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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第101話:新年祭

「旧年中も陛下におかれましては、健やかに、そして益々の繁栄の年となられた事、臣下一堂心よりお慶び申し上げます」

「おめでとうございます」


 この国の宰相であるファビリオ・フォン・ゲルト侯爵が、玉座の間で国王陛下とその家族に対して頭を下げる。

 そして、後ろに並んだ貴族たちも同じように深く頭を垂れる。


「いや、お前たちの献身あってのこと。余はこの国の象徴でもあり、お主ら配下の者達の努力の証でもある。もし、昨年が余の飛躍した年というのであれば、それは皆の者が飛躍したということだ」

「勿体ないお言葉……今年も、益々の御多幸が訪れますよう、そして今後も益々この国が栄えていくよう微力ながら尽力いたします」

「努めて参ります!」

「うむ」


 そして上記のようなやりとりが行われ、国王が頷いて立ち上がる。


「であれば、余はお主達貴族を筆頭に国民達の頑張りで得た富を、お主達の為に使おう!」


 そしてエヴァン国王陛下が手を鳴らすと、玉座の間の扉が開きその向こうに新品の赤い絨毯が目に入る。


「おおっ!」


 その場に集まった者達から歓声が沸き上がる。

 ここまでが、毎年定番の流れらしい。


 絨毯はあらかじめ数日前から準備しており、その上に古めかしい赤い布を被せていただけ。

 式典の間に職人や、メイド、兵士の人達が大慌てて布をどけて、新しい絨毯に汚れや染みが無いかチェックして一応掃除するらしい。

 

 まるで1時間の式典の間に、全ての絨毯が敷き替えられたかのようなマジック。

 とはいえ、殆どの貴族がネタを知っている。

 知っているけど、言わないお約束だ。


 これから国王陛下の後を付いて城内を行進して、パーティ会場で会食という流れらしい。

 会食の費用は国庫から出される。


 そして城下町では兵士やメイド、料理人達による大規模な炊き出しが行われる。

 食糧庫に蓄えられた一部食料の全放出。

 まあ、納品から日数が経ってしまった物ばかりだが。


 いくら魔法のある世界とはいえ、腐らないまでも品質は時間の経過とともに落ちてしまうのは仕方ない。

 それらを全てと、一部ちゃんとした食料を添えてビュッフェスタイルでの大炊き出し祭りが行われるのだ。


 早い話が在庫処分だ。

 痛みかけの食料を放出して人心を得られるなら、安いものだ。


 しかも炊き出しは毎年の恒例行事で、このタイミングに合わせて多くの貴族たちから新年のお祝いと称した献上品が届けられるので、食糧庫にぽっかり空いた穴はすぐに良質な食料で満たされる。


 まさにそのスペースを空けるための、在庫放出とも取れるが。


 勿論王城での会食はきちんとした素材で、一流のシェフ達が調理したものだが。

 街で配られるのはスープや、パン、焼いた野菜や肉がメインだ。

 

 無論浮浪者達も集まってくるが、そう言った人達専用のブースもある。

 主に、昨年入隊した新兵の役割らしい。

 

 ちなみに1月1日は法律も特別仕様で暴力沙汰を起こした場合、加害者、被害者共に問答無用で1年の投獄となる。

 きちんと反省していれば、恩赦は比較的容易に貰えるが。


 ところで何故被害者もなのかというと、この法律を逆手に取って嫌いな相手をわざと逆上させて殴らせる輩が居るからだ。

 正月早々、裏を取ったり裁判するのは面倒くさいらしく、問答無用で両成敗にしたらしい。

 早い話が、正月早々働かせんなといったところだろう。


 いくら貴族や王家の子供達といっても、やはり子供達。

 幅広い年代の子達が集まっているからか、いつも以上にまとまりが無い。


 大人達に酔いが回って、表情も締め付けも緩くなると席を離れて、子供達同士で集まって遊び始める。

 流石に10歳ともなるとそこまでハメを外す事はないが、それでも皆どこかそわそわと浮足立っている。


「おいっ、マルコ! 良い物見せてやるから、ちょっと出ようぜ」

「駄目です。王子が王家主催の食事会に居ないとかあり得ないから」

「なに、急に真面目になってるんだ?」


 セリシオの誘いをにべも無く断るマルコ。

 何故かって?

