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第二十六話 いい塩梅

大変お待たせ致しました。第二十六話です。

 ある日、外回りの仕事の最中、少し休憩でもするかとコンビニでコーヒーを買って公園に立ち寄った日のこと。


 ちょうどいい感じに休憩できるベンチが見つかり、俺はそこへ腰を下ろした。


 ふと横を見ると、小学生中学年くらいの女児二人が隣のベンチでおしゃべりに興じていた。


 一人はごく普通な子だが、もう一人は将来楽しみなくらいの美少女だった。


 ランドセルを背負ったままのところをみると、下校途中なのだろう。


 寄り道してちゃ駄目だぞー、とは思うものの、どうだこの世知辛い世の中は。


 下手に声をかけると一歩間違えばこちらが変質者扱い。


 関わらないのが一番と、さっさとコーヒーを飲み干して立ち去るか、と飲むペースを速めることにした。


 下手に見ていると一歩間違えばこちらが変質者……、の疑いをかけられかねない為視線はまっすく前に向けているが、聴覚はそうもいかない。


 自然と横でおしゃべりをする声を拾い上げてしまう。




「それがいい塩梅というものだよ」


「塩梅って何?」


「塩と梅と書く。それが塩梅」


「梅干しのことー?」


「いいや梅干しのことじゃないよ。梅は梅本体じゃなく塩を梅酢を混合した調味のことだし」


「ふうん?」



 

 この子らいったい何の話をしているんだろうか。


 文字の語源の話なのか。調味料の話なのか。


 どちらにしても子供のする話らしくないような……。




「だからいい塩梅とは塩と梅酢の加減がちょうどいい組み合わせということさ」


「組み合わせが悪いと悪い塩梅になるの?」


「うん? そうさな。塩が多すぎれば塩辛すぎて食えず」


「うんうん」


「梅酢が多すぎれば酸っぱすぎて口にできたもんじゃなく」


「ふんふん」


「ついでに水分が多すぎれば腐って捨てるだけってなもんだ!」


「ほうほう」




 本当にこの子ら何の話をしてるんだ!? 


 しかも話し方が小学生女児のものとは思えない!


 俺の子供の時もこんなもんだったか、同級生女子は?




「だからお前もそんないい塩梅な人間になるんだぞ」


「はい!」


「食えない男になるんじゃない」


「うっす!」


「志良以唯人も言っている! 漢の価値は見た目じゃない。噛めば噛むほど味が出るような中身のある奴だと!」


「兄貴のような漢ってことだねっ! 僕もなるよ絶対、兄貴のような漢に!」


「何度も私は男じゃねーって言ってんだろコラ」




 ………………。


 俺はコーヒーを飲み切ると、さっと立ち上がり横にあったゴミ箱に空き缶を捨てその場を離れた。


 そして、ふっと笑みを浮かべ空を見上げた。


 

 わっかんねーなあ、最近の子供は。


 その会話の中身も。


 話し方も。


 性別さえも……。


 俺もまだ若いつもりでいたけど、年とったかなあ……。



 空はこれでもかってくらい、鮮やかなスカイブルーだった。

 

次回更新は5月6日です。

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