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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第181話:2年生の冬休みの一方そのころ その1

「やったー! ふっゆやすみ! ふっゆやすみ!」

「マサキ兄! 外行って良い?」


 クコとマコがおおはしゃぎで勉強部屋から出てくる。

 去年は何も思わずにずっとクロウニに授業をさせていたが、子供達にお休みをあげなくて良いのですか?

 と言われてしまった。


 一瞬、ん? となったが。

 休みなら毎週土日にあげているし、たまに3日~1週間くらいクロウニの都合で休むこともあったから。

 そうじゃなくて、所謂(いわゆる)夏休みや冬休みのことだった。


 まあ、この世界の学校と違って授業も半日だし。

 気分で休みを増やしてたりしてたし。

 何よりも、この子達の勉強に対する意欲が高いので気にしてなかった。


 反省。


 最後の授業を終えて、クロウニから2ヶ月ほどお休みですと言われて2人は最初はキョトンとしていたらしい。

 でも、マルコも冬は勉強してないでしょうと言われて納得。


 で、今に至ると。


「外は雪が積もってるからな! 暖かくしていけよ!」

「うん!」

「はーい!」


 2人が自分達の部屋に防寒着を取りに行っている。


「では、昼食の準備をしてきますね」

「トトも一緒に休んで良いんだよ?」

「休んでもやることないですし、何よりマルコ様の従者の方達は冬休みも働いてますよ?」

「まあ、そうなんだが……トトくらいの子達は冬休みだし」

「普通の子供達は冬休みでも何かしらの親の手伝いをしてますし」


 何がなんでもいつも通りに働きたいらしい。


「それに、もう習慣として身体に染み付いてますので、やらないとなんかそわそわしちゃって。料理も楽しいですし、洗濯機でしたっけ? あれを導入してもらってから洗濯も楽になりましたし」


 冬に手洗いで洗濯なんてと見ているだけで寒そうだと思ったら、普通にお湯が出るのでお湯で洗ってますよ? と言われてしまった。

 けれど、見た目の問題というか。


 いくらお湯が出るとはいえ子供が冬に手洗いで洗濯をしているのに、横でボーっとしているのも。

 管理者として仕事をしているような、していないような状況だし。

 深く考えたら、なんていうか……


 寝ているだけで、ポイントが入るからそのポイントで管理者の空間を弄っているだけで。

 しかもゲーム感覚でちょっと楽しかったりもするわけで……


 神様的には働いているだろうが、個人的には物足りないというか。

 こうデスクワーク的なものが……


 仕方ないので執務室を作って、書類仕事にとりかかってみたり。

 ベルモントの街の産業についてだったり。

 税収だったり。

 領内の街や村の様子を、タブレットで視察して色々と問題点を洗い出してみたり


 俺もマルコだから、少しは自分の環境に対して色々と対策を練っておかないとと……

 結局は異世界でマルコを通してベルモント領のコンサルティング的な事をして、領地を間接的に潤すというか。

 結局、箱庭ゲームの延長線のような感じで、楽しかったり。


「親子揃ってワーカーホリックですね」


 と土蜘蛛に言われてしまったが、ニヨニヨしてしまう。


「まあ手持ち無沙汰で昼間っから酒を飲まれていた頃よりは好感が持てますよ」


 ……土蜘蛛って、俺の事きちんと主と思ってるのかな?


「主に対して忠言を言えてこそ、真の配下ですよ」


 とカブトに言われてしまったら、なんにも言えないけど。

 いや分かってるけど。

 土蜘蛛ほど俺のことを気に掛けている配下は居ないことも。


 なんだかんだで、最後には必ず俺の味方になってくれることも知っている。

 クコやマコ、トトに対しても俺の居ないところで俺に対する感謝を忘れないようにと、何度も言っていることも。

 でも、肝心の土蜘蛛が素直に感謝を俺に伝えて……くれてないこともない。


 食事だって、実はいっつも俺の方が皆よりちょっとメインが多かったり。

 ついうっかり椅子で昼寝をしようものなら、糸を巧みに使って布団を作り出してくれていたり。

 