 おばあさまが素面だからだよ。


「やだなあ、私はいつも真面目では無いですか。殿下?」

「いや、どちらかというと「真面目ですよね?」


 セリシオが余計な事を言いかけたので、マルコが先手を打つ。


「いつもより怖いな」

「ははは」

「つまらん、エマとソフィアでも誘うか」


 全く相手をする気が無いマルコを放置して、セリシオがとっととその場から立ち去る。

 

「こんにちはマルコさん、楽しんでいますか?」

「これはこれはフレイ殿下、大変ご機嫌麗しくございますね」

「あら、取って付けたような余所行きの挨拶ですね」


 マルコが余計な事を言うなといった感じの視線を一瞬だけフレイに送る。


「なんだ、その目は?」

「これはこれはケイ様も、とても素敵なお召し物ですね」

「いや、その有難う。じゃなくていまお前、殿下を睨んだだろう!」

「まさか! そんな命知らずな真似出来ませんよ」


 すぐにマルコが大人の対応で躱そうとするが、ケイがしつこく追及してくる。


「ケイ? 1よ?」

「はっ、申し訳ありません」


 すぐにフレイが間に入って、止める。


「あまりケイをからかわないでやって頂戴。この子、こう見えなくても単純なんだから」

「なっ、ユリア様!」


 一緒に居たユリアに呆れられたように言われて、ガックリと肩を落とすケイ。

 クリスの兄だから、さもありなんといったところだろう。


「おや? この子が貴女とセリシオのお気に入りの?」

「アローナお姉さま」


 そこにフレイをもう少し大人にしたような、綺麗な女性が割って入る。

 その横には、ケイをさらに大人にしたような男性と、ディーンを大人にしたような男性が。


「初めましてマルコさん、私はこの国の第一王女のアローナです」

「勿論、存じ上げております。それとクリスのお兄様のバルト様、ディーンのお兄様のフェルト様ですね」


 マルコが立ち上がってアローナに騎士然としたお辞儀をする。

 そしてマルコが2人の事を知っていたことで、横の男性陣も片眉をあげる。

 直前に襟元に忍び込んだ蜂による、情報があったからこそだが。


「おお、知っておったか。弟が何やら迷惑を掛けているようで申し訳ない」

「それは、どちらの弟さんでしょうか?」

「ははは……その様子だと、どちらも迷惑を掛けておるようだな」


 バルトは朗らかな性格らしく、多少の冗談は通じるとの事。

 それで一歩踏み込んでみたが、情報通りに笑みを浮かべてケイの頭をポンポンと叩く。


「マルコ……お前「ケイ? 2よ? 仲良く、1年の牢獄生活を送りたいのかしら?」

「いえ……」

「まったく、フレイ殿下にまで面倒を掛けるなよ? もし、フレイ殿下に何かあったら、俺がお前を介錯してやるから、潔く腹を切れよ?」

「兄上……」


 笑いながら、さらっと怖い事を言う。

 流石は戦闘畑の子供達だ。


「ふむ、君がマルコ君か……なるほど、面白いですね」

「ははは、フェルト様はディーン君にそっくりですね」

「そうですか? 私でも弟が何を考えているか、分からない事が多いですが。まあ、仲良くしてあげてください」


 ディーンの兄であるフェルトは弟同様、基本丁寧語で話しているらしい。

 年下のマルコ相手であっても。


 それからフレイがエリーゼと楽しそうに会話を始める。

 主に、冬の間にベルモントに行くことについてだった。


 一応の食事会も一段落ついたということで、一部の者達を残して皆自宅か街に向かって王城から退室していく。

 勿論、国王に一声掛けてから。


 マルコも、エリーゼと一緒に王城を出て町へと向かう。

 スレイズはすっかり酔いが回って、前国王とエインズワース公と大いに盛り上がっていた。


「私は屋敷に戻りますが、くれぐれもハメを外さないように」

「はい、分かりました」


 屋敷に戻ると、マルコはファーマとローズを連れて町に向かう。

 これから、友達と集まって新年会みたいなことをするらしい。


 夕方までエマやソフィア、ベントレー、ジョシュアと街をぶらぶらと歩いて、新年のお祝いムードで浮かれ上がった街を堪能していた。

