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第二十話 ねえ、ちょっと

お待たせ致しました。

 先日開かれた中学の同窓会で、久しぶりに友人らと歓談の場を持った。


 顔や体つきが子供から大人のものへと変化していて、誰が誰だかわからなくなっている者もいたが、よくよく顔を見合わせて話をしていると懐かしさがよみがえる。


 主に話のネタとしては当時のネタバレや自身のその後の経歴などであったが、そんな中二人ほど気になる話題を上げてきた者がいた。


 曰く、怪談や都市伝説の類である。


 一般的なそれとは異なるのは、自身の体験談であった、ということであろうか。


 最初に語ったのは、稲本、という男だった。


 会社の帰りに、急ぎの予定があり慌てて帰宅していた帰路のことだったという。


 後ろから「ねえ、ちょっと」と声をかけられた。


 くぐもった女性の声にも、か細い男性の声にも聞こえたという。


 誰かと思って振り返ると、そこには誰もいなかった。


 不思議に思ってその場に立ちつくしたままきょろきょろと辺りを見回していた所、突然進行方向から耳を劈くような音がした。


 稲本が何事か、とそちらを見ると、巨大な看板が地面に突き刺さっていた。


 それは、建物の高い所にあった、宣伝用の看板だったという。


 後で確認したところ、それは留め具の腐食が原因による落下事故だった。


 しかし、その声によって立ち止まらなければ、位置からするに稲本へと直撃する所であったらしい。


 まさに、危うくの命拾いだったと稲本は身を震わせた。 


 不思議なこともあるものだ、と皆で言っていたら、今度は町田さんという女性が手を上げた。


 自分も良く似た経験をした。


 だが、ある意味真逆だったという。

 

 町田さんは遊びに出かけた帰り、思ったより遅くなってしまったので人気のない夜道を急いでいた。


 暗闇は本能的に人の恐怖を呼び起こすものではあるが、女性の夜道の一人歩きは防犯面でも気をつける必要が高い。


 町田さんも度々痴漢にあったという経験もあり、しっかりと鞄を抱え速足でひたすら前を見据えて駆け足に近い速度で歩いていたという。


 その時、背後から声がした。


「ねえ、ちょっと」、と。


 町田さんは一瞬躊躇ったものの、聞こえなかった振りをすることにした。


 ずいぶんと急いでここまで歩いてきたのである。


 後ろに人はいなかったはず。


 いるとすれば、脇道から出てきたか、もとよりどこかに潜んでいたか。


 潜んでいたとしたら、何故なのか。


 ぞっと、恐怖が押し寄せてきた。


 町田さんは更に前へと進む足を速めた。


 その時である。


 後方で眩い光が走ったかと思うと、ものすごい勢いで車が突っ込んできて電柱にぶつかって止まった。


 ちょうどその場所は、声が聞こえてきた場所。

 

 立ち止まっていたら、町田さんはその車の事故に巻き込まれていた所だった……。


 その二人の話を聞いた皆は口々に「気持ち悪い」だの、「不思議なこともあるもんだ」など言っていた。


 二人の話の共通点は夜歩いていた所背後からかけられた声。そしてその声の主の不在、である。


 起こした反応は真逆。そしてその結果「助かった」という点は一致してるが、同様の行動を起こしていたらどちらはは無事では済まなかったはずである。


 これは、一体どういうことなのか。


 振り返ることと、振り返らないこと。


 どちらを選ぶのが正解なのか。


 それとも正解などないのか。


 そしてはたと気がついた。


 今僕がいるこの状況もまた、その条件に当てはまるのではないか。


 人気のない道路を歩く、深夜の帰り道。


 いや、まさか。


 そんな条件に当てはまる夜間に道行く人はこの世界中でどれだけの数がいることか。


 と、思ったその時、背後から耳慣れぬ声がした。










――――――――――――――――――ねえ、ちょっと。



















あなたなら振り返りますか? それとも振り返りませんか?

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