 色々と厳しい事も言うが、言い過ぎたなと思った時はたまにいきなり後ろからお尻の側面をぶつけられる。

 彼女なりに甘えてきてるのだ。

 俺がそれを受け入れてフサフサの毛が生えたお尻部分に身を任せると心底安心したような表情を浮かべるので、なにこの子可愛いと思ったりしたこともしばしば。

 だから、言わせないといけない俺も反省。


 とビールを飲みながらしみじみと。


「また、昼間からお酒を飲んで」

「ふふ、冬休みだからね」


 子供達の冬休み初日くらい、良いじゃ無いか。


「午前中は習ったことを忘れないように、勉強したい!」

「べんきょうしたい!」


 1週間もしないうちに、子供達から宿題をねだられてしまった。

 クコもマコも、勉強が大好きな子になっていた。

 クロウニの教え方が上手かったのか。

 それとも、貧しいと学習の場に付く事も出来ないこの世界独特のものなのか。


 彼等には日本式の授業を受けさせているので、計算ドリルを与えておく。

 それと、理科の本を新しく購入。


 理科って響きが懐かしい。

 大人になって振り返ると、理科って楽しそうに感じるけど物理とか化学って聞くと頭が痛くなる。

 高校の理系の授業と、社会系の授業は大嫌いだったな。


 正直言ってどう考えても俺は理系の脳みそだったけど、勉強しなくても模試で県内3桁から2桁の順位が取れる国語と好きだった英語のせいで文系を選んでしまった。

 ちょっと勉強すれば理系の授業でも全国模試で偏差値60前後は取れたけど。

 国語だったら、勉強しなくても60後半というか70前後だったし。


 でも面倒臭いのが苦手なので、歴史や公民が40代前半だったり……

 結果底辺とまではいかないが、パッとしない大学に行くことになったが。

 単位落としまくりで留年すれすれの俺がSPIで学内2位とかだったから、ゼミの先生に物凄く胡散臭いものを見られるような目を向けられたことも。

 

 鶏口となるも牛後となるなかれだ。

 俺の性格を熟知した祖父が、俺に教えてくれた言葉だ。

 真理だ。

 背伸びして良いところを目指して尻をウロウロするよりも、自分の実力より下の集団で上に立つ方が色々と充実して過ごす事が出来たし。


 努力型の真面目な友人にSPIの結果を自慢したら、勿体ないと物凄く怒られた。

 今となっては良い友人だった。


 本当に良い友人だった……

 何故彼の言う事を聞いて、彼の誘いにのって資格対策セミナーに参加しなかったのか。

 そして、就活の時くらい真面目にやるべきだった。

 社会人になってから、努力から逃げ出していたことでかなり苦労する羽目になってしまったから。


「土蜘蛛! 日本食食べたい」

「はいはい、何か懐かしいことでも思い出したのですね、希望の料理はありますか?」

「アユの塩焼きと、フグ料理」

 

 どっちも割烹旅館を営んでいた叔父の得意料理だ。

 日本に居た時のことを思い出したら、懐かしい料理が食べたくなった。

 土蜘蛛には日本のレシピ本を渡しているので、一通り地球料理も作れる。

 日本のレシピ本といっても、和洋中が載ってるものだし。


 夕飯に土蜘蛛が作ってくれるらしい。

 嬉しい。


 久しぶりに管理者空間の森に向かう。

 