 全員普通の恰好に着替えてきている。

 むしろ、一般市民に溶け込むような服装だ。


 昼にたっぷりと美味しい物を食べた面々は、別腹とばかりに出店で甘いものを買ったり、露店で細工物を見て回っていた。


「お嬢ちゃん方、凄いベッピンさんだね! どうだい坊っちゃん方? ここで良いとこ見せたら、ポイント稼げるよ」


 そう言って、商品の銀細工をやたらと進めてくるおじさん。


「分かった、全部貰おう。あっ、エマとソフィアは好きなのを1つずつ持って行って良いぞ」

「えっ?」


 勿論、最近銀細工やら革細工にはまっているベントレーの言葉だ。

 作るだけじゃなく、集めることにもはまっているらしい。

 目の前には30点ほどの、手製の銀細工。

 凝った作りの物もあれば、単純な細工しか施されていないものもある。


「良いの?」

「ああ、こうやって色々な物に触れて、眺めているだけでも勉強になる」

「ちょっ、ちょっと! 坊っちゃん、これ全部ってどんなにまけても金貨4枚は貰うよ?」


 30点の手製の銀細工で、40万円くらいか……

 1個1万円前後……いや、妙に凝った作りの物は、それ1つで大銀貨3枚くらいはしそうだ。


「いいよ、新年だし。ご祝儀だよ」


 そう言って金貨5枚を差し出すベントレー。

 ブルジョアだ。

 まあ、本物だけど。


「ええ……」

「包んで貰って良いか? ルドルフ」

「はい」


 ベントレーに言われて、ルドルフが金貨を5枚ほど男に手渡す。


「うわぁ……本当にお坊ちゃんだったんですね。いや、とっても嬉しいですが。子供達にお土産を買って帰れます」


 露店の男がホクホク顔で丁寧に銀細工を一つ一つ布にくるんで、木箱に並べていく。


 その後も気に入ったものを、各々が子供のくせに大人買いをして街に御祝儀という名の大金を落として時間を潰していった。


 それから、夕食時になったので少しひなびた感じの食堂に向かう。


「お待ちしておりました」


 普通の定食屋。

 まずもって、貴族が利用しそうにない感じの。

 しかも貸し切り。


 店主が困り果てている。


 札束で頬っぺたをひっぱたいて、貸し切りにした。

 発案者はエマ、幹事はジョシュア。

 

 王城でコテコテの油ぎったような料理が大量に振る舞われていたので、もう少しホッとする料理が食べたいとの要望だった。


――――――

 タブレットで魔王城を眺める。

 新年会を開くらしい。


「それでは魔族の発展と栄光を祈って、乾杯!」

「乾杯!」


 魔王城でも当然の如く、毎年新年会は行われる。


 参加者は魔王以外の幹部と、上級魔族達。

 毎年、魔王は不参加だ。


 魔王が居る状態で羽目を外す事など出来る訳もなく、魔族らしい重く暗い雰囲気の新年会になるのを嫌った数代前の魔王が決めたらしい。

 代々魔王というのは、真面目で冷血ではしゃぐことなど絶対に無いと思われている。

 故に、魔王の前で楽し気に酒を酌み交わすなんてことは、当の魔王ですらも想像できなかった。


「今年は、スペシャルゲストが居ます!」


 皆、少しほろ酔いになってきたころ、牛の魔族に突っつかれてバルログが立ち上がって注目を集める。


「魔王様でーっす!」


 酔っているのか、妙にノリノリである。


「うむ、バルログと牛魔達にどうしてもと言われてな。迷惑かもしれんが、1杯だけ酒を頂こうかとのう」

「ほう、魔王様が参加されるとは珍しい」


 とは、西の塔を担当する竜の魔族。


「いやん、良いじゃない、どんどん飲みましょうよ」


 お色気たっぷりな口調で魔王に酌をするのは、南の塔に居たもしかしたら正体化物かもと踏んでいる絶世の美女。


 黒騎士は、何やら東の塔担当の大柄な牛の魔族と真面目に話をしている。

 なになに……

 最近、塔内に変な子供がウロチョロしている?

 それから、害虫被害が出てきているので、本格的に殺虫剤を壁に塗布しようか検討中。

 ただ、害虫が強すぎて引き受けてくれる業者が居ない?


