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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第228話:若者だけの食事会2

「ていうか、これで私たちもこのお店がいつでも利用できるよね?」

「どういうことですか?」

「いや、ベルモントにあるここの本店は、誰かの紹介がないと入れないから」


 お茶やコーヒーをいただきながら歓談していたら、フレイ殿下が嬉しそうにそんなことを言い始める。

 それに対してケイが素朴な疑問を。

 まあこの国で一見さんお断りのシステムは殆どないからね。


「えっ? いや、このお店は普通にどなたでも来られますよ?」


 いやいや、せっかく王都で店を開いたのだから色んな人に知ってもらいたいし。

 そこまで尖ったシステムは用意してなかったり。


「ええ! ベルモントだったら、誰かの紹介がないと入れなかったはずじゃん!」


 じゃんって……

 お酒を飲んでるわけでもないのに、口調が崩れているのは……まあ、フレイ殿下だから仕方ないか。


「流石に王都でまでそのシステムは必要ないかなと。協賛してくださってる方の後ろ盾はかなり強力ですし。何より、ベルモントより少し高めの料金設定にしてますので、変な人は利用しないかなと」

「なんだ……せっかく学校の友達を連れてきて自慢しようと思ったのに」

「普通に連れてきてあげたらいいじゃない」


 フレイ殿下の言葉に、アローナ殿下が呆れ気味だ。

 紹介者として、ちょっと悦に入りたかったのかもしれない。

 

「唐揚げが食べたいな」

「まだ食べられるの?」

「天ぷらとは違うのか?」


 ちょっと離れた場所では、メニューを見ていたベントレーが追加の注文を選んでいた。

 足りなかったのだろうか?

 最近は毎日うちに来て剣の訓練を受けているから、食欲がましているのだろう。

 ジョシュアはちょいちょいさぼってるけど。

 そしてベントレーの選んだメニューにバルド様が興味津々だ。

 この人って、割と人怖じしないというか、誰とでも気楽に接してくれるというか。

 なんというか、馴染みやすい人だよな。


「ベルモントの料理はここまできてたのですか」

「いろいろな産業が発展してますが、娯楽施設の中の食事ブースですら工夫が見られますよ」

「なるほど。私もおじいさまとディーンについて、一度ベルモントに訪れるべきでしたね。次の機会はアローナ殿下に許可をもらいましょうか」


 そしてフェルト様とディーンが楽しそうに会話をしている。

 楽しそうに……うちの領地の情報交換というか、すり合わせというか。

 次はフェルト様も来る可能性があるのか。

 それって……今までのパターンからすると、もしかしたらアローナ殿下も同行する可能性が。

 いやいや、王族が揃ってうちに来るっておかしいからね。

 それに襲撃された過去もあるから、流石にそこの許可はおりないはず。

 おりないよね?


「ちょっとカール重たい!」

「あらあら」

「ふふ、よほどお腹いっぱいになったのかな? 王城でなれない会食もして、疲れもあったのね。ほら、カールこっちにおいで」

「ソフィアお姉さま」


 違う場所ではカールがリコの肩に頭を乗せて寝始めていたのを、エマが微笑ましいものを見るような視線を送っている。

 そのリコが迷惑そうにカールを押しているのを見て、ソフィアがそっと彼の頭を引き寄せて自分の膝に乗せていたが。

 リコが少し妬いている。

 本当にこの4人は仲が良いみたいだ。


「にしても見たことのない料理ばかりでしたね」

「どれもこれも大皿で出してもらってもいいくらいだな」


 ユリアさんとケイも食後の紅茶やコーヒーを手に、感想を言い合っている。

 本当に連れてきて良かった。


「それで冬休みはどうするの?」

「僕は例年通りにお母さまの実家に寄ったあとで、ベルモントに帰ろうかなと」

「そうですか、私は今年はエマのところにまたお邪魔する予定なのですが」

「前回マルコは来られなかったから、今年はどうかな?」


 エマから冬の予定を聞かれたが、特に目立った予定は入れていない。

 いつの間にかリコも膝に乗せたソフィアが、話に入ってくる。

 この夏にエマのところに行ったはずなのに、冬も行くらしい。


「お母さまが、ソフィアのために馬を用意してくれてるから」

「へえ、エマのところってそういえば、馬が有名なんだっけ?」


 本当にエマとソフィアも仲が良いようだ。

 しかし、この冬はどうかな?

