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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第178話:冬休みダイジェスト その3

「裏切者!」

「えっ? 僕は普通に今日の出来事をおばあさまにお話ししただけですよ?」


 迎えに行って、第一声でフレイ殿下に罵られた。

 キョトンと首を傾げて、とぼけてみる。


「しらじらしい」


 早朝におばあさまがこのホテルに来て、一緒に朝食を取ったらしい。

 その際に、心底呆れた様子で注意されたとか。


 たかが人探しで、どれだけの人に迷惑を掛けるのか。

 縁があれば、探さなくても会えます。

 それよりも、そんな理由で付き合わされて貴重な冬休みを潰されたセリシオ殿下やクリスを労わりなさいと。

 うん、正論だ。


「私は、フレイ殿下の御心のままに!」


 これはクリスの兄であるケイの言葉。

 なるほど、従者の鑑だけども……まだこれで13歳なんだよね。

 もう少し自分の為に生きてもいいんじゃないかな?


 いや、貴族として10年も生きてきたら、序列がいかに大事かなんて僕にだって……

 あまり分からなかったり。

 たかだか子爵家で名誉爵位の騎士侯を賜ったおじいさまが好き勝手やってるのを見ると、なんか、なんだかなーって感じだ。

 なまじ前世の感覚が中途半端にあるせいだろうか?


 ただ、それでも王族というのは別格だというのだけは分かったけど。

 問題は肩書きではない。

 その肩書きを持って何を成したかが重要だ。

 

 彼女たちの場合は王女、王子に相応しい振る舞いというものが問われる。

 配下を徒に振り回しているうちは、彼女たちは真の王族とは言えないだろう。


 ちなみに僕は子爵家の嫡男として、領地を豊かにするために日々頑張っている。 

 そして、自身の研鑽も怠っていない。

 人を動かすだけの権力があるのだ。


 人を動かして何かを得て、恩恵を与えてこそ人の上に立つ資格があるのだ。


 ……マサキの受け売りだけどね。

 うん、おっしゃる通り。


 僕が一生懸命オセロ村を筆頭に、色々とちっちゃな産業革命を行って来たお陰でうちの領地はどこも、他よりは懐が温かい。


 冬になっても、飢えたり凍えたりする人が出ない程度に。

 山賊や野盗もいるから、一概に領地に居る人全員を幸せにしているとは言い難いけど。


 それでも、領民の方々からは感謝と尊敬の籠った眼差しを受け取っている。

 期待されている。

 だから期待に応えようと、頑張る。

 

