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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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通算300話記念閑話3:マハトールの里帰り 中編

「ていうか、マジな話でマハトールってどのくらい強いの?」

「管理者の空間では、ほぼ最弱ですよ」


 横を歩きながら見上げるようにして問いかけてきたリザベルに、微笑みながら答えるマハトール。

 地獄の五丁目で。

 マハトールの顔が言外に、貴女よりは強いですけどねという余裕を感じさせてくる。

 少しイラっとしたリザベルだが、気にした様子も無く歩く。


「ここら辺から、アークデーモンも増えてくるからね? 気を付けなよ」

「ふむ……アークデーモンですか」


 そう言って、リザベルを見下ろすマハトール。

 その表情は、貴女と同程度の存在の何に気を付ける必要が? と言っているように見える。

 言葉に表さずにマウントを取る技術を得たマハトールは、まさに無敵だ。

 弱い者にはめっぽう強い。

 それが、マハトールという悪魔なのだ。


 定期的に、「私がさいきょぉーーーーっ!」とこじらせることもあるが。

 その都度、先輩方に分からさせられている。

 反省はすれど、学習はしない悪魔でもある。


「しかし、この辺りは風光明媚なところですね」

「流石に、上位デーモンともなると趣味嗜好がうるさいからさ。おじいちゃんも、甘いし」


 最強悪魔のバークレアドスの実態がいまいち掴めていないが、この世界を作るほどの悪魔。

 もしかしたら、主と同等かもしれないと顎を扱く。

 動きの演技臭さに、磨きが掛かっている。


「おお? 珍しいな! 泣き虫リザベルじゃねーか」

「うっさい、黙れ今は雑魚!」

「ってぇ」


 馴染みのアークデーモンだろうか?

 親し気に話しかけてきた相手に、酷い言いざまだ。

 そして、さきほどまでデーモンを一撃で粉砕した拳を放つ。

 しかし、相手は顔をのけぞらせた後で顰める程度のダメージだったらしい。

 悲しいかな、アークデーモンとただのデーモンには、これほどまでに能力の隔たりがあるのだ。


「なんか? 短気になったな……いやそれよりも、そっちの新入りが俺っちのエリアを褒めてくれたから、嬉しくて声を掛けただけなのに」

「いきなり暴言を投げかけてくるからだ! それに、地獄なのに青空とか強請ってんじゃねーよ! おじいちゃん、めっちゃ困ってたじゃん」


 そうなのだ。

 見渡す限りというほどではないが、東京ドーム二つ分くらいの面積の土地に光が降り注いでいる。  

 そこには森や池もあって、池から川も伸びていた。

 地上であれば普通の景色ではあるが、赤と黒がメインの世界ではまさにオアシスのように見える。


 すぐ隣に、天と地がひっくり返ったような景色が広がっているから余計にだろう。

 正方形に切られた大地が宙に浮いてい、漂っている地帯もある。

 それぞれ、その場にいる悪魔が望んだ景色なのだろう。

 荒野にいくつもの、剣や刀が突き刺さっている大地エリアはマハトールも惹かれるものがあるのだろう。

 地平線の向こうの景色が、血のように赤い夕焼けのように見えるのも含めて。

 ただ、目の前で大柄な悪魔が、自分の場所の拘りを一生懸命説明している状況で、他の場所のことなど言えるはずもなく。

 マハトールは空気も読めるようになってきた、悪魔なのだ。

 ただし、空気が読めるのは自分より弱い相手に限るが。


「だったら地獄じゃなくて、地上に住めよヴァカ!」

「相変わらず口が悪いなぁ。俺っちじゃなかったら、ボッコボコにやられてるぞ」

「あっ? じゃあ、おめーがやってみろよ! おめーよりは、遥かに強くなってからな?」


 リザベルは、ここでは子ども扱いされているのだろうか?

 いや、このアークデーモンが特別穏やかなのかもしれない。


「すみません。礼儀がなってなくて」

「なんで、マハトールが謝るんだよ!」


 マハトールが大柄の悪魔の背中に張り付いて、首をポカポカ殴るリザベルの首根っこを掴んで後ろに引っぺがす。

 リザベルが不満そうに暴れているが、気にした様子も無く下におろすと手を繋いで、大柄な悪魔の前を辞去する。


「なんで、あんな雑魚に謝ったの?」

「悪魔は序列が絶対ですからね。彼はアークデーモンで先輩。私はレッサーデーモンで後輩ですから」

「じゃあ、僕にも敬意を払ってよ!」

「貴方は後輩で、マサキ様の部下の序列としては私より下ですから」


 確かにそうなのではあるが。

 そのマサキ様の部下の序列は、勝手にマハトールが思っているだけだ。

 虫たちが一番、それ以外が二番程度の差しかない。

 リザベルもそれは分かっているが、ここはマサキとの付き合いの長さということで自身を納得させる。

 モヤっとしたものは、残るが。

 