 チラリとフレイ殿下の方に目配せする。


「今年は行かないわよ? 弟もね」


 どうやら、今年は王族の来訪は無さそうだ。

 なんで?


「流石に毎休みにベルモントばかり行ってたら、他所からの視線がね。そろそろ、他の領主からのお誘いも激しくなってきたし」


 なるほど。

 殿下たちの長期休暇を毎回ベルモントが独占してたら、そりゃやっかみも出るだろう。

 同じようにラーハットも、少しばかり目を付けられているようだし。

 それは良いことを聞いた。


「今年は私もお母さまもお伺いしようと思ってたのですけどね。この子たちが行き過ぎて、私達にまでそういった話が来てるから来年に先延ばしです」


 ふふふ……やっぱりアローナ殿下もベルモントに来るつもりだったようだ。

 お母さまと一緒に。

 それって王妃様と一緒にってことですよね?

 箔がつくどころじゃないけど。

 フレイ殿下とセリシオが利用したことで、色々と宣伝効果はあったけど……それに見合っただけの苦労というか子守りをしてきたわけで。

 流石に王妃様とアローナ殿下をもてなすとなると、何をしたらいいやら予想もつかない。


「これ持って帰ったら、色々とうるさそうね」

「そうですね」


 そして宴もたけなわということで解散の流れになったが、お店から焼き菓子のお土産を用意してもらった。

 紙で作った箱に、包装紙に包んだものだ。

 まあ、箱も包装紙も宣伝効果を狙ってのことだ。

 植物を使った紙は存在していたが、箱が作れるような厚紙は無かった。

 だから、うちの領地の技術の宣伝もかねてのお土産だが。


 それを貰ったフレイ殿下とアローナ殿下が顔を見合わせて眉を寄せる。

 確かに、そんなのをもって帰ったらセリシオが大騒ぎしそうだな。

 

「これ、クリスの前で食ったらどんな反応するかな」

「やめとけ。あいつは立派に勤めをはたしているんだ。ご褒美に普通に渡してあげろ。俺のは父上と母上に渡すから」

「そうですね……」


 ケイが箱を手に楽しそうな笑みを浮かべていたが、バルド様に注意されて肩をすくめている。

 納得はしてなさそうだけど。

 よくも悪くも次男か……

 本当にバルド様を見習って欲しいよ。

 ケイもクリスも。


「それでは、今年も皆様に幸多からんことを」

「ありがとうございます」

「今日は楽しかったよ」

「また、連れてきてね」


 それから店の出口で料理長と並んで、皆を見送る。

 このあとお父様とお母さまがテトラを連れてこのお店にくることになっている。

 もちろん知り合いの方を連れて。

 一応、ここをプロデュースしたのは僕なので、来賓の方々に挨拶をしないといけないらしい。

 いや、流石にもう眠たいんだけど?

 たぶん、テトラは寝てるんじゃないかな?


「お坊ちゃま、寒いですから中に入りましょう」

「そうだね。今日はありがとう」


 料理長に促されて店の中に入ると、形だけ用意してある僕の執務室に案内される。

 といっても経営の詳しいことまで分かるわけじゃないので、あくまでも私室というか隠れ部屋みたいな感じかな?

 一応決裁権は持ってるけど、ある程度のことまでは室長決済で済ませるようにしてある。

 室長というか僕の専属補佐という形の、実際のこのお店の経営者だけどね。

 まあ、マサキによる完全洗脳済みの元悪人だから、絶対に不正を働かない安心感もあるし。

 意外と経営に関しては優秀なんだよな、ダマシール……


 

 

 

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