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【書籍化中!】アルケミスト・アカデミー(旧:双色の錬金術師)  作者: ちゅるぎ
イメージする段階。

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82話 効能の証明

御待たせしました。

話が進んだのか進んでないのか……多分進んでないな…うん。

何時もより少し短め。


残酷表現(グロ?)注意です。

酷くはないと思うんですけど、苦手な方がいたらちょっと頭の片隅に入れておいてください。

読み終わって「大したことなかった」ってなるのが一番ですよねー




 鉄と泥の混じった臭いが周囲に漂っている。



視線に飛び込んできた衝撃的過ぎる状況に私の体は意外と素早く動いていた。

まずドアが閉まらない様に押さえつけ、近くにあった石でドアが閉まらない様に固定しておく。


 どう見てもこのまま工房の前で話しているとマズい。

周りの人に見られて騎士の人を呼ばれると多分、困ることになるだろうし、友達が危ないことは目に見えて明らかだ。

そう思った瞬間におばーちゃんの言葉を思い出した。



(確か『怪我人がいる時は相手を落ち着かせることが大事』なんだっけ? 特に怪我人本人が動けなかったり、引き離せない時は付き添いの人からの話が大事だからとか言ってたような)



 自信も確証もなかったけど、意を決してこちらを見上げるイオに笑顔を向ける。

多分、ちゃんとは笑えてなかったと思うけど。



「イオ。生きてるんなら薬で何とかなるよ。まずは早く中に運ぼう」


「う、うん…ッ!」



ぐったりとして動かないエルを抱えて立ち上がろうとしたイオは、次の瞬間ぐらりと大きくよろけた。

慌てて倒れそうになったイオとずり落ちそうになったエルをどうにか支えてようやく気付く。


 イオも泥だらけで、血だらけだ。



「ご、ごめん……っ! ホッとしたら力が」


「じゃあ私が足持つから上持ってくれる? どの辺怪我してるのか分からないから、下手に触る訳にもいかないし」



小さくと頷いたイオが慎重にエルの脇の下に腕を入れてぐっと上に引き上げる。

私は、投げ出されていた足の間に体を入れて、抱え込む様に左右の足を抱えた。



(足だけとは言っても結構重っ! 簡単な装備は外してるっぽいけど、絶対一人じゃ抱えられなかった。イオが軽傷で助かった)



 今度はしっかりと立ち上がったイオと二人で工房の中へ。

靴もズボンの裾もドロドロで、足場が悪い場所で戦っていたらしいことが分かる。

よく見ると髪にも泥や血液がついて固まっていた。


工房の中では後片付けをしていた二人が目を見開いてこっちを見て、固まっている。

真っ先にこちらへ向かってきてくれたベルは近づいてくるにつれて表情が硬くなっていく。



「私が運ぶわ。とりあえずライムの作業台でいいわね? ライムでもリアンでもいいからシーツか何か敷いて頂戴」


「わかった。シーツならあるからちょっと待って」



軽々と身長の高いエルを横抱きにしたベルは迷いなく作業台へ向かう。


 人ひとり抱えてるとは思えない動作にイオがギョッとしていたけど、こればっかりは慣れてもらうしかない。

ベルの指示を受けてポーチからシーツを二枚取り出して作業台に敷く。



「随分顔色が悪いわね。悪いけど、服脱がすわよ」



 白いシーツの上に横たえられたエルの表情はかなり苦しそうで、顔色も良くない。

騎士見習いに支給される制服には細かい傷は勿論、何かに切り裂かれたような痕跡が幾つもあった。


 その中でも一番目立つのは、右腕の肩から少し下にグルグルに巻かれた赤いタオル。

かなりきつく巻かれているのが一目でわかるその部分を避け、ベルが器用にナイフで切っていく。



「ぼ、僕も手伝いま…―――」


「いや。それより簡単でいいから怪我の状態を説明してくれ」



慌てて作業台に走り寄ったイオの行く手を遮る様にリアンが動いた。

いつの間にか自分の作業スペースからこちらへ移動していたらしい。

 作業台から引き離す様に力を込められ、数歩後ろへよろけたイオに真剣な面差しのリアンが口を開く。



「右の腕はどうなっている」


「ッ……皮一枚で繋がってはいました。教師の指示で傷口を合わせた状態で止血、固定して特急馬車を飛ばして戻ってきたのですが……怪我をしてから半日は経っています」


「そうか。せめて骨が繋がっていれば、止血して消毒し手持ちの傷薬なんかで事足りたんだが――……一応聞くが治療院は?」



悲愴な表情のままイオがゆっくり首を横に振った。


 治療院っていうのが何なのか分からなかったから助けを求める様にベルを見ると、ベルも眉をひそめて唇を噛んでいた。



「治療院には上級治療魔術が使える魔術師がいる場合があるの。上級治療術なら腕が千切れていても、足がげていても元通りに出来るし、目を潰されても元の『見える』状態に戻すことができる――……けれど、今、モルダスに上級の治療魔術師はいないわ。王城に行けばいるけど、王族専用だから貴族でも見てもらうのは難しいの」



