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第二十二話 決して入ってはいけない

大変お待たせ致しました。


 俺の通う四方山十番高等学校の南校舎三階の男子トイレの一番奥のトイレには、ずっと前から一枚の張り紙が貼ってある。



『決して入ってはいけない』



 古い高校だけあって、トイレも当然ぼろくて汚い。


 落ち着くので長いしようか、などとは絶対に思わない。


 何か出そう。


 少なくても頭にゴのつく黒いお方は間違いなくいるよね。


しかも単体ではなくご家族様何組もいらっしゃってもまったくこれっぽっちも不思議じゃないよね、ってなレベルでだ。


 また、その張り紙も茶色く煤けて年季が入っている。


 しかも、手書きの墨字。


 端っこなんかちょっと破けてたりもする。


 雰囲気ありまくりだ。



 俺達の間で、そのトイレは開かずのトイレ、と言われていた。



 しかし人間、駄目だと言われればかえってしたくなるのが人情というもの。


 ある日、俺は悪友二人とそのトイレに入ってみることにした。


 人気のなくなった放課後、恐る恐る、そのトイレの個室に近づく俺達。


 心なしか、そのトイレの扉からはおどろおどろしい気配が漂ってくるかのように思える。


 ここには近寄ってはいけない。


 そう空気が警告しているかのようにすら感じられる。


 しかしここで諦めては男がすたる。


 息をのみ、無言で目と目で会話をし、頷きあう俺達。


 そして、スローモーションのようなゆっくりとした動きで、扉に手をかけ、扉を開ける。



 キィ…………。



 軋んだ音をたて、その扉が開かれた。


 そこにあったのは、他のトイレと同じ、古ぼけた汚い便器。


 入ってはいけないとしてあった分、掃除もされてないのかより汚い。


 だが、それだけだった。


 しかし、開けた瞬間何かが起こるのではないか、と恐怖と期待もあっただけ、何だか拍子抜けした。


 俺たちは顔を見合わせ、しばし沈黙した後、爆笑した。



 そうだよな。


 こんなもんだよな、実際は。



 笑うだけ笑ったら、何か急にもよおしてきた。



 せっかくだから、このトイレ使ってみるわ。



 そんなふうに、気軽に言って、俺は中に入って扉を閉めた。


 そして、その結果…………。







 大・惨・事。








「お前ら、何で入りやがった! あの張り紙が目に入らんかったのか! お前らの目は節穴か!」


 俺達はそんな怒声を教師に浴びせられながら、職員室の隅で正座をさせられていた。


「す、すみません!」


「ごめんなさい!」


「……ついつい好奇心に負けまして……」


 そう。


 肝試し気分だったのだ。


 幽霊とかお化けとか、学校の七不思議系のつもりだったのだ。


 それがまさかあんなことになるとは。


 だって知らなかったのだ。


 まさかあの張り紙の理由が、水道管の故障だとは。


 配管ルートがやばいくらいめためたで、修理代にかなりの金額がかかるから放置されてたなんて。


 スッキリ利用した後、水を流したその瞬間、噴水のように水が吹きあがり止まらないなんて思わなかったんだ。


 後から後から水が流れ出て、あっという間に水浸しになるなんて思うわけないだろ。


 ましてやその水が階下や便所の外にまでダラダラ溢れ出すだなんて……。


 それはまさに、大惨事。


 そもそもあの張り紙がすべての元凶じゃねーか。 


 あんな意味ありげに『決して入ってはいけない』なんて文言ではなく、普通に『故障中』とか『水漏れの為使用禁止』にしておけよ!


 そしたら興味のきょの字も持たなかったし。


 ……なんて頭の中では弁明や抗議をしてみるものの、口にはとても出せずに、俺達は頭の上で叱責の嵐が過ぎ去るのを大人しく待つばかり。  




 後日俺達に下された罰は、トイレ掃除三ケ月、だった。


今回はホラー回? と見せかけたコメディー回でした。

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