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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第三章 ユベール卿の課題

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朝食を作ろう!

 アデール嬢はどういうシールを貰ったら嬉しいのだろうか。

 体があまり強くないと聞いたので、滋養強壮シールとか?

 でも、勝手に調べた情報からアデール嬢に必要な物を贈るのは違うような気がした。

 初対面なのに、相手の事情を知りすぎている状態というのも、不審に思われるかもしれない。

 ならば、無難なものがいいのか。

 しばし考え、母に誕生日に贈って喜ばれたシールを作ることに決めた。

 まずは材料を錬金窯に入れていく。


「白粉花の種子に、紅花、真珠粉、ひまし油、蜜蝋――これでよし!」


 ぐつぐつ煮込み、きれいに混ざった蜜蝋液をパレットに垂らしていく。

 先端が封蝋印になっている杖を上から押しつけ、あとは呪文を唱えるだけ。


「――刻印せよスタンプ!」


 シールがきらりと輝き、ぱちんという音が聞こえる。

 〝化粧シール〟が無事完成した。

 この化粧シールは、貼り付けるだけでいつもの化粧を再現してくれる便利なものである。シールを剥ぐまで効果が持続するのも特徴だ。

 きっと喜んでもらえるはず。そう思いながらラッピングした。

 用意はできた。あとは明日、アデール嬢に会うだけ。

 上手くいくだろうか?

 なんだかドキドキして眠れそうにない。

 なんて思っていたものの、布団に潜ってしまえば、うとうとしてしまう。

 コゼットが私の体をよじ登ってきたが、まったく気にもせずに眠ってしまった。


 翌朝――すっきり目覚める。

 コゼットは私のお腹の上で眠っていたようだ。

 身動ぐと目を覚まし、くわ~~っと欠伸をしながら全身を伸ばしていた。


「おはようございます、コゼット」

『きゅう!』


 歯磨きをし、顔を洗ってから身なりを整え、一階まで下りる。

 レディ・ヴィオレッタは師匠がいつも座っていた椅子に丸くなって眠っていた。

 まだ眠たいようなので放っておく。

 シュシュは私達がやってくる物音で目覚めたようで、少し眠そうな様子で左右に揺れていた。


「シュシュ、おはようございます」

『ん、おはよ』


 コゼットはシュシュの帽子掛けに飛び乗って、ちょっかいをかけ始める。

 シュシュは嫌がらずに、相手をしてくれた。

 さて、朝食をいただこう。

 お店の奥にある厨房で、調理を開始する。

 葉野菜を洗って一口大に千切り、オリーブオイル、レモンの絞り汁、黒コショウをかけてサラダにする。

 二品目は溶いた卵に塩、牛乳を入れて、バターを溶かしたフライパンで炒める。

 ふわとろスクランブルエッグの完成だ。

 続いて作るのは、熱したフライパンでハムを焼き、その上にチーズを乗せてとろとろに溶かした状態で、薄切りパンを重ねて焼く。裏、表と焼き色を付けたら、チーズハムトーストのできあがり。