だから、とそこでベルが口を噤む。



「……残念だが切り落として傷口を焼くしかない」


「ち、ちょっと待った! 切り落としちゃったらもう戻らないんじゃ」


「死ぬよりいいだろう。騎士になるのは難しくなるかもしれないが仕方がない。努力次第でCランクの冒険者にならなれる筈だし、なにより命あっての物種だ」



 Cランクといえば一人前の冒険者と呼ばれるランク。

危険地帯ではない旅の護衛ができるし、新人への指導もできる。

仕事を選ばなければ家族も養えるとは思うけど……。


 思わず黙り込んだ私にイオが苦しそうに目を伏せてゆっくり頷いた。



「そう、ですか」


「教師も僕と同じ判断を下したみたいだな」


「はい。錬金術師の友人がいるなら、なんとかなるかもしれないって言われたんですが……覚悟はしていました。何せ【再生薬】はとても作成が難しく、卒業生でも作れる人は少ない。その上に高価だと言うのは知っていましたから―――……腕を切って回復薬を飲ませれば生存確率が上がるかもしれないと考えて、直接ライムさんやお二人に会いに来たんです。図々しいのですが、回復薬を前借させてはくれませんか? 対価は時間がかかっても必ずお返しします」


「わかった。そういう事なら、僕が中級回復薬を一本だそう。研究用に置いてあるんだ。中級回復薬だと費用はかさむが……傷口にかけて様子を見てみるか?」


「お願いします。その、治る確率は」


「腕自体が繋がっても動けるようにはならないだろう。腕が繋がる可能性も五分五分だな」



淡々としたリアンと沈み切ったイオの声に私は慌ててポーチに手を入れた。

 その様子に気づいたらしいベルが一瞬動きを止めるのが見えたけど、それどころじゃない。



「あるっ! あるよ【再生薬】も上級回復薬も、あとなんか良く分からない薬もっ! どれだか分からないからリアン、鑑定してっ」



ポーチの中にはおばーちゃんの遺産ともいうべき薬が入っている。


 初級、中級、上級の回復薬は見慣れているからわかるんだけど、それ以外はうろ覚えだったり見たことのない薬だったりっていうのが結構ある。

一応瓶で種類分けしていたんだけど、おばーちゃんって結構いい加減な性格だったんだよね。


 だから、自家用とか親しい人に渡す薬なんかはそこら辺にあった瓶を適当に使ってた。

中身がしっかりしてれば問題ないって言ってたっけ。

直接貰った人は中身が分かっているから問題ないんだけど、家に置いてあったのは……正直商品用以外は怖くて手を付けられないでいた。


 だって、回復薬だと思ったのが実は毒薬だったっていうのもありそうだし。

全部が全部、体にいいものばかりじゃないことを知っているからすっかり忘れてたんだけどね。


 首都モルダスに出てきて、人に渡したのは商品用としてちゃんと作られたものだ。

そうじゃなきゃ安心して渡せない。



「とりあえず、これで役立つのが無かったらまだあるからっ」


「―――……左から【予防薬】【再生薬】【再生薬】【消病薬】【上級万能薬】【初級ポーション】だ。念のため確認するが作成者は」


「おばーちゃんだよ。効果は保証できると思う。必要なのって【再生薬】だけ?」


「可能なら【予防薬】も投与した方がいい。後遺症が残るような深い傷を負った場合、治癒した跡でも体力が戻りにくくなる。その際に風邪や伝染病などにかかる危険性が高まるんだ。そういった病にかかるのを防ぐ為と回復を早める目的で【予防薬】を投与する」


「なんか良く分かんないから後で詳しく教えてっ! じゃあ、【予防薬】と【再生薬】出しておけば―――」



「ライムさん、ごめん。【万能薬】もお願いしていいかな……エルがやられたモンスターがポイズンマンティスの亜種だったんだ。紫と灰色の体と黄色い濁った眼で体長は2mくらいの」



私にはどういうモンスターなのかさっぱり分からなかったんだけど、ベルは知っていたらしい。

傷口を洗い流していた手を止めて、チラリと私たちに視線を向けた。



「恐らくポイズン“クレイ”マンティスですわね。泥に隠れて移動しますの。冒険者ランクB相当のモンスターに分類されたとか。騎士たちが討伐に向ったようなんですけれど、泥の中に隠れてしまって結局発見できずにポイズンマンティスなどを討伐して戻ってきたと聞いています」



