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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第三章 ユベール卿の課題

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馬車に乗って

 馬車に乗って気付く。

 こうしてエスコートをされて乗ったのが初めてだと。

 さらに、婚約者から馬車で迎えられるのも初めて。

 そう、マケールは私を呼びだすとき、基本的に現地集合、現地解散だった。それが当たり前だと思っていたのだが――。


「どうした?」

「その、ユベール卿、シール堂にまで馬車を送ってくださり、ありがとうございました」

「礼には及ばん。婚約者を送り迎えすることなど、当たり前のことだから」

「そうだったのですね」


 マケールに百万回は聞かせたい言葉だった。


「それはそうと、アデールに会う前に、私達は互いの呼び方について、見直さなければならないだろう」

「呼び方、ですか?」

「ああ」


 現在、私は彼を〝ユベール卿〟と呼んでいる。

 通常、騎士を呼ぶときは家名に卿を付けるのが普通だ。

 師匠が名前で呼ぶので、ついついつられて「ユベール卿」と呼んでいたのだ。


「申し訳ありません。〝オーベルジュ卿〟でしたね」

「いいや、違う。私はもう騎士ではないゆえ、卿を付けて呼ばなくていい」

「では、オーベルジュ様、とお呼びしますね」

「それも違う」


 ユベール卿は腕組みし遺憾なり、と言わんばかりの表情で私を見てくる。


「今後、私のことは名前で呼べ。そうでもしないと、本当に婚約者同士か疑われてしまうだろう」

「言われてみればそうですね」


 マケールとは子ども時代からの付き合いだったので、自然と呼び捨てにしていた。

 けれども同じようにユベール卿をそういうふうに呼ぶのは恐れ多い。


「では、ユベール様、とお呼びしてもいいでしょうか?」

「様は必要ないのだが」

「様を付けるのは、ユベール様に対する尊敬の気持ちからです!」


 そう訴えると、「そうだったのか」と納得してくれる。


「では、今後はユベール様、とお呼びしますね」

「わかった。メーリス嬢は――」

「メーリス、でお願いします」

「私も名を呼ぶときに尊敬の意を込めたいのだが」

「あの、大丈夫です! どうしてもしたいとおっしゃるのならば、別の形で示してください!」


 私が必死になって訴えるのが面白かったようで、ユベール様は肩を揺らして笑い始めた。

 普段はすん! としていて大人っぽいのに、笑ったときは少年みたいに無邪気に見える。

 そのギャップに、キュンとときめいてしまった。


「では、メーリス」

「はい」

「これから頼む」

「こちらのほうこそ、よろしくお願いします」


 急ごしらえの関係であるが、アデール嬢の悩みを聞き出せるよう頑張りたい。


「実は今日、アデール嬢に贈り物を用意したんです」

「何を持ってきた?」

「化粧のシールなんです」

「なるほど。いい品だ」


 アデール嬢は身支度が面倒だと言って、出かけるのを渋る日があるようだ。


「それがあれば、少しだけ外出をする気になるかもしれない」

「ええ、そうだといいですね」


 ユベール様も私と同じように、手作りの贈り物を用意してきたという。


「好きな場所に行ける転移の魔法札スクロールを作ってきた」

「まあ、素敵な贈り物ですね」

「だろう?」


 シールと魔法札、まるで話し合って用意したような贈り物である。

 アデール嬢が喜んでくれるといいな、なんて話しているうちに、目的地に到着した。


 貴族街の北部にある、立派なお屋敷。

 ここはオーベルジュ大公家の本邸ではなく、別邸だという。

 アデール嬢のご家族が暮らしているお屋敷だそうな。

 屋敷の敷地内にも馬車が入ることができるくらい広く、庭は迷子になりそうなくらいの規模だった。

 玄関の前で停まり、御者が扉を開いてくれた。

 先にユベール様が下りて、続いて私もと思ってステップに足をかけようとした瞬間、「失礼」と声がかかる。


「はい?」


 返事をしてすぐに、体がふわっと浮かんだ。

 あろうことか、ユベール様が私を抱き上げ、馬車から降ろしてくれたのだ。


「え、あの、どうしてこのようなことを?」

「メーリスへの尊敬の気持ちを、別の形で示してみた」

「なっ――!?」


 尊敬をこういう形で示すのはありなのか!?

 抗議しようとした瞬間、玄関の前に誰か立っているのに気付いてしまった。


「あ、あの、ユベール様、後ろにその……」


 ユベール様は私を下ろしたあと振り返る。


「ナゼルじゃないか」

「よう、我が友よ」


 どうやら彼が、アデール嬢の婚約者であり、ユベール様のご友人でもあるナゼル・ド・ブルジェ伯爵だという。

 私達がやってくるのを、外で待っていたようだ。


「ユベール、お前が婚約したと聞いて、絶対に嘘だって思っていたんだ」

「なぜ?」

「アデールから結婚を取りやめにする理由を聞くために立てた、仮の婚約者に違いないだろうってね」


 鋭い指摘に、胸がドキッとする。

 さすがユベール様のご友人である。


「しかし、心配は杞憂だったな。お前が婚約者に甘々な男だったとは、夢にも思わなかった!」


 ユベール様の、私への尊敬の意から出てきた行動が、本当の婚約者同士であることの証明になるとは……。

 恥ずかしい思いをしたものの、無駄ではなかったということだ。


「アデールは?」

「憂鬱そうな様子で部屋にいる」

「わかった」


 ついに、アデール嬢と面会が叶うようだ。 

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