 時間がかかってしまったが、なんとか朝食を完成させた。

 これらのメニューは屋台の人気商品で、行列に並んでいるときに作り方を凝視して覚えて帰ってきたのだ。

 直接習ったわけではないのに、そこそこおいしく仕上がるのである。

 もしかしたら私は料理の才能があるのかもしれない。

 そんなことを考えつついただく。

 サラダは葉野菜がシャキシャキでおいしい。

 実家で食べていたサラダは必ず湯通ししていたので、新鮮な食感なのである。

 貴族の屋敷では、温野菜が基本だ。

 なぜかと言えば、昔からレシピが変わっていないから。

 なんでもその昔は人の排泄物を肥料として使っていたため、生で野菜を食べることができなかったらしい。

 今は使っていないので、安心して生野菜を食べることができるのだ。

 農家さんに感謝しつつサラダを味わう。

 スクランブルエッグは舌触りが滑らかで、本当においしい。

 オムレツを作る技術がない代わりに作り始めたのだが、あんがい上手くできたのだ。

 料理が慣れてきたら、オムレツにも挑戦したい。

 チーズハムトーストはチーズがカリッカリで、パンも香ばしい焼き色がついていて、ハムの塩っけも相まっておいしい。

 ベーコンやソーセージで作ってもおいしいだろう。

 と、のんびり朝食を食べている場合ではなかった。

 冷めた紅茶を一気に飲み干して、家を出る準備をする。

 コゼットとシュシュは、本日はお留守番をしてくれるらしい。

 まだ眠っているレディ・ヴィオレッタにも、声をかけておく。


「レディ・ヴィオレッタ、出かけてきますので、コゼットとシュシュをお願いします」

『ああ、わかっているぞ』


 アデール嬢への贈り物を持って、外套を着込んで、さあ出発だ! と思っていたところに扉がとんとんと叩かれる。


「はい、どなたでしょうか?」

「オーベルジュ大公家のユベール様の命でやってまいりました。御者のドルーと申します。これから〝シャ・ノワール〟にお連れします」


 扉を開くと、ドルーと名乗った御者がユベール卿が書いたカードを渡してくれた。

 そこには〝オーベルジュ大公家の馬車に乗って、シャ・ノワールまでいくといい〟と書かれてあった。

 お付きのメイドまでつけてくれたようで、至れり尽くせりである。

 ここはユベール卿の好意に甘えよう。

 そんなわけで、オーベルジュ大公家の馬車に乗り、シャ・ノワールに向かったのだった。


 シャ・ノワールに到着すると、お店の前で店主が待ち構えていた。


「メーリス・ド・リュミエール様、ようこそおいでくださいました。どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 こういう出迎えに慣れていないので、どういうふうに振る舞うのが正解かわからなくなる。

 ひとまず今は身なりを整えることに集中しよう。


「本日はどのドレスになさいますか?」


 ドレスがトルソーに着せられた状態で並べられている。

 今日は昼の訪問なので、襟が詰まったドレスばかりだ。

 スカーレットの華やかなものから、清楚なライラックカラーのドレスまで、種類豊富に並んでいた。

 こういうとき、どんどん希望を言って叶えてもらうべきなのだろう。

 けれども魔法のことばかり学んでいた私は、どうすればいいのかわからない。

 悩んでいたら、以前会った女性の店員さんがいるのに気付く。彼女に聞いてみよう。


「あの、今日、初対面のお方に会う日でして、どういうドレスを着ていくのが相応しいか、教えていただけますか?」

「もちろんです!」


 あまり主張が少ない、パステルカラーのドレスがいいという。


「こちらのベールブルーのドレスはいかがですか?」

「素敵です。それにします」


 そんなわけでドレスはあっさり決まった。

 お店の人達の手を借りてドレスを着せてもらい、上から汚れを避ける目的のケープを装着して化粧を施してもらう。

 髪型も三つ編みを優雅に結い上げてもらい、真珠の髪飾りを差し込んで完成となった。

 鏡に映る私の姿は、貴族令嬢そのものだった。

 ドレスアップをしてくれる人の腕次第で、こうも変わるものだな、と思ってしまった。

 そうこうしているうちに、ユベール卿がやってきたという。

 踵の高い靴は普段まったく履くことはないのだが、根性で歩くしかない。

 お店の外にユベール卿はいて、私を迎えにやってきてくれた。

 私を見つめたまま動こうとしないので、何かおかしいところがあったのかと不安になる。

 いいや、〝シャ・ノワール〟の人達のドレスアップは完璧だった。おかしいところがあるとしたら、私の表情だろう。


「その、おかしな点がありましたら、直しますので」

「いいや、何もない。メーリス嬢、そのドレス……よく似合っている」 


 その言葉を聞いて、深く安堵する。

 ユベール卿が差し伸べてくれた手に、そっと指先を重ねた。

 彼にエスコートをされながら、馬車に乗り込んだのだった。

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