ギョッとする私たちを余所にベルは止血の為にきつく結んであった腕の布を解き始めていた。

 動かさない様に注意しているらしく手つきはゆっくりだ。



「元はポイズンマンティスから派生したモンスターでしょうから、猛毒や流血毒の類を持って居ても不思議ではありません。エルの出血量から考えるに流血毒をもらった可能性は高いでしょうね。リアン、鑑定でわかりませんの?」


「ん、ああ……そういえばエルは“診て”なかったな―――……ベルの予想通り、流血毒と麻痺毒に罹患しているようだ。流血毒や麻痺毒に【解毒剤】は効果的とは言い難い。万能薬で消せるのは一つの毒だが【上級万能薬】なら複数の毒にも効果がある」


「じゃあ、さっそく飲ませて―――」



必要ないものをポーチに仕舞い終え【再生薬】を手に取った所で、ベルが私の手の中にある薬をひょいっと取り上げた。

 呆れたような顔で私を見ている理由が分からず眉を寄せるとベルは首を緩く振って一言。



「意識のない人間にどうやって薬を飲ませるのか、ライムは知っていまして?」


「あ」


「私がしますわ。リアンやイオが投薬するのを見るのも嫌ですし―――…リアン、感謝なさい」



何をするのか聞く前に、ベルはエルの鼻を摘まんで頭を軽く反らせる。


 微かに開いた唇を確認するように見下ろして、空いている方の手で器用に瓶の栓を開け【上級万能薬】を口に含んだ。

流石にここまでくれば私にも“投薬方法”が分かる。



「そっか、意識がない時は直接飲ませればいいのか。鼻と口塞げば嫌でも口の中の液体飲めるもんね」



ベルによって口の中に薬を流し込まれたエルは、条件反射のようにごくりと【上級万能薬】を飲み込んだようだった。

 喉が動くのを確認したベルがチラリとリアンに視線を向ける。



「リアン、毒は消えまして?」


「飲み干してから全身に行き渡るまで少しかかる、と思うんだが……」


「続けて【再生薬】を使っても問題はないのかしら」


「それは大丈夫だよ。どっちの薬も効果が違うでしょ? 初級回復薬と中級回復薬を同時に飲ませるのは無意味だけど、回復薬と解毒薬は一緒に飲めるし」



私の言葉を聞いたベルは直ぐに【再生薬】の栓を抜いて同じ要領でエルに薬を飲ませた。


 ごくり、と妙に大きく響いた音を聞いて反射的に右腕に視線を向けるとスッパリ切られた傷口が淡く光り始めている。

淡い光は魔力を大量に注いでアイテムを作った時の反応に似ていて、まじまじと観察してしまった。


 止血用の布が解かれたことで血が滴り落ちていた傷口は、まるで時間を巻き戻されているかのようにゆっくりと “ 内部 ” から修復されていく。

肉が見えていた部分が塞がり、血が止まって、皮膚が元通りになった所で誰ともなく溜息が工房に落ちた。



「よかった。とりあえず腕はくっついたみたいだね」


「切断面が綺麗だった事と元の腕が腐らずにあった事も大きいと思いますわ。【再生薬】で腕を生やすことはできません。まぁ、多少肉が食いちぎられていても『再生』はするみたいですけれど……モンスターの腹に入っていたら確実にダメでしたわね。そうなれば魔術で再構築する他在りませんもの。その場合でも『素材』が必要な上に術者の協力を得られるかどうか……」



錬金術で作れる薬は基本的に効果が高い。


 でも、限界はあるんだよね。

まだ存在しないだけで無くなった腕や足を生やす薬も作れるかもしれないけど、流石にソレはない。

精々失った血肉を再生させたり、動かない腕を動かせるようにする位だ。


 まるっと肉体の一部が無くなった場合はかなり難しい回復魔術を使うしかないらしい。

んだけど、これをできる人っていうのは本当に少なくて、条件や必要な素材も揃えなきゃいけないから気軽には出来ないそうだ。




「ずっと不思議に思っていたんですけど、貴方達二人なら亜種のポイズンクレイマンティスを倒せないと分かった時点で撤退している筈ですわよね? どうしてこういう事態になったのかしら」