「しかし、案外と私を侮ってくれるデーモンはいないのですね」

「僕の子分だと思われてるんじゃない?」

「その割に、貴女は侮られてますね」

「グヌヌ……」


 図星であった。

 リザベルが悔しそうに歯噛みしつつ、混沌に近い不思議空間の地獄の五丁目をどんどん進む。

 この辺りから、土地の面積が大きく広くなっていく。

 丁によって、区画面積が変わるのはどうかと思うが。

 住む種族の格が上がる以上、それぞれに必要な土地も増えるのだから仕方ない。


「次は、割とガチでヤバ目のアークデーモンが多いからね」

「ふーん。そうです……か。」


 またも、何やら不快な気持ちにさせる返答の仕方だ。

 ただ、六丁目に入って周辺を警戒するリザベルには、さほどの効果は無さそうだ。


「危険度が上がるのに、なんでどんどん奥に進むのですか?」

「そりゃ、お土産を頼まれたからだよ! 商店があるのが、七丁目からなんだから仕方ないじゃん」


 どうやら、律儀にマサキ達にお土産を買って帰るつもりだったらしい。

 リザベルは。

 マハトールはそういったものではなく、現地でしか調達できないような素材のことではと思っていたが。

 当人が、商店を楽しみにしているので敢えて、何も言わない。

 そもそも、リザベルはそういうやつだ。

 相手が望むものと、意味合いが一緒でも斜め上のものを用意する悪魔だ。


 今回は特殊な素材や土産話のつもりで言ったマサキの冗談に対して、普通の地獄土産で対応するつもりのようだ。

 心無し、表情がウキウキしている。


「地獄饅頭に、温泉卵、血の池果汁ジュース、マグマ温泉水、針の山の針……うーん、どれが良いかなぁ」


 喜ばれるのは、地獄饅頭だろうなとマハトールが心の中で呟く。

 敢えて、教えない。

 教えたら、絶対にそれは買わないだろうから。

 リザベルならきっと、もらって嬉しいけどこれじゃない! となるものを選びたいのだろう。

 だから、アドバイスはしない。


 進むにつれてリザベルの歩みが段々と遅くなり、マハトールと手を繋ぎはじめる。

 本格的に、危なくなってきたのだろう。

 やがて、マハトールの背中に隠れるように歩き出す。

 そして、最終的にはマハトールのジャケットの中にすっぽりと納まる。

 前合わせの襟の部分から顔だけ出して。


「歩きにくいし、キツいですよ」

「合体だし! パワーアップだし」

「また、マサキ様の悪い影響を受けて」

「ああ! そんなこと言っていいんだ? チクっちゃお」

「申し訳ありません」


 そんな会話をしながら歩いていると、大きな影が二人の頭上に落ちる。

 見上げるほどの、大柄な悪魔が目の前にいるだろうことはすぐに判断できた。

 リザベルの身体が強張るが、マハトールは気にした様子も無く歩き続ける。

 表情が少しだけ、ワクワクしているようにも見える。

 

「なんだぁ? 雑魚の匂いがするなぁ」

「そうなのですか? ああ、私の服は洗剤の匂いしかしませんので違いますね」


 上から見下ろしながら、ニヤついた表情で声を掛けてきた牛のような見た目の大柄の悪魔に対して、自分の服の匂いを嗅いで首を振ってから横を通り抜けるマハトール。


「ああん? 雑魚が、ここから先に何の用だ?」

「里じゃないですが、里帰りのついでにお土産を買いに」


 慌てて追いかけてくる悪魔に対して、早歩きで振り返ることもせずに答えを返す。


「待て待て! 俺の許可も無く、先にすす……いや、待て! 待てって! ちょっ、待てよ!」


 割と本気で大股で掛けって追いかけているのに、普通に早歩き程度のマハトールとの差がドンドン広がることに気付いて声に焦りの色が浮かぶ。

 

「ちょっと、そんなに離れたら聞こえませんよ? 急いでるんで、用があるなら私に合わせてください」

「いや、まっ……ちょっ……はし……いの……はや……」


 とうとう、恥も外聞も捨てて空を飛んだにも拘わらず、引き離された牛型の悪魔は諦めて地面に降りると……そのまま、どかっと座って息を整える。


「なんで、歩いてるのにあんなはえーんだよ! あのデーモン……デーモンだったか、あれ? 闇の魔力なんて殆ど感じなかったが」


 首を傾げながらそう呟いた後、後ろに倒れこんで本格的に休む。

 考えることを放棄したようだ。


マハトールが……次回……やっぱり、マハトール……

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