アデール嬢との面会へ
「ナゼル、紹介しよう。彼女が私の婚約者である、メーリス・ド・リュミエールだ」
「初めましてブルジェ伯爵。メーリスと申します」
「初めまして! ナゼル・ド・ブルジェだよ」
ブルジェ伯爵は明るく朗らかな人物で、春の日だまりのような印象がある。
ユベール様が月のようなお方なら、ブルジェ伯爵は太陽のようなお方だと思った。
「じゃあ、行こうか。アデールは待っていないと思うけれど」
お屋敷にお邪魔し、ブルジェ伯爵の案内で客間に向かう。
「アデールはさ、子ども時代から人見知りが酷くて、友達もいなければ、世間にも疎くてさ。メーリス嬢、よければ親しくしてくれると嬉しいな」
仲よくできるかどうかは、アデール嬢次第だろう。
「アデールがそっけない態度を取っても、気にしないでね。それがアデールの通常営業というか、なんというか。まあ……」
ブルジェ伯爵はちらりとユベール様を見ながら言った。
「愛想が欠けている一族なんだよね」
「悪かったな」
「そうそう。アデールもこんな感じなんだ。でも、ユベールと上手く付き合える君ならば、アデールとも打ち解けるかも?」
「ご期待に添えるかどうか」
私の場合は、師匠の紹介と信頼という実績があったので、他の人よりも比較的ユベール様に受け入れてもらえる土台が仕上がっていたのだ。
アデール嬢の場合はそれがないので、仲よくなれる自信がない。
「その、そもそも私も、友達がいないタイプですので」
「え、そうなの!? たくさん友達がいそうなのに!!」
「ナゼル、勘違いするな。メーリスの場合は、魔法の勉学に青春を捧げていただけだ。学生時代に交友関係を広げることに情熱を燃やしていたお前とは違う」
「あはは、そうだった!」
アデール嬢は人見知りの性格から、貴族学校や魔法学校に入学せず、家庭教師を招いて学習していたという。
「もったいないよねえ。魔法の高い適性もあったのに、怖がって学ぶことを拒んだんだ」
魔法が怖い、というのはわかる。
私もシール作りに失敗し、魔法が爆ぜたときにはもうできない、と師匠の前で涙を流したほどだ。あの当時は、一人前の魔女になんてなれっこない、と思っていた。
「魔法どころか人となれ合うことも怖がって……いつまで経っても警戒心が強い子猫みたいな娘なんだよ」
しかしながら、ブルジェ伯爵はそんなアデール嬢を愛している。
結婚を申し込み、婚約者となって、夫婦となる未来図を描いていた。
それなのに、急に結婚できないとアデール嬢に言われてしまったのだ。
「正直、理由がわからないんだ。アデールから感じる愛情は今まで通りあって、冷めたようには見えない。それどころか、俺が他の女性と結婚してもいいのか、なんて聞いたら、一人前に傷ついた表情を浮かべるんだよ」
原因はブルジェ伯爵にはない。
アデール嬢自身に何か結婚できない事情があるのだろう。
「いろんな人が、どうして結婚できないのか、って理由を聞きにいったんだ」
アデール嬢の家族に、長年付き合いのある家庭教師、さらには父方の祖母に当たる師匠までやってきたようだが、口を開くことはなかったという。
「もうお手上げ状態なんだ」
ブルジェ伯爵は根気強く待つつもりだったようだが、周囲が許さなかったようだ。
彼は伯爵家の当主。結婚を今か今かと待ち望まれている存在なのだ。
「たぶん、うちのうるさい親族にも、アデールは嫌気が差しているんだと思う」
いっそのこと、このまま婚約を解消し、アデール嬢を解放すべきではないのか、と思うところもあるようで――。
「でも、理由がわからないと、諦めることができなくってね」
最後の頼みが、私達のようだ。
話を聞いていると、責任重大だと思ってしまう。
上手く聞き出せるのか。緊張で胸がドキドキしていた。
ついに、アデール嬢が待つ客間へとやってきた。
ブルジェ伯爵が扉を叩いて声をかける。
「アデール、ユベールと婚約者のメーリスさんがやってきたよ。開けていい?」
返事はなかったものの、ブルジェ伯爵は慣れっこなのだろう。勝手に扉を開ける。
アデール嬢は私達に背中を向け、座っていた。
歓迎されていない、というのはひと目でわかる。
「アデール、挨拶をしてほしい」
ブルジェ伯爵が頼み込むと、アデール嬢はゆっくり立ち上がって振り向いた。
その瞬間、私とアデール嬢は驚いてしまう。
「あ、あなた様は――」
「あのときの!?」
アデール嬢の顔に見覚えがあった。
あれはいつだったか。
夕食を買いに行ったときに、ならず者に絡まれていた美女を助けたことがあったのだ。
それがアデール嬢だったなんて。
びっくりしすぎて言葉を失ってしまった。