 こんなところでも、仕事の愚痴をこぼすのはどうかと思うぞ。


「魔王様も、1杯と言わずどんどん飲むね」

「う、うむ」


 トクマが物怖じせずに、魔王のグラスにワインを注いでいる。

 というか、この人は誰が相手でもこの喋り方なのか。


「いつになったら、人間の国を亡ぼすのですじゃ?」

「亡ぼしはせんが、そろそろ北の大陸だけでも取り戻したいのう」


 竜人がいきり立って魔王に詰め寄っているが、魔王はノホホンとした様子で答えている。

 とうやら、ちょっとほろ酔いで気分が良くなってきたらしい。


「魔王様は、まだ飲み足りないね! どんどん飲むね」

「こらこら、一杯だけじゃと言うたじゃろうに」


 トクマにドンドンお酒を注がれて、口では断りつつも楽しそうな魔王。

 

「どんどん持ってこい! なに酒が無くなったじゃ? 構わん、蔵を開けーい!」

「魔王様! ちょっと、飲み過ぎです!」

「わしは酔っとらんぞ! もう良い、酒くらいいくらでも作っちゃる!」


 魔王が魔法でワインを大量に作り出す……瓶も樽も用意せずに。


「ちょっ、魔王様!」

「誰だ、こんなに魔王様に酒を飲ませたのは」


 ……どうやら、あまり酒に強くないらしい。

 いきなり魔法でワインを作り出したものだから、テーブルも床も、そして魔王自身も酒まみれだ。


「もう、魔王様」

「大丈夫ですか!」


 牛族や、サキュバスが甲斐甲斐しく世話をしている。


「なーに、濡れたんなら脱いでしまえばよい!」

「駄目ですよ!」

「ん? 脱いでも新しい服を作り出して着ておるぞ? 何を想像したのかな?」

「ちょっ、誰だ! 魔王様にこんなに飲ませたのは」


 場は混沌としている。


「はっはっは、こんなに魔王様が面白いとは。あっはっはっは、はあっはっははがっ! げほっ! ごほっ!」

「ちょっ、竜王様!」

「やばい、竜王様がむせておられる」

「皆離れろ!」

「ゴハアアアアアアアア!」


 馬鹿笑いをしたかと思うと、気管に唾でも入ったのか竜族の男がむせ始める。

 そして一際大きな咳をした瞬間に、口から火のブレスが吐かれ、目の前のテーブルを消し炭にする。


 とはいえ、魔族の面々は過去にも経験があったのか、全員持てるだけのお皿を持って部屋の隅に移動していた。


「なんだ、ブレスか? ならわしも」

「ちょっ、待て!」

「グオオオオロロロロロ」

「うわぁ!」

「なーんてね」


 一瞬周囲が、魔王がもどしかと戦慄したが、その口から出て来たのは色取り取りの布だった。

 もしかして、魔王の奴……いつか、こんな日が来るのではと練習していたのか?

 嘘だ……

 俺が、教えた。


 さっきの竜王の時と違って、たらいやらタオルやら水を持って駆け寄って来た配下達が一瞬固まっていた。


「ほおっ! 魔王様のブレスは布が出るのか! 目出度いのう! 愉快愉快!」

「おお、竜王、お前は分かってくれるか」


 竜王が爆笑していた。 

 他の面子はちょっと引いて、苦笑いだった。


「うう……何故、人間共は我らを目の敵にするのであろうのう」

「魔王様……」


 それから、暫くして魔王が泣き始める。

 おい……

 酒弱いんだったら、そんなに飲むなよ。


「我は! 我の代で! 魔王と人間の確執を解消してみせる」

「よっ! 魔王様!」

「流石ね!」

「ふむ、まだまだ魔王の座は奪えそうにないのう!」


 魔王が立ち上がって、高らかと宣言する。


「そのためにまずは、野菜を作る」

「……ん?」

「はっ?」

「良いね!」

「野菜は大事じゃの」


 手に魔王菜園から取って来たキュウリを持っている。


「それから、野菜を作る!」

「うん」

「そうですね」

「さっき、聞いたね」

「野菜、必要じゃのう」


 いや、竜人は食べないだろ……野菜。


「そして!」

「そして?」

「そして?」

「そして?」

「野菜か?」


 目いっぱい溜める魔王。

 長い。

 まだか……


 まだなのか?


 徐々に辺りが静かになっていき、周囲に沈黙が訪れたその時!


 バターンという大きな音を立てて、魔王が後ろに倒れる。


「グー……」


 言いたい事、言って唐突に寝落ちしたらしい。

 一瞬、周囲が騒然となったが、そのまま牛魔に連れられて寝室へと運ばれていった。


 うん……今のところ魔王好きだわ。



 

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