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第十九話 夢見る乙女

明けましておめでとうございます。新年最初はオムニバスにて。

今年もどうぞよろしくお願い致します。

 うちのクラスには名物三人組の女子がいる。


 一人は成志なるし萃香すいか


 アイドル顔負けの可愛さだが、自己愛が強くそのナルシストっぷりには思わず腰が引けるほど。


 二人目は馬苑まぞの仁美ひとみ


 モデル張りの美貌の持ち主だが、独特な感性を持っていてその趣味全開の部屋へ足を踏み入れた人間は脱兎のごとく逃げ出すと言われる。


 最後は与野中よのなか花音代かねよ


 容姿は中の上といったところだが、その名は体を表すとはよく言ったもので、一に金、二に金、三四がなくて五にも金、とばかりな強烈な守銭奴だ。


そんな三人のある日の会話が以下の通りである。




「ねー、昨日みんなでシンデレラのDVDみたじゃない? そのせいで変な夢みちゃってさー」


「夢? 私も見たわ。ちなみにどんな?」


「まさに! シンデレラ! よ。美人だからドブスな義母や義姉ズに妬まれて、散々こき使われる私、可哀そう! でも薄幸の美少女の立ち位置も悪くはないわね、てなプロローグから始まんのよ」


「そう聞くとちっとも可哀そうには思えんな」


「あら、奇遇ね。私もシンデレラよ。これでもかこれでもかと仕事を与えられ痛めつけられる……。素晴らしい日々ね……」


「あんたの特殊な趣味はどうでもいいのよ。で、街中の娘がお城のぶどう会に招かれるんだけど、置いてかれるわけよ、当然の流れで」


「ぶ・ど・う・会じゃなくて、ぶ・と・う・会な、舞踏会。武道会って何しに行くんだよお前」


「ほっときなさいよ、単なる言い間違えでしょ!? もう、本当意地が悪いわね、あんたは」


「萃香は頭が悪いのよね」


「性根が悪い奴は黙っときないよ! ったく。でさ、話の続きだけど、そこで魔女が登場するわけよ。だから私は両手を組んでお願いするわけ。『さあ、この世界で一番美しくて可愛らしい私にお似合いの最高のドレスを出して!  この可哀そうな境遇から抜け出す為の馬車も忘れずにね! もちろん王子を吊り上げる小道具のガラスの靴よも!』ってね」


「すげえ自己主張だな。シンデレラよりも白雪姫のお妃様のがあってんじゃねーの」


「萃香らしいわ……」


「言わなきゃわかんないでしょ!? うじうじ相手が自分の意を汲んでくれるの待ってるより遙かにいいじゃない! それはともかく、私のその健気な訴えに魔女が振り向くのよ」


「健気……?」


「萃香は一度その文字を辞書引いてみた方がいいわね」


「茶々入れんのもいい加減になさいよ! それで話の続きだけど、振り向いた魔女がまんま花音代なわけ。で、指でわっか作って、『いくら出す? 世の中金だよ金』って言うわけよ」


「まあ、花音代らしい」


「いや、私だったら『それに見合う金持ってんのか』って聞くね。だって、萃香版灰被りだろ、相手」


「私版だから何よ! 私以上に相応しい奴なんているはずないでしょ? 虐げられた美少女が王子に見出される玉の輿ストーリーなんて私にぴったり。すべての人間が私に跪いてかしずくのよ。何て素敵なのかしら!」


「まあ、まるで悪女の鑑のようなセリフね……。素敵だわ、これで知性さえ伴っていれば完璧なのに」


「知恵がまわる萃香なんぞ厄介過ぎて実際にいたら私は近寄らんがな。で、その続きは?」


「はあ? 続きはってそれで目が覚めて飛び起きたに決まってるでしょ? 思わず寝起きで叫んじゃったわよ、『夢……!』って。本当、寝覚め最悪だわ。……で? 仁美、あんたのはどんな展開になったのよ」


「仁美ならそもそも舞踏会にゃ行かんだろ。行かんで掃除を恍惚としてたんじゃないか」


「あら……、行ったわよ。もちろん」


「へえ、意外ね」


「実際のシンデレラのストーリーの展開通りということか?」


「ふふ、ガラスの靴がいつ体重の負荷に負けて割れるのかと、ドキドキしたわ……。臨界点を突破し粉々になったガラスの破片は、無防備な素足に突き刺さるに違いないわ……、なんてそんな期待と不安が入り混じった中、一歩、また一歩と足を踏み出すあの緊張感。ふふ……、うふふふふふ……」


「キモイ」


「ああ、安定したキモさだな。やはり仁美は仁美だな」


「それでね」


「スルー!?」


「キモイという言葉は仁美にとっては何の心の琴線にもふれんようだな」


「何だかんだで王子様が迎えに来たのだけれど、お断りしたわ……」


「王子が直々に?」


「そこが原作と違うな」


「だって、継母萃香の罵詈雑言を浴びせかけられながら冷たい床をボロ布で磨いている方が百倍も楽しいのですもの……」


「何で私が継母役なの!?」


「人を魔女役に当てはめたお前が言うか」


「目が覚めた時には残念のあまり、『夢……』と声を漏らしてしまったわ……」


「何で残念なのよ!?」


「同じ夢という呟きでも響きが真逆だな。しかし同じ夢、目が覚めての同じセリフ。仲良いな、お前ら」


「やめて! 怖気が走るわ!」


「そういう花音代はどういう夢みたの?」


「私か? 私は決まっているだろう」


「知らないわよ」


「決まっているの?」


「夢は、起きてみるものさ」


「何格好つけて言ってんのよ」


「あら、どんな夢?」


「世界一の大富豪、だな」


「無理に決まってるでしょ!!」


「ふふふ、夢がないんだか夢でしかないんだか……な夢ね。花音代らしいわ」


「まあどちらにしても、夢は見なければ始まらないしな」


「あんたのそれは夢じゃなくて妄言妄想じゃない!」


「あ? 萃香、それは日常顔が良くて性格も良くて頭が良くて学歴もあり、家柄も良くて背も高く地位もあって金を持ってる浮気もしない己の言うことはすべてきいてくれる男に嫁ぐと公言している自分自身に言ってんのか」


「ちょっと、あんたの実現不可能な夢と私の実現可能な夢を一緒にしないでよ!」


「実現可能? どこがだ。いるはずなかろうそんな男。仮にいたとしてもお前を選ばんことは明白だ」


「なあんですってえ!」


「ふふ、私も顔が悪くて性格も悪くて頭が悪くて学歴や家柄なんて関係ない、背も低くて地位なんてなくてお金もない浮気……はちょっと嫌かしら、の言うことなかなかきいてくれない男性なら嫁ぎたいわ……」


「「キモイ」」




 うちのクラスには名物三人組の女子がいる。


 一人は成志萃香。


 二人目は馬苑仁美。


 最後は与野中花音代。


まったくタイプの異なる三人組だが、仲が良い。


 それが、このクラスの一番の不思議なのである。


 僕?


 僕はただのモブた。


 周囲を構成するのに必要だが、決してスポットの当てられることはない、ただの……。




「ちょっと、多田野ただの! さっきからこっち見てるけど、うざいからやめてよね!」


「ふふ、茂武太もぶた君? 一緒にお話しする?」


「やめてやれお前ら。あいつはああやって傍観者を気取っているのがお好みなんだ。邪魔をしてやるな」




 ぼ、僕は……多田野ただの茂武太もぶたという名の只のモブ……なので……あ…る……。


書いている最中ネット切断され、書いていたものがパアに。

一瞬心が折れそうになりました……。


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