表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

オオカミ王子は負傷する 02

(痛ぇ……。なんだこれ、魔法のダメージじゃねー……)


 遠のきそうになった意識をなんとか掴まえて、イザークは背後を振り返る。

 地面が赤く染まっていた。自らの背中が燃えるように熱いので、それが自分の血であると瞬時に理解する。


 クラウディアを腕から解放し、チッと舌打ちをして正面に向き直ったイザークの目の前には、牙を鮮血で染め上げた純白のサーベルタイガーが低い声でうなっていた。第一ゲートの先にある異大陸に生息する獰猛な獣だ。その口元からはちりちりと炎があがっている。

 何故ここに? ゲートはどうなった? 中の人間は無事なのか? いくつもの疑問が頭に浮かんだが、今は考える暇などない。ここで逃がしては、王都まで被害が及ぶだろう。


「イザーク! 血が……!」


 背後でクラウディアが声を震えさせた。


「大したことねーよ」


 荒い息をなんとか整えながら、即座に自分たちの周りに風の防壁をつくる。通常ならばチームで討伐にあたる獣だ。イザークひとりでは分が悪かった。

 喉を鳴らし、ぽたぽたと口元から涎を垂らしながらこちらの様子を窺うサーベルタイガーを睨みながら、イザークは振り返らずにクラウディアに言った。


「オレがひきつけてる間に逃げろ。いいな」


 とにかくクラウディアだけでも無事であるように、すぐにでもこの場を去ってほしかった。


「あなたを置いてはいけないわ」

「状況わかんだろ。邪魔だから行け!」


 イザークは両の手に風の渦をつくりながら、わざと邪険に言った。なのにクラウディアはひかなかった。どころか、イザークの背後から進み出て、隣に立つ。


「って、何して――」


 驚愕にイザークが目を見開いた瞬間、クラウディアの体中から魔力がほとばしった。プラチナブロンドの柔らかな髪が、光を帯びて宙にふわりと浮きあがる。


「邪魔になんてならないわ」


 さっきは確かに声を震わせていたはずだった。なのにもう、クラウディアの目は戦う決意をしている。きっともう、彼女はてこでも動かない。


 サーベルタイガーが地を蹴った。咄嗟に両手で作った旋風で足止めをして、イザークはクラウディアを背中に隠す。


「あー! くそ! とりあえずお前は後ろにさがれ!」


 どうやったって彼女はひかない。ならば一瞬で決着をつけるしかない。


(クラウディアの全力の攻撃があれば、話は簡単だ――)


「オレが動きを止めるから、お前は全力でぶちあてろ」

「でもそれじゃイザークは」

「お前の魔法はオレなら防げる。出し惜しむな。いいな」


 イザークは走りだした。同じくこちらを標的と定めて向かってきたサーベルタイガーに、イザークの両手からいま一度巻き起こった旋風が襲いかかる。それをものともしない大きな口が、イザークの体に食らいつく瞬間だった。


 あたり一面が目も開けられないほどの光に包まれる。それに続く衝撃波に、すべてが飲みこまれていく。

 すぐ目の前で断末魔の悲鳴を聞きながら、イザークも自身の体が吹き飛ばされそうなるのを何とかこらえていた。

 衝撃がすべて去って、イザークはその場に膝を落としていた。


「イザーク!」

「……なんつー魔力だよ」


 半笑いで呟いて、イザークは意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