表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

第4話 蒼井中の七不思議

夏帆は教師同士のキスシーンに真剣に見入っていたが、

寿々菜はそれが半年前の「あの時」とダブり、思わず目を逸らした。


そう、半年前の・・・ちょうど同じ時間頃。


あの日の昼休み、夏帆が教師に職員室へ呼ばれ、

寿々菜は先に1人でこの小部屋に来ていた。



1人でお菓子を食べてもつまらないし、

KAZUが出てる雑誌でも見てようかな・・・



そんなことを考えながら、何気なく窓の外へ目をやると、

倉庫の端に二つの人影が見えた。


森田とその彼女だ。

2人は今月2年生になったばかりの同級生同士で、

確か4、5ヶ月前から付き合っている。

美男美女カップルであることは、寿々菜も認めざるを得ない。


ただ注釈を入れておくと、森田はその前にも3ヶ月ほどだが別の女子生徒と付き合っていた。

更に注釈を入れておくと、寿々菜はまだ誰とも付き合ったことがない。



寿々菜が「あんなとこで、何してるんだろう?」と思う間もなく二人はキスを交わした。



な、なんてことを!!!



寿々菜は真っ赤になった。

しかも2人のキスは、桜舞う春風の中、しばし見つめ合い・・・

というロマンチックなもの(寿々菜的には)ではなく、

ごく当たり前といった感じの軽いキスだった。


現にキスの後、2人はお互いハニカミ合う訳でもなく、

何事もなかったかのように校舎の中へと入っていった。



中学生のくせに、信じられない!!



寿々菜自身はもちろんキスの経験はないが、テレビドラマや映画でキスシーンなんか何度も見たことがあるし、寿々菜の同級生の中にも「彼氏とキスしちゃった」という女子は何人もいる。

しかし目の前で、しかも後輩が、しかも寿々菜にとっては煙たい存在である森田が、

キスをしているのを見るのは予想以上に衝撃的だった。


だが、先日デビューしたばかりとはいえ芸能人として寿々菜は、

「い、今時の中学生、キスの一つや二つ、常識よ!」と何故か自分に言い聞かせて、

その場は(寿々菜の中で)丸く収まった。


ところが。

それからわずか1ヵ月後、耳を疑うようなニュースが飛び込んできた。

なんと、森田が彼女と別れたというのだ。



キスまでしといて別れるなんて、ありえない!



人生の諸先輩方、更には諸後輩方からもご意見があるかとは思うが、

とにかく純情な寿々菜的には「ありえない」ことなのだ。


それ以来、寿々菜にとって森田は「煙たい」に加え「ありえない」存在になった。







遠くに予鈴が響く。


「夏帆、予鈴!教室に戻ろう!」

「・・・」

「夏帆?」

「!ごめん!大橋と中村のキスに見入っちゃった」


ハッとしたように夏帆が窓から顔を離す。


「えらいモン見ちゃったね、寿々菜」

「そうね。でも、黙っといた方がいいかも」

「うん・・・でも、言いふらしたい!!」


夏帆はウズウズした感じで立ち上がった。

と言っても、きちんと立てば天井に頭がぶつかるので中腰だ。



・・・あれ?なんだろ、これ・・・



寿々菜は夏帆の後姿を見ながら首を傾げた。

何とも表現し難い違和感を感じたのだ。



なんか、引っかかる。

なんだろう・・・



「夏帆」

「何?」


夏帆が天井の扉を上に押し上げながら、まだ座っている寿々菜を見下ろした。


「さっきの大橋先生と中村先生なんだけど・・・」

「うん」

「・・・ううん、やっぱりいいや」


上手く言えない。

だが、何かに激しく違和感を感じる。


しかし寿々菜はその正体が分からないまま、小部屋を後にした。




「キスと言えば」


教室に向かう途中、1階の生物室の前で夏帆が足を止めて言った。

廊下を挟んで生物室の向かいの壁に大きな鏡が貼り付けてあり、

夏帆はその鏡を見ている。


「出た、らしいよ?」

「出たって何が?」


寿々菜が訊ねると、夏帆はもったいぶって声を潜める。


「幽霊」

「・・・幽霊?」


この手の話には弱い寿々菜。

「弱い」というのは「目がない」という意味ではなく、本当に「弱い」のだ。

幽霊と聞くだけで、青くなる。


「1週間くらい前かな。部活で遅くなったカップルがここでキスしてたんだって。

そしたら、鏡の中に、白い服を着た女の子の幽霊が現れたらしいよ!」

「ま、まさか・・・」

「本当だって!私、そのカップルの彼女の方から直接聞いたんだもん」

「・・・嘘」



友達の友達のお姉さんの親友の話、とかじゃなくて?



夏帆の友達の話となるとなんだか一気に身近に、

そして本当に思える。


「森田君も、聞いたって言ってたし」

「・・・」


少し真実味が薄れる。


夏帆が時計を気にしながら、再び廊下を歩き始めた。


「蒼井中の七不思議って、本当なのかなぁ」

「な、七不思議?」

「寿々菜、知らないの?

一つ目が、夜、突然鳴り出す音楽室のピアノ。

二つ目が、同じく音楽室の、血の涙を流すベートーベンの肖像画。

三つ目が、何の前触れもなく全滅する水槽の魚達。

四つ目が、勝手に動く生物室の人体模型。

五つ目が、プールの中に住む、謎の生き物。

六つ目が、体育倉庫に現れる死体。

そして七つ目が、夜な夜な校舎を徘徊する白い服の少女の幽霊」

「・・・」

「本当だったら面白いわよねー」



面白くない!!

幽霊なんて・・・七不思議なんてありえない!



しかし、「七不思議と森田君、どっちの方が『ありえない』だろう」と、

よく分からない比較をしていた寿々菜だが、

もっと「ありえない」ことが自分の身に起ころうとは、

この時はまだ夢にも思っていなかったのだった・・・




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