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第二十三話 笑わぬ王妃

今回は童話調です。

 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃がいた。

 その王妃の美しさには誰もが息をのむほどだった。

 その王妃は決して笑みを浮かべることはなかった。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない王がいた。

 その王はよく国を治め、人々から愛された。

 その王は何とか王妃に微笑んでもらおうとしたが、王妃は決して笑みを浮かべることはなかった。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない王子がいた。

 その王子は立派な王になる為努力し、人々から愛された。

 その王子は何とか母である王妃に微笑んでもらおうとしたが、王妃は決して笑みを浮かべることはなかった。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない姫がいた。

 その姫はその身が美しい国の為になるよう努力し、人々から愛された。

 その姫は何とか母である王妃に微笑んでもらおうとしたが、王妃は決して笑みを浮かべることはなかった。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない侍女がいた。

 その侍女は王妃が子供の頃から傍に仕えていた侍女で、王妃が微笑まないことに心を痛めていた。

 その侍女は少しでも王妃の心が安らぐよう、心を込めて仕えていた。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない専任の服飾職人がいた。

 その服飾職人は王妃が子供の頃から王妃の生家に出入りしていた職人の子供で、王妃のドレスを作り続けていた。

 その服飾職人は少しでも王妃が美しくあるよう、心を込めてドレスを作っていた。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない国民が暮らしていた。

 その国民達は、王妃が皆が健やかに暮らしていけるよう心を砕いていることを知っていた。

 その国民達は王妃の顔に笑みが浮かばないことを不思議に思いつつも、心優しく聡明な王妃を慕っていた。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない公爵がいた。

 その公爵は美しい王妃になった娘が笑みを浮かべられない理由を知っていた。

 その公爵はそれでも自分の選択に間違いはなかったと、密かに心を痛めながらもそう思っていた。


 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃を愛してやまない公爵夫人がいた。

 その公爵夫人は美しい王妃になった娘が、幼い頃出入りの服飾職人の子供と楽し気に笑っていたことを知っていた。

 その公爵夫人はそれでもどうにもならなかったことと、密かに心を痛めながらもそう思っていた。




 ある日、王妃専任の服飾職人が怪我をした。

 命に別状はなかった。

 しかし、二度と王妃のドレスを作ることはかなわない、そんな怪我だった。

 その服飾職人はその腕に、決して癒えぬことのない怪我を負った。



 その王妃専任の服飾職人は絶望した。



 その後、王妃専任の服飾職人が自ら命を絶った。

 二度と王妃のドレスを作ることが出来なくなったことに絶望したからだ。

 王妃のドレスを作れぬ服飾職人が、王妃に逢うことはかなわない。

 美しい王妃が、己が作ったものではないドレスを纏うことを見ることにも耐えられなかった。




 人々はドレスを作ることが出来なくなった為自ら命を絶った、その服飾職人のドレスへの一途な心に、心を痛め悲しんだ。



 ただその服飾職人の心に秘めた本当の想いを知る者はいなかった。



 ほんの、何人かを除いては。



 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃がいた。

 その王妃は王妃専任の服飾職人の死を知って、人知れず一筋の涙を零した。

 その涙を見ていた者は、誰もいなかった。


 

 あるところに美しい国があった。

 その美しい国には、美しい王妃がいた。

 その王妃は決して笑みを浮かべることはなかった。

 それでも賢く心優しいその王妃は、皆から愛されていた。



今回はちょっと暗かったので次回はコメディ方向で、の予定です。

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