんが、どんな人かずっと気になっていたのだ。
こうして知ることができて嬉しい。
と、盛り上がっている場合ではなかった。
本題へ移らないと。
「アデールがブルジェ伯爵と結婚できないと言った理由について、聞き出してきました」
「まさか、そこまでできていたのか!?」
「はい」
ユベール様にも話していいと許可をもらっていると前置きした上で、話し始める。
アデールが幼少期に親戚の集まりにいた男性から聞いたフェアリーリングを見に行って呪いを受けたこと、年が経つにつれて背中に火傷を負ったような痕が広がっていること、それをブルジェ伯爵や他の人に見られたくないこと――。
「そういうわけだったのか……」
ユベール様はやっと腑に落ちることができたという。
「しかし、妖精の呪いか。また厄介だな」
呪いというものは基本的に術者が生きている限り、対処のしようがない。
さらにその術者が妖精である場合、次の世代にも影響が出る可能性があるという。
皮膚シールを完成させたとしても、他の問題が浮上してしまうようだ。




