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第三十話 チロル・アイゼンの雑貨店

蒸し暑さですでにバテています……。

 この私、チロル・アイゼンには小さな頃からの夢がある。


 それは、夢と魔法に満ち溢れた、可愛らしい品物いっぱいの雑貨店。


 色とりどりのカラフルな色をしたあまーいキャンディ。


 いろんな香りと効能で取りそろえた紅茶。


 おいしいクッキーに、ジャムに、ドライフルーツ。


 もちろん、食べ物ばかりでもないわ。


 可愛いハンカチ、ポーチ、バッグ。


 臭い袋やフリルがついたラブリーな傘なんかも置きたい。


 店の内装は、あたたかみのある木目が見える木造が基本。


 そこにレース編みしたカバーを敷いたり、リボンで飾りをしたり。


 そこに集う少女達の初々しくて微笑ましい光景。


 私も店主として、ちょっと嬉し恥ずかしの恋の相談なんかされちゃったり。


 ここだけの秘密よっておまじないなんかも教えてあげちゃったり。


 きゃーっ。


 もう、そんなことを考えるだけで、とてもわくわくどきどきして、すごく楽しい気持ちになった。


 夢だけど、夢だけで終わる夢なんかじゃなくて、きっと絶対に叶えるんだって、ずっと思ってた。


 そして、念願叶ってチロル・アイゼンの雑貨店はオープンすることが出来たのだけど……。






「こんなの、こんなのっ、私の思い描いていた雑貨店じゃなーい!」


 私はガバッと机に顔を伏せると大声でそう叫んだ。


「おいおいどうしたよ、嬢ちゃん」


「こんなのって言うが、なあ店主の姉ちゃん、よかったじゃねーか。こんな店が繁盛しててよお」


「忙し過ぎて目でもまわしたんかい、お嬢」


 そう即座に心配そうな来客からの声がかかるが、それに私の嘆きは加速するだけだ。


 私に振りかけられる声は、野太く荒々しくゴツイ。


 そう、とても繁盛、繁盛し過ぎるくらい繁盛している店内どこを見渡しても、男、男、また男。


 しかも、恋人にプレゼントを選ぶ優男や妻に贈り物を選ぶダンディな紳士ならともかく……。


 いるのは男の中でも更に男臭い兵士や騎士や冒険者達ばかり。


「ゴツイ! むさい! 汗臭い! 筋骨隆々! 乙女の夢の欠片もない! 私は可愛い女の子達がうふふきゃっきゃお買い物を楽しむ雑貨屋をやりたかったのに……!」


 血反吐を吐くような勢いでそう叫ぶ私に、周囲から呆れたような声が飛ぶ。


「そりゃあ、仕方ねえべや」


「なあ」


「んだんだ。ここにあんのは、俺達のような仕事の奴に最適なモンばっかだしよお」


「そだな。舐めてるだけで筋力や視力などの各数値がアップするキャンディに、副作用もない睡眠導入効果ばっちりの紅茶。しかもこいつのすごいとこは短時間でも一日寝てたかのような満足感があるとこだ」


「乙女に睡眠不足は大敵なのよ!」


「この少量で腹持ち抜群のクッキーやジャムなんかもすげえよ。ドライフルーツなんざ、一握り持ってけばダンジョン攻略数日分の腹持ちだぜ」


「乙女がデートでばくばく物を食べることなんかできないからつくったのに!」


「このポーチやバッグも恐れ入るわ。マジックバッグになっててどんだけ物が収納できるんだってくらいだ。モンスター退治の際の素材収集にもうこれなしじゃいらんねーよ」


「だーかーらー、それをつくったのはそんな血なまぐさいことの為じゃないのよ! 女の子は荷物が多くなるものなの! その為のものなのに!」


「このハンカチもなかなか。どんな汗をかいたって、ひと拭いで全部乾いちまう。ハンカチも湿らないなんて、どんなわざだよ、まったくよお」


「女の子には汗は厳禁なのよ!」


「いやー、これなんか……」


「だーかーら! あんた達むさい野郎どもの為につくったんじゃないのよ! 可愛い女の子の為、もしくはそんな女の子達へプレゼントされる為に、私は……!」


「だったらよう、嬢ちゃんよ……」


「どうしてこんな付与魔法つけてるんだい」


「そんなに嫌だったら付与魔法なしの雑貨だけ売ってりゃ、俺らだってわざわざこんな乙女趣味のグッズは買わんがな」


「そうだよなあ。この見た目をスルーしても手に入れたい魔法効果があるから、買いにきてんだもんなあ」


 んだんだ、とおっさん達が頷くなか、私はぷるぷると身体を震わせた。


「それじゃ、それじゃ、ただの雑貨屋じゃない」


 そんなことは指摘されなくても百も承知だ。


 開店直後に入ってきた客層をみた時から、これは……とは思った。


「だけど、だけど、私は夢と魔法が溢れる雑貨屋をしたかったのよー!」


 よー、よー、よー…………、と私の魂の叫びは店内に響き渡った。






 チロル・アイゼンの雑貨店。


 本日も大変賑わっております。


 店内には夢と魔法に溢れた色々な可愛らしい雑貨で溢れかえっています。


 きっとお気に召して頂けるお品物が見つけられることと自負しております。


 店主のチロル・アイゼンは、今日も夢と希望と恋心に溢れた可愛らしい乙女の皆様のご来店を、心より、心よりお待ちしております。


次回は夏ということでホラー回に致しましょうか……。

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