ぐっと指で口の端を拭いながら厳しい視線をイオに向けたベル。

その表情や口調からは失望に近い感情が読み取れて、少しだけ驚いた。



「確かにな。君たちの実力ならこういう事態にならない様に退避なり、救援を呼ぶなりしていた筈だ。素材集めに躍起になった、ということでもなさそうだしな」



ポーチから毛布を出してエルに掛けながらイオに視線を向ける。


 イオは何かを耐える様に口と拳を固く結んでいた。

その姿からは初め会った時の気の弱さは感じられなくて素直に意外に思う。



「―――……そうだね。ライムさん達には聞く権利があるし、話すけど……広めるのはやめて欲しい。教師からも口止めされてるんだ」



はぁっと深いため息を吐くように紡がれた声には妙な力が籠っている。


 その力っていうのが、怒りの感情だと気づいたのは何かを耐える様に閉じられていた瞳が再び開かれた時だ。


揺ら揺らと金茶色の瞳が真っすぐに私たちではない何者かを見据えていた。

そう感じたのは私だけじゃなかったらしく、リアンは溜息を吐き、ベルは小さく首を横に振る。



「とりあえず、お茶でも飲みましょう。流石に疲れたわ……イオ。貴方はコレを飲んでそこに座りなさい」



 ベルが作業台横のスペースに置いてあった初級回復薬をイオに放り投げて、億劫そうに台所へ向かった。

慌てて私もついて行ったんだけど、ベルは慣れた様子でティーカップや大人数用のティーポットを取り出している。



「何か疲労回復にいい茶葉はある? お金なら後で払うから出してほしいのだけど」


「それなら【アールグレイ】があるよ。数は少ないけど、疲労回復にもいいし香りがいいからこれ使って。お茶菓子はこの間焼いたスコーンでいいかな。ジャムは二種類ね」



自分も飲むからお金はいらないよ、と付け加えるとベルは妙に真剣な顔をして小銭入れから銀貨三枚を流れる様に私の手に握らせた。



「いやいや、一回分の茶葉に銀貨三枚って!」


「借金苦というのは『ドラゴンや魔王よりも恐ろしく永久に終わることのない地獄』なのでしょう? 恋愛小説の主人公がそう言っていましたわ。ですから、貴女は少しでも貯金を増やして備えておかないといけません。私もリアンもそれなりにお金はありますし遠慮するのは良くないですわよ」


「恋愛小説っていうのがなんだかますます分からなくなったんだけど、借金奴隷について描かれた教科書じゃないんだよね?」



とりあえず、返しても受け取ってもらえなさそうなので自分の懐に銀貨をしまう。

 近いうちにベルの好きな食材を今のお金で買おうと思った。



「でも、いつの間にそんな美味しそうなもの作ってましたの?」


「スコーンなら簡単だからパン温めるついでに焼いておいたんだ。小腹空いた時にいいかと思って」



 出来るだけいつものような会話を心がける。

ベルとの会話は、普段より大きめの声量で離れた場所にいるイオにも聞こえる様にお互いに意識して。



(何があったのかな……聞きたいような、聞きたくないような)



複雑な気持ちのまま大皿にスコーンを並べていく。


 ジャムは、淡い色のモノを2種類選んでいた。

赤いジャムだけは何だか出す気になれなかったんだよね。変なの。

作業台で眠るエルが視界に入る度に心臓の辺りがギュゥッと絞られる様な感覚が湧き上がってきて、無理やり視線を引きはがす。



―――……ヤカンが奏でる甲高い音が空気を震わせるまで、妙な緊張感はずっと部屋の中に居座っていた。





ここまで読んでくださってありがとうございます!


=アイテムなど=

【再生薬】

命の水+黄泉の糸+竜血石+賢者の欠片+司祭の聖薬+融和薬。

 奇跡の薬とも呼ばれる。腕や足などの部位を接合し神経などを再生できる。

分かりやすく言えば肉体接着剤。接着剤的役割なので繋げる部位が無ければ意味がない。

多少えぐられた肉などを再生する力もあるが、新たにやすことはできない。

素材が貴重かつ高レベルではあるものの集められないこともない。薄桃色。


【予防薬】

万病の素+解毒薬+中級回復薬+融和薬。

 大きな病や怪我の後、流行り病などにかからないよう飲む薬。苦い。

万病の素の量を間違えると別の薬になるので注意。

色はトロミのある黄金色。失敗するとドロッとした黒紫色に。


【上級万能薬】

万能薬+滋養薬+アオ草の塊根+聖酒+融和薬。

万能薬の上位版。万能薬、上級万能薬の二種類しかない。

基本的に素材は効力が高いものに変換され、薬同士の調合になるので計量は正確性が求められる。上級万能薬の材料は比較的安価ではあるものの、技量が必要。

 効果は複数の状態異常を回復できる。

銀貨7枚から。


【アールグレイ】高級茶葉の一つ。別名オランジェ式紅茶。

 加熱→発酵→揉み→再発酵→乾燥。

どの工程でも魔力を消費するため、レベルが高くなければ調合できない。

また、オランジェ式の紅茶には香りがつくことでも有名。

魔力やセンマイ草と合わせる薬草よって香りが変わる。


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