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第十六話 人形の館

夏がきますね。ホラー回です。

「そこで、その女は恐ろしい顔で、こう言ったの。…………見~た~な~!」


 その子が声色を変えてそう言った瞬間、ぎゃーっ!と複数の悲鳴が響き渡った。


 夏につきものの、怪談で盛り上がってる最中である。


 スタンダートな怪談や、都市伝説、知り合いの知り合いが体験した実体験など、真偽に怪しい話が続くなか、やはり恐怖を誘うのは内容そのものより話し手の上手さだった。


 今の子のは、かなり怖かった。


 その話のリズムや、場面に応じての声色の変化、テンポが抜群である。


 大騒ぎした照れもあるのか、みんなして「怖かったねー」とひとしきり言いあった後、「次は真帆の番だよね」と順番がまわってきた。


 正直、真帆は怪談話は苦手である。


 本で読んだり話を聞いたりはそうでもないのだが、自分が語って聞かせるのはあまり得意ではない。


「んー、どうしよっかなー」


 腕を組んで、何を話そうかと考えた時、ふと浮かんできたものがある。


 それと同時に。


 お・も・い・だ・し・て・は・い・け・な・い。


 何かの警告が頭をよぎった気もするが、気のせいだろうと真帆は軽く頭を振りそのひっかかりを振り払った。

 

「えーと、じゃあ怖いと言うか、不思議な話でもいい? 夢の話なんだけど」


 保険をかけてそう言うと、「いいよー」「もちろん」と同意を得られたので、真帆はゆっくりと記憶を辿り語り出す。


 えっとね、夢で見た話なんだけど、私はいつの間にか知らない家の前に立っていたの。家っていうか、こう古い洋館っていうか、そんな感じがぴったりの。ここはどこなんだろうって思いながら、その館の扉を開けたの。そうしたら、そこには一人のすっごい可愛い女の子がいてね。長い髪で、可愛い洋服を着てて。ほら、昔の少女漫画っていうか、フランスドールの衣装っていうか、そんなの。似合わない子が着たら悲惨なことになりそうな、そんな。うん、人形がそのまま人間になった、って感じの女の子。そんな子がにこにこ笑顔で出迎えてくれて、「お姉ちゃん、一緒に遊ぼう」って誘ってくれるの。ついつい嬉しくなって、一緒に遊ぶことにしたのよ。不思議なことにね、その館、いたるところに人形が置いてあるの。本当、そこらじゅうに。人形の館って言ってもいいくらい。女の子にね、「何でこんなにあるの? ここは人形の博物館なの?」って聞いてみたら、「ううん、みんなお友達なの」って答えたの。でもお友達にしては数が多すぎて、正直不気味だったのよね。それに、なんか、どの人形も怒ってるっていうか哀しそうっていうか……、まあ、それは今はいいや。でね、その女の子と本を読んだりゲームをしたりして、あっという間に時間が過ぎていったの。で、「ああ、もう帰らないと」と私が言ったの。不思議よね、夢の中なのにもう時間だって思ったのよ。そうしたら、その女の子はちょっと残念そうな顔をして頷いたの。「そう、もう帰っちゃうのね。じゃあ玄関まで見送るわ」そう言って、私を玄関まで見送ってくれたの。で、その扉を出る時に、その女の子が言ったのよ。「一つ、約束してね。ここから出て行ったら、ここでのことは決して思い出さないこと。思い出しそうになったら、無理に思い出そうとしないでね。約束よ? もし、約束を破ったら…………。





 あれ?


 真帆は瞬きをした。


 今まで、確か友人と怪談話で盛り上がっていたはずなのに。


 気がついたら、見知らぬ場所にいた。


 いえ、見知らぬ場所ではない。


 周囲を埋めつくす、人形・人形・人形・人形の山…………。


 そう、ここは先ほどまで話をしていた人形の館の中ではないか。


 いったいどうしたことだろう。


 真帆はそこから起き上がろうとして、動けないことに気がついた。


 まるで自分の身体が自分のものではないかのよう。


 それはまるで、自らの意思では動くことの出来ない人形のよう。


 何で。


 何で。

 

 何で!


 嫌な焦燥を覚える真帆に目の前に、いつの間にか夢の女の子が立っていた。


 そして、その女の子は真帆を見て、にいっと笑って言った。





「だから思い出すなって言ったのに」






 


次話も夏のうちに更新したい……。

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