 良い意味で、領地運営のサイクルが出来上がっていると思う。


「聞いてるの?」

「聞いてませんでした。というか、そろそろ諦めてはいかがでしょうか?」

「むぅ……去年はこんな生意気を言う子では無かったのに」


 僕の返答に、フレイ殿下が頬を膨らませている。

 マサキだったら、子供らしくて可愛いとかって思うんだろうな。

 でも、目下ダイレクトに迷惑を掛けられている僕からしたら、なんにも感じない。


 それよりも、本当に諦めてくれないかなと……


 今年は一応、アシュリーに戻った事だけは伝えているけど、まだ会ってはいない。

 まずおばあさまがいらっしゃるので、メイド見習いとしてうちに呼ぶのはためらわれた。

 それからフレイ殿下が恋煩いの上に、想い人に会えない状況で僕だけが逢瀬を重ねるなんて。


 それは、それで面白いかもしれないけど。

 やっかみが、半端無さそうだ。


 マサキもどこでバレるか分かってないから、身体を借りようともしないし。

 下に降りてくるつもりが、そもそも無いらしい。

 冬は寒いとかって言ってたし。


 本当は下りてきたくてうずうずしているのは、なんとなく分かるが。

 魔国に対して心配はしているようで、冬になったことで食料やらなんやら色々と心配ごとは尽きないらしい。


「また聞いてない」


 現在進行形で、僕の中でフレイ株はダダ下がりのストップ安に張り付いている状況。

 正直、面倒臭い人でしかない。


「無礼な」

「折角ベルモントに来ていただいたのに、少しも楽しんで頂いてない様子ですからね。僕にもこの地を収める領主の一族としてのプライドはありますから」


 僕に対して高圧的に言い放ってきたケイを、逆に睨み返す。


「うっ……」

「居ないって言われている人に執着してないで、そろそろ観光を楽しんでもらいたいものですよ」


 まさか反論されるとは思ってもみなかったのだろう。

 ケイが気まずそうに視線を逸らすところを見ると、彼自身もフレイ殿下に対して多少は思うところがあるらしい。


「流石にこれ以上は付き合い切れませんし、セリシオ殿下と僕たちは別行動でも良いのでは? お付きの方々と冒険者の方々に任せてしまった以上、僕たちの方が役に立つとは思えないですしね」

「そこはほら、領主の一族として領民に対して「出来るわけないでしょう……」


 フレイ殿下が何を期待したのか、変なことを口走ろうとしたのをピシャリと切り捨てる。

 

「ただでさえ、冬の間というのは薪代やら食費で出費はかさむのに、狩りや採集もあまりできないですよ? 収穫出来るものも無いので収入は減るんですから。見つからなくても報酬を払ってもらえるんですか? 彼等も僅かばかりの収入に繋がるようにと、内職をして過ごしているんですよ?」

「もう、良いです」

「有難うございます。セリシオ殿下、フレイ殿下の許可が出たようですので、クリスとディーンを連れて出かけましょう。街を案内しますよ」

「えっ? でも……」


 僕の言葉に、セリシオが困ったようにフレイを見ている。

 そんなセリシオの腕を、さあっ、早くと言って引っ張る。


「勝手になさい!」

「ほらっ、自由にしていいって」

「そういう意味では無いだろう!」

「ケイ殿とは、話してませんので」


 ケイも慌てて引き留めようとしているが、無視してセリシオを連れ出す。

 自然とクリスも付いて来る。

 後ろを気にしながら。


 ディーンは楽しそうに、付いて来ているが。


「マルコ……すまんな」

「なんで、セリシオが謝るのさ」


 外に出て、ベルモントの馬車に乗って街へと向かう中で、セリシオが頭を下げてくる。

 勿論何に対してかは分かっているが、今回ばっかりはセリシオも被害者だし。

 彼に対して思うところは特には無い。


 強いて言えば、最初に僕とフレイの縁を繋いだのがそもそもの失敗だと思うが。


「その、姉君が迷惑を掛けているだろう」

「そうだね。フレイ殿下には迷惑を掛けられているけど、セリシオにはなんにもされてないし」

「本当に貴様というやつは……だが、今回ばっかりはその性格が羨ましい」


 僕の言葉に対してセリシオは目を見開いているだけだったけど、クリスからは苦笑いされた。

 クリスが僕の言動を好意的に受け取ってくれるのはかなり珍しいので、僕の方が目を見開くはめになったけど。


「それよりも、せっかくベルモントまで来たんだし、去年から建設してた公衆浴場が完成したみたいだから皆で行こうよ」

「公衆浴場? いや、前来たときにもあっただろう。そもそも、貴族がそんな場所に行くなんて……」


 ベルモント観光都市化計画第2弾の公衆浴場がついに完成したんだ。

 僕が学校に通っている間だったから、お風呂開きには間に合わなかったけど。

 それでも、自慢の施設だ。


 第一弾はオセロ村産業の商品の販売だったし、ホテルの改築なんかの補助金も地味に出してたけど、本格的な改革としてはこれが第一号かな?


「大丈夫! 富裕層向けのエリアも用意してあるし」

「富裕層向けっていっても、セリシオ殿下は王族だぞ?」

「服を脱いで裸になったら、身分なんて関係無いよ」

「関係あるだろう!」


 いちいちグチグチとうるさいクリスの相手をしつつセリシオを見ると、何やら俯いたままやけに大人しい。

 逆に心配になるレベルで。

 別に、セリシオだから良いかなと思わなくとも無いけど。

 