「今日も楽しそうだな」

「ええ、この空間は素晴らしいです! 常に闇の魔力が溢れているので、何もしなくても心地よい時間に時を忘れるほどに」


 このクソ寒いのに野原に横になっているリザベルの声を掛けると、嬉しそうに返事が返って来た。

 身長160cmほどの、小柄の可愛いらしい悪魔。

 マハトールが連れて来た。


 マハトールは……ラダマンティスと組手の時間か。

 スパルタのカブトと違って、技術的なことを教えてくれるラダマンティスの方がマハトールは好きらしい。

 そのマハトールだけど、体つきが一回り大きくなっている。


「だいぶ育ってるみたいだな」

「ええ、恐らくレッサーデーモンの中では、トップになれるくらいには」


 それでも、まだレッサーデーモンらしい。


「アークデーモンよりも強いレッサーデーモンって、なんの冗談でしょうね」


 俺について来たリザベルが溜息を吐いている。

 リザベルには特に課題は課していない。

 だって、そこまで実害を受けたわけじゃ無いし。

 騒動の首謀者だったわけでもないからね。


 ノーフェイスの事はすっぽりと記憶から抜け落ちることがしばしばあるので、定期的に報告書を読んで思い出しているけど。

 いま、何をしているのかさっぱり分からない。


 森を歩いていたら、チュン太郎が飛んできて肩に止まる。 

 もはや猛禽類のそれと変わらない足が、ガッチリと俺の肩を掴む。

 重いから降りてくれないか?


 マザー達が来てから、チュン太郎と地竜のランドがやたらと甘えてくる。 

 虫じゃない配下として、危機感を覚えているのかもしれない。

 分からないでもないが。


「キュー!」

「キュアー!」


 マザーの巣に近づくと、彼女の子供達が2匹ほど駆け寄ってくる。

 円らな瞳で見つめてくる、小さくは無い小柄な蜥蜴の子供達が物凄く可愛い。

 俺の足にまとわりついてきてよじ登ろうとしてくるので、チュン太郎を追い払って片手に1匹ずつ抱きかかえてやる。


 嬉しそうに眼を細めて、ほっぺたをペロペロと嘗めてくる。

 ざらざらとした舌ざわりだが、懐かれていると実感するので甘んじて受け入れる。

 

「マサキ様、どうされたのですか?」


 神殿周辺に住むランドと違って、森が落ち着くといっていた彼女たちは普通に森に作った洞穴に住んでいる。

 けど、流石に冬の間は寒いだろうと思って、差し入れに来た。


「寝藁の入れ替えだ物凄く小さな火のクズ魔石を合成してあるから、温かいと思うぞ」

「お心遣い、痛み入ります」


 マザーが感謝の気持ちを表すように、頭を深く下げる。

 礼儀正しい姿に、やっぱり配下ってこういうものだよなとしみじみ思う。


「他の子達は?」

「あちらです」


 他の子蜥蜴の様子を伺うと、遠くを前足で指し示すマザー。

 その視線の先では、クコ達と追いかけっこをしている子蜥蜴の集団が。

 管理者の空間の傍に居ないと思ったら、ランドも一緒だった。


 というか、たぶんランドの背中に乗って来たんだろう。

 

 蜥蜴同士ということで、ランドも物凄くこの子達のことを気に掛けていたし。

 皆、元気そうだ。


 それから暫く子蜥蜴とクコ達の様子を眺めてから、カブトを呼んで移動する。

 そして目的地に到着。

 

 到着した場所は森の中にある、湖。

 虫達が作っている氷と雪の彫像の進捗具合を確認に。 

 今年は雪まつりでもしようかなと。


 クコ達に見せる前に、一応確認だけでもしておこうかと。


「これは、主!」

「あっ、気にせず作業を続けてていいから」


 俺に気付いた蟻が、氷を削っていた顎を止めて駆け寄って来て他の虫達を呼ぼうとしたので、大きめの声で押しとどめる。

 それから、周りを見渡す。


 石の灯篭や金閣寺のようなものから、竜や白鳥などなど。

 様々な彫像が立ち並んでいる湖周辺の開けた場所を見て、感嘆の溜息が漏れる。

 完成度がかなり高い。

 

 精密な彫像の数々に、主催者の俺が感動してしまった。

 これは、完成が楽しみになった。


「この調子で、どんどん作ってくれ」


 勿論可愛らしいデフォルメされた熊や、虫達の彫像も多くある。

 今年もどうせ、マルコとベントレーが来そうだし。


 その彫像の横に食事をしながら広場が眺めるように、小屋をタブレットで作り出して設置する。

 そして小屋の中に入って、ホッと一息。

 あー、魔国の方はどうなってるかな?


 今年もフレイ達が来るらしいから、帰ったらすぐに様子を見に行かないと。







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