 一緒に居る機会は少なくはないけど、ベントレーやエマ達と比べるとそこまで親しい訳でも無いし。

 むしろ強引で、人の都合も考えない部分で迷惑というか鬱陶しいと思うところもある。

 けどまあ同じクラスメイトだし、こうやって一緒に冬休みを過ごしている訳だからあまり辛気臭い態度で居られるのも面白くない。


「なんかセリシオ、いつもに比べて暗くない?」

「きさっ!」


 クリスに同意を求めるように問いかけると、顔を真っ赤にして言葉に詰まらせてた。

 あっ、これ本気で怒ってる。


「マルコは優しいですね。いつも殿下に振り舞わされて、迷惑ばかり掛けられているのに」

「ちょっ、ディーン!」


 面白そうに僕たちのやり取りを見ていたディーンが口を挟んだと思ったら、身も蓋もない。

 クリスがディーンに慌てた様子で声を掛けるが、ディーンはニヤニヤとしたイヤらしい笑みを張り付けたまま手を前に出してそれを制する。


「ほらっ殿下。マルコは別に気にしてないですよ? フレイ殿下とは分けて考えてくれてます」

「うむ……本当に、すまん」


 ディーンが下から覗き込むようにセリシオに声を掛けると、弱々しくそんな返事だけが返って来た。

 セリシオの殊勝な態度に、ちょっとだけ居心地の悪さを感じる。

 もっと、子供らしくあっさりと行けないのかな?


 行けないのかも。

 だったら……


「ああもう、うじうじとセリシオらしくない! 風呂に入って、フレイ殿下のくだらない恋愛で掛けられた迷惑なんて全て綺麗さっぱり洗い流しちゃおう!」

「姉上の初恋をくだらないって、お前本当に酷いな」


 僕の言葉にようやく笑みを浮かべたセリシオの頭をグシャグシャと撫でまわす。


「別にセリシオには関係無い話なんだから、ほっといたら良いんだって!」

「将来の兄になる相手かも知れないんだぞ? 関係無くは無い」

「……そだね」


 そうだね。

 うん、本当にそうだ。

 いや、それは無いだろう。

 どこの馬の骨とも分からないうえに、異国の民を王族に迎い入れるとか。

 絶対にありえないでしょ?


 そもそも、王女ともなると政治の絡んだ相手に嫁がせられるはずだし。

 特に第一王女とか、重要な外交の切り札になりえる存在だし。


 見つかっても、その恋は実らないだろう。

 なんせ見つかったところで、僕だし。

 見てくれは別人だし。


 本質は一緒でも、性質は別だし。


 100%実らないんだから、気にしても仕方ない。

 

 最初は気が済むまでと思ったけど、これ見つかるまで気が済まないと思ってバッサリ切り捨てた部分はあるんだよね。

 って考えると、一番薄情なのはやっぱり僕かな?


 あれっ?


 僕が知ってるくせに2人対して教えてないんだから、もしかしてこれ僕に対してもセリシオの行動って全く悪くない?

 というかそもそも発端は、迂闊なマサキが悪いんじゃ。


 おおう。

 あまり深く考えないでおこう。

 チクリと胸が痛んでしまった。


 真剣にこの問題に取り組むと、罪悪感を感じてしまいそうだ。

 というか、間違いなく感じるかなぁ?

 

 いや、やっぱりマサキが悪いから、僕も関係無いし。


 とはいえ、もう少しだけフレイ殿下に優しくしてあげよう。

 あと、セリシオのフォローも。

  

 それから、タスクさんには僕からもしっかりとお詫びを言っておかないと。


 うん、うまいことフレイ殿下をフォローしつつ、観光に目を向けさせて気分転換させるように行動しよう。

 そうしよう。


 そうと決まれば、今日の夜にでも早速マサキに相談だな。


「マルコ、ありがとうな」

「いや、気にしてないから」


 素直に礼を言うセリシオに一瞬「気持ち悪いよ」という言葉がでかかったが、よく考えたらセリシオはこれまでも素直なところもあった。

 別に意外でも何でもないし、気持ち悪くは無いか。

 なんか、セリシオに対してもぞんざいに扱い過ぎてた気がする。

 

 出会いが最悪だったし。

 でもあれからほぼ2年が経ってるわけだし。 

 彼だって成長するよね。


 うん……


 第一印象って本当に大事だよね。

 改めて、最初に抱いた印象を変えるのって大変なんだなと実感したうえで、セリシオをもう一度しっかりと見てみようと思